軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最後の移送団・一台目

僕は、移送団の一台目の馬車が目の前に到着すると、皆に聞こえるように声を上げた。

「各自、この馬車と、この後に来る最後の馬車の荷台から獣人族の子達を降ろしたら、宿舎に戻るよ。その後は、宿舎の作業を手伝うからね」

皆は、その場で僕の言葉に頷いて、それぞれに返事をしてくれている。

その中、到着した一台目の馬車の荷台から獣人の女性が降りて来た。

すると、彼女を見たクリスが嬉しそうに駆け寄っていく。

「エマ、お帰りなさい。特に問題はなかった?」

「はい、クリス様。ルーベンス様含めて、騎士団の皆様がいてくれたおかげです」

エマは猫人族の獣人で、クリスにとっては家族のような従者でもある。

僕はそんな二人の様子を見ながら、近寄ると微笑んだ。

「エマ、今回の事はありがとう。君とクリスのおかげで本当に助かったよ」

「リッド様、勿体無いお言葉、ありがとうございます」

彼女は僕に視線を移すと、畏まり綺麗な所作でペコリと一礼する。

そして、顔を上げるとエマはニコリと嬉しそうに微笑んだ。

その時、荷台の中から荒らげた声が響いた。

「エマ姉さん、到着したなら早く降ろしてくれよ‼ もうずっと、馬車に乗っているから体がバッキバキだって‼」

「そうだぜ‼ 早く降ろしてくれよ‼」

「ふわぁ……なんだ、もう着いたのか……」

「馬鹿、お前は寝すぎなんだよ」

そして、他にもダルそうな声も混ざって聞こえてくる。

……確かに、他の一団より『元気』が良さそうだ。

しかし、その声を聞いた途端、エマはイラッとした表情を浮かべると、僕にニコリと微笑んだ。

「リッド様……少し、はしたない姿をお見せすることをお許し下さい」

「え? う、うん。別に何も気にしないけど……」

彼女は僕の返事を聞くと、荷台の中を鋭い目つきで睨んだ。

「黙りなさい‼ これから降ろしてあげるけど、砦の時みたいに暴れたら承知しないわよ‼」

エマは普段とは全く違う様子で荒々しい言葉を吐き捨てる。

僕はその姿に思わず呆気に取られるが、クリスがそっと耳打ちをしてきた。

「この馬車と最後の馬車は、各獣人族のスラム街で生き抜いてきた子達なんです。だから気が少し荒いみたいで、他の子達も怯えてしまうから、まとめて移送することにしたんですよ」

