軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次の目的地

僕達は、工房を出発した後、目的地のある街に繰り出す。

バルディア家の紋章が入った馬車とそのままの身なりではとても目立つので、一旦別邸に移動すると、僕達は身なりと馬車を少し質素なものに変えた。

そして、再度移動してようやく目的地の家の前にたどり着く。

「よし、ここだね」

僕達の目の前にある建物は、町の中でも比較的立派な家だ。

僕はおもむろにドアの前に進むと、ノックをしてから「リッドです」と名乗る。

間もなく、家の中から返事の声が聞こえた後、ドアが開かれて見知った人物が顔を覗かせる。

「ようこそ。いらっしゃいませ、リッド様」

「やぁ、クロス。今日はお邪魔してごめんね」

そう、ここはバルディア騎士団の副団長クロスの家だ。

実は、以前からクロスの奥さんが近々出産予定である話は騎士団含め、有名な話だった。

そして、子供が無事に生まれると僕は訓練の時に、クロスから散々惚気を聞かされていたのである。

母子ともに安産であり、新しい命の誕生は実にめでたいことであるのだが、クロスに訓練の度に聞かされるのは大変だった。

ちなみに、獣人族の子供達も同様だったようで時折、茫然とクロスの自慢話を聞いていた姿を何度か見ている。

そのことを、笑い話として母上に伝えた時、その場にいたメルが目を輝かせたのだ。

「にいさま、わたしもあかちゃんみたい‼」

僕も母上も、メルを止めたのだがどうしてもと聞かなかった。

後日、訓練前に止む無くクロスに相談することになるのだが彼は、断るどころかむしろ大喜びしたのだ。

「リッド様とメルディ様が……うちの息子を見に来られるのですか⁉ それは、なんという光栄なことでしょうか。是非、見に来てください。いや、それよりも私達がリッド様のお屋敷に出向かせて頂きます」

「い、いやいや……子供も生まれたばかりでしょ? それに、お母さんも産後はしっかり休まないと後に響いて来るらしいから、僕達がいくよ」

思った以上の喜びように僕は、思わず後ずさりしながら答える。

すると、クロスは怪訝な面持ち浮かべた。

「そ、そうですか。それは、ありがたいですが……。しかし、何故リッド様が産後のことについてご存じなのですか?」

「え⁉ えーと、それは……そう、書斎にあった本に書いてあったんだよ。あはは……」

思わぬ問い掛けに、僕は思わず苦笑しながら誤魔化した。

彼は僕の答えに、頷き笑みを浮かべる。

「なるほど。畏まりました。では、お言葉に甘えて我が家で可能な限りのおもてなしをさせて頂きます」

「いや、それも気にしないで大丈夫だよ。奥さんが大変だろうからね」

こうして、僕とメルはクロスの家を訪れることになったのである。

今までのことを思い返していると、クロスが怪訝な面持ちを浮かべた。

「リッド様、どうかされましたか?」

「ああ、ごめん。少し考え事をね。それじゃあ、失礼するね」

僕達はクロスに会釈をすると、彼の家に上がっていく。

クロスの家は二階建てで、町の中でも豪華な部類だと思う。

また、僕達の屋敷とは大分作りが違う感じで面白い。

家に上がると、メルがクロスに挨拶を丁寧に行う。

「メルディ・バルディアです。きょうは、むりなおねがいをきいていただき、ありがとうございます」

「メルディ様、ご丁寧にありがとうございます。ですが、私はバルディア騎士団に所属しておりますので、そのように、畏まる必要はありません。それに、我が息子に会いに来て頂けるなんて光栄の極みです」

