軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レイシスとティア……?

「リッド殿……メルディ殿が抱えている『子猫』が『ティア』とはどういうことなのだ……」

レイシス王子はメルが抱えている子猫姿のビスケットを見つめた後、僕に訝しい視線を向けている。

彼からすれば、想いを寄せていた相手が突然、『子猫』ですと言われたわけだ。

簡単には納得してもらえないだろう。

『ティア』の存在と正体を知っているファラとアスナですら、僕の発言の意図がわからずに困惑した表情を浮かべている。

「えー……と、口で説明するよりも、見て頂ければ早いかと。ただし、絶対に他言無用にして頂きたいのですが、よろしいでしょうか」

「わかった。この場で見聞きしたことは、一切他言はしない。ファラとアスナもそれで良いな」

「はい、兄上」

真剣な表情を見せるレイシス王子に対して、困惑しながらも目を輝かせ興味津々な様子のファラとアスナ。

二人がレイシス王子の言葉に頷いた後、僕はメルとビスケットに視線を移す。

「ビスケット。悪いけど『ティア』の姿になってくれるかい」

メルの腕の中にいた子猫姿のビスケットが「はぁ……」とため息を吐き、呆れたような表情を浮かべたような気がする。

そして同時に子猫姿のクッキーから刺すような視線が向けられて、僕は思わず「う……」とバツの悪い顔を浮かべた。

しかし、メルが「ビスケット、おねがいね」と声をかけると、ビスケットは「やれやれ」と言った具合で渋々とメルの腕から抜け出す。

やがて、ビスケットは僕達全員が見える位置まで移動した。

一連のやり取りを見ていたレイシス王子は、意図が良くわからずに怪訝な表情のままだ。

やがて、ビスケットが深呼吸を行ってから間もなく徐々に変化が起きる。

子猫姿だったビスケットが、半透明で液状になりながら人の姿に変わっていくのだ。

この場にいる皆は、目の前の出来事に驚きながらもビスケットの変化を食い入るように見つめている。

やがて、ビスケットの変化が落ち着き半透明の状態から色が宿っていく。

そして、僕達の目の前には目を閉じた状態の『メイド姿の可愛らしい少女?』である『ティア』が現れた。

ビスケットは変化が終わると、ゆっくりと目を開けてニコリとこの場にいる皆に向けて可愛らしく微笑んだ。

「な……⁉」

間違いなく見た目が『ティア』であるビスケットの姿に驚愕するレイシス王子。

それはそうだろう、僕自身もビスケットが『ティア』に変化した時は同様の反応をしたものだ。

その時、メルが可愛らしいドヤ顔を見せる。

「えっへん。これが『ティア』だよ」

「た、確かに見た目は『ティア』だ……し、しかし、これは一体……」

困惑するレイシス王子に、僕は心を鬼にする。

「申し訳ありません。実は、レイシス兄さんが以前レナルーテで見初められたのは『スライム』であるビスケットが変身した姿の『ティア』だったんです……」

「……⁉ な、なんだと、リッド殿それは真か‼」

「は、はい……」

驚きのあまりに声が大きくなっているレイシス王子に僕は説明を始めた。

なお、この説明を行っている時、メルとダナエはきょとんとした表情をうかべていたけど、それ以外の皆は僕にジトっとした視線を向けていたのは言うまでもない。

クッキーに至っては、刺すような視線に少し殺気が混ざり始めた気がする。

そんな中でも、僕は顔を引きつらせながら必死にレイシス王子に話を続けた。

彼に伝えた話はこうだ。

僕がファラとの顔合わせの為、初めてレナルーテに訪れた時のこと。

野盗のような男達に襲われている魔物の番を見つけて救ったところ、彼らに懐かれた。

そして、これも何かの縁だろうということで、一緒に過ごすことになる。

その中で、魔物は魔の森に生息している『シャドウクーガー』と『スライム』ということがわかり、シャドウクーガーにはクッキーという名前。

スライムにはビスケットという名前が付けられた。

神妙な面持ちで聞いているレイシス王子。

だけど、話の内容に首を傾げたメルが何かを言おうとした時、僕が咄嗟に彼女の口を塞いだのは言うまでもない。

メルは何度か目をぱちくりさせた後、何かを察してくれたらしくその後は黙って話を聞いてくれた。

僕は話を続け、実はこの『スライム』ことビスケットには目の前で見せた変身能力があることが発覚。

それ故に、野盗らしき者達に襲われていたと説明。

そして野盗を纏めていたのが『マレイン・コンドロイ』だったと伝えた。

その瞬間、レイシス王子がハッとする。

「後ろ暗い話が絶えずに、突然消息不明になったあの『マレイン・コンドロイ』か。確かに、奴の好きそうな話ではあるな……。しかし、私がティアと初めて会ったのはファラの部屋だぞ」

「そ、それは……」

僕が思わず言いよどむと、ファラが咳払いを行った。

「それについては、私からご説明致します。あの時、魔物のスライムである『ビスケット』が変身能力を持っている事を聞いて、私がどうしても見せて欲しいとお願いしたのです。そうでしたよね、リッド様」

ファラは僕を見ながらニコリと微笑んだ。

どうやら、話を合せてくれるつもりらしい。

僕はハッとしながら頷いた。

「え、は、はい。ファラ王女の言う通りです。ただその時に、私は所用でご一緒できなかったのでディアナと一緒に訪問させたというわけです」

「なんと……」

レイシス王子は信じられないという面持ちで口元に手を充てながら、『ティア』の姿を凝視するとハッとする。

「いや、しかしやはりおかしい。ティアは私と間違いなく会話したが、目の前にいる彼女はまだ一言も話していないぞ。彼女が本当にティアであれば、会話ができるはずだ」

「そ、それは……」

痛いところを突かれて僕は思わず言いよどむ。

会話に関しては流石に誤魔化しきれないだろう。

ここまでしておいてなんだけど、もはやティアは僕が変装した姿だったと言うべきだろうか? と思い悩んだその時、『やれやれ』と首を小さく横に振ったビスケットが僕の側にやってきて耳元で囁いた。