「なるほど……確かに気が強そうな子達が多そうだね」

さてはて、どんな子達が降りて来るのかな? 興味津々で僕が荷台を見つめていると、最初に猫耳の少女が降りて来た。

しかし、彼女の表情というか目元は長い前髪に覆われていて窺い知る事はできない。

不思議な髪形に恥ずかしがり屋なのかな? と思った時、荷台から降ろされた少女は、エマに振り向きニヤリと笑う。

「エマ姉さん、さっきみたいに怒ってばかりだと……すぐに老けるぜ」

「……⁉ 誰が言わせていると思っているの‼」

目元の見えない少女の言葉にエマが怒りを露わに声を荒げた。

とりあえず、少女は恥ずかしがり屋ではなかったようだ。

怒り心頭のエマに、クリスが苦笑いしながら声をかける。

「エマ、そんな子達の言う事を真に受けちゃダメよ。ますます調子に乗るわよ」

「あ、クリス様……すみません、その通りですね」

エマは彼女の言葉で、冷静な雰囲気を取り戻す。

だが、猫人族の少女はクリスに振り向くと、周りに聞こえるようにわざとらしく毒を吐いた。

「……なんだ、エルフのクソババアもいたのかよ」

その瞬間、どこからともなく『ブチッ』と何かが切れる音が聞こえた。

そして、クリスの髪の毛が逆立って宙に舞う。

その光景を僕は過去に見た事がある。

そう、クリスが切れたのだ。

「誰がエルフのクソババアですって‼ あんた、もう一度言ったら魔法で吹っ飛ばすわよ‼」

「ふん‼ エルフが見た目でわかるもんか‼ 20だ30だと自称しても、100歳以上もざらだぜ? なら、クソババアで良いじゃないか」

猫耳少女の言葉があたりに響くと、荷台に居る子達の笑い声があたりに響く。

クリスはカッとなった様子で吐き捨てた。

「この……⁉ 私はまだ20よ‼ ババアでも何でもないわ‼」

「はぁ? 俺の年齢からしたら、20も十分にババアだぜ? やっぱり、エルフのババアで良いじゃないか」

そうか、クリスは20だったのか……。

思いがけずに彼女の年齢を知ることになった僕だが、さすがにこのままにはしておけない。

僕は怒り狂ったクリスに近寄ると、二人の仲裁するように声をかけた。

「二人共、そのぐらいして。クリスもその子の言う事を真に受けちゃダメだよ。さっき、エマにクリスが言っていたでしょ?」

「……⁉ リッド様……そ、そうですね。すみません、ついカッとなってしまいました……」

僕の言葉を聞いたクリスはハッとしてから、シュンとなる。

同時に彼女の宙に舞っていた髪の毛も落ち着きを取り戻していく。

そして、僕は口の悪い猫人族の少女に振り向いた。

「初めまして、僕はリッド・バルディア。君も言い過ぎだね。まるで、わざと相手を怒らそうとしているみたいだけど、どうしてかな?」

問いかけに対して少女は僕の顔をジッと見つめたあと、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

「……ふん、お前のように、女みたいな顔をしているやつには何も言われたくないね」

少女が言い終えた瞬間、僕の隣にいたディアナが暗器と思われる小型のナイフを目にも止まらぬ速さで取り出して、少女の顔に突きつけた。

「こちらのお方はバルディア領当主のご子息であり、あなた達を迎え入れた方でもあります。言葉を慎みなさい……さもないと、処分しますよ」

ディアナから発せられる殺気は本気であり、あたりが緊張感に包まれる。

しかし、彼女の殺気と目の前に突きつけられたナイフに怯えもせず、少女はニヤリと笑う。

「ふん……何が『迎え入れた方』だ。こちとら、好きでこんなところにきたわけじゃない。いずれ、野垂れ死にするのが、奴隷で死ぬことに変わっただけさ。処分したいならやりなよ……メイドのおばちゃん」

ディアナは少女の言葉に眉を顰め、鬼のような形相を浮かべながら僕に視線を移す。

その目は明らかに「やっていいですよね?」と言っているようだ。

僕は呆れながら首を軽く横に振り、彼女を制止する。

そして、少女に近寄るとニコリと笑った。

「……ひょっとして、自暴自棄になっているのかな? その気持ちはわからなくはないけど、僕は君達が必要だからここに来てもらったんだ。君程の胆力があるなら、ここでもきっとやっていけると思うよ」

「な……⁉ だ、誰が自暴自棄だ‼ それに、何が必要だ……そんなのお前の都合だろうが‼ ふざけんな‼」

自暴自棄というのは図星だったのか、彼女は声を荒らげながら戸惑った面持ちを浮かべている。

だけど、僕は少女のことで気になることがあったので、さらに一歩近付いた。

「……‼ な、なんだよ……⁉」

近付いた僕の意図が分らない様子の少女は、さらに困惑した表情をみせる。

僕はおもむろに右手を差し出すと、そのまま少女の前髪を持ち上げて、露わになった目を見据えた。

思った通り彼女の目は左右で色が違う。

だけど、一番驚いたのは瞳の中も二色の色が混ざりあっていて、とても綺麗な色合いをしていることだった。

実は、クリスやディアナと口論している時に、少女の目がチラッと見えたのだ。

その時、少女の目がオッドアイであると気付いたが、まさか瞳の中まで色が混ざっているなんて思わなかった。

だけど、少女の瞳はとても綺麗で魅力的だと思う。

「……⁉ や、やめろ‼」

「やっぱり……君は素敵な目をしているんだね。だけど、前髪で隠すのは勿体ないよ?」

彼女は何やら顔を赤らめながら僕から離れるように、慌てた様子で後退する。

うん? ディアナの殺気には動じなかったのに、そんなに目を見られたのが恥ずかしかったかな?

僕がきょとんとした顔を浮かべると、彼女は片目だけ見せながら僕を睨む。

「こ、この貴族のボン……うっ⁉」

「いい加減にしなさい‼」

何かを言おうとした少女だったが、後ろからエマに手刀を叩き込まれ、その場に倒れ込んでしまう。

エマは倒れた少女を見下ろすとため息を吐く。

そして、荷台から様子を窺っていた子達に向かって吐き捨てた。

「お前達、ミアみたいに気絶させられて運ばれるか、黙って付いて来るか。今すぐに、選びなさい‼」

荷台にいた子達は一連のやりとりと、エマの手刀を見て宿舎に黙って付いてくることを選んだようだ。

その後、この馬車の荷台から降りてくる子達は、少し不満げにしながらも言う事を聞いてくれる。

しかし、兎耳が特徴の兎人族の少女が一人、僕をなにやらジッと見つめている事に気付いた。

すると、彼女も僕が気付いたことがわかったようでニヤリと笑い、僕にゆっくり近寄ると話しかけて来た。

「あたしは、兎人族のオヴェリア……です。一つ聞いていい……でしょうか?」

「いいよ。僕に答えられることならね」

鳥人族のアリアの事もあり、ディアナやカペラが兎人族の少女に対して警戒した様子を見せる。

だが、兎人族の少女はカペラやディアナの威圧におくびもせずに声を発した。

「リッド・バルディア……様。あんたは……武芸にも精通はしてんの……ですか?」

「へ……?」

オヴェリアの思いがけない言葉に僕はまたきょとんとした顔を浮かべた。

しかし、彼女の目は真剣そのものだ。

うーん、意図がよくわからないけど、どう答えたものかな。

僕は少し思案してからおもむろに答えた。

「うーん、多少は秀でているとは思うけど……それが、どうかしたのかな?」

「……‼ そうか……楽し……いや、どうもしない……です」

オヴェリアは僕の返事に一瞬だけ嬉しそうな表情を見せると、慣れてない様子でペコリと頭を下げる。

そして、オヴェリアは宿舎に向かって騎士と一緒に歩いて行った。

だが、彼女が一瞬だけ見せた嬉しそうな表情に、僕はどことなく見覚えがありハッとする。

「あれは……アスナと同類の顔だ……」

……獣人族には色々な子がいておもしろいな。

僕が感慨に耽っていると、カペラが何かに気付いたようで声を掛けて来た。

「リッド様、最後の馬車が来たようです」

「あ、本当だね。じゃあ、気を引き締めていこうか」

僕はこちらに向かってくる最後の馬車を見据え、乗っている獣人族の子を楽しみにするのだった。