「……『こうえいのきわみ』かぁ、えへへ」

メルは、クロスの言葉にくすぐったそうにしながら笑みを浮かべている。

確かに、あまり深く考えてはいなかったけど、領主の子供達が自身の生まれた子供に会いに来てくれるというのは、かなり異例だろう。

今回の件は、当然父上にも報告してある。

その際、父上は「誰でも許可するというわけにはいかんが……まぁ、クロスの子供なら良いだろう」と言って許可してくれた経緯もあった。

つまり、僕達がこうして訪問できたのは、クロス自身が今までバルディア騎士団に貢献してくれたことによる信頼もあると思う。

その時、クロスが僕達を見回すと笑みを浮かべる。

「では、妻と息子がいる部屋にご案内いたします」

「うん。忙しいところごめんね」

そして、クロスが二階のある部屋の前で立ち止まりノックをする。

「ティンク、入るぞ」

「はい、どうぞ」

女性の返事が聞こえると同時に、クロスは部屋のドアを開けて入室する。

僕達も彼に続いて、部屋の中に入って行く。

その時、ベッドに寝ていた女性が起き上がろうとするので、僕は前に出て慌てて止めた。

「そんな、起き上がらずにベッドで横になっていてください‼」

「いえ、ライナー様とナナリー様のご子息様に、そのような失礼をするわけには参りません……‼」

クロスの奥さんの瞳には、何やらとても強い意志のようなものを感じる。

それは、ディアナやアスナに似ている感じもした。

この手の人には何を言っても無駄だろう。

それなら、言い方を変えよう。

僕は一瞬考えると、すぐに言葉を紡ぐ。

「えー……それなら、この場においてだけは、ベッドで休んで頂かないと僕は『失礼』と受けとります。だから、どうか無理されないで下さい」

「それは……」

彼女は、怪訝な表情で僕の顔を一瞥すると観念したようにその場で一礼して呟いた。

「承知致しました。お心遣い、感謝致します」

「いえいえ、こちらが急に押しかけたので申し訳ないです」

僕の答えに彼女は微笑んだ後、ベッドの上でスッと姿勢正した。

「改めて、クロスの妻、ティンクでございます。折角、来て頂いたのにこのような姿でのご挨拶で申し訳ありません」

クロスの奥さんであるティンクは、ベッドの上でも丁寧な所作を崩さず、凛とした自己紹介してくれた。

ティンクは、くせ毛が強めの茶髪の長髪。

瞳は青くて、目はちょっと鋭くて大きい。

何だか、頼れるお姉さんという感じがする女性だ。

僕は、彼女の言葉に笑顔で答える。

「とんでもないです。改めて僕は、リッド・バルディアです」

ティンクと言葉を交わし終えるとその時、僕の隣にメルがやってきて彼女に視線を向ける。

「わたしは、メルディ・バルディアです。よろしく、おねがい、いたします」

ティンクは僕とメルの挨拶を見て、とても嬉しそうな表情を見せた。

しかし、何やらハッとすると彼女はベッドの後ろに振り返る。

「ティス、あなたもお二人の前に出てご挨拶しなさい」

「は、はい」

ティンクが声を掛けた場所から、恐る恐るとメルと同じぐらいの少女が出てきた。

少女はティンクと同じ、青い瞳をしており、強めのくせ毛は小さなポニーテールにしてまとめている。

少女は僕達の前に出てくると姿勢を正した。

「えと、パパとママの娘でティスと申します、6歳です。よろしくお願いします」

ティスは挨拶をし終えるとその場でペコリと頭を下げる。

僕は彼女が顔を上げると同時に、微笑んだ。

「ティスだね。ふふ、君の事はクロスからよく聞いているよ。僕は、リッド・バルディア。こちらこそ、よろしくね」

「え……えぇ⁉ パパ、私のことをリッド様にも話しているの‼」

僕の答えが予想外だったのか、ティスは目を丸くしながらクロスに怒りの籠った視線を向ける。

クロスは問いかけに満面の笑みを浮かべ、さも当たり前のように答えた。

「当然じゃないか。ティスの魅力と可愛さは、もう騎士団どころかバルディア家にも轟いているさ。ねぇ、リッド様」

「あぁー……、それはそうかもしれないね。ティス、君のことは、僕の父上と母上の耳にも聞こえているよ」

「えぇえええええ⁉」

ティスはまさか、僕だけでなくバルディア家に全体に自身のことが知られているとは思っていなかったようで、驚愕の表情を浮かべている。

まぁ、バルディア騎士団の副団長であるクロスが、あちこちであれだけ娘の自慢話をすれば、ある意味ティスのことを知らぬ者は屋敷にいないはずだ。

やがて、ティスは「うぅ……パパの馬鹿……」と呟いてガックリと項垂れてしまった。

そんな彼女にすかさず、メルが駆け寄り手を取ると嬉しそうに微笑んだ。

「あなたがティスね‼ わたしもずっと、にいさまからおはなしをきいていたの。だからあえるのをとてもたのしみにしていたんだ」

「あ、あわわ、メルディ様にそんな風に言っていただけるなんて……きょ、恐縮です」

少し落ち込んだ様子を見せたティスだったけど、メルのおかげですぐに笑顔を取り戻して、今度は照れた様子を見せている。

二人のやりとりを見ていたティンクは、ニコリと笑みを浮かべて呟いた。

「ふふ、本当にリッド様は立派になられましたね。小さい時のお姿を拝見していた身としては、本当に嬉しい限りです」

「あれ? ティンクは僕の小さい時を知っているの」

僕は思わず聞き返した。

クロスから家族自慢は良く聞くけど、そういえば奥さんとの馴れ初めとか結婚に至るまでの話は聞いたことがなかったな。

彼女は僕の問い掛けに頷きながら話を続ける。

「はい。私はクロスと結婚して、ティスを授かるまで騎士団に所属しておりました。確か、ナナリー様のお二人目、メルディ様の懐妊がわかる前ぐらいに退団しております。その為、リッド様の小さなお姿は何度か拝見させて頂いておりますよ」

