軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの無茶ぶり……?

「……にいさま、あかちゃんみにいくんじゃないの?」

「そうだよ。でも、先にここにどうしても寄りたくてね」

「えぇ~……」

メルは呆れ顔で頬を膨らませているが、中々に可愛らしい。

ちなみに、彼女の足元には魔物のクッキーとビスケットが小さい子猫姿で付いてきており、メルを慰めるように足元で頭をスリスリしている。

ちなみに、この場にいるのは僕とメル、加えてメイドのダナエとディアナだ。

僕が立ち寄った場所はエレンとアレックスが研究開発部として動いてくれている工房であり、目的は木炭車の確認とアレックスにお願いしていた『物』を見せてもらうためである。

僕が工房のドアをゆっくり開けると、耳をピンとさせた狐人族の子供達がせわしなく動き回っていた。

咳払いをして僕は彼らに声を掛ける。

「忙しい所にごめんね。申し訳ないけど、エレンとアレックスはいるかな?」

「はい、いらっしゃ……あ⁉ リッド様‼ 畏まりました。すぐにお呼びして参ります」

狐人族の男の子だろうか? 彼はペコリと一礼すると、すぐに工房の奥に入って行く。

その後ろ姿をみて、ディアナが笑みを浮かべる。

「メイド長のマリエッタ様や副メイド長のフラウ様の礼儀作法教育の賜物ですね。以前より、子供達は言葉遣いに加えて、動作も丁寧になっております」

「確かに。マリエッタ達が頑張ってくれているから、獣人族の子供達もここ最近凄く言葉遣いと動作が綺麗になったよね」

ディアナに答えながら、僕は狐人族の子供達の動きを改めて見つめる。

彼らが此処に来た二カ月前は礼儀作法など知らないし、言葉遣いも荒かった。

元々、予想はしていたので、礼儀作法や言葉遣いの授業を入れてはいたのだけど、それをすぐに改善すべきだとマリエッタやフラウ、ディアナ達が厳しい指導をしたのである。

でも、ここまで短期間に改善がされたのは、ディアナが率先して動いたことも大きいと思う。

彼女は子供達の武術訓練などにも積極的に参加しているからか、武術に重きを置いている獣人族の子供達にとってその指導と言葉はより重く感じるらしい。

そんなディアナが、メイド長のマリエッタや副メイド長のフラウに敬意を持って接していることも、彼らにとっては良い手本となっているようだ。

その時、ダナエも心当たりがあったのか会話に参加するように呟いた。

「確かに、初めて来たときよりも皆丸くなりました。それに、マリエッタ様達の指導は厳しいですからね。私もかなり鍛えられましたから……あ、そういえばディアナさんもマリエッタ様に侍女教育を受けたと聞きましけど、やっぱり大変でした?」

「それは、大変でしたよ。私も、マリエッタ様に教わるまで侍女教育を受けたことはありませんでしたから。ただ、騎士団でもある程度の礼儀作法と言葉遣いは求められたので、多少は何とかなりましたね」

