軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狼人族の姉弟

僕はサンドラから告げられた病名に驚きを隠せなかった。

まさか、母上と同じ『魔力枯渇症』を患った獣人族の子供がいるとは想像もしていなかったからだ。

「本当に、魔力枯渇症なの」

「はい。狼人族の少年、名前は確か『ラスト』ですね。彼は、ナナリー様と同じく魔力枯渇症である可能性が非常に高いです。魔力枯渇症は珍しくはありますが、種族に関係なく、誰がいつ発症してもおかしくはありません。リッド様……処方はいかが致しましょう」

「どうしましょうって……」

その時、サンドラとビジーカの表情が重々しくなり、僕はハッとする。

治療薬の原料となる『ルーテ草』の在庫が少なくなっているのだ。

今は、母上の治療だけなのでまだ大丈夫だが、狼人族の少年、ラストにも使用すればそれだけ無くなるのも早くなる。

その為、サンドラ達は僕に『処方』について尋ねたのだろう。

僕は、処方についてその場で少し俯いて考え込む。

勿論、救う、救わないで言えば『救う』だ。

しかし、母上の治療の事を考えると、言葉を発するのに思わず二の足を踏んでしまう。

でも、その時ふと……母上の顔が脳裏に浮かんだ。

この事を母上が知ったらどう思うだろうか。

きっと、母上は……。

僕は意を決すると、重々しい表情をしているサンドラとビジーカに向けて、ニコリと微笑んだ。

「そんなの、決まっているよ。母上と同じ薬を処方してあげて」

「……⁉ リッド様、本当によろしいのですか」

声を発したのはビジーカだ。

彼は信じられないと言った様子で、驚嘆の表情を浮かべている。

僕は、そんな彼の言葉に頷くと話を続けた。

「うん。母上も、きっと同じ事を言うと思うんだ。それに、狼人族の姉弟にも約束したしね。あ、でも、折角だから病名を伝えて治験にも協力してもらおうよ」

僕が処方について明言すると、ビジーカは何やら感嘆した面持ちを浮かべていた。

しかし、横で見ているサンドラは、実に楽しそうなしたり顔でニコニコと笑っている。

それから間もなく、ビジーカがハッとしてから呟いた。

「なんと……珍しくサンドラの言う通り、リッド様は本当に型破りで豪気なお方ですな」

「……珍しくは余計です。でも、バルディア領に来て良かったでしょ。ビジーカさん」

「うむ……」

二人は何やら楽しそうに会話をしており、おかげで本題が先に進みそうにない。

なので、僕はわざとらしく咳払いをしてから、二人に少しだけ冷やかな視線を向けた。

「さて……狼人族の子の治療方針も決まったことだし、そろそろ彼らの所に案内してもらってもいいかな」

「は、はい。承知致しました」

ビジーカとサンドラの二人は、僕の冷やかな視線に少し怯えた表情を浮かべる。

そして、すぐに狼人族の姉弟が居るところに案内してくれた。

ちなみに、宿舎の医務室は結構広く作っており、奥には個室も何部屋か用意されている。

狼人族の男の子は『魔力枯渇症』ということで、個室にサンドラが運び込んで診断をしていたそうだ。

彼女達の説明を聞きながら足を進めると、間もなく彼らの居る部屋の前に着いた。

僕はノックして、「お休み中にごめんね。失礼するよ」と、声を掛けるとすぐにドアを開ける。

「……⁉ リッド様‼」

そこには、馬車の時に顔を合わせた狼人族の少女が、ベッドに寝ている弟に寄り添っていた。

彼女は僕に気付くとすぐに駆け寄ってきて、頭をペコリと下げる。

しかし、顔を上げると彼女の目には涙が浮かんでいた。

「リッド様……私達のような者にここまでの対応をして頂き、本当にありがとうございます。この御恩は、弟のラストの分を含めて、私ことシェリルが一生を以てお返しさせて頂きます‼」

シェリルは自身の胸の中央を、服の上から片手で掴みながら、僕の目を見つめて明言する。

そして、ハッとすると涙を服の袖で拭った。

突然すぎる彼女の言動に、僕は苦笑しながら優しく答える。

「あはは……ありがとう。気持ちはありがたく受け取っておくよ。でも、君達にはこれから辛いかもしれないけど、大切な話をしないといけないんだ。ラスト君にも聞こえるようにベッドの側で話をしても大丈夫かな」

「は、はい。大丈夫です」

彼女は僕の答えに少し、戸惑ったような表情を浮かべている。

その時僕は、シェリルの姿にふと視線が移った。

彼女は、馬車で初めて会った時よりも白い髪や狼耳、尻尾がフワッとしている。

恐らく湯浴みで汚れが落ちた結果だろう。

その姿はとても可憐で凛としており、今更だけどかなりの美少女だ。

すると、僕の視線に気づいたようで、彼女は困惑した表情を見せる。

「あ、あの、どうかされましたか」

「あ、ごめんね。シェリルがあんまり可愛くて綺麗だからさ。つい見惚れちゃってね」

「え……⁉」

何やら彼女は急に顔を赤らめてしまう。

僕はその様子に、一瞬きょとんとするがすぐに顔を引き締める。

そして、本題を二人に伝える為に、ラストの顔が見えて会話しやすい位置に移動するのであった。