軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

当日

「……リッド、私は獣人族の子供達をお前が導くためにする『鉢巻戦』と聞いていたのだが?」

「はい、仰る通りです」

「なら、なんだ、このお祭り騒ぎは⁉」

父上の怒号が会場の騒めきに消えていく中、僕は頭の後ろに手を添えて苦笑しながら答えた。

「いやぁー……本当になんでこんなことになったんでしょう。僕も驚愕しております」

僕達はいま鉢巻戦会場の観覧席にいる。

しかし、僕達のしたにある観客席は騎士団の皆や屋敷のメイド。

その他、彼らの家族と思しき人達でごった返していたのだ。

さらに、クリスの差し金か、小さな売店まで準備されており父上の言うように『お祭り』になっていたのである。

恐らく、ダイナスとマリエッタがわざわざ観戦を確認しに来たのはこういう意図もあったのかもしれない。

まぁ、楽しんでくれるのは良い事だと思う。

僕は眉間に皺を寄せながら俯いている父上に、おずおずと話しかける。

「父上、僕もこのお祭り騒ぎは意図しておりませんでした。ですが、結果的にバルディア家の皆が楽しんでくれると思えば、たまにはこういうのも良いのではないでしょうか?」

「はぁ……お前の魔法や武術は見世物ではないだろう。貴族の子息が、御前でもないのに実力披露など前代未聞だ」

ため息を吐く父上は、俯いたまま呆れ顔をしている。

僕は、父上を励ますように少しおどけながら声を掛けた。

「いやぁ、さすがにこういうことをするのが『型破り』なんて言われる原因なんですね。以後、気を付けます」

父上は僕の言葉にピクリと反応する。

それから顔をゆっくり上げると、鋭利な目でギロリと僕を睨んだ。

「……これは常識破りではなく、貴族の『常識が無い』に等しいのだぞ。まさか、『型破り』などと呼ばれて調子に乗っているのではあるまいな?」

「い、いえ、そのようなつもりでは……あはは……」

僕は凄まじい迫力の父上に戦き、その場で後退りをしながら苦笑していた。

すると、後ろから可愛らしい声が響く。

振り向くと、メルが僕達に向かって走ってきている。

その後ろを、ダナエと護衛に付いて行ったディアナ、クッキーとビスケットも追って来ていた。

「にいさま、ちちうえ、これいっしょにたべよ‼」

「メルディ様、そんなに走っては転んでしまいます‼」

ディアナとダナエに注意を受けてメルは頬を膨らませた。

「えぇ~、だってこれをいっしょにたべたかったんだもん。はい、にいさま、ちちうえ」

メルはそう言うと、手に持っていた食べ物を父上に差し出す。

父上は少し怪訝な顔を浮かべた。

「メルディ……これは?」

「やきとりっていうらしいの。わたしもたべたけど、とてもおいしかったよ」

「焼き鳥……」

父上は串に刺されて焼かれた鶏肉料理を見ると、ハッとして僕に視線を向ける。

僕は、もう苦笑しながら頷くしかない。

そう、焼き鳥は、養鶏場で育てた『鶏』とバルディア領で量産している『木炭』を使い、クリス達と売り出した料理だ。

この世界には冷蔵庫なんてものはないので、遠方に売ることはまだできない。

でも、鶏を市民食として普及させる為に領内で販売を始めたのだ。

ちなみに、鶏はレナルーテのニキークを経由してクリス達から仕入れた。

まだまだ、品種改良も含めてすることは多いが、出だしとしては好調だと思う。

しかし、クリスが招待状を欲したのは出店の為だろうか? だとしたら、やはり彼女は商魂たくましい。

なお、焼き鳥に関しては父上に報告した際、串にそのままかぶりつくのは貴族では難しいと言われた。

料理で服が汚れたら洒落にならないというのが一番の理由だ。

確かに鳥の油が貴族の服に付いたら大変なことになる。

下手をすれば、とんでもない金額の慰謝料が発生するかもしれないので、貴族に出すにはまだ難しい。

その為、家族では僕以外は食べたことがなかったのだ。

でもまさか、ここでメルが食べるとは思わなかったけど。

ふと、ダナエ達に視線を向けると、彼女達は咳払いをする。

