軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

メルディの意外な一面……?

迎賓館の温泉から上がると、僕はすぐに父上がいる部屋を訪れてザックとのやり取りを伝えた。

父上はため息を吐いた後、苦々し気に「ザックめ……またか」と呟く。

そんな父上の様子を見ながら、僕は恐る恐る尋ねた。

「父上、僭越ながら話し合いは今後の事を考えればすべきだと思います」

レナルーテとバルディア第二騎士団の暗部が情報を必要に応じて共有をしておくことは、しっかりとした枠組みを作り行えばとても有意義なものになるだろう。

だけど、その『枠組み』をまとめるのはかなり大変な作業になるだろうから、僕の一存ではまずできない。

恐らく、打診をしてきたザック自身もそのことは理解していたはずだ。

それでも先に僕に話してきたのは、僕経由で父上に話が伝わるほうが『枠組み』がまとまりやすいという判断をしたのだろう。

父上は口元に手を充てながら、少し何かを考えるように俯いた。

それから間もなく、顔を上げるとおもむろに頷く。

「うむ。その件については私からザック殿に確認しておこう。しかしお前も私も明日、明後日は忙しくなるだろうからな。話し合いをするにしても、『華燭の典』が終わった後になるだろう。リッド、今日は明日に備えてしっかり休んでおけよ」

「承知しました。では、私はこれで失礼致します」

その後、父上の部屋を退室した僕は、真っすぐ部屋に戻ると明りを消してベッドの中に入り込んだ。

「ふぅ……今日もいろいろ忙しかったけど、また明日も大変そうだなぁ。でも、頑張ろう」

自分自身を鼓舞するように呟くと僕は静かに目を瞑る。

思いのほか疲れていたのか、眠気はすぐにやってきた。

とその時、部屋のドアがノックされ「リッド様、申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?」とカペラの声が部屋に響き、僕はベッドから体を起こして「どうしたの?」と返事をする。

すると、珍しく困った感じでカペラの声が返ってきた。

「い、いえ、お休み中に申し訳ありません。実は、メルディ様が……」

「……‼ メルがどうしたの⁉」

メルに何かあったのか? 驚いた僕はベッドから飛び降りて、すぐにドアを開けた。

しかしそこには、困り顔を浮かべたカペラと、彼のズボンの裾を握り締めて泣きそうなメル。

そして、これまた困り顔を浮かべたダナエとディアナが立っていた。

状況がつかめず、僕はきょとんとしながら彼らに問い掛ける。

「ええっと……これは、どういう状況なのかな?」

しかし僕が問い掛けても、皆は困り顔のままだ。

本当にどうしたのだろうか? と僕が首を傾げるとメルがおずおずと小声で呟いた。

「……にいさま、いっしょにねちゃだめ?」

「……へ?」

思いがけない言葉に僕は再度、きょとんした表情を浮かべるのであった。

その後、部屋の前で立ち話をしてもしょうがないから、僕はメルとディアナ、ダナエの三人を部屋の中に案内する。

カペラは、「私は部屋の外で待機しておりますので、何かありましたらお申しつけください」と警備についてくれた。

やがて、ディアナが部屋の中に用意されていた容器でお茶を淹れて僕とメルの前に置いてくれる。

「ありがとう、ディアナ」

「とんでもないことでございます」

彼女は僕の言葉に丁寧に会釈を行うと、僕の後ろに控えた。

そして、僕はメルに優しく問いかける。

「さて、メル。どうしたんだい」

「むぅ……ちょっと…………だもん」

メルは頬を膨らませて少しいじけた様子を見せながら、小声で何かを呟いたが良く聞こえない。

止む無く僕が「ごめん、よく聞こえなかった」と返事をすると、メルが再度呟いた。

「だから……ちょっとこわかったから、にいさまといっしょにねたいとおもっただけだもん……」

「あ。ふふ、なるほどね」

ハッとして僕が笑みを浮かべると、メルの後ろに控えていたダナエも優しく微笑んだ。

どうやら、さすがのメルもバルディア領から離れた場所で、初めての夜を過ごすということが怖かったらしい。

僕はわざとらしく咳払いをすると、メルに優しく声を掛けた。

「そうだよね、怖いよね。それなら、メルさえ良ければこの部屋で一緒のベッドで寝ようか」

「ほんと……? にいさま、ほんとうにいいの?」

可愛らしく首を傾げているメルに僕は言葉を続けた。

「うん、僕は構わないよ。それに……実は僕も心細かったからね。メルがいてくれるなら嬉しいよ」

「そ、そうなんだ。えへへ……じゃあ、わたしがいっしょにいてあげるね」

僕も心細いという言葉を聞いてメルの顔色がパァっと明るくなる。

勿論、本当に心細いわけではないけどね。

だけど、メルは誰に似たのか少し意地っ張りなところがあるから、少し会話を誘導した感じかな。

僕はメルに微笑みながらディアナが淹れてくれたお茶を口にした後、ダナエに視線を向ける。

「えっと、ダナエとディアナはどうする? 一緒にこの部屋で寝てもらってもいいけど、さすがにベッドがないからね。もし良ければ、メルの部屋を二人で使う? 僕から事情をザックさんに話せば問題もないと思うからさ」

