軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 初心者向け異界:辛口 二日目開始

「おはよ~。よく眠れた~?」

「あっ、おはようございます。ちゃんと眠れました」

「おはようございます。異界なのに、気持ちのいい朝でびっくりしました」

二日目の朝。まるで申し合わせたかのように、同時に顔を洗いに部屋を出た正樹と佑梨に、すでに境内の掃き掃除を始めていた命が朝の挨拶をする。

なお、言うまでもないことだが、正樹と佑梨にあてがわれた部屋は、隣同士ではあるが別室だ。

なんとなくそのあたりが緩そうな命だが、さすがに年頃の家族でもなんでもない男女を同室にするほどではないらしい。

「じゃあ、朝ごはん作るから、顔洗って着替えてきてね~」

「あっ、お願いします」

「あの、何かお手伝いできることはありますか?」

「相沢さんの気持ちはありがたいけどね~、しばらくは環境に慣れることを優先してほしいかな~」

「あっ、はい。分かりました」

やんわりと戦力外通告され、素直に引き下がる佑梨。

気を使ったらしく命は指摘しないが、正樹も佑梨も料理経験は調理実習のみ。つまり実質的に料理などできない。

そういう人間にいろいろ手伝ってもらうなら、これから異界へ挑戦する朝ではなく、じっくり腰を据えて作業ができる夜のほうがいい。

それも、できれば環境に慣れていろいろ余裕ができてからのほうが、手伝いにしろ家事の勉強にしろ身が入って効率がいい。

少なくとも命はそう判断している。

「じゃあ、さっさと顔洗って、着替えてこよう」

「そうですね」

正樹に促され、朝の身支度を進めることにする佑梨。

何気に正樹が佑梨のほうを必要以上に見ないようにしていることに気が付いているが、それがマナー的な気遣いによるものか、それとも思春期的な理由かまではちょっと分からない。

ただ、寝起きのまだ洗顔もしていない顔をまじまじと見るような男よりは、断然好感が持てるのは間違いない。

なお、現在二人とも寝間着代わりに貸し出されたTシャツと短パンという服装でかつ、佑梨は寝るときにブラをしていないらしく、胸元のシルエットが結構きわどい感じである。

巨乳とまでは言えず命に比べればささやかなサイズとはいえ、少なくとも正樹の中学時代のクラスメイトよりは、と言うより小学生とは思えないぐらいには大きいこともあり、思春期男子的には本当に目のやり場に困る。

佑梨が寝起きで微妙に頭が回っていないらしく、そのあたりに全く気が付いていないのが、正樹的には始末に困るところだろう。

もっとも、小学六年生という年頃だと、そのあたりの感覚はものすごく個人差が大きいので、佑梨に関しては素でノーブラでTシャツと短パンという姿には羞恥心を覚えていない可能性はあるのだが。

「さてさて。あの子たちは、私好みのキュンキュンする感じになってくれるかしらね~」

そのまま二人して洗面所に消えるのを見送り、命がぽつりとつぶやく。

神代命、年齢未公開。意味深な謎の爆乳巫女という黒幕ポジっぽい女だが、何気に結構恋愛脳だったりするのであった。

「さてさて、昨日は二人とも疲れてたから後回しにしたけど、チュートリアルを一つクリアしたから報酬ね~」

「ああ、そういえば」

「わたしたちは回数無制限の宿泊権限を解放したから、加護か権限を解放するっていうのをクリアしたことになるんですよね?」

「そうそう。だから、ジョブとアビリティのソケットが一個、増えてると思うわよ~」

朝食をとりつつ、昨日のリザルトについて話をする命。

その命の言葉に、真剣な顔でうなずく正樹と佑梨。

なお、朝食の内容はシンプルにご飯とみそ汁に千切りキャベツを添えた目玉焼きである。

質素と言えば質素だが、そもそも食べさせてもらえるだけありがたいというスタンスなので、正樹も佑梨も気にしていない。

「で、異界に入って戻ってくること、のほうだけどね~。条件的には死に戻りじゃなくて一定以上の探索をしてから正面から帰還、もしくはアイテムか権限を使っての帰還じゃないとだめだから~、まだ未達成扱いなのよ~」

