作品タイトル不明
第10話 初心者向け異界:辛口 専用施設1 その1
「これはまた、すごいわねえ~……」
そろそろ昼食という時間帯。
食事の用意の前に、正樹と佑梨が午前中頑張った結果を確認していた命が、ずいぶんな結果に遠い目をする。
「やっててびっくりしたよ……」
「こんなに偏るものなんですね……」
命の感想に、ため息交じりに感想を漏らす正樹と佑梨。
二人が半日で得たアイテムでは、体力増強の加護やアイテム交換の権限などを得ることはできたものの、肝心の専用装備はびっくりするほどアイテムが集まらなかったのだ。
「見た感じ、採取場第一層の正式な仕様権限と正樹君の専用施設のほうが先に揃いそうよね~」
「佑梨さんのほうも、先に専用施設が解放できそうなんだよね」
「この専用施設って、専用武器と違って解放しただけだと何の役にも立たない予感があるんですが、どうなんでしょうか?」
「ものによるわね~。ただ、解放直後から何かの機能があったとしても、あのスライムを倒す役には立たないでしょうね~」
佑梨の妙に確信がこもっている言葉に、命が実に夢も希望もない言葉で同意する。
この時点で、専用施設にはあってないような機能しか存在しないことが確定する。
「専用装備は解放直後の無強化でもね~、能力値ゼロでも最低限の武器もしくは防具としての機能があるんだけどね~。専用施設は大概において、最初は何も入ってないがらんどうの建物があるだけなのよね~」
「それって、労力と資源を持っていかれるだけで、何のありがたみもないのでは……?」
「まあ、大抵において、最初の機能は専用施設そのものの開放にかかるコストより安く強化、もしくは開放・追加ができるようになってるんだけどね~」
「だとしても、一番最初は単に苦労させられるだけのような……」
「最初の一歩って、大抵そういうものよ~。それにね~、最初から何らかの機能がある専用施設って、基本的に伸びしろが少ないのよね~」
いろいろ疑っている正樹に対し、苦笑しながらそう告げるしかない命。
正直な話、この際序盤のなにもかも足りていないときに、リソースを食うだけで何の効果もない要素に素材を持っていかれることに不満を持つのは、命としても非常によく分かる。
が、手に入るものがランダムなのがデフォの異界関係において、たとえ解放しただけでは全く意味がない専用施設といえど、一日で解放できるだけの素材が集まるのは、とてつもなく運がいい。
なので、正樹の言い分はとてつもなく贅沢ではある。
なお、余談ながら、命はほとんどの専用施設は解放しただけでは何の機能もないと言っているが、実はそれは誤りだ。
もっとも、ゲーム的な説明をするなら、基礎値が六桁以上になってようやく1ポイント程度のボーナスが付くかどうかの微小な強化機能なので、命が気が付かずにないと断言してしまってもしょうがないところではあろう。
「それはそれとして、よく見たらデイリーミッションが完了できそうだから、そっちも終わらせておくわね~」
「はい、お願いします」
「本来なら一泊二食の宿泊権だけど、これもランダム素材に変更ね~」
「そういや、デイリーにもあったっけ」
「一回も一泊二食のほうの権限を使わずに無制限になったのは、私としても初のケースね~」
そう言いながら、懐からメモリーを二つ取り出す命。
取り出されたメモリーを見て、正樹が大げさに反応する。
「えっ? ちょっと待って。これ両方もらったら、専用施設が解放されるんだけど……」
「あっ、だったら、正樹さんが使ってください」
「いいの? 多分だけど、どっちかは佑梨ちゃんも使うと思うんだけど?」
「こういうのは、そろったものをどんどん解放していったほうがいいと相場が決まってますから」
「それでいいんだったら、ありがたく使わせてもらうけど……」
「はい。どんどん使ってください」
遠慮がちに言う正樹に、佑梨がにっこり微笑んでそう言い切る。
何気にお互い下の名前で呼び合うようになっているのを見て、思わずほっこりする命。
どうやら、正樹が死に戻るまでの短い間に、ずいぶん微笑ましいやり取りがあったようだ。
「それで、どんな施設ですか?」
「……えっと、農場公園だって」