ダナエの問い掛けに、ディアナは少し遠い目で答えている。

僕は二人の話を聞いて、成程なぁと頷きながら呟いた。

「へぇ、皆、マリエッタにはお世話になっているんだね」

「……にいさま、わたしもマリエッタにおそわっているのって、ひょっとしてしらない?」

「え、そうなの?」

僕はメルの言葉に少し驚きの表情を見せる。

まさか、メルもマリエッタから礼儀作法を教えてもらっているとは知らなかった。

メイド長のマリエッタって何者なんだろう? と思ったその時、工房の奥から、明るい声とバタバタとした足音が響いてくる。

「リッド様、お待たせしました」

「やぁ、エレン、アレックス。突然にごめんね」

「いえいえ、俺も姉さんも今日ぐらいに来るんじゃないかって、丁度話していましたよ」

奥からやってきた二人は、明るくにこやかな笑みを見せる。

工房がとても明るいのはこの二人によるところも大きいだろう。

僕の無茶ぶりにも彼らは阿鼻叫喚しながらも、最後は楽しみながら笑って引き受けてくれる。

そんな前向きな彼らの元で働いているからこそ、此処で働いている皆は明るいのだと思う。

エレンは僕達を見回すと、自信に満ちた不敵な笑みを見せる。

「ふふ、さて、僕達の傑作である木炭車とアレックスと猿人族のトーマ達が死に物狂いで作った例の時計。どっちから見ますか?」

「そうだね、じゃあ、例の時計からお願いしようかな」

僕は頷きながらアレックスに視線を向ける。すると、彼はニコリと微笑んだ。

「承知しました。姉さん、来賓室にリッド様達の案内をお願い。俺は時計の準備と、トーマ達を呼んでくるよ」

「わかった。では、リッド様、こちらへ……」

その後、僕達はエレンに先導されて来賓室に案内される。

その途中、ディアナが不思議そうに呟いた。

「リッド様が、アレックスさんにお願いしていたのは時計だったのですか?」

「そそ、でもディアナ達が知っている時計とは少し違うと思うよ」

きょとんとするディアナに、僕は不敵な笑みを見せる。

ちなみに、この世界にも時計はちゃんとあるけど、壁掛けで大きいものしか見たことがない。

バルディア領においては父上の計らいで、各町に時計台を設置してあるので、庶民で時計を持っている者はあまりいないだろう。

平民で必要となるのは、貴族と取引をする商売人ぐらいだと思う。

後は、時計台で事足りるからだ。

でも、今後進める事業計画に加え、第二騎士団を効率よく動かす為にも、地味だけど時計の小型化は重要な要素になる。

その時、来賓室のドアがノックされ返事をするとアレックスと猿人族の兄妹、トーマとトーナが、「し、失礼致します……‼」と入室する。

猿人族の二人は、何やら緊張した面持ちで、小さな木箱を僕の前にある机の上に置いた。

そして、笑みを浮かべるアレックスがゆっくりと木箱を開けて、咳払いをする。

「えー……では、こちらがリッド様からむ……ではなくご依頼頂きました手巻き式時計。懐の中にしまえる時計と称して『懐中時計』です」

そこには、前世の記憶にあるものより少し大きいが充分、懐に入れられる手のひらサイズの時計。

まさに『懐中時計』があった。

僕は感嘆しながら、その懐中時計を恐る恐る手に取り、調べるように細部を見ていく。

その懐中時計は銀色で丸く、少しの重みを感じさせていた。

表面には蓋がされているようで、そのままでは時刻を見ることは出来ない。

すると、アレックスが呟いた。

「その出っ張りの部分、『竜頭』の上にあるボタンを押してみて下さい」

「こう……?」

彼が教えてくれた場所を押すと、蓋がカパッと開き文字盤と長針、短針。

そして、文字盤の六時の部分には秒針もありそれはまさしく、前世の記憶にある懐中時計だ。

僕は思わず、歓喜に震えながらアレックスに視線を向ける。

「凄い……凄いよ、アレックス‼ ありがとう、これでまた色んなことが前に進んで行くよ」

「いえ、俺よりも頑張ったのは此処にいる、トーマとトーナを筆頭にした猿人族の子供達ですよ。彼らが嬉々として取り組んでくれて、色んな意見も出してくれたんです」

彼の言葉を聞いた僕は、トーマとトーナの二人に視線を移すと満面の笑みを浮かべた。

「二人共、本当にありがとう」

「い、いえ、俺はこういう作るのが元々好きなんで……」

「は、はい。私もリッド様のお力になれて嬉しい……です」

二人はそれぞれに嬉しそうに、はにかんでいる。

トーマは照れている感じだけど、トーナは照れすぎて少し顔が赤い気がするけど大丈夫だろうか? 僕は、二人にお礼を伝えたあと、アレックスに視線を戻した。

「アレックス、早速だけどこの『懐中時計』はいま何個あるかな?」

「ええっと、リッド様に言われた分と……予備を含めて五個ありますね」

彼の言葉に僕は思案顔を浮かべて少し俯くと、すぐに顔を上げた。

「五個か……じゃあ悪いけど、四個を今日もらっていいかな。あと、使い方を書き記した紙も四枚欲しいけど大丈夫?」

「承知しました。すぐに準備致します」

「うん。それと……」

「……? それと、なんでしょうか?」

もったいぶるような話し方をする僕に、怪訝な面持ちを浮かべるアレックスと、トーマとトーナ。そんな彼らに僕はニコリと微笑んだ。

「早速、これの量産をお願い、最低でも今月中に五十個は欲しいな。それから、貴族向けに超高級志向のアイデアも出してほしい」

彼らは、きょとんとした後、すぐに目を丸くした。

「え……えぇえええええ⁉」

「こ、今月中に最低五十個ですか⁉ そ、それはいくら何でも……」

アレックスとトーマは悲痛な声を出し、トーナは唖然としている。

そんな彼らに僕は優しく語り掛けた。

「ふふ、大丈夫。僕は君達ならきっと出来るって信じているからね。それに、出来ない理由があれば教えてくれればすぐに改善するから大丈夫だよ」

僕の言葉を聞いたアレックスとトーマとトーナは呆れ顔を浮かべたのち、俯くと諦め顔で「せ、精一杯頑張ります……」と呟くのであった。