作品タイトル不明
迎賓館に来客
レナルーテに到着後、岳父であるエリアス王への挨拶に本丸御殿に出向いた僕達。
無事に挨拶が終わると、僕は持ってきた装飾が施されている『懐中時計』をエリアス王に献上。
そして、母上から預かった親書をリーゼル王妃とエルティア母様に渡した。
なお、『懐中時計』はエリアス王を含む王族全員分の個数に加え、此処にはいないオルトロスとザックの分も用意してある。
ファラの分はすでに渡してあるから、抜いているけどね。
『懐中時計』に関しては、エリアス王を含む全員がとても喜んでくれた。
しかし、すぐに簡素な『懐中時計』の注文は可能かどうか? という質問がエリアス王から飛び出る。
だけど、現状では生産が追い付かずにまだ受けられないと、今はやんわりとお断りした。
様々な体制が整えば、どんどん売っていきたい考えはあるけどまだその時期じゃない。
その後も、木炭車やバルディア第二騎士団のレナルーテ国内における道整備事業の活躍など、エリアス王が行う質問の話題には尽きない。
やがて粗方の質問に答えると、エルティア母様が僕をチラリと見てからエリアス王に苦言を呈するように発言した。
「陛下、リッド殿を含めて皆様は長旅で疲れております。積もるお話は、『華燭の典』が終わってからがよろしいのではありませんか」
「そうだな。婿殿、長旅で疲れているところに申し訳なかったな」
「とんでもないことでございます。様々なご質問を頂けることは、ご興味を持って頂けているということですから、嬉しい限りでございます」
畏まった面持ちでスッと会釈を行い答えると、エリアス王は満足そうに頷いた。
「うむ。ではまた、すべてが終わってから改めて話すとしよう。明日からは、『華燭の典』の準備で婿殿には少し苦労をかけると思うがよろしく頼むぞ」
「承知しました」
こうして、エリアス王を含む王族の面々に挨拶が終わると僕達は迎賓館に戻るのであった。
◇
「ふぅ……疲れた……」
迎賓館の自室に戻った僕は、一言呟くとそのまま部屋のベッドにうつ伏せで倒れ込む。
僕とファラが婚姻するので、エリアス王を含むレナルーテの王族の皆はバルディア家の親族となるわけだ。
しかしそうは言っても、格式高い場に於いての礼儀や言葉遣いには気を遣うし、親族になると言ってもやはり隣国の王族に対して失礼なことは出来ない。
特に、エリアス王からの質問は中々に鋭いものが多い。
僕が詰まることがあれば、途中で父上が助け船を出してくれたりもしていたのだ。
「はぁ……味方である御父様であれだから、ファラと帝都に行った時の中央貴族達とのやりとりが今から憂鬱だなぁ」
誰に聞かせるわけでもなく、僕は愚痴のように独り言を呟いた。
ファラとの『華燭の典』が終わり、バルディア領に戻った後に次に待っていること。
それは、マグノリア帝国の帝都にファラと共に出向かなければならないということだ。
政略結婚でバルディア家に降嫁してくるとはいえ、ファラはレナルーテの王女であり、帝都に挨拶に行かないということは彼女の政治的な立場から考えれば有り得ない。
だけど、バルディア家とファラを守る上で凄く気掛かりなことが帝都には存在している。
僕はうつ伏せから仰向けになると、天井をボーっと見ながら小声で呟いた。
「帝都か……悪役令嬢『ヴァレリ・エラセニーザ』もやっぱり居るんだろうなぁ」
そう、帝都には将来僕とバルディア家を断罪に導く『悪役令嬢』が存在しているのだ。
もっとも、今の僕と悪役令嬢が出会ったとしても『ときレラ!』のような物語が紡がれるとは思えない。
気掛かりなのは『ファラ』と『悪役令嬢』が出会った時にどんなことが起きるかだ。
前世の記憶にある『ときレラ!』の中において『ファラ・レナルーテ』は存在していなかった。
それ故、ファラと悪役令嬢の邂逅が将来にどんな影響が起きるのか予想がつかない部分ではある。
まぁ、ゲームにおける『裏設定』とか存在していて、僕が知り得ない情報とかの可能性もゼロではないけどね。
なんにせよ、僕は妻であるファラとバルディア家。
そして、領地を守ると決意しているのだ。
「よし……‼ 先の事をあれこれ考えてもしょうがない。まずは、明日から行う『華燭の典』に向けての準備をファラの為にも精一杯頑張ろう」
自分自身を奮い立たせるように言葉を呟いたその時、部屋のドアがノックされ返事をすると「にいさま、はいってもいい?」と可愛らしい声が聞こえてきた。
僕はすぐに答えて起き上がるとドアを開ける。
「メル、どうしたんだい?」
「えへへ……わたし、ちゃんとみなさんにごあいさつできていたか、ききたいなとおもって」
「勿論、立派だったよ。とりあえず、部屋の中で話そうか」
「うん‼」
メルは僕の答えに嬉しそうに頷くと、部屋の中にクッキーとビスケットを連れて入室する。
そして、彼女の後ろで微笑んでいたダナエとディアナも一緒に部屋の中に案内した。
メルは僕の部屋に入ると、今日に向けて母上や父上と一緒に挨拶と口上の練習をずっと僕に内緒でしていたことを教えてくれる。
「そうだったんだね。でも、どうして内緒にしていたの?」
僕がメルに疑問を尋ねると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「にいさまは、ずっといそがしそうだったもん。それに、ひみつにしていたほうが、きっとおどろいてくれるとおもったの。そしたら、ははうえもそれがいいっておうえんしてくれたんだ」
「そうなんだ。あはは……」
メルの言葉に頷きながら、僕は母上の悪戯っぽい部分を垣間見て思わず苦笑する。
するとその時、またもやドアがノックされザックの声が部屋に響いた。
「リッド様。ファラ様とレイシス様がいらっしゃいましたが、こちらにお通ししてもよろしいでしょうか?」
ファラは何となくわかるけど、何故レイシスも? 僕が何の用だろうかと首を傾げる中、メルが笑みを浮かべた。
「レイシスさまって、ひめねえさまのおにいさま……なんだよね」
「う、うん。そうだね。でも、それがどうかしたの?」
「じゃあ……わたしにとってはあたらしい『おにいさま』だよね?」
「……⁉ そうか、そうなるね」
満面の笑みを浮かべているメルの言葉で、僕はハッとする。
そうだ、確かにそうだ。
ファラと婚姻するわけだから、当然レイシスは僕の兄になる。
メルからすれば、レイシスは『お義兄さん』になるわけだ。
本丸御殿ではその話にほとんど触れていないから、ひょっとしてその件で来たのかな?
そんなことを思いながら、僕はザックに部屋に案内してもらって大丈夫と答えるのであった。