「それは嬉しいお話ではありますが、よろしいのでしょうか……?」

ダナエが僕の提案にパァっと顔が明るくなるけど、すぐにハッとして畏まった表情に戻った。

だけど、そんな彼女にメルが反応する。

「うん。ダナエとディアナにはいつもおせわになっているから、せっかくだしわたしのおへやつかっていいよ。わたしは、きょうはにいさまとねるもん」

「メルもこう言っているから、ダナエとディアナがメルの部屋を使うといいよ。いつも助けてもらっているからね。たまにはこういう役得があっても良いでしょ」

ディアナとダナエの二人は少し困惑した表情を見せるが、やがてディアナがスッと会釈を行う。

「リッド様……お心遣い感謝致します。では、お言葉に甘えて使わせて頂きます」

「……‼ ディアナさん、良いんですか」

ダナエが驚きの表情を浮かべて反応するが、ディアナは彼女に諭すように言葉を続ける。

「リッド様とメルディ様もこう仰っておいでですし、それに警護の観点から言っても隣の部屋を使わせて頂くことは助かります。私とダナエが交互に休憩しながら使えば問題ないでしょう」

メイドの二人のやりとりを確認した僕は、笑みを浮かべて頷いた。

「それじゃあ、決まりだね。後は、カペラを通じてザックさんには連絡しておくから二人はメルの部屋を使ってくれて構わないからね」

「承知しました」

ディアナとダナエの二人は畏まった面持ちで、綺麗な所作で僕達に向かってスッと頭を下げた。

その後、カペラに事情を説明してザックにメルの部屋はメイド達が使い、僕とメルは同じ部屋で今日は過ごすことを伝えてもらう。

勿論、父上にも伝えるようにお願い済みだ。

そして、お茶も飲み終えて僕とメルの二人が同じベッドに入ると、ディアナとダナエの二人が部屋の明かりを消した。

その時、ダナエが僕に耳打ちをする。

「リッド様。翌朝のメルディ様を見ても驚かないで下さいね」

「……? う、うん。わかった」

頷きながら、一体何の事だろうかと気になったけど、ダナエ達は笑みを浮かべてそのまますぐに退室してしまう。

その時部屋のソファーに、メルと一緒にいつの間にかやってきたビスケットとクッキーが仲睦まじく丸まっていることに気が付いた。

……なんでベッドに来ないんだろう。

ふと疑問を抱くと同時に、メルが笑みを浮かべて僕に視線を向ける。

「えへへ……こうして、にいさまとねるのってはじめてだね」

「そうか……そうかもしれないね」

隣で嬉しそうな笑みを浮かべるメルの頭を、僕が優しく撫でるとメルは小さく体を揺らしながら布団の中に顔をうずめた。

そしてベッドの中で色々と話すうちに、メルは眠りに落ちていく。

僕もメルが眠りに落ちたことを確認すると、すぐに眠りに落ちていった。

こうしてこの日、僕とメルは初めて同じベッドで仲良く寝ることになったのだけど……翌朝になり僕は愕然とすることになる。

「へ、へっくしょん‼ うぅ、寒い。レナルーテの朝ってこんなに寒かったっけ……」

翌朝になり、肌寒さに震えながら目を覚ました僕はすぐに異変に気付き「あれ……掛け布団がない……」と呟いた。

そして隣にいたはずのメルがいないことに驚いて、咄嗟に周りを見渡した僕は「メル⁉」と叫んだ。

すると「ふぁーい、にいさまぁ」と、ベッドの横……いや正確にはベッド横の床から気の抜けた声が聞こえてきた。

まさか、と思いながらゆっくりとベッドの脇を覗き見る。

案の定、そこには掛け布団で簀巻きになっている何とも可愛らしい姿のメルがいた。

そして、まだ眠っている様子でさっきの声は寝言だったらしい。

メルの姿を見た僕が「これは一体……」と呟いたその時、部屋のドアが勢いよく開かれて、ダナエとカペラが入室してきた。

「リッド様、いかがされましたか」

心配そうな雰囲気を出して声を発したカペラに、僕は決まりの悪い表情を浮かべて答えた。

「あー……ごめん。メルがいないと思ったらちゃんと居たから大丈夫だよ」

その時、カペラと一緒に入室してきたダナエが掛け布団で簀巻きになったメルを見ると、額に手を添えて呟いた。

「すみません。メルディ様はその、寝ている時に活発に動かれることが多くて……」

「あはは。みたいだね」

ダナエの言葉に苦笑しながら答えつつ、「えへへ……にいさまぁ」と寝言を呟くメルの意外な一面と姿を見て微笑む僕であった。