軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

監査官

「お腹空いたわー。早く『満腹亭』で夕食にしましょう」

「そうだな」

ポイズンスライムを食べたとはいえ、所詮はサラダ。肉体労働である冒険者の胃袋を満たすには足りなかった。

瘴気迷宮の探索を終えて、バロナのギルドで報告を終えた頃にはすっかりと空腹だ。

意見が一致したので俺たちは寄り道をすることなく宿に向かう。

「もしかして、エリシアさんですか?」

「え?」

大通りを歩いていると、後ろからそんな声がかかった。

振り返ると、そこには彼女と同じく木の葉のように耳が長いエルフの男性がいた。

身体は細身ではあるが、しっかりと肉体が鍛え上げられているのがわかる。

腰に細剣を佩いているおり、軽装を纏っていることから彼も冒険者なのだろう。

魔法と弓術を得意としているエルフなのに、弓や杖を装備していないとは珍しい。

「もしかして、エーベルト?」

「そうです! 覚えていただけたとは嬉しいです!」

エリシアがおそるおそる名前を呼ぶと、エーベルトと呼ばれた男性は嬉しそうに顔を綻ばせた。

金色の髪に整った目鼻立ち。

やはり、エルフは男性も容姿に優れているようだ。

「知り合いなのか?」

「ええ。昔に知り合った子なのよ」

どうやらエリシアが『蒼穹の軌跡』の一員として冒険者活動をしていた時に縁のあった冒険者らしい。となると、エリシアの昔のことを知っている知人との再会ということか。

「五年前に蒼穹の軌跡のメンバーが壊滅状態になったと聞いて心配していました。仲間が酷い傷を負っただけでなく、エリシアさんは深淵迷宮の階層主から呪いを受けたと聞きました。もし、俺でよけ

れば、エリシアさんの力に――」

「それについては大丈夫よ。呪いは既に解呪してもらったから」

「――はい? あの攻略難易度SSを誇る深淵迷宮の階層主の呪いですよ? 一体、誰がそのようなことを……」

エリシアがこちらに視線を向けてくる。

知り合いとの再会なので黙って見守っておこうと思ったんだけどな。

「俺だ」

前に進み出て主張すると、エーベルトが信じられないとばかりの表情を浮かべる。

彼女は五年前に深淵迷宮の攻略に失敗し、階層主からレベルダウンの呪いを受けた。

その呪いを俺が【肩代わり】し、【状態異常無効化】の組み合わせによって解呪したのである。

「エリシアさん、この冴えない男は誰です?」

初対面なのに失礼な物言いだな。まあ、エリシアが特別なだけでエルフは気位の高い種族だ。

こんなことをいちいち気にしていたら仕方がない。

「ルードよ。今、一緒にパーティーを組んでいる仲間よ」

「エリシアさんとパーティーを!? おい、お前。聞いたことのない名前だが、ランクはいくつだ?」

エーベルトが鋭い視線を向けてくる。

妙に敵意を向けられているが、俺が何かしたのだろうか?

「Dランクだ」

「Dランク!? そのような低いランクの者がSランク冒険者のエリシアさんと組んでいるというのか!?」

「待って! エーベルト、誤解をしているわ! 確かに私の元のランクはSだけど、呪いのせいでステータスも下がっているから昔とは大きく実力が違うのよ!」

「ステータスが下がったとしてもエリシアさんの知識、経験、力は健在です! たとえ、ランクが同レベルであったとしてもエリシアさんの足元にも及ばない! それぐらいのことは理解して引き下が

るべきです!」

確かにエーベルトの言う通りだ。ステータスが下がってもエリシアの魔法技術は健在であり、また精霊魔法による戦闘技術は他の冒険者の追随を許さない。

ステータスはDランク、Cランクに収まっている彼女であるが、実際の実力はそれよりも上だ。

本来ならばエリシアは俺のような落ちこぼれと組めるはずもない。

「お前、エリシアさんに寄生しているんじゃないだろうな?」

寄生というのは、低位の冒険者が高位の冒険者と行動を共にすることによって恩恵を受けてランクを上げる行為だ。獲物を横取りするようなハイエナと同じく、冒険者の中で蛇蝎の如く嫌われる行い