「ふふ、リッド様。ひとつ貸しですよ」

「へ……⁉ ビスケット、君いまなんて……」

僕が驚愕の表情を浮かべたその時、ビスケットはわざとらしく咳払いをしてからレイシス王子に視線を向ける。

「お久しぶりです、レイシス様」

なんと突然にティアこと、ビスケットが声を発した。

その声は、僕とメルに似ている感じもする。

彼女は言葉を言い終えると、カーテシーによる礼儀正しい挨拶を行った。

その姿は、先程の本丸御殿で見せたメルの挨拶を彷彿させるほど綺麗な所作である。

僕を含めこの場にいる皆が呆気に取られている中、レイシス王子が驚きの声を発した。

「……⁉ ティ、ティア、本当に君だったのか‼」

「私でないなら誰だと仰るのでしょうか? 必要でしたらレイシス様が以前、私に言ったことをこの場でお伝えすることも可能でございます」

「い、いや、それは流石にこの場では……」

ビスケットがしっかりとした受け答えをしたことで、レイシス王子は今までの話を信じてくれたらしい。

首を小さく横に振ったビスケットは、レイシス王子に諭すように呟いた。

「折角、リッド様がレイシス様の面目が立つようにしておりましたのに……残念です」

「面目とは……どういうことだろうか」

なんとも言えない顔をして僕に視線を向けるレイシス王子だけど、ビスケットはそのまま話を続ける。

「えーっと、ほら……なんでしたっけ。人間同士で結婚している人の事を……き……き……」

「既婚者のこと?」

「そう、それです‼」

疑問に僕が答えると、ビスケットはパァっと明るく笑みを浮かべて頷いた。

そして、レイシス王子に視線を戻すとハッキリと告げた。

「私……ティアことビスケットは、そこにいる黒猫さん。クッキーの妻ですからね。レイシス様のお気持ちには答えられません」

「な……⁉ 君はリッド殿を好いていたのではなかったのか? あ、いやそれ以前、君は魔物だったのだな。そうか……私の面目とはそういうことか」

ビスケットの言葉に驚きつつもハッとしたレイシス王子は、見初めた相手が魔物でしかも既婚者であったことに衝撃を受けたようで意気消沈してしまう。

しかしそんなレイシス王子に、追い打ちをかけるようにメルがすべてを察した様子で呟いた。

「えぇ、レイシスにいさまって、みためでひとをはんだんしちゃうの?」

「あ、いや、メルディ殿。べ、別に決して、そういう意味では……」

「じゃあ、どういういみなの?」

レイシス王子もメルに追い打ちを掛けられるとは思っていなかったらしく、あたふたと慌てている。

しかし、メルは話を続けた。

「たとえ、どんなあいてでもレイシスにいさまが、いだいたきもちはほんものでしょ? それはたいせつなものだとおもいます」

「う、うむ。メルディ殿の言う通り、私が抱いた気持ちと様々な活動における原動力となったのは確か……だな」

メルの言葉にハッとしたレイシス王子は少し考えるように俯く。

