軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『強化血統』

「リッド様、ビジーカ様をお連れ致しました」

執務室のドアがノックされ、カペラの声が部屋に響く。

僕はすぐに彼に向かって少し大きめの声を出して答えた。

「ありがとう、カペラ。二人共、どうぞ入って」

「失礼します」

彼の答えと同時に、ドアが開かれカペラとビジーカが入室してくる。

僕が微笑むと、二人は会釈をしながら近寄って来た。

すると、ビジーカが、アリア達がしおらしくお菓子のクッキーを食べている様子に気付き、少し目を丸くした。

「これは、驚きましたな。彼女達がこうも大人しく出来るとは……」

「はは……お菓子とディアナの力だね」

彼女達は僕とビジーカの会話を聞いて、少し怨めしそうな視線を向けるがディアナが一瞥するとハッとして姿勢を正し、丁寧にクッキーを食べ続けている。

微笑ましい彼女達の様子に僕は苦笑しながら、アリアに視線を移す。

「さて、アリア。お菓子に夢中なところ悪いけど、人も揃ったからさっきの話を聞かせてくれるかな?」

「……うん、わかった」

アリアは手にしていたクッキーを食べ終えると、頷き少しずつ思い出すように僕達に説明を始めた。

正直、彼女の説明はわかりにくい部分や要領を得ない点も多く、途中でエリアやシリアが補足することもあった。

だが、それでも彼女達から出た情報をまとめると全体が見えて来る。

彼女達は、鳥人族の部族長の血筋ではあるが『分家』というような立場にあるらしい。

姓は『パドグリー』というらしいが、アリア達は名乗ることを許されていないようだ。

アリア達の母はそれぞれに違うが、父親は同じの異母姉妹である為、周りからはひとくくりに『リア姉妹』と呼ばれていたらしい。

そして、様々な厳しい訓練を行い、身体的に問題がないか? 才能や属性素質などを徹底的に調べ管理されていたようだ。

彼女達を管理していく中、やがて同時期に生まれた姉妹の中から一番強い子供を選別。

その過程で選ばれたのがアリアの双子の妹で『イリア』ということらしい。

だが、選ばれなかった子達は『失敗作』や『期待外れ』と呼ばれるようになり、それ以降の生活は厳しい状況になったという。

アリア達は哀しげな面持ちを浮かべて説明を続けた。

「あと……よくわかんないけど、私達姉妹は大きくなっても『ぼたい』に向かないんだって……だから、『イリア』以外の『失敗作』はいらないって言っていた……」

アリアの言葉を聞いた瞬間、僕は彼女達を管理していたという輩に、嫌悪とそれ以上の憤りを感じた。

でも、僕はそれを表には出さず、優しく彼女に声を掛ける。

「そっか、辛かったね。でも、僕は皆と出会えてとても嬉しいよ。此処に来てくれてありがとう」

「うん……ありがとう、お兄ちゃん」

彼女達は僕の言葉に頷くと、少し顔が明るくなる。

しかし、アリア達の説明で少し気になる点があり、僕は丁寧に問い掛けた。

「アリア、辛いかもしれないけど、その……選別されたっていう君の妹『イリア』はどうなったの? ここにはいなかったみたいだけど」

「妹は……イリアは鳥人族の領地に残っているよ。『失敗作』の姉妹である私達が目障りだって、国外に売るように言ったのも……あの子だから……」

アリアは沈痛な面持ちで俯くが、すぐに目に涙を浮かべながら顔を上げる。

「でも……でも、本当は違う……‼ 私達はいらない子だからこのままだと『処分』されちゃうって、イリアが言ってたの。だけど、イリアが何とかするからって、大丈夫って泣いてた……‼ それから、会えなかったけど……でもこうしてお兄ちゃんとお姉ちゃんに会えたから、きっと……きっと……」