である。

「そんなことはしてねえよ」

エリシアに助けられていることは事実だが、寄生をしている覚えはない。

「シラを切るつもりか。いいだろう。認めないのであれば、こっちにも考えがある。エリシアさんに相応しいのはお前のような冴えない男ではない」

「ちょっとエーベルト!? きちんと話を聞いて!」

エリシアが話を続けようとするもエーベルトは颯爽と身を翻して去っていく。

「人の話を聞かない奴だな」

いきなり声をかけてきてエリシアと組むのをやめろだとか、寄生をしているに違いないだとか決めつけの激しいエルフだった。もう少しこちらの話を聞いてほしいものだ。

「ごめんなさい。不快な思いをさせて。昔はあんな感じじゃなかったんだけど……」

「エリシアを心配してのことだろう。別に気にしねえよ」

最近はエリシアと行動を共にしているので表立って言われなくなったが、昔はあれよりももっと酷い罵倒を受けていたし、ありもしない疑いをかけられることも多かったからな。

「そんなことより早く飯にしようぜ」

「そうね」

エーベルトのことはひとまず置いて、俺とエリシアは空腹を満たすために満腹亭へと急いだ。

翌朝。エリシアと共にギルドに入ると、冒険者たちから嫌な視線が集まるのを肌で感じた。

いつもは大抵容姿の優れたエリシアに視線が集まるのだが、今日はなぜか俺へと視線が集中している。

「皆の様子が変ね? 何かあったのかしら?」

「とりあえず、良くないことがあったのは確かだろうな」

冒険者から俺へ向けられる視線は無関心だったり、エリシアと行動を共にしていることへの嫉妬が大半であったが、今日の視線には怒り、蔑みといった強い負の感情が込められていた。

そのような視線を向けられる覚えがない。

掲示板へ向かおうとすると、ガラの悪い冒険者たちが俺の進路を防ぐ。

名前は知らないがロンドたちと同じく、俺によく罵倒の言葉を投げかけていた低ランクの冒険者だ。

顔を見ただけで顔をしかめそうになる。正直、あまり関わりたくない。

「よお、瘴気漁り。ここ最近羽振りがよかったのは寄生してたからだってな?」

「は?」

「おかしいと思ったんだぜ。お前みたいな落ちこぼれがDランクなんてよお! 男が女に寄生するなんて恥ずかしくねえのか!?」

「女の弱みに付け込んでランクを上げるとは大した奴だぜ! 俺にもその手管を教えてほしいくらいだぜ!」

下卑た笑い声を上げる冒険者たち。

周囲を見れば、他の冒険者も同じようなことを思っているのか、蔑むような視線が集中していた。

これは俺たちの知らない間に面倒な噂が広まったのかもしれない。

「これってエーベルトとかいう奴の仕業か?」

「疑いたくないけど、タイミングからしてその可能性が高いかも」

昨日、エーベルトに寄生だといちゃもんをつけられた翌朝にこれだ。

あのエルフとの関連性があると考えるのが自然だろう。

「ルードさん、少しよろしいでしょうか?」

どうしたものかと悩んでいると、ギルド職員のイルミが声をかけてくる。

この騒動についての話だろう。

「寄生なんかしてねえぞ」

「それは私も承知しています」

「そ、そうか……」

最初にきっぱりと告げると、イルミはまったく疑う様子もなく言った。

もう少し疑いの言葉をかけられると思っていただけに逆に驚いてしまう。

「他の冒険者からルードさんが寄生を行っているような報告は受けておりませんし、お二人の仕事ぶりを見る限り、そのような様子もないのでバロナ支部としてはそのような行いは無いと認識しており