「また、規模が大きくなるものを引いたわね~」
「確かに、ものすごく規模が大きくなりそう」
命の感想を受けて解放可能な施設内施設と設備を確認し、これは大変そうだとうなずく正樹。
農場公園は、まさしく名前から連想されるタイプの施設だった。
「農場公園って、四季彩の里とかのどか村とかそんな感じの名前が付けられがちな、摘み取り菜園と牧場と貸し農園が併設されていろんな体験施設がある類のものですか?」
「うん、そういう感じの。今は開業前の敷地だけ整備が終わった、みたいな状態らしくて、入れるけど何もできない状態らしい」
「それはまた、先が長そうですね」
「そうだね。また、腹が立つことに、条件的に一番解放しやすいメインの農場が、素材一個足りなくて解放できないっていう……」
「……ありがちですね。妖怪イチタリナイでしたっけ?」
「まさしくそれ……」
微妙な表情の正樹に、同じく微妙な表情でそんなコメントをする佑梨。
ありがちな話とはいえ、ここでおあずけを食らうとか出来すぎていて、微妙な表情になるのも仕方がないだろう。
「こういうパターンでのイチタリナイは、ものすごく引っ張るのよね~」
「僕も、そんな気がしてる……」
「足りないのは雑草ですか? だったら、昼からの周回で出そうな気がするんですけど……」
「この手のパターンだとね~、一番よく出るはずのものが、一つだけ必要ってなったとたんに全然出なくなるのよね~」
「そうそう。本当に、びっくりするほどピタッと出なくなるんだよなあ……」
「しかも、正樹君には主人公補正セットがあるし~」
「あっ……」
正樹の命の言葉、それも主人公補正セットという単語に、思わず小さく声を上げる佑梨。
今までのことを考えると、ここでおあずけを食らわせた主人公補正セットが、そんなにすんなり最後の一つを出させてくれるはずがないのだ。
ちなみに、素材交換の権限は、雑草を他のものに交換はできても他の物を雑草に交換はできない。
基本的に採取場を利用すれば持ちきれないほど手に入り、通常の異界でも結構な確率で採取もしくはドロップするものなので、逆に交換や購入での入手方法などないのだ。
「っと、そうそう。今日の分の宝箱の中身、命さんに鑑定してもらわないと」
「あっ、忘れてましたね」
「はいはい~、ちょっと見せてね~」
言われて、命が二つのメモリーを鑑定する。
その結果を、固唾を飲んで見守る正樹と佑梨。
「錬金術師と料理人のジョブメモリーね~。佑梨ちゃんがアイテムユーザーだから、錬金術師は当たりね~」
「料理人、ですか!?」
「あら~、佑梨ちゃん。料理人に興味あり~?」
「はい。時代錯誤かもしれませんが、女の子なのにほとんど料理できないのって、ダメなんじゃないかなって」
「ああ、そういう話ね~。別にわざわざ料理人ジョブなんて身につけなくても~、練習すれば家庭料理のスキルぐらいは簡単に習得できるわよ~」
「そうなんですか?」
「そうよ~。ものにもよるけど、スキルに関してはアメイジングソケットに頼らなくても、割と常識的な訓練や努力で習得できるわ~」
やたら料理人に食いつく佑梨に対し、命がそんな情報をくれる。
実際問題、アメイジングソケットに目覚めた途端に料理も練習では覚えられない、なんていうのは不自由すぎる。
第一、初期習得スキルというものがあり、しかも物によっては普通にレベルがあって成長しているのだから、訓練で何も覚えられないとか不自然にもほどがあるだろう。
もっとも、ビデオゲームだと行動でスキル習得ができないのなんて普通の話だし、ゲーム世界への転移や転生でも、リアルでできたのがスキル未習得だから不可能になるというのはよくある話だ。
それを考えると、アメイジングソケットを作り出した何者かは、ずいぶんいろいろと配慮をしてくれている。
「あとね~、料理人のジョブは、キャンパーとすごいシナジーがあるのよ~。だから、セットするなら正樹君のほうね~」
「僕?」
「ええ~。キャンパーは野外でちょっとした料理が作れるけど、料理人を持ってると本格的な、それこそ専門のキッチンが必要になるような料理だってキャンプ飯感覚で作れちゃうのよ~。レベルが上がっていけばそのうち、バーベキューコンロと焚火があれば、氷菓が入ってるフルコースだって作れちゃうわ~」
