軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お披露目

「皆さん、あそこです」

「なるほど、倉庫というより車庫っていう感じだね」

工房の来賓室からエレンに案内された倉庫は、思いのほか大きい。

そして、倉庫の出入口は恐らく両開きの木の扉で閉められている。

ちなみに、アレックスと猿人族のトーマとトーナは僕が持っていく懐中時計の準備をするということでここにはいない。

僕達が歩を進めていると、倉庫の前に狐人族の子が立っていることに気付いた。

その子は僕達に気付くと近寄ってきて丁寧に一礼してから、言葉を発する。

「お待ちしておりました。エレンさん、リッド様」

「ごめんね、トナージ君。少し待たせたかな」

「……エレン、その子は?」

エレンが『トナージ君』と言った狐人族の子は、どうやら男の子らしい。

ピンとした耳と、黄色く少し長い髪をしている。

でも、目を引くのは彼が頭に掛けている防塵ゴーグルだろう。

エレンは咳払いをすると僕達に振り向き、ニヤリと笑った。

「彼はですね。狐人族の子供達の中でも特に覚えが早くて、木炭車の開発にもすぐに力になってくれたんですよ」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、僕からもお礼を言わないとね。改めて、木炭車の開発を手伝ってくれてありがとう。トナージ君」

エレンの言葉に頷いた僕は、彼の前に出て微笑みながら右手を差し出した。

少し驚きの表情を浮かべながら、トナージは恐る恐る僕の手を力強く握る。

「ありがとうございます……‼ でも、僕だけの力じゃありません。狐人族の皆と、何よりエレンさん達の教えが上手だったからです」

彼は、照れた面持ちで僕に答えながらも謙虚な姿勢を見せる。

うん、とても良い子だ。

「ふふ、君は素直ないい子だね。エレン達の一番弟子というところかな」

「そうですね。恐らく筋は一番良いと思いますから、これからも楽しみな子ですよ」

僕の言葉に答えながらエレンは、トナージにウインクをする。

彼女の仕草を見た彼は、照れた様子で少し顔を赤らめて俯いてしまった。

初々しい感じもする子だ。

しかし、どうしても気になったので僕は彼に尋ねる。

「……ちなみに、それは防塵ゴーグルか何かなのかな?」

「あ、はい。実は、此処に来てから知ったんですけど、僕少し目が見えづらいみたいなんです。それで、エレンさんとアレックスさんがこれを用意して下さいまして……」

頭にあるゴーグルを触りながら、彼はエレンに視線を向ける。

トナージの視線に、彼女は少し照れ笑いを浮かべた。

「まぁ、僕達に掛かればその程度のものはすぐに作れますし、作業にはゴーグルは結構必要になりますからね。眼鏡兼防塵ゴーグルですよ」

「なるほど……ね」

『眼鏡兼防塵ゴーグル』とはまた面白いものを作るなぁ、と思ったがトナージはそのゴーグルをとても大切にしているようだ。

此処にきてから、目の見え方が他人と違うことに気付いたということだから、今まで結構大変な生活を送っていたのかもしれない。

その時、トナージの前にメルが出るとニコリと微笑んだ。

「おはなしちゅうにごめんなさい。リッド・バルディアのいもうと、メルディ・バルディアです。いご、おみしりおきを」

「へ……⁉ あ、はい……よ、よろしくお願いします‼」

突然の挨拶に、トナージは顔を真っ赤にしてしまう。

口上を述べたメルは、僕に振り返ると頬を膨らませた。

「にいさま。おはなしながいよ。はやく、もくたんしゃをみようよ」

「そ、そうだね。じゃあ、エレン、トナージ、お願いしてもいいかな」

僕はメルに頷くと、エレン達に視線を向ける。

「承知しました。じゃあ、僕がこっちを開けるから、トナージは反対側をお願い」

「はい‼」

彼女達は頷くと、すぐに倉庫のドアを二人で開く。

ドアが開くとそこには前世の記憶にある車とよく似た姿をした四輪の木炭車がお目見えする。

僕は、目を輝かせて感嘆しながら近寄り、木炭車の造りを見ていく。

木炭車全体としては、角ばった四角い感じの造りをしている。

見た目は、前世の記憶にある車の車種でいえばオフロード車のジープのような感じだ。

ただ、知っている車よりもでかい感じがする。

高さはそうでもないけど、長さは2tトラックぐらいだろうか?

何よりの特徴は、車の後部に付いているでっかい円柱の筒だ。

触ってみるが、特に熱さはない。僕はドヤ顔をしているエレンに尋ねた。

「思った以上に凄い完成度だね。ちなみに、この円柱状の筒は?」

「それこそ、この木炭車の心臓部となる『木炭ガス発生装置』ですよ。まぁ、詳しい説明は省きますけど、その筒の中で木炭を燃やして、『木炭ガス』を発生させるんです。そして、発生したガスを使って内燃機関を動かすわけですね。いやぁ、開発は四苦八苦しましたよ。爆発も何度かしましたからね」