やがて彼は、膝に勢いよく手を叩き「パン」という音を鳴らした後、顔を上げてビスケットに熱い視線を向ける。

「ティア改めて、ビスケット殿。貴殿に恋焦がれたのは事実であり、良い夢を見させてもらった。クッキー殿と……幸せにな」

「ありがとうございます。レイシス様」

ビスケットは再度、レイシス王子に頭をサッと下げて会釈を行う。

クッキーも満更ではない様子だ。

一連のやり取りが終わると、メルが可愛らしい笑みを浮かべてレイシス王子に微笑んでみせる。

「えへへ、れいしすにいさま、かっこいいよ」

「……⁉ そ、そうか……ありがとう、メルディ殿」

その後しばらく、レイシス王子を僕達が励ます状況が続いた。

だけど一部始終を見ていた、ディアナ、アスナは肩を揺らして俯いている。

そしてファラは何故か、レイシス王子と僕を交互に見て胸を撫で降ろすような仕草をしており、僕はきょとんとするのであった。

やがて元気を取り戻したレイシス王子は、一人でサッと立ち上がる。

「うむ、では私は先にお暇しよう。リッド殿とファラで話したいこともあるだろうからな」

彼はそう言うと、部屋のドアの前まで移動する。

僕は見送りの為、一緒にドア近くまで移動した。

すると、レイシス王子が懐から僕が渡した『懐中時計』を取り出す。

「忘れるところだった。リッド殿、このような素晴らしいものを頂き感謝する」

「いえ、喜んで頂けて光栄です」

笑みを浮かべて答えると、レイシス王子がニコリと微笑みながらスッと僕の耳元で囁いた。

「その、リッド殿の妹であるメルディ殿だが、まだ婚約などはしていないのだろうか」

「……しているわけがありません。私の妹なんですよ? それに、私とファラ王女の婚姻が特例なのです。メルが今の年齢で婚約や婚姻をするわけないじゃないですか」

普通に答えたつもりなんだけど、どうやら僕は知らず知らずのうちに渋い顔をしていたらしくレイシス王子の顔が引きつった。

「リッド殿、何もそのような怖い顔をしなくても良いではないか。しかし、そうか……ならば、私にも……」

「……レイシス兄さん。良からぬことを考えているなら、また怒りますよ」

僕の言葉の棘を感じ取ったのか、彼はハッとして「す、すまん。では、これにて失礼する」と呟いた。

そして、僕の後ろにいる誰かに微笑むと今度こそレイシス王子は部屋を後にする。

彼が部屋を退室してゆっくりとドアを閉めた僕は、誰にも聞こえない小声で呟くのであった。

「はぁ……ティアの次は『メル』か。レイシス兄さんって惚れっぽいのかなぁ……それとも、僕やメルの顔が好みなのかな? じゃあ、母上とかも……」

その時ふと、母上とレイシス王子が対面した姿を想像してしまう。

うん、きっとレイシス王子は母上に見惚れそうな気がするなぁ。

しかし同時に、鬼の形相を浮かべた父上の顔も浮かんできて寒気を感じた僕は、想像を消し去るように首を横に勢いよく振るのであった。