「メルディ様が『どうしても食べたい』と仰いましたので、服が汚れないようにかなり気を遣いました」

「……お止めしていたのですが力及ばず……出来れば、今回限りにして頂きたいです」

二人は喜ぶメルを遠い眼で見ている。

どうやら、かなり大変だったようだ。

確かに、メイドの二人からすればメルが着ている服が汚れるようなことはあってはならないだろう。

ちなみに、メルに迫られている父上は、この場で焼き鳥にかぶりつくのを躊躇う様子を見せていた。

しかし、目を輝かせているメルは「あーん」と言いながら、串の先端に刺さっている焼き鳥を差し出している。

やがて父上は、メルの笑みに観念して衣類を汚さないように注意しながら焼き鳥を口にした。

「……旨いな」

「でしょ‼ おいしいでしょ‼ ははうえにもあとでもっていこうとおもうの‼」

父上の反応に、メルは嬉しそうな表情を浮かべながら喜ぶと同時に言葉を続ける。

だが、その言葉を聞いた父上は珍しくサーっと青ざめた。

「な、ナナリーに? いや……メルディ、それはまだ止めておこう」

「えぇ⁉」

メルは、反対されるとは思わなかったのだろう、驚きの表情を浮かべている。

だが、父上は珍しく決まりの悪い顔で、優しくメルに説明する。

「メルディがこんな食べ方をしたとナナリーが知ったら……あ、いや、ナナリーはまだ闘病中だからな。体調が良くなってから一緒に食べることにしよう」

「うぅー……わかった。そうする」

父上の言葉にメルは、しょぼんと俯いてしまう。

すると、父上が僕に向かって手招きをするので近寄るとそっと耳打ちをされた。

「おい、これはお前が開発した料理だろう。確かに、旨いがこの食べ方は……やはり、貴族向けではない。何とか、ナナリーやメルディも普通の食事で食べられるように工夫しろ」

「ふふ、畏まりました。料理長のアーリィやクリスと相談しておきます」

父上と小声で話していた時、メルがきょとんとした様子で声を掛けて来た。

「ちちうえ、にいさま、なにはなしているの?」

「うん? いや何でもないよ。それよりメル、その最後の一口を僕にも食べさせてくれるかい?」

メルは僕の答えに、パァっと明るい笑みを浮かべて「うん、はいどうぞ」と言いながら、焼き鳥を差し出してくれる。

僕はそれをパクっと一口で食べた。

「美味しいね。メル、ありがとう」

「えへへ、どういたしまして」

はにかむ様子のメルのおかげで、周りに朗らかな雰囲気が流れていく。その時、カペラの声が響いた。

「リッド様、エレン、アレックス様。それにクリス様とエマ様をお連れ致しました」

「ありがとう、カペラ」

声の響いた場所に振り向くと、そこにはカペラと招待状を送っていた面々が集まっている。

代表するように、その中からクリスが一歩前に出た。

「この度は、このような場にお呼び頂き大変光栄でございます」

彼女は言い終えると同時に、深々と丁寧に一礼する。

クリスを追うように、エレン達もその場で一礼するので、僕は慌てて顔を上げてもらうよう伝えた。

「いやいや、それよりも皆、来てくれてありがとう。ちょっと……というか大分、当初に予定していた雰囲気とは違うけど、楽しんで行ってね」

「そうなんですか? でも、僕こういう『お祭り』は好きですよ。確か、『鉢巻戦』っていうリッド様発案のお祭りなんですよね?」

僕が発案のお祭り、という言葉に僕は呆気に取られて思わず苦笑する。

そんな風に周りに広まっているなんて思いもしなかった。

「あはは……お祭りっていうわけじゃないんだけどね。あ、それよりも、エレンとアレックスを呼んだのには理由があってね。伝えたいことに加えて、お願いがあるんだ」

「僕達に……? あ……まさか、また無理難題ですか⁉」

「えぇ、さすがに俺と姉さんだけだとこれ以上はきついですよ⁉」

二人は何やら必死の形相で慌てふためいている。

僕は、呆れ顔で首を横に振った。

「違う違う……そういう話じゃないよ。まず一つ目は、今日の試合で君達が人材として欲しいと言っていた、狐人族と猿人族の他にも色んな子が出るんだ。だから、求めている人材を見極めてほしい」