「あ、そうなんですね。それは知りませんでした。すみません、覚えていなくて……」

「いえいえ、リッド様は今より小さかったのですから覚えていなくて当然です」

ティンクと話していると、いつの間にか仲良くなった様子のメルとティスが僕の隣にやって来て、メルが僕の手を掴んだ。

「ねぇねぇ、にいさま。はやく、あかちゃんをみせてもらおうよ」

「あぁ、そうだね。それじゃあ、見させて頂いてもよろしいですか?」

「はい。クロス、お二人に『クロード』を見せてあげて」

僕達の言葉に頷いた彼女は、視線をクロスに向ける。

「わかった。リッド様、メルディ様こちらです」

「うん、ありがとう」

僕とメルはクロスに案内され、ティンクが寝ているベッドの後ろに通される。

先程まで、ティスがいた場所あたりだろうか。

そこにはベビーベッドが置いてあり、小さな赤ん坊がスヤスヤと寝息を立てていた。

メルはその可愛さに目を輝かせる。

「うわぁ~、かわいい。ねぇねぇ、すこしだけさわってもだいじょうぶ?」

「はい。でも、寝ているので優しく触ってあげて下さいね」

クロスの答えに頷くと、メルは赤ちゃんの手の平を優しくつつく。

すると、赤ちゃんが反射的にメルの突いた指を掴んだ。

メルは「かわいい‼」とメロメロだ。

そんなメルに、ティスが「ふふ、ほっぺもフニフニなんですよ」と呟き、二人は赤ちゃんを堪能している。

僕もその可愛さに見とれていたが、ふと先程ティンクが呟いたこの子の名前が気になった。

「クロス、この子の名前は確か『クロード』だったよね」

僕が尋ねた意図が伝わったのか、クロスに照れくさそうに答えた。

「あはは、そうなんです。僭越ながら『リッド』様のお名前から一文字頂きました。少しでも、リッド様のような才能に恵まれればと思いまして……」

「そ、そうなんだね。そう言って頂けるのは嬉しいけど、ちょっと照れくさいね」

まさか、僕の名前から一文字使うとか全く思っていなかった。

僕は予想外のことで、気恥ずかしげに頬を掻くのであった。

その後、赤ちゃんのクロードを堪能しながら、ティンクが屋敷に勤めていた時の話を聞かせてもらった。

驚いたことに、ディアナに暗器術や格闘術などを叩き込んだのはティンクだったらしい。

「ふふ、当時のディアナは『強さへの渇望』が凄かったんです。そこで、私が教えられることを可能な限り伝えながら、厳しく訓練したんです。ねぇ、ディアナ」

「そうですね。とても厳しいものでしたが、今となっては良い思い出かもしれません」

ティンクの言葉に、ディアナが遠い目をしながら答えている。

どれだけ、厳しい訓練だったのだろうか。

彼女はそれ以外にも、母上が元気だった頃の話も聞かせてくれた。

「ナナリー様はとても悪戯好きな方でしてね。ある日、ライナー様が執事のガルン様に紅茶をお願いしたんです。そしたら、ナナリー様が『たまには私がいれましょう。ライナー、レモンティーでも良いかしら』と確認したら、ライナー様が頷いたんです」

「へぇ……でも、それのどこが悪戯だったんですか?」

僕が尋ねると、ティンクはその時の様子を思い出しながら、笑みを溢す。

「実はですね。ナナリー様がその後持ってきた『レモンティー』をライナー様が口にすると、途端に咳込んだんです。それから、眉間に皺を寄せて何とも言えない顔を浮かべると、ナナリー様がニッコリと笑みを浮かべて仰ったんです」

「そ、それは……ちなみに母上は何と言ったのですか?」

何となく落ちが見えるけど、僕は笑みを浮かべているティンクに問い掛けた。

「ふふ、『どうしたのですか? ちゃんと、あなたの言う通りレモンたっぷり、レモンティーにしましたよ』と微笑んでいらっしゃいました。その時のライナー様の顔は今でも忘れられません」

「あはは……母上も中々に凄いことをしていますね」

僕は思わず笑ってしまった。

レモンティーだから、レモンをたっぷり効かしたお茶を出すとは……考えても中々やらない。

それをやってのけるあたり、母上は本当に悪戯好きだったのだろう。

その時、ティスとメルが僕の近くにやってきて、メルがおもむろに呟く。

「ねぇねぇ、にいさま。ティスがね、にいさまにおねがいがあるんだって。きいてくれる?」

「うん、それはいいけど。ティス、僕にお願いってなんだい?」

ティスは少し緊張した面持ちを浮かべて俯いているが、顔を上げると何やら決心したような表情を見せ呟いた。

「あ、あの……リッド様は私と近い年代の子供達に訓練を施されていると聞きました。それで、その……私は将来、バルディア騎士団に入りたいんです。だから、差し出がましいことは承知なのですが、私にも武術や魔法の訓練をして頂けないでしょうか……⁉」

「へ……?」

思いがけないティスの言葉に、僕は呆気に取られてしまう。

そして、その言葉の意味を僕より早く理解したクロスが、悲痛な叫びを上げたのは言うまでもない。