軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドとザック

迎賓館の僕の部屋にファラが訪れてから、それなりの時間が経過したと思う。

だけど、僕達は久しぶりの再会で話に花が咲いていた。

ファラとはレナルーテで顔を合わせて帰国した後、ずっと手紙のやりとりを行っていた。

しかし、手紙だけでは伝えられる内容に限界がある。

彼女の中ではやはり直接聞きたいことも多かったらしく、送った手紙の内容を確認するような感じで談笑は続いていた。

その時、ふとファラがあることに思い出したようメルに視線を向ける。

メルが視線の意図がわからずにきょとんとした表情を浮かべると、その仕草に微笑みながらファラは呟いた。

「そういえば、リッド様はメルディ様のことを愛称で呼んでいるんですね」

「うん。メルディのことを母上がメルって呼んでいてね。その呼び方をメルが僕と父上に許してくれたんだよ」

ファラに答えながら、僕は視線をメルに移すと彼女は「えへへ……」と可愛らしく笑みを浮かべた。

僕とメルのやりとりを、優し気に見ているファラに気付いたメルは少し考えるように俯く。

やがて、照れ笑いを浮かべて顔を上げるとファラを見つめて呟いた。

「ねぇ、ひめねえさま」

「はい、なんでしょうか」

微笑みながらファラが答えると、メルがおずおずと言葉を続ける。

「その……わたしのことを、にいさまのように『メル』ってよんでもいいからね。ひめねえさまはわたしの『おねえちゃん』だから……」

「……‼ ええっと、私はとても嬉しいのですがよろしいのでしょうか」

とても嬉しそうな表情を浮かべつつ戸惑った様子のファラは、視線を泳がせながら僕とメルを交互に見つめた。

そんな彼女の様子に苦笑しながら、僕は優しく声をかける。

「メルが良いと言っているから問題ないよ。それに、ファラがメルの『お姉ちゃん』になるのは間違いないからね」

「うん。わたしも、ひめねえさまには『メルディ』じゃなくて、メルってよんでほしいな……だめかな」

僕が答えると、メルも続くように言葉を発しながらファラのことを上目遣いで可愛らしく見つめる。

その姿に、ファラの目が嬉しそうに輝いた。

やがて、ファラは意を決するように咳払いを行うと、メルを見つめる。

「じゃあ、これからよろしくお願いします。メル……ちゃん」

ファラはメルに向かって名前を呼ぶが、少し間を置いて恥ずかしそうに『ちゃん』を付けた。

そして、かぁっと顔を赤らめて俯いてしまう。

だけど、メルは満面の笑みを浮かべて彼女に答えた。

「うん‼ えへへ……ひめねえさまは『メルちゃん』ってこれからもよんでいいからね」

「ふふ、ありがとう。メルちゃん」

気恥ずかしそうにファラが『メルちゃん』と名前を呼ぶと、メルは嬉しそうに体をくすぐったそうに揺らしながらまた「えへへ」と笑みを浮かべるのであった。

ファラとメルのやり取りも終わり、しばらく談笑が続いていたその時、部屋のドアがノックされる。

僕が答えると、ドア越しにザックの声が返ってきた。

「リッド様。恐れながら、そろそろ良いお時間でございます。名残惜しいとは存じますが、続きは明日以降になされてはいかがでしょうか」

「はい、わかりました」

ドアの向こうにいるザックに聞こえるよう、僕は少し大きめの言葉で答える。

そして、ファラとアスナに視線を移した。

「楽しい時間はあっという間だね」

「はい。本当に……」

ファラは答えながら少し感慨深げに呟いた。

すると、控えていたアスナが笑みを浮かべる。

「ふふ、姫様はずっとこの日を楽しみにしておいでしたからね」

「……⁉ ア、アスナ。あまり茶化さないでください」

耳を少しだけ動かしながらアスナに抗議するファラに、メルが嬉しそうな笑みを浮かべた。

「わたしも、ひめねえさまにあえるのをたのしみにしていたからいっしょだね」

「メルちゃん……そうですね。私もメルちゃんに会えるのをずっと楽しみにしていました。でも、これからはいつでも沢山話せますね」

「うん‼」

メルの答えを聞くと、ファラはスッと立ち上がる。

そして、そのまま部屋を退室して迎賓館の出入口まで移動した。

当然、僕は彼女達を見送りに一緒に移動する。

その間も、僕達は談笑を続けていた。

やがて、迎賓館の出入口でファラが本丸御殿に戻る馬車に乗ろうとした時、ふと思い出したように僕に視線を向ける。

「そうでした。リッド様、明日からはその『華燭の典』の準備でお忙しくなると思います。困りごとがあれば、すぐにご相談ください」

「うん、わかった。その時はすぐに相談するよ。ありがとう」

「はい。では、これにて失礼致します。また明日……」

