軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの事業計画

「……うーん、こんな感じで大丈夫かな?」

僕は、自分で作った事業計画書を見直しながら応接室でクリスが来るのを待っている。

ちなみに、この世界にパソコンや印刷機はないので事業計画書は手書きだ。

作成中にメルから「にーちゃまが、かいてるえ、ちょっとへんだね」と言われて少し落ち込んだりもした。

サンドラとの魔法開発、実験。

エレンとアレックスにお願いしていた属性素質鑑定機、それからメモリーにお願いしていた記憶と知識。

これらを使って、アーリィから指摘された燃料問題の解決に向けての下準備が出来た。

後はクリスとの連携、父上を説得する事業計画をまとめないといけない。

この点はクリスが一番得意なので「新しい事業計画で相談をしたい」と連絡をすると、その日のうちにクリスから「明日にでも伺います」と返事が返ってきた。

そして今に至るわけで、僕が書類とにらめっこしていると応接室の外からディアナの声が聞こえてきた。

「クリス様がいらっしゃいました。ご案内してもよろしいでしょうか?」

「うん、お願い」

僕の返事と合わせて、応接室のドアが開かれ、髪をなびかせたクリスが部屋に入室する。

僕とクリスは簡単な挨拶をその場で行うと、机を挟んで対面になるようにソファーに座った。

ディアナには申し訳ないけど、商談になるので部屋の外で待機しておいて欲しいと伝えた。

僕の言葉を聞いた彼女はニコリと微笑むと言った。

「畏まりました。ですが、クリス様にあまり無茶を言わぬようご注意下さいね」

「……言わないよ。僕を何だとおもっているのさ?」

「いえいえ、最近のリッド様の行いはどれも型破りなことが多い物ですから……それでは、失礼致します」

ディアナは僕に釘を刺すように優しく話した後、応接室から退室した。

一連の流れを見ていたクリスが怪訝な表情を浮かべて僕を見ている。

「……リッド様、今度は何をしたのですか?」

「え⁉ 何もしていないよ? それよりも、今日見て欲しいのはこれなのだけど……」

僕はクリスに自作の事業計画書を手渡して、考えている計画の全容、問題点などを口頭で説明。

その上で、父上を説得しないといけないから内容に問題がないか、確認してほしいと伝えた。

僕の説明を聞きながら、書類に目を通すクリスは真剣そのものなのだが、彼女の目を見ると期待と畏れが混じったような複雑な感情が見て取れる。

その様子に僕は少し心配になり、「あれ、事業計画書に何か問題があったかな?」と心の中で呟いていた。

僕の説明が終わると、クリスは僕が作った事業計画書を再度、最初から読み直した。

その後、クリスは書類をゆっくりと机の上に置くと額に手を添えながら俯いて、深いため息を吐いた。

「はぁあー……まず、この事業計画書はとても良く出来ています。『実現』出来れば、ですけど……リッド様、疑うわけではありませんが、こんなこと本当に出来るのですか? 初期投資にかかる費用が凄いので、回収できないと大変なことになりますよ?」

「うん、そうだね。その点は大丈夫だと思う。初期投資にかかる費用は、化粧水やリンスで得た僕の利益から出そうと思っているよ。予算が足りない時は……クリスに共同出資者になってもらおうかな」

僕は言いながらニコリと微笑んだ。

クリスはその様子に、少し呆れた様子で再度ため息を吐いた。

「はぁ……まぁ、リッド様がなされることですから間違いはないと思いますから、その時は私からも出資させてもらいますよ」

「ありがとう、クリス」

彼女は本当に頼りになると思いながら僕は、笑みを浮かべてお礼を言った。

クリスは僕の言葉に少し照れ笑いしてから書類に再度目を落とすと、気になる点を見つけたようで書類の一文を指さしながら僕に指摘をした。

「あと、これをライナー様に提出するならこの点をもう少し詳しく書くと良いと思います」

「え? どこどこ?」

こうして、僕はクリスに事業計画書の確認と手直しをしてもらうのであった。

確認と手直しがひと段落して、僕とクリスはディアナが淹れてくれた紅茶を飲みながら一息入れていた。

その中、クリスがふと思い出したように口を開いた。

「……そういえば、事業計画書の中にあった内容はリッド様の事ですから、事前にお試しになったのですよね?」

「うん。さすがに、仮定の話だけでは父上を説得できないからね。屋敷裏とかエレン達の所で試したよ」

クリスは僕の言葉を聞いて、呆れたような表情を浮かべた。

「ディアナさんが、最初に仰った『型破り』なことが想像つきます……」

「アハハ……」

僕はクリスの言葉に乾いた笑いを返していた。

確かに、ディアナには色々と心労をかけているような気がしないでもない。

温泉を今度から好きなだけ入れるようにしてあげるから、それで許してもらおう。

僕はそんな事を考えながら、クリスに新たな話題を振った。

「クリス、事業計画書の件はありがとう。これで、父上に話してみるよ」

「いえいえ、お役に立てて良かったです」

「それと、新しく調達して欲しい物があるのだけどいいかな?」

「はい、なんでしょうか?」

僕は別紙にまとめていた、今後必要になる物のリストをクリスに説明しながら渡した。

クリスは僕の話を聞き終えると、リストを見ながら難しい顔をした。

「うーん。一つは簡単、というかすぐに手に入ると思います。ですが、この『幹を傷つけると、白い液体が出て来る木』とは何に使う物なのですか? 名称も聞き馴染みがありませんし……」