「あ……そういうことですね。わかりました。その点もしっかり見るようにしますね」

エレンとアレックスはお互いに顔を見合せると安堵の表情を浮かべてから僕に答えた。

「うん、お願いね。それからね……」

僕はその後、エレン達に今後の為に観察してほしい部分を伝えていく。

エレンとアレックスは、好きな分野のようで途中から目を輝かせていた。

「わかりました‼ その点は僕達の得意分野でもあるので任せて下さい」

「ありがとう。じゃあ、よろしくね」

エレン達へのお願いが終わると、僕はクリス達に視線を移した。

「クリス達はこの『お祭り』騒ぎになると知っていたの?」

「いえいえ、知りませんでしたよ。ですが、騎士やメイドの皆さんも観戦する上に、リッド様が『会場』を作ったと聞けば絶対に何かあるだろう、と思って準備はしていました。リッド様のおかげで、出店は好調ですよ」

クリスは、ほくほく顔でニンマリと笑みを浮かべている。

しかし、騎士やメイド達の観戦を正式に許可を出したのは昨日だ。

その情報をいち早く確認してから恐らく動いたのだろう。

「……本当に商魂たくましいね」

「ふふ、お褒め頂きありがとうございます」

彼女は答えながらおどけた様子で僕に会釈する。

ふと、観覧席を見渡すと結構な人数で和気あいあいとなっているが、誰かいない気がしたその時、後ろから声を掛けられた。

「私のことをお探しですか?」

「……うん。君が居なかったね、サンドラ」

そう、サンドラにも招待状を送っていたのだ。

好奇心旺盛な彼女がこんな機会を逃すはずがない。

彼女は僕の表情を見るとニコリと微笑んだ。

「招待状ありがとうございました。ですが、本日はビジーカさんと共に、何かあった場合に備えて医療班として待機致します。その為、こちらで皆様とご一緒出来ないことをお伝えに参りました」

「あ、そっか。ビジーカの手伝いがあるんだね。わかった、皆にも伝えておくよ」

「いえいえ……それは、カペラさんにお伝えしておりますので大丈夫です」

そっか、すでに伝えているのか。

しかし、医療班は試合会場により近い場所で居れるので、サンドラ的には此処より楽しいかもしれない。

でも、ビジーカも来てくれているのか。

後で、お礼を言っておこう。

そう思った時、サンドラが僕にスッと耳打ちをしてきた。

「リッド様、以前魔法には『属性魔法』と『特殊魔法』があるとお伝えしましたよね?」

「うん。後はその中で、『変質魔法』と『操質魔法』に分けられるんだよね」

サンドラは僕の答えに満足そうにするが、何やら不敵な笑みを浮かべた。

「実は、魔法にはまだ種類があると言われています。その一つが『種族魔法』と呼ばれています」

「……種族魔法?」

聞いたことのない魔法に僕の目が興味の色に染まった。

その変化に気付いたサンドラは楽しそうに説明を続ける。

「はい。その名の通り『種族』でしか扱えない魔法のことを指します。今回の『鉢巻戦』には沢山の種族と部族がおりますので、中にはそのような魔法を使う子もいるかもしれません。油断なきようしてください」

「わかった。忠告ありがとう」

「いえいえ、とんでもございません。でも……そのような子がいたら是非、け……ではなく、色々とお話を聞かせて頂きたいですね」

いま、研究って言おうとしたな? でも、僕も『種族魔法』というものがあれば是非、色々と話を聞いてみたいものだ。

本当にその『種族』でしか使えないのか? これは大いに検証をすべきことだろう。

もしかすると、母上の病を治す為のまた違う糸口に繋がるかもしれない。

「わかった。そんな子がいたら、魔法の研究と発展に協力してもらうように話はするよ」

「……さすがはリッド様、理解が早くて素晴らしいです。では、リッド様の御迎えも来たようなので、私はこれで失礼致します」

サンドラが一礼してその場を後にすると、入れ替わるようにダイナスを先頭にした騎士達が僕の前にやって来た。

そして、ダイナスがニヤリと笑みを浮かべる。

「リッド様、準備が整いました。武舞台の中央にご案内いたします」

「うん、わかった。じゃあ行こうか」

観覧席にいる皆に向けて『行ってきます』と一言残して、ダイナス達と共に武舞台に歩を進める。

そんな僕の背中に向けてメルが『にいさま、がんばって‼」と大きな声援を送ってくれた。

僕は、彼女の声に対してすぐに振り返る。

そして、笑みを浮かべながら大きく手を振って、メルの声援に答えるのであった。