彼女は途中から言葉を紡げず、両手で顔を隠して嗚咽を漏らし始める。

シリアが彼女の言葉を聞いて、驚いた面持ちを浮かべると俯いて小さく呟く。

「それは……知りませんでした……」

「……私も、知らなかった」

シリアに続くようにエリアも、同様に俯き言葉を漏らした。

アリアは、目元に次々浮かぶ涙を手や腕で拭っている。

その必死な様子にいたたまれなくなった僕は、優しくアリアに声を掛けた。

「……アリア、立ってこっちにきてごらん」

「うん……」

彼女がよろよろと近寄って来ると、僕は立ち上がりメルをあやすようにアリアを優しく抱きしめて頭をポンポンと撫でる。

「辛い事を思い出せて、ごめんね。でも、もう大丈夫。僕が君達を守るからね。それに、アリアは凄いよ。妹達を今まで必死に守っていたんだよね」

「お兄ちゃん……うう……うぁあああああ‼」

その後、アリアは僕の胸の中で小さな体を震わしながら、大声を出してしばらく泣いていた。

アリアが落ち着くと、ビジーカが彼女達に故郷での暮らしや食生活。

母親、父親について知っている事を教えてほしい、としばらく質疑応答のようなやりとりが続く。

ビジーカは粗方聞き終えると、僕に視線を移す。

「リッド様、少しあちらによろしいですかな」

「うん、いいよ」

ビジーカは、アリア達に声が聞こえない部屋の隅に移動する。

僕もそこに移動しようとするが、ディアナに声を掛けられた。

「リッド様……大変、僭越ながら私も一緒にお話をお聞きしてもよろしいでしょうか? その……アリア達の『姉』になる以上、知っておきたいのです」

「勿論だよ、ありがとう」

僕とディアナは、ビジーカが移動した部屋の少し奥に向かう。

アリア達はカペラが『お菓子』のお代わりを持ってきたのでディアナが先程した忠告をまもり、しおらしく食べている。

僕達が、集まるとビジーカは難しい面持ちを浮かべる。

「リッド様、彼女達は当初の予想通り間違いなく『強化血統』の血筋ですな。彼女達が大きくなっても『母体』に適さないというのはこれ以上、血を濃くはできないという意味でしょう。帝国の歴史においても皇族の血が濃くなり過ぎた皇子が、病に弱く早々に亡くなったという記録がありますので、それと同じでしょうな」

「そっか……ちなみに、虚弱体質は……その彼女達の寿命とかにも影響はあるのかな……?」

『強化血統』や『虚弱体質』なんていうのは、いくら前世の記憶があっても僕にはどうにもできない。

出来る事と言えば、彼女達を支援しながら見守ることぐらいだろう。

ビジーカは、難しい面持ちのまま説明を続けた。

「それは、正直わかりません。しかし、診察した時、あまり他の子と極端に変わったようなところはありませんでした。恐らく『母体』にできないというのも『強化血統』の中でという話でしょう。経過は見ていく必要はありますが、今すぐ生き死に関わるような事はないと思われます」

「わかった。なら、彼女達には他の子と同様、普通に接して問題が起きれば対応する。という、感じで良いのかな?」

僕の答えにビジーカは頷いた。

「はい、今はそれで良いと思います。ですが、いずれ『強化血統』については彼女達の為に、もう少し詳しく調べたいことではありますな」

「そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとう、ビジーカ」

答えを聞いたビジーカは、その場で丁寧に一礼する。

そして、お菓子を食べる彼女達に近寄ると優しく声をかけた。

「色々聞いて、すまんかったな。私は失礼するが、体調が悪くなったらすぐに医務室に来るか、誰かにいうんだぞ」

「はーい」

「わかりました」

「……わかった」

アリア達はビジーカにそれぞれ返事をするが、彼よりお菓子に夢中である。

彼はその様子に「ふっ」と鼻で笑うと、僕に視線を向けた。

「では、リッド様。私はこれにて失礼致します。今回の内容はサンドラにも共有しておきますので、ご安心ください」

「うん、わかった。今日はありがとう」

「とんでもございません。では、失礼致します」

ビジーカはその場で僕に会釈をすると、そのまま執務室を後にする。

彼が部屋を出ていくと、ディアナが安堵してホッとしたような面持ちを浮かべた。

「あの子達が、普通の生活が出来ると聞いて安心しました。私も、彼女達が自分自身の身を守れるよう、『姉』としてしっかりと心身を鍛え上げてみせます」

「う、うん……? お手柔らかにお願いね」

僕が思っていた『姉』の方向性と少し違うような気がするけど、彼女が言う事も大切なことだろう……と、思う事にした。

その後、ディアナと一緒に席に戻った僕は、ソファーに腰を降ろすと彼女達に視線を向ける。

「さて、皆、色々と話を聞かせてくれてありがとう。それでね、アリア。ひとつお願いがあるんだけど……」

「ん……? 何、お兄ちゃん」

問い掛けに対して、アリアはきょとんとして首を傾げている。

「その……『お兄ちゃん』は公の場で、僕を呼ぶときに使わないように注意してほしいんだ」

「……? でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ?」

言葉の意図が伝わらず、アリアはきょとんとしたままだ。

僕はその様子に苦笑しながら、話を続ける。

「あはは……そうなんだけどね。ちょっと説明するね」

その後、アリアに僕の立場と呼び方について詳しく説明して、何とか理解してもらった。

だけど、彼女が頬を膨らませて怒ってしまい、あやすのが大変だったのは言うまでもない。

ちなみに、アリアの怒りを収めるために大量の『お菓子』を用意して彼女達を買収したことは、他の子供達には内緒だ。

なお、ディアナを『お姉ちゃん』と呼び慕うことに関しては特に問題ないと伝えたところ、彼女達は喜んでいた。

そんな彼女達を見て、ディアナが嬉しそうな面持ちを浮かべながらも、気恥ずかしそうにしていたのは微笑ましい光景だった。