ファラはそう言うと、綺麗な所作で僕とメルにお辞儀を行い馬車に乗り込んだ。

アスナが馬車に乗り込み乗車口を丁寧に閉めると、馬車がゆっくりと本丸御殿に向かって動き出す。

僕とメルは、馬車が見えなくなるまでその場で見送るのであった。

その後、僕達は迎賓館にて夕食を頂き、温泉で旅の疲れを癒すことになった。

なお、今回の温泉に関しても護衛は必要ということになったけど、今回ディアナはダナエとメルと一緒に女湯だ。

僕はカペラと一緒に温泉に入ることになった。

ちなみに、今回のレナルーテにはダイナスとルーベンスは来ていない。

彼らは父上が留守の間、バルディア領を守る役割があるからだ。

一時的ではあるけれど、僕が居ない間における第二騎士団の皆も第一騎士団の指揮下に入っている。

久しぶりのレナルーテのお風呂に浸かると、自然と声が出た。

「ふぅ~、いい湯だねぇ」

「はい、いい湯です」

反応してくれたのは横にいるカペラだ。

ふいに彼の体つきが目に入る。

カペラの体には意外にもかなり傷跡があるがその体は無駄なく引き締まった感じで、父上の体つきに似ているかもしれない。

その時、視線に気付いたのかカペラが僕に問い掛ける。

「リッド様、どうかされましたか」

「え、あ、ごめん。カペラの体つきに目がいってね。こう鍛え込まれているというか、歴戦の強者って感じだね」

「そうですか? そういえば、エレンもそんなことも言っていましたね。しかし、自分ではあまり気にしたことがありませんでした」

カペラは僕に答えながら、まじまじと自身の体の傷跡を眺めた。

「はは、彼を鍛えたのは私ですからな。もしも、リッド様がカペラのような肉体を欲しているのであれば、私が指導いたしましょうか」

突然の声に驚き、水音を立てながら立ち上がり構えると、そこにいたのはニヤリとした笑みを浮かべて湯に浸かっているザックだった。

声の主が知っている人物だったことで肩の力が抜けた僕は、ため息を吐きながら彼に視線を向ける。

「いきなり声を掛けられたからびっくりしたよ……それにしても、どうしてザックもここに?」

「ふふ、申し訳ありません。一度、リッド様とこうして話をしてみたかったのです」

「頭目。リッド様に対してあまり悪ふざけはお止めください」

気が付けば、僕の真横でカペラが身構えている。

水音もほとんどしなかったのに、いつの間に僕の隣に来たのだろうか。

しかし、ザックは僕達を気にする様子も見せずに言葉を続ける。

「カペラ、そう硬いこと言うでない。それにしても、リッド様の型破りな快進撃は目を見張るものがありますな。私の正体とカペラの関係もすでにご存じなのでしょう?」

「ザックがレナルーテの暗部のトップである事。そして、カペラが僕を監視する役目を与えられている件のこと……で、この場の答えは良いのかな」

ザックは僕の答えにさも楽しそうな笑みを浮かべる。

「その通りです。いやはや、リッド様は本当に年齢にそぐわぬ知力をお持ちですな。木炭車、懐中時計、自由貿易……ふふ、『型破りな神童』とはよく言ったものです」

「お褒めに与り光栄だけど……話したい事って何かな」

「はは、これは手厳しい。いえね……私が管理する組織『忍衆』とリッド様が組織した『辺境特務機関』の連携について、少しご相談したいのですよ」

そう言うと、ザックは底知れない笑みをニヤリと浮かべて僕を試すような視線を向けて来る。

これまた難題そうな話が来たなと思いながら、僕は首を軽く横に振った。

「それについては、僕も大いに興味はあるけどこの場でする話じゃないでしょ。僕の一存でも決められないしね。僕から父上に伝えるから、レナルーテにいる間にちゃんとした話す機会を作ろうよ」

「それもそうですな。では、恐れ入りますがリッド様からライナー様にこの件をお伝え願えますかな?」

「わかった。伝えておくよ」

頷きながら答えると、ザックは満足そうな笑みを浮かべて湯から立ち上がる。

「ありがとうございます、リッド様。では、私は先に失礼させて頂きますぞ」

「え、う、うん」

案外簡単に引き下がるな、と思いながらザックが湯船からあがり脱衣所に行く姿を見送った後に僕はハッとした。

ひょっとしてザックは、僕からこの件を父上に相談させること自体が目的だったのではないだろうか?

ザックから父上に直接伝えると、僕と交渉する前段階で色々と条件を付けられかねない。

しかしこの場で断らず、父上に相談の件を伝えることを僕が首を縦に振った時点で、ザックが行いたい交渉の土台は用意されているも同然だろう。

「やられた……のかな」

恐る恐る隣にいるカペラに振り向き問い掛けると、彼は小さく頷きながら「恐らくは……」と答える。

僕はため息を吐きながら「父上になんて言おうかなぁ……」と呟き湯船の中に、自ら沈んでいくのであった。