「「は?」」
大分意味不明なことを言われ、思わず同時に変な声を出してしまう正樹と佑梨。
百歩譲ってフルコースそのものは何とかなるとしても、冷凍庫が必要な氷菓はさすがに、バーベキューコンロと焚火だけでは無理だ。
いくらジョブやスキルがそういうものだとしても、さすがに無法が過ぎる。
「そもそも、料理人なんて現実でも普通にいる職業が、わざわざジョブとして成立しているのよ~。これぐらいのことはできないとね~」
「えっと、スキルでもそのうち、似たようなことができるようになるの?」
「家庭料理では、ちょっと厳しいわね~。料理スキルならどうにかって感じかしら~」
「料理なら、できるようになるんだ……」
「10レベルやそこらでは無理だけどね~。でなきゃ、こっちに来たことがある料理自慢の皆様は、みんなトンデモ描写系料理アニメの料理人になってるわ~」
料理人というジョブや料理スキルに関して、正樹の問いに答える形でそう説明する命。
なお、ジョブである以上、料理人が作る料理には美味しくて健康にいいこと以外にも、色々と異界攻略にダイレクトに影響するタイプの機能はある。
が、ちょっとビデオゲーム的思考をしていればすぐ思い至ることだろうということで、命はわざわざそこまで説明しない。
「で、それを踏まえて、佑梨ちゃんはそこまでの料理能力を必要としてるのかしら~?」
「あればうれしいですけど、そこまでじゃなくてもいいと言われればそうですね」
「でしょ~? まあ、佑梨ちゃんもほかの回復ジョブを覚えたときのために、いずれ料理人を身につけたほうがいいのは否定しないけど~、それは全部のジョブがそうだものね~」
「それはそうでしょうね」
命の指摘に、素直にうなずく佑梨。
ちょっと古めの躾を受けている佑梨としては、心の底からおいしい料理を作れるようにはなりたい。
が、さすがに食った相手が巨大化しながら「うまいぞー!」とか叫んでビームを吐くような料理を作れるようになりたいわけではない。
「……あっ」
「どうしました?」
「他にどうにか解放できるものがないか見てたら、無視できない情報があって……」
そう言いながら、全員に見えるように、農場公園のヘルプを表示する正樹。
その中の、解放可能な各施設の詳細をいくつか同時に拡大する。
「……レストランは、料理人ジョブのレベルによりメニューの数と効果が増えていく、ですか……」
「ふむふむ~。予想はしてたけど、売店とか体験施設系にも影響するみたいね~」
「こうなると、やっぱり今だと料理人は、正樹さん一択ですね……」
「錬金術師も、過半数の施設に影響するみたいね~」
農場だからか、生産系のジョブがすさまじい勢いで施設全体に影響することが発覚し、真剣な顔でそう結論を出す佑梨と命。
が、そこで重要な情報を思い出した命が、非常に残念なお知らせを告げる。
「忘れてたけど、錬金術師は習得条件がちょっと厳しくて、たぶん今の正樹君はセットできないと思うわ~」
「そうなんですか?」
「ええ~。生産クラスをセットしていることは大前提で、魔法クラスをセットするか、アイテムの使用を中心としたジョブもしくは回復関係のジョブをセットしたことがあるのが条件なのよ~」
「なんだか、ピンポイントでわたしを指定しているような条件ですね」
「そうね~。まあ、非戦闘系のジョブで半分近くのジョブスロットを埋めるのはちょっとリスキーだし、どうせ正樹君が条件を満たしたぐらいにまた出るでしょうし、ここは佑梨ちゃんが素直にセットしちゃえばいいと思うわ~」
「そうですね。そうします」
命に言われ、素直に錬金術師のジョブをセットする佑梨。
正樹も、料理人をセットする。
「じゃあ~、お昼だけど、今回は佑梨ちゃんに手伝ってもらうわね~」
「正樹さんじゃなくて?」
「正樹君はすぐにできるようになるから~、品数作る晩御飯の時に佑梨ちゃんと一緒に手伝ってもらうわ~。お昼は三人でやるほどのものは作らないし~」
そう言って、佑梨を促して立ち上がる命。
「……僕だけ何もしないでボーっとしてるのって、何となく気まずい……」
二人にその意図はないだろうが、何となくハブられて放置される形になってしまう正樹であった。