軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

父上からの要件

本屋敷の訓練場でメル達と居た僕は、ガルンから父上に呼ばれていると伝えられる。

その場に居たメル達に事情を話した後、僕は呼びに来たガルンと従者であるディアナと共に父上のいる執務室に向かった。

やがて、執務室前に辿り着くとガルンが畏まった声を発する。

「ライナー様、リッド様をお連れ致しました」

彼の言葉が響くと、執務室の中から「うむ。入れ」とすぐに父上の返事が返って来た。

ガルンは「失礼致します」と発してからドアを開けると、僕に笑みを見せる。

「ありがとう、ガルン」

お礼を言いながら僕は執務室に入ると、机に座っている父上の前に移動する。

「父上、お呼びでしょうか」

「うむ。先日、レナルーテに送った親書の返信がきたのでな。お前にも見せようと思ったのだ」

父上は机に座ったまま一通の封筒を僕に差し出した。

「ありがとうございます。中身を検めてよろしいでしょうか」

「ふふ、構わんぞ」

「……?」

封筒を受け取ると同時に、父上はニヤリと笑みを浮かべるが意図がわからずに僕は首を傾げる。

何か、面白い内容でも親書の中にあったのだろうか。

そんなことを思いながら、僕は封筒を開けて中の親書を取り出して内容に目を通していく。

『バルディア領のご配慮に御礼申し上げよう。レナルーテとしては、ファラをバルディア領に送り出す考えであった為、迎えに来て頂けるなら大歓迎である。貴殿達が来国の際には、レナルーテにおいて『ファラ・レナルーテ』と『リッド・バルディア』殿の『華燭の典』を関係者のみで行いたい。マグノリア帝国上の書類では婚姻関係と聞いているが、この機にレナルーテにおいても華燭の典を執り行うことで両家の縁組を明確にしたい所存である。従って準備ができ次第、再度親書にて詳細と日程のご連絡を致したい』

手紙の内容は要略するとこんな感じで、力強い文字の達筆な筆跡は以前にも見たことがある。

恐らく、僕の岳父となるエリアス王のものだろう。

いや、問題はそこじゃない。

まだ年端もいかない僕とファラが、華燭の典……つまり婚礼を行うとはどういうことだろうか。

僕が手紙を読み終え困惑していると、父上がおもむろに呟いた。

「さすがに驚いたようだな。何、難しい話ではない。レナルーテ国内における有力華族達に、バルディア家との繋がりを誇示する狙いがあるのだろう」

「……そうだとしても、子供同士で『華燭の典』はやり過ぎではありませんか」

意図は理解できても、突然に『華燭の典』を行うと言われても感情が追い付かない。

僕は思わず、訝しい表情を浮かべた。

「ふむ。しかし、お前ぐらいの年齢で政略結婚による華燭の典は、帝国の過去の歴史上なかったわけではない。それに、同盟の問題もあるのだぞ。どちらにしても、お前には受けないという選択肢はない……心して臨め」

父上の言葉を聞き終えた僕は呆れた表情を浮かべ、額に手を添えると思わず俯き思案する。

マグノリア帝国の歴史を学ぶ授業で知ったことだけど、帝国は数百年前に領地争いによる内戦が絶えない時期があったらしい。

その時期においては、確かに幼い子供同士でも政略結婚を行うことが多かったそうだ。

それに父上の言った『同盟の問題』というのは、『帝国がレナルーテを属国とした密約』についてのことだろう。

僕とファラの顔合わせの時に、様々な妨害工作を行った政治派閥がレナルーテ内に存在していた。

その派閥の代表だったのが、『ノリス・タムースカ』という初老のダークエルフである。

しかし、彼は婚姻の妨害工作に失敗して失脚。

その後、彼と派閥関係者はあらかた断罪されたと聞いているけど、しぶとく燻っている連中でもいるのかもしれない。

その為に、レナルーテとバルディア家の関係性を誇示するというところだろうか。

何にしても、父上の言う通り華燭の典を『受けない』という選択肢は僕にはない。

妻としてファラを迎えに行くのだから、むしろ喜んで臨むべきだ。

考えをまとめた僕は、ゆっくりと顔を上げ頷いた。

「わかりました。でも、そうですね。折角ですから、花嫁に恥を掻かさないように頑張ります」

父上は、僕の言葉を聞き終えると頷きながら答える。

「その意気だ。それからバルディア家としても、ファラ王女がこちらに来た際に祝いの席を用意する予定だが……そうだな。折角だからリッド、お前が中心となりその準備を取り仕切れ。ファラ王女も、お前が準備したと知ればきっと喜ぶだろう」

