軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ビスケットとティア

レイシスが退室すると、部屋の中に静寂が訪れる。

そして彼女……『ティア』に僕は視線を向けた。

「さてと……ビスケット。君が話せるとは知らなかったよ」

「えへへ……驚きましたか。ここまで話せるようになったのは最近ですけどね」

ティアの姿をしたビスケットは、可愛らしく「てへっ」とした表情を見せる。

その時、彼女の傍にいたメルがドヤ顔をしながら腰に手を充てながらその場に立ち上がる。

「ふふーん。ビスケットに『もじ』と『ことば』をおしえたのはわたしだもーん」

「はい。メルちゃんのおかげです」

メルの言葉にビスケットは笑みを浮かべて頷くが、僕は呆気にとられながら彼女達に問い掛ける。

「メルが教えたってどういうこと……?」

「ふふ……では、皆様にもわかるようにご説明しましょう」

ビスケットはメル同様、ドヤ顔を浮かべて腰に両手を充てて自信満々と言った様子で説明を始める。

ちなみに、そんな彼女の様子を見た子猫姿のクッキーは「やれやれ」と首を振っていた。

しかし、ビスケットはそんなクッキーをよそに、流暢に喋りながら楽しそうである。

ビスケットが文字と言葉の練習を始めたのは、『ティア』の姿をメルに見せてからだそうだ。

クッキーとビスケットの二匹は、レナルーテで僕達と初めてあった時から言葉は多少の理解はしていたらしい。

不明な部分は、相手の表情や言葉に宿る感情を読み取ることで理解を補完していたそうだ。

言葉の問題に関して、契機が訪れたのはバルディア領にきてメルと遊ぶようになってからだという。

ある日、メルが勉強している内容に興味を示したビスケットとクッキーに対し、メルが絵本の読み聞かせや文字を教えたそうだ。

つまり、ビスケットが僕に『ティア』の姿を初めて見せた時にはすでにある程度の言葉はしっかりと理解出来ていたらしい。

比較的短期間で文字を理解できるようになったクッキーとビスケットを目の当たりにしたメルは、大喜びをした後に『言葉』も話せるようになるのではないか? と期待に胸を膨らませたそうだ。

しかし、さすがのクッキーとビスケットでも『言葉』は発音が難しい為に苦戦する。

その中で、メルがビスケットに「うーん。そのすがたでむずかしいなら、ひとのすがたならできるんじゃない?」と提案した時にビスケットは閃いたらしい。

「そう……それはまさにメルちゃんのおかげで訪れた天啓でした。人と同じ声を出す為に、口、喉、お腹の動きを私が真似をすれば良いだけだったのです!」

ビスケットは天を仰ぎながら大袈裟に言葉を紡ぐ。

その様子に僕は「は、はぁ……」と呆れ顔を浮かべた。

そしてそんな僕を見ることもなく、ビスケットは説明を続けていく。

曰く、メルの一言によって『言葉』を発するのに重要な部分に気付いたらしい。

そして、メルを参考に様々なことを試した結果、とうとう『言葉』を問題なく発することが出来るようになったそうだ。

「……というわけで、私がメルちゃんとリッド様に声が似ている理由もそこに繋がるわけですね」

「つまり、メルの声を参考に『声を発する方法』を研究した結果ということだね」

「さすが、リッド様。理解が早くて助かります」

ニコリと微笑むビスケットに対して、僕は額に手を添えながら俯いていた。

知らぬ間に、魔物のビスケットが変身能力に加え、会話できる能力まで得ていたのだ。

驚かない方がおかしいだろう。

さすがに、驚いたのは僕だけではなく、ここにいるメル以外の面々は皆揃って目を丸くしている。

その時、ふとクッキーと目が合った僕は、ビスケットに問い掛けた。

「ところで、クッキーは会話できないのかい」

「あ、黒猫さんは私みたいに体の作りを変えることは出来ないので会話能力は得られませんでした。でも、皆さんの言葉を理解しているので、文字による会話は出来ると思います。あとは、私通しでもできますね」

「へぇ……」

ビスケットの答えに僕は感心しながら頷くと、クッキーに視線を向ける。

すると、彼は興味なさげにそっぽを向いた。

どうやらクッキーはそこまで会話することに興味はないらしい。

だけど、バルディア領で温泉を掘り当ててくれたことを思い出した僕は、ビスケットに声をかける。

「そうだ、ビスケット。バルディア領でクッキーがなんで温泉を掘ってくれたのか、聞いてもらっても良いかな? お礼は何度か伝えたと思うんだけど、折角だから聞きたいと思って」

「あは、わかりました。聞いてみますね」

笑みを浮かべて頷くと、ビスケットはクッキーに近寄った。

ビスケットとクッキーが互いに少し見つめ合い部屋に静寂が訪れる。

やがて、ビスケットが顔を赤らめて僕に視線を向けた。

「ええっと、ですね。黒猫さん曰く『レナルーテで嫁を助けてくれたお礼』だそうです」

「あ……そういうことね」

レナルーテで嫁を助けた、というのは当時彼らを捕まえていたマレインから彼らを救った事を指しているのだろう。

どうやらクッキーは義理堅い性格のようだ。

「あ、それからですね。黒猫さん曰く『リッドは一緒にいると面白い。それにメルディも嫁に似ていてほっとけないから、一緒に居てやる』だそうです……って、私とメルちゃんって似ているんですかね」

メルに視線を向けると、ビスケットは不思議そうな顔を浮かべた。

クッキーは相変わらず、興味がなさそうだ。僕は、ビスケットの言葉に思わず苦笑しながら答える。

「あはは、それは良くわからないけど、クッキーとビスケットの二人がメルの側にいてくれるのはとても心強いよ」

「そ、そうですかね。えへへ……」

ビスケットは僕の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべた後、ハッとして顔つきが真面目になる。

「あ、あと、黒猫さん曰く『温泉は掘ったが、俺は風呂が嫌いだ』らしいです」

「……⁉ あははは、わかった。教えてくれてありがとう」

その時、以前クッキーが泥だらけになった際、メルとメイドの皆に洗われて彼がションボリした姿を見せたことを思い出した僕は、思わず笑ってしまうのであった。