軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

父上の呼び出し

その日、本屋敷の野外訓練場に木剣がぶつかり合う乾いた音が、可愛らしい掛け声と一緒に鳴り響いていた。

「えい、やぁああ‼」

「ふふ。メル、その調子だよ」

笑みを浮かべながら、僕はメルが振るう木剣を受け止めている。

すると、僕達の様子を近くで見ていた少女がメルに向かって声を発した。

「メルディ様、頑張ってください」

「うん、ティス」

クロスの娘であるティスの応援にメルは頷くと、正眼に木剣を構え一旦深呼吸を行う。

息を整えると、彼女は僕に鋭い視線を向けた。

「……えぇええい‼」

メルは勢いよく、僕に向かって踏み込みながら中々に鋭い太刀筋を見せる。

しかし、あくまでもメルが出す中での鋭い太刀筋だ。

僕は彼女の太刀筋を受け止めた後、スッと力の流れを変えた。

同時にメルが「わぁ⁉」と声を出して体勢を崩し、その場に尻餅をついてしまう。

僕はその隙に、ゆっくりと木剣の剣先を彼女に突き付けた。

「メル、最後の太刀筋は良かったよ。だけど、まだまだ……だね」

僕の言葉を聞いた彼女は、ハッとする。

やがて尻もちをついたまま、僕を上目遣いで可愛らしく睨みながら頬を膨らませた。

「むぅ……にいさま。すこしぐらいかたせてくれてもいいのに。ふんだ‼」

「あはは。剣術の稽古で慢心は、怪我の元になるからね。でも、全体的にとっても良い太刀筋だったよ。きっと、稽古を続ければメルは強くなれるさ」

笑みを浮かべながらメルに答えると、僕達の稽古を間近で見ていたティスが少し興奮気味にメルに向かって声を掛けた。

「リッド様の言う通りです‼ メルディ様の動きと太刀筋は、最近剣術を始めたばかりと思えません。絶対にメルディ様にも、リッド様やライナー様のような剣術の才能があると思います」

「……えへへ、そ、そうかなぁ」

先程まで頬を膨らませていたメルだが、ティスの言葉に今度は照れ笑いを浮かべている。

その時、傍らで僕達の稽古を見守っていた、バルディア騎士団副団長のクロスが微笑みながらこちらにやってきた。

「リッド様、メルディ様も素晴らしい太刀筋でございました。特に、メルディ様はティスの言う通り、良き才能をお持ちと存じます。稽古を続ければ、いずれリッド様にも引けを取らないかもしれません」

クロスにも褒められて、メルの表情はみるみる明るくなり満面の笑みを浮かべる

「ほんとう⁉ えへへ、じゃあいつか……にいさまに、かてるかな」

彼女はクロスに答えながら立ち上がると、僕を横目でチラリと視線を向ける。

僕は、あえて咳払いすると少し表情を引き締めた。

「メル、さっきも言ったでしょ。慢心はダメだよ」

僕の表情と言葉で彼女は、少し顔を引きつらせる。

「う……はーい」

普段より強めに言ったことで、メルは少し調子に乗り過ぎたと自覚してくれたようだ。

その時、クロスが僕達に向かって話しかけて来た。

「それでは、メルディ様。次は私と稽古致しましょう」

「うん、おねがいします」

メルはクロスに答えると、木剣を構えて稽古を再開した。

クロスの娘であるティスは、二人の稽古を熱い眼差しで見つめているようだ。

ちなみにティスは、『メルと年が近い稽古相手』として此処にいる。

メルが剣術の稽古を行う日だけ、クロスと共に屋敷にきている状況だ。

まぁ、稽古相手を希望したのはメルだけどね。

その時、近くで控えていたディアナが僕に近寄って来るとスッと手拭いを差し出した。

「リッド様、お疲れ様でございます。こちらで汗をお拭きください」

「ありがとう、ディアナ」

手拭いを受け取り額の汗を軽く拭っていると、ディアナがクロスとメルの稽古を見て感嘆した様子で呟いた。

「しかし、メルディ様があれだけ熱心に剣術に取り組まれるとは驚きでございます」

「そうだね。僕も驚いているよ」

ディアナの言葉に僕は同意するように頷いた。

メルが剣術の稽古をしたいと言ったのは、クロスの家に赤ちゃんを見に行ってすぐのことだ。

彼女は僕が行っている魔法や武術の稽古をずっと気にかけていたらしく、いつか魔法や剣術に挑戦したいという思いがあったそうだ。

そんな時、メルと変わらない女の子のティスが剣術の稽古を行っていると知って、より挑戦したい思いが強くなったらしい。

その結果が先日のメルによる、父上への直談判だったのだろう。

父上や母上は、メルが魔法と剣術の稽古をすることで怪我をしないかと心配をしていた。

だけど両親の心配をよそに、メルは短期間でみるみるその才能を開花させている。

魔法に関しても僕をずっと見ていたせいか、サンドラが「リッド様に続き、メルディ様も才能の塊ですね」と驚愕していた。

剣術に関しても、先程クロスの言った言葉に嘘はない。

メルもさすがは父上の子と言わんばかりに、剣術の覚えが早いのだ。

本当にこのまま稽古を続けると、レナルーテの『アスナ』みたいな剣術使いになるかもしれない。

そうなると、父上がまた頭を抱えそうだ。

ちなみに、この場にいるのは僕、メル、ディアナ、ダナエ、クロス、ティスの六名だ。

此処には居ないけど従者のカペラは、宿舎の執務室で事務仕事を僕の代わりにまとめてくれている。

この稽古が終わったら、彼がまとめた書類に目を通す予定だ。

書類仕事は、目が疲れるんだよなぁ……などと考えていると、突然真後ろに人の気配を感じてハッとする。

思わず勢いよく後ろに振り返ると、そこには執事のガルンが静かに佇んでいた。

僕が驚きの表情を浮かべて振り向いた様子を見ると、彼はニコリと微笑んだ。

「リッド様、ライナー様がお呼びでございます」

「え……う、うん、わかった。すぐに行くよ」

ガルンに答えながら、ふと横にいるディアナを横目でチラリと見ると、彼女も驚きの表情を浮かべていた。

どうやらディアナも、ガルンの気配に気付けていなかったようだ。

顔を引きつらせていると、ガルンは不敵な笑みを浮かべた。

「ふふ、申し訳ございません。少し脅かす程度のつもりだったのですが、悪戯が過ぎました。お許し下さい」

「え、いや、それは大丈夫だけど……ガルンって元暗部の出身とかなのかな。気配を全然感じられなかったよ」

ガルンは問いかけに対し、考えるような素振りをしてからニコリと笑った。

「その質問のお答えは、差し控えさせていただきたいと存じます。それよりも、ライナー様がお待ちでございますので、お急ぎください」

「う、うん」

煙に巻かれたような感じで少し釈然としないけど、父上を待たせるわけにはいかない。

稽古を行っているクロス達とメルに僕は声を掛け、父上に呼ばれたことを伝える。

クロス達が「承知しました」と会釈をする中、メルだけは「えぇー……」と不満顔を浮かべていたのが可愛かったな。

その後、ディアナとガルンの二人と共に、父上の待つ執務室に急ぐのであった。