彼女の説明を聞いたディアナは、思わず心配顔を浮かべて僕に視線を向けた。

「ば、爆発ですか……リッド様、これは本当に安全なものなのでしょうか……?」

「そうだね……恐らく、動かすのに専門知識は必要になるだろうけど、エレン達が開発したんだから問題はないと思うよ。エレン、良ければ早速試乗できるかな?」

僕はディアナに答えながら、エレンに視線を向ける。彼女は不敵にニヤリと笑った。

「そのお言葉をお待ちしておりました。では、早速動かしましょう」

その後、エレンとトナージの二人が木炭車を手押しで倉庫から出した。

ちなみに、僕達も手伝ったのは言うまでもない。

そして、いよいよの始動にメルは目を輝かせている。

だけど、ダナエとディアナは『爆発』という言葉が残っているのか、訝しい視線を木炭車に送っているようだ。

エレン達は、木炭車の後ろにある円柱近くで何やら作業をしている。

しかし、中々に木炭車が稼働しない。

少し時間がかかり過ぎではないだろうか? 僕は思わず近寄り声を掛けた。

「エレン、どんな感じ?」

「あ、リッド様、すみません。木炭に火を付ける作業に少し手間取っておりまして……」

良く見てみると、木炭を木炭ガス発生装置の中に入れながら『火起こし』をしているようだ。

その様子に、トナージが補足するように話し始める。

「その……木炭車を稼働させる為には、それなりに木炭を燃やして『ガス』を発生させないといけません。その為、始動にはどうしても少し時間がかかるんです」

「ふむ……なるほど」

僕はその場で思案顔を浮かべて俯く。

確かに前世の記憶を、メモリーを通じて木炭車の情報を引っ張り出した時、そんなことも記載されていたような気がする。

しかし、要は木炭がしっかり燃えれば、それだけ始動を早くすることはできるのだろう。

その時、僕にある閃きが生まれて顔を上げた。

「つまり、木炭が勢いよく燃えればいいんだよね?」

「ま、まぁ、言ってみればそんなものではあります」

エレンが頷いたのを確認すると、僕は彼女が木炭を集めていた場所に右手を差し出して「少し離れて」と声を掛けた。

エレン達は怪訝な面持ちを浮かべながら、僕の後ろに回る。

安全を確認してから僕はおもむろに呟いた。

「……火槍」

その瞬間、エレンが作業しようとしていた木炭に僕の魔法が降りかかり勢いよく……いや、勢い良過ぎるぐらいに赤く燃え上がった。

僕が魔法を止めると、黒かった木炭は一瞬で赤火となっている。

燃えている状態の木炭を確認した僕は、エレン達に振り返りニコリと微笑んだ。

「これでどうかな。少しは早く動かせる?」

二人は目を丸くして唖然となった後、トナージがハッとして突然大声で叫んだ。

「あぁあああああああ⁉ ど、どうして気付かなかったんでしょう‼ そうですよ。魔法で木炭を燃やしてすぐに燃焼させればいいんです‼ その構造に改造すれば、始動にかかる時間を大幅に削減できるはずです」

「た、確かに……火の属性魔法が使える人が多いバルディア領と相性も良いですし、狐人族の皆はリッド様の教育でほぼ火の魔法を扱えるようになっているから……あぁ、僕としたことがこんなことを見落としていたなんて……」

何やら二人は、目から鱗が落ちたような感じで喜んでいるような、衝撃を受けたようなとても複雑な面持ちを見せている。

どうやら二人には、木炭を燃焼させる方法に魔法を使うという選択肢が抜け落ちていたようだ。

僕は、二人の様子に苦笑しながら優しく声を掛ける。

「まぁ、今気づいたんならまた改善すればいいだけさ。それよりも、木炭車の稼働はできそうかな?」

「あ、はい。ちょっと待ってくださいね。あと、ガスの濃度もあるので……」

エレンは僕に答えながら、木炭ガス発生装置を触り始める。

そして、何やら火の色を確認してから頷いた。

「うん、ガスの濃度も問題なさそうです。じゃあ、始動させますね。トナージ、内燃機関と後ろ見てて」

「はい、承知しました」

確認が終わった様子の彼女は、そのまま運転席に乗り込む。

トナージはゴーグルを下ろして彼女の指示に従い内燃機関、いわゆるエンジンの様子を注視しているようだ。

そして、エレンが運転席で何かを右手で動かす仕草をした瞬間、エンジンが回り出すけたたましい重低音が辺りに鳴り響く。

僕は前世の記憶から、そんなに怖い印象を受けない。

だけど、近くにいたディアナやダナエはびっくりして、ダナエはすかさずメルを守るように抱きしめる。

ディアナは勢いよく僕の前に出ると、鬼気迫る怖い顔で木炭車を睨みつけた。

あまりに必死な様子の彼女に、僕は思わず優しく話しかける。

「ありがとう、ディアナ。でも大丈夫だから、そんなに怖い顔しなくて大丈夫だよ」

「そうは参りません。エレンさんが爆発したこともあると仰った以上、私はリッド様をお守せねばなりません……‼」

「そ、そう……」

確かに、エンジンの仕組みを知らずに爆発したことがあると言われればディアナやダナエの態度が普通なのかもしれない。

僕がそう思っていると、木炭車のエンジン音が落ち着いてくる。

やがて重低音が一定のリズムで落ち着いた。

恐らく、エンジンの動きが安定したのだろう。

間もなくエレンが運転席から顔を出して、僕達に向かって叫んだ。

「リッド様‼ 始動したので動かしますね‼」

「うん、わかった。安全運転でお願いね‼」

「……あんぜんうんてん?」

僕がエレンに返した言葉に、ディアナがきょとんとした顔を浮かべて僕に振り向いた。

その時、エンジン音に変化が表れて、ディアナがまた木炭車に鬼気迫る面持ちでパッと視線を戻す。

しかし、彼女は動き出す木炭車を見て目を丸くした。

「そ、そんな……馬もなく、人の手も借りずに鉄の箱が動き出すなんて……」

「そう、あれが『木炭車』さ。ふふ、エレン達のおかげで、色んなことが大きくこれから動き始めるよ」

この場にいるディアナとダナエは、信じられないと言った様子で驚愕している。

そんな中、僕はこれからのことを考え、不敵な笑みを浮かべているのであった。

ちなみに、メルは最初から最後まで目を輝かせていたようである。