「多分そうだと思ってました」

申し訳なさそうな命に対し、そうだろうなあという表情であっさり流す正樹。

それでいいのであれば、出てすぐに戻るか適当に自殺すればいいということになる。

「それにね~。そもそも報酬が無意味なものになっちゃってるから、ある意味ではちょうどよかったのよね~」

「まあ、回数無制限の食事風呂付き宿泊権をもらってたら、一泊二食付きは意味ないですよね」

「そうそう~。なので、今日無事に帰ってきたらね~、ランダムになるけど、専用装備か専用施設に必要なアイテムをダブりなしで二つ、あげるわね~」

「あっ、それは助かります」

「わたしたちだと宝箱頼りになるので、最初の一つすらいつになるか分かりませんからねえ……」

命の申し出に、嬉しそうにそう返事をする正樹と佑梨。

ミッションや報酬関係はもっとシステマチックな融通が利かないものだと考えていたので、そんな風に柔軟に対応してもらえるとは思っていなかったのだ。

「あ、そうそう~。今のところ関係ないけど、注意事項が一つあるわ~」

食事が終わったところで、命が真剣な顔でそう切り出す。

「注意事項ですか?」

「ええ~。特に喜多村君に影響が大きくなりそうな内容なんだけどね~。異界でモンスターを倒したら、レベルアップして能力が上がるのよ~」

「レベルアップがあるんですね」

「あるのよ~。でもね~、そのレベルアップ、一度帰還したら全部チャラになるのよね~」

相槌を打ちながら聞いていた正樹に、ものすごく残酷なことを言う命。

その内容に、意味が分からないという表情を浮かべる正樹。

佑梨も、腑に落ちないという顔をしている。

余談ながら、なぜかステータス画面には、現時点では個人のレベルは存在していない。

他にも、ステータス画面と言いながら、ちゃんとした数値のステータスがなかったりする。

ただし、これに関しては、ステータス画面のアビリティが解放段階1と表記されているので、条件を満たせば新しく表示されるようになる可能性はある。

なお、ヘルプは元から、必要や経験に応じて内容が増えていく仕様なので、レベル等は存在していない。

「確かに、成長関係のタレントを覚えてる喜多村さんに影響が大きいとは思いますが、そもそも帰還したら消えるのであれば、何のためにレベルアップするんですか?」

「そこは私も分からないのよね~。レベルアップに関する規則性もよく分かってないし~」

「……まあ、異界だからそういうこともありそうですね……」

「うん、そうやって割り切ってくれると助かるわ~。ちなみに、アメイジングソケットで手に入れた能力に関してはね~、デスペナ以外で成長分がチャラになったりはしないから、そこは安心してね~」

「……デスペナを受けると、レベルアップをリセットした上に、ソケット関連まで成長をなかったことにされるんですか……」

「デスペナって、そういうものだからね~。まあ、全部のデスペナがそういう内容という訳でもないんだけどね~」

佑梨の質問に、そう答える命。そのまま、他の注意事項も続けて説明する。

「あと、これは今の段階では気が早い内容だけどね~。前にも言ったかもだけど~、アメイジングソケットによって得た能力は、異界以外では大体千分の一ぐらいまで効果が落ちるのよ~。だから、特に再生系と特殊な現象を起こす類の能力はね~、あんまり慣れて依存しすぎないようにしてね~」

「むしろ、異界以外でも効果があるんだ……」

「体質を変えるようなものだからね~。まあ、超再生はレベルが四桁五桁にならない限りは、切れたら治らないはずの一部靱帯とか腹膜とかがこっそり再生する程度で済むけどね~」

正樹のつぶやきを拾い、それはそれでどうなのかといいたくなるようなことを言ってのける命。

そのまま、佑梨のほうを見てにんまりと笑いながら余計なことを言い放つ。

「よかったね~、相沢さん。これで君は、おっぱい垂れたりとかとは無縁よ~」

「えっ? そうなんですか?」

「もっと言うと~、微妙な年代で悩まされる小じわとかとも、無縁になるわよ~」

「それ、ものすごく怖いんですが……」

「大丈夫大丈夫~。どうせ喜多村君とバディになっちゃった時点で~、遠くないうちに二十歳ぐらいから老化しなくなるだろうしね~」

思春期男子が聞いている前で言うようなことかというネタから、さらに聞き捨てならない話に飛躍させる命。

そのあんまりな内容に、おっぱい云々に食いつきかけた佑梨が絶句する。

おっぱいという単語が出てきた瞬間から不自然なまでに視線をそらし、必死になって我関せずを通そうとしていた正樹も、いきなりの内容に思わず命を凝視してしまう。

「あの、それってどういう……?」

自分の名前が出てきたことで、恐る恐る端的に質問する正樹。

正樹の質問に、にんまりという顔で命が答える。

「異界っていうのは~、等価交換的なところがあるのよ~。だから、喜多村君に巻き込まれてひどい目に合うと、必然的に人知を超えた方向で強力なメモリーを手に入れやすくなるのよね~。それに~」

「それに?」

「異界から出ると時間経過はリセットされるとはいえね~、全滅しない限りは老化はするのよ~」

「うわあ、嫌な予感してきた……」

「うん、多分喜多村君の予想通りね~。主人公補正セットは容赦ない仕事で有名だからね~、どこかで老化を止めないと、寿命で死んでリセットみたいなことを繰り返す羽目になるのよ~」

「……寿命で死んだ場合、リセットはそういう形で……?」

「場合によりけりね~。ただ、そうなるまで老化してから今の年までリセットかかった場合ね~、感覚の差が大きすぎて数日はまともに動けなくなるわね~」

「そこは調整されないんですね……」

「そんな親切な仕様だったら、たぶん誰も苦労しないかな~」

うんざりした表情の正樹に、真顔でそう言い切る命。

どうやら、命も過去にいろいろひどい目にあっているようだ。

「というわけでまあ~、どうせ長い付き合いになるでしょうし、二人とも無理に敬語でなくてもいいわよ~。呼び方も神代さんじゃなくていいしね~」

「えっと、そんなに無理してるように見えました?」

「喜多村君のほうは、なれてない感がすごいわね~。相沢さんのほうは、それが普通って感じだけど~」

「正直、あんまり慣れてはなかったのは確かかな……」

「そうですね。わたしは家とか習い事の関係で、これが普通です。これでも大分肩の力を抜いて、砕けた話し方をしているつもりですし」

「うんうん、それでいいわよ~。その代わりといっては何だけど~、私のほうも二人のことを、正樹君、佑梨ちゃんって呼ばせてもらうわね~」

「「はい」」

「じゃあ、今日も元気に頑張ってらっしゃいな~」

「「はい! ごちそうさまでした、行ってきます!」」

「おそまつさまでした~。行ってらっしゃ~い」

何となくいい雰囲気で正樹と佑梨を送り出す命。

そのまま、食器の片づけに移ろうとする。

この時、さすがの命も送り出して五分もしないうちに正樹が死に戻ってくるとは思っておらず……

「がああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

「えっ?」

境内から聞こえてきた正樹の悲鳴に、慌てて飛び出していくことになるのであった。