「それは、まだ秘密かな。でも、クリスにとっても絶対良いことに繋がるはずだから種か苗木、何でもいいからお願いね」

「はぁ……わかりました。あちこち、伝手をあたってみます」

クリスは言い終えると再度、リストに目を落として怪訝な顔をすると僕に恐る恐るといった様子で話を続けた。

「……あと、これは良いのですか? 以前は問題になるから見送るとおっしゃいましたけど……?」

「そうだね。でも、あの時と違って問題になる可能性は低いと思う。手紙でも事前に先方に連絡して根回しはしておくから大丈夫。後は出来るだけ、小さい子達がいいかも。覚えてもらうことも多いだろうからね」

彼女は僕の言葉を聞くと安堵したようで、ホッとした表情を浮かべた。

「わかりました。以前、依頼を頂いた件もまだ用意出来ていないので合わせて確認しておきますね」

「うん、よろしく」

打ち合わせが大体終わった時、クリスがふと思い出したように言った。

「あ、そういえばリッド様、お伺いしたいことがあるのですが……」

「うん? 何かな?」

クリスは僕の返事を聞くと、怪訝な顔をしておもむろに言った。

「……屋敷に来た時、ガルンさんから『リッド様に交渉術を教えて頂きありがとうございます』と言われたのですが、何の事でしょうか? 私、リッド様に交渉術なんてお教えしましたっけ……?」

「……⁉ ゴホゴホッ‼」

僕は思わずむせ込んでしまった。

まさか、先日のガルンとしたやりとりがクリスに巡っていくとは思わなかったからだ。

いきなり咳込んだ僕に、クリスが心配した様子で声をかけてくれた。

「リッド様⁉ 大丈夫ですか⁉」

「ごめん、大丈夫だよ……ありがとう、クリス。でも、そうだね……僕はクリスに謝らないといけないね……」

「へ……?」

僕の言葉に呆気に取られた彼女に先日あったことを説明した。

僕の話を聞いたクリスは眉間に皺を寄せて、それは険しい顔をしていた。

聞き終えると、肩をがっくりと落としておもむろに呟いた。

「……なんてことをしてくれるのですか? 私を言い訳に使わないで下さいよ……」

「アハハ……ごめんね?」

僕はクリスの言葉に乾いた笑いをしたあと、謝罪した。

その様子を見ていたクリスは何か思いついたようで、ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべた。

どうしたのだろう?

「……良いでしょう。折角ですからサフロン商会に伝わる『商学』を今後、リッド様にお伝え致しましょう。そうすれば、嘘にはなりません。それに、今後も打ち合わせすることは多くなりますから、定期的にリッド様に会いにくる口実にもなります」

「そ、それは良いけど、サフロン商会に伝わる『商学』なんて、簡単に外部に伝えて大丈夫なの?」

なんかよくわからないけど、商会に伝わる「商学」と聞くと何だか凄そうだ。

クリスは僕の返事を聞くと、嬉しそうにニヤリと笑うと言った。

「はい。そんなに難しい物ではありません。どちらかといえば記憶力を向上させる為の勉強です。商売においては書面では残せない情報も多いですから、記憶力を鍛えておくことが基本という考えです。もちろんそれだけではありませんけどね。まぁ、リッド様には記憶力向上が役に立ちそうです……覚悟してくださいね?」

「う、うん? お手柔らかにお願いします?」

クリスは「商学」の説明中ずっと不敵な笑みを浮かべていた。

僕はこの時、安易に返事をしたことを後日、悔やむことになる。

後日、記憶力を向上させる訓練というのをクリスに教えてもらったのだが、これが中々に大変なものだった。

数字の羅列をクリスから口頭で伝えられて、瞬時に覚えて復唱しないといけない。

僕が四苦八苦する様子を見たクリスは微笑みながら僕に声を掛けた。

「リッド様は、『自重しなさい』と皆さんに言われてもすぐにお忘れになるようですから、今後は忘れないように、この機会に反省して頂きます‼」

「……以後、気を付けます」

ちなみにこの訓練を続けた結果、僕の記憶力は向上して地味に色々と助かるようになるのだが、それはまだ先のお話……