軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ポイズンスライムのサラダ

毒ゴブリンを倒し終わると、俺とエリシアはポイズンスライムを探して階層を探索する。

その間にも毒蛙人、スラッグ、人面茸といった魔物を倒していく。

「瘴気竜よりも下の階層だから警戒していたけど、あんまり魔物は強くねえな」

「あの隠し階層にいた瘴気竜が強すぎたのよ。私とルードじゃなければ、出会って即死よ? あれはイレギュラー中のイレギュラーなんだから比べちゃダメよ」

「それもそうか」

先日戦ったばかりの魔物が瘴気竜だったために、つい比較してしまった。

二十六階層の平均レベルの二倍以上のレベルの竜なのだ。比較するのがおかしいだろう。

「でも、前回何とかなったのは本当に運がよかったんだから」

エリシアの言う通りだ。今回は相手が瘴気に特化した竜だったために俺のユニークスキルでゴリ押しすることができた。これが純粋な属性竜などであれば、俺たちはひとたまりもなかっただろう。

「次からは迷宮内で怪しいものがあっても迂闊に触っちゃダメよ?」

「ああ、わかった」

このような小言を言われるのは五回を越えているが、それだけ迂闊なことをしてしまったので仕方がないだろう。

エリシアのありがたいご高説を拝聴しながら迷宮を探索していると、不意に前方にある毒沼が蠢いた。

明らかに挙動のおかしい毒沼を前に足を止めると、蠢いていた毒沼は形状を球体へと変化させた。

「あれってポイズンスライムじゃない?」

ポイズンスライム

LV31

体力:98

筋力:92

頑強:102

魔力:28

精神:34

俊敏:120

スキル:【毒無効】【毒液】【胃酸】【打撃耐性(小)】【瘴気耐性(中)】

念のために鑑定してみると、ポイズンスライムだった。

「そうみてえだな」

「早速、捕まえちゃいましょう!」

今回の依頼主は毒について研究しているらしく、ポイズンスライムの捕獲を依頼してきている。

よっていつものように倒して素材を剥ぎ取って納品とはいかない。殺さずに無力化する必要がある。

魔物を捕獲するのは討伐することに比べて遥かに難易度が高い。なぜならば、魔物にできるだけ傷をつけずに無力化するには魔物を上回る実力が必要だからだ。

スライムとはいえ、猛毒を吐き出す魔物を無力化するのは骨が折れるのであるが、ユニークスキルで毒を無効化できる俺にとっては脅威ではない。

ポイズンスライムへと近づいて、そのまま手で掴みかかる。

ポイズンスライムが拘束から逃れようと毒液を吐いてくるが、俺にとって毒は意味を為さない。

「ルード、こっちの瓶に入れて!」

「はいよ」

エリシアがマジックバッグからスライム捕獲用の瓶を取り出してくれる。

俺は抱き上げたポイズンスライムをそのまま瓶に入れてやった。

「ふう、捕獲完了だな」

中から出てこないようにしっかりと蓋を締めると、これで一匹目の捕獲が完了だ。

同じように二匹目、三匹目と捕まえて、瓶へと押し込んでいく。

「いいわね! この調子よ!」

毒沼の中を駆け回ってポイズンスライムを捕まえるのは、すべて俺だった。

エリシアは瓶を用意して、周囲に魔物がいないか索敵するだけだ。随分といいご身分である。

「エリシアも手伝ってくれていいんだぜ?」

「私にはルードみたいなユニークスキルはないから無理よ」

毒を無効化できる俺がサクッと捕まえるのが、もっとも効率がいいのはわかっている。

わかっているのだがどうも労働形態に納得できなかった。

「これで依頼は完了ね」

毒沼を駆け回ることしばらく。俺たちは六匹のポイズンスライムを捕獲することができた。

依頼に必要な数は五匹。これで依頼は完了だ。

「……なあ、余った一匹だが俺が喰ってもいいか?」

「ええ? 思いっきり毒があるけど――って、ルードなら毒があっても問題ないんだったわよね」

「ああ、平気だな」

俺が毒状態になることはないし、過去に毒を持った食材も食べている。

「スライムって美味しいの?」

「わからん。だけど、ぷるぷるしてて美味そうじゃねえか?」

「う、うーん……そんな気がしなくもないけど、どうなのかしら?」

エリシアが怪訝な顔をして瓶に入ったポイズンスライムを見つめる。

人によっては粘りけのある体がどうしても受け付けないかもしれないが、俺は特に忌避感はなかった。

「まあ、ポイズンスライムを楽に捕獲できたのはルードのお陰だし、食べてもいいわよ」

「ありがとな。それじゃあ、調理してみるぜ」

蓋を開けると、ポイズンスライムが瓶の中から這い出てくる。

とはいっても、その動きは弱っているので非常に鈍く、数分目を離したとしても大した距離も移動できないので逃げることは不可能だろう。

「まずは綺麗に洗わないとな」

泥や毒液に塗れているポイズンスライムを水で洗う。

汚れを落としてみると、ポイズンスライムの澄んだ紫色の体表が露わになった。

「綺麗になったけど、まだぬめりがあるな」

触れてみると、スライム独特のぬめりがある。

ゲルネイプにも共通することだが、こういうぬめりは臭みの原因になる。

毒沼にいたことから臭みはしっかりと取り除いた方がいいな。

水洗いしたポイズンスライムを桶の中に入れると、そこに大量の塩を入れて揉み込むことにした。

エリシアが神妙な顔で作業を見つめる中、俺は追加で塩をかけて丹念に揉み込む。

すると、桶の中の塩がどろどろになってきた。

塩によってぬめり成分が分離されているのだろう。

塩揉みが終わると、もう一度水で洗ってから水気を拭う。

「おお、大分ぬめりがなくなった!」

ポイズンスライムに触れてみると、表面がつるつるになっていた。とても肌触りが良く、永遠に触っていられる心地よさだ。

「とりあえず、焼いてみるか」

下処理が終わったところで魔道コンロを設置して、その上にフライパンを載せる。

油を入れると、そこにスライスしたポイズンスライムを入れた。

すると、フライパンにある油が勢いよく跳ねた。

「どわっ!」

「きゃっ!」

俺とエリシアは慌てて避難。

離れたところから見つめると、フライパンの中では尋常ではないほどに油が跳ねていた。

「めちゃくちゃ油が跳ねるな」

「スライムの体のほとんどは水分で構成されているからじゃない?」

「ああ、そういうことか!」

水と油は仲が悪い。昔から言われていることだ。

高熱の油が入ったフライパンに水を入れればどうなるか。

それに当てはめれば、この現象はとても納得のいくことだった。

俺は【熱耐性】スキルを駆使して、高熱の油をシャットアウトし、トングでポイズンスライムを持ち上げてみる。

「ほとんど蒸発してやがる」

熱の通ったスライムの身はかなり縮んでしまい、残っている身らしきものは黒く焦げていた。

「あっ、見て! ルード! フライパンにちょっと穴ができてる!」

エリシアに言われてフライパンを見ると、中心部に不自然な凹みができていた。

「多分、胃酸で溶けたんだろうな」

ポイズンスライムの所持するスキルには【胃酸】というものがあった。

ぬめりはとれたものの体内に含まれる酸を除去することができていなかったのだろう。

「酸があったら食べるのは難しいんじゃない?」

「一応、【強胃袋】っていう内臓を強化してくれるスキルがあるから食えるとは思う」

が、胃袋の負担になることは確かだろうな。

できれば、ポイズンスライムの酸を中和させたいが、そんな方法が思いつかない。

「こんな時にレシピ本があれば――って、あったな!」

俺はマジックバッグから一冊の本を開く。

「レシピって魔物の調理本なんてあるの?」

「ああ、街の本屋で見つけたんだ」

これは魔物を調理して味わうことに生涯を捧げた貴族の手記。

そこにはオーク、ゴブリン、スライムといった魔物の調理法が書かれていた。

ページをめくってみると、スライムの調理法が書かれているものがあった。

彼が調理したのはただのスライム。しかし、彼には俺のように様々な耐性スキルがなかったために慎重にスライムの酸を除去する方法を試したようだ。

「海藻を燃やした灰から取った、灰汁に浸す?」

「ああ、山菜や木の実を灰汁に