ます」

「ってことは、他の人が嫌疑をかけてきているわけね?」

「ええ。実は昨日から監査官がやってきておりまして」

エリシアの疑問にイルミが声を小さくしながら教えてくれる。

「監査官っていうのは?」

「冒険者本部から派遣されるギルド職員よ。冒険者ギルドの支部を見て回って正常に稼働しているか調査する役割を担っているわ」

要は冒険者の支部を見て回る偉い人ってことか。こんな辺境までご苦労なことだと思ったが、そんな辺境まで見て回るのが監査官とやらの仕事なのだろう。

「でも、昨日やってきた監査官とやらが、いきなり俺たちにいちゃもんをつけるなんて――」

「冒険者ギルド本部より派遣された監査官のエーベルトだ!」

監査官について尋ねようとすると、すぐ傍から聞き覚えのある声が響く。

視線を向けると、昨日大通りで絡んできたエルフのエーベルトがいるではないか。

銀色の胸当てや肩当てを装備し、緑を基調したサーコートを纏っている。腰には細剣が佩かれており、胸元にはギルドの紋章が刻まれていた。

ああ、なるほど。寄生だといちゃもんをつけてきたコイツが監査官なのだとすれば、異様な噂の広まりの速さも納得だった。

エーベルトが監査官だと理解し、エリシアは頭痛をこらえるように眉間に手を当てている。

「Dランク冒険者ルード。お前には寄生行為による不正ランクアップを行っているとの嫌疑がかけられている」

「それは誰からだよ?」

エリシアはそんな申告をしていないし、バロナ支部としてもそのような疑いを持ってはいない。だとしたら、誰がそのような報告をするというのか。

「詳しくは言えないが善意の冒険者によるものだと言っておこう」

涼しい顔をするエーベルトの後ろでは、先ほど俺に絡んできた冒険者たちが嘲笑を浮かべている。

教えられなくても誰がどんな報告をしたか理解した。

きっと、彼らは悪意のある報告をエーベルトにしたに違いない。

正義感が強く、やけにエリシアに執着を見せるエーベルトは、彼らの報告をそのまま鵜呑みにしたのだろう。

「エリシア氏は五年前に負傷し、一線を退いたとはいえ、元Sランクの冒険者だ。そんな実力のある冒険者を瘴気漁りなどと呼ばれる底辺の冒険者と組ませては、貴重な人材の損失だとは思わないか

ね?」

確かにエリシアほどの実力者は俺のような低ランクの者と組むべきではないのかもしれない。俺よりも強く、ランクの高い奴と組めば、深淵迷宮に挑戦するのももっと早くなる可能性もある。エーベ

ルトの言う事も一理あるのかもしれない。

「ちょっと! 昨日から好きに言わせておけば、私の仲間に好き勝手言ってくれちゃって! ルードにパーティーを組んでほしいと頼んだのは私の方なのよ!? 私たちのことをよく知らない外野が口

を挟まないで!」

エーベルトの意見にエリシアが毅然とした態度で答える。

それに対してエーベルトはフッと柔らかい笑みを浮かべる。

「エリシアさん、あなたは昔から優しい人だ。だから、このようなどうしようもない男にも手を差し伸べてしまうのです。俺にはわかります」

「全然違うんだけど!?」

昔のエリシアは聖人か何かだったのだろうか?

信頼した者以外には割と容赦がなく、お酒が大好きで毎夜のように酔っぱらって帰ってくる彼女とは別人だ。

エーベルトの知っているエリシアと、俺の知っているエリシアは大分違う気がする。

「ルードと組んでいるのは同情とか哀れみじゃない。私と組むのに相応しい実力があると判断したから組んでいるの」

「つまり、その男がエリシアさんと組むに値する実力があると?」

「当然よ。五年前ほどの実力はないとはいえ、元はSランクなのよ? 並大抵の冒険者じゃ私と組むには値しないわ」

エリシアが俺に絡んできた冒険者たちの方へ視線を向けながら言う。

それは暗にあいつらには実力がないと言い切っているようなもので。

言葉の意味を理解した冒険者たちは眉間にしわを寄せて、歯を食いしばっていた。

「では、その男にエリシアさんと組むに値する実力があるのか決闘にて見定めさせてもらうことにしましょう!」

「ええ、いいわ! ルードの実力に疑念があるならそれで確認してみなさいよ!」

売り言葉に買い言葉という奴か。

なぜか俺の意見は聞かれないままに、俺はエーベルトと決闘することになった。