父上が話の途中で考える素振りを見せた後、からかうような笑みを浮かべて言葉を続けた。

僕は思わず苦笑しながら答える。

「承知しました。妻を迎える祝いの場となるのですから、夫として精一杯取り組みます」

「うむ。バルディア家においての手続きで何かわからないことがあれば、ガルンを頼れ。レナルーテの文化で不明点があれば、カペラを頼ると良いだろう。では、頼んだぞ」

「はい、父上」

頷きながら答えると、父上は表情を緩め少し嬉しそうな雰囲気を醸し出す。

やがて、優しく言葉を紡いだ。

「それと、バルディア家としての『婚礼』は、お前が正式に『爵位継承』を出来るようになってからと考えている。その件も、ファラ王女には伝えておくようにな」

「……‼ 承知しました。ファラもきっと喜ぶと思います」

答えると同時に、僕は満面の笑みを浮かべる。

今回、レナルーテで婚礼となる華燭の典が行われることになったけど、ファラとはどこかの機会に『婚礼』を行いたいという思いが僕の中にはあった。

ファラのためでもあるけど、両親である母上と父上や妹のメル。

それにバルディア家の皆が揃っている場で、婚礼をすることにも意味があると思う。

婚礼は、僕達を育ててくれた人達に成長した姿を見せる場でもあるからだ。

やがて父上は、少し照れ隠しのように咳払いをして話題を変える。

「親書の件は以上だ。ところで、リッド。メルと武術の訓練をしていたと聞いたが、メルの様子はどうだ」

「メルですか? ふふ、メルはさすが父上の子と言わんばかりに剣術の才能があると思います。きっと、このまま稽古を続ければレナルーテの剣士である『アスナ』のようになれるのではないでしょうか」

答えの内容が予想外だったのか、父上は顔を引きつらせ何とも言えない表情を浮かべた。

「メルに才能があったことは喜ばしいことだが……しかし、レナルーテの『アスナ』のようにか」

「良いではありませんか、父上。才能があるとは言っても、メルはそこまでの強さを追い求めないでしょうから、きっと護身術程度に落ち着くと思いますよ」

メルと訓練しても、彼女にアスナのような強さを追い求めている印象は受けない。

恐らく、僕が行う姿を見て興味を持っただけだと思う。

しばらくすれば、メルの稽古熱が冷めて落ち着くかもしれない。

父上は、額に手を充てながら何か嫌な予感でも振り切るように首を少し横に振る。

やがて、静かに頷いた。

「う、うむ。いや、そうだな。しばらく様子を見よう」

「……?」

父上の不安をよそに、僕はきょとんと首を傾げるのであった。

その後、父上と少し談笑した僕は笑みを浮かべて執務室を退室する。

そしてその足で早速、宿舎の執務室に向かうことにした。

父上に指示されたファラを迎える準備を行うためだ。

ふとその時、ディアナがどんより暗くなっていることに気付いた僕は、ギョッとして心配するように尋ねた。

「ディアナ、どうしたの。そんなに暗い顔して……」

「いえ……カペラさんとエレンさんの結婚。それに続き、リッド様も婚礼を執り行うと聞いて、ふと物思いに耽っていただけでございます。ご心配には及びません」

心配はいらないと言うが、彼女の顔は暗いままだ。

僕はどうしたものかと、考えてから話を続ける。

「そ、そう? だけど、ディアナとルーベンスが結婚式をするときは、僕も手伝うから教えてね」

「リッド様……ありがとうございます」

『手伝う』と言ったことが良かったのか、ディアナにいつもの凛とした明るさが戻る。

僕はそんな彼女の様子に、胸を撫で降ろし安堵したのであった。

後日、ルーベンスと会う機会を得た僕は、彼に対して「いつまでディアナを待たせているのさ。いい加減に僕も怒るよ」と発破をかけてみる。

しかしルーベンスは、言葉の意味がわからないようで鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。

「ええっと、どういう意味でしょうか……?」

僕に答えながら、きょとんと首を傾げたルーベンス。

そんな彼の様子を見た僕が、大きなため息を吐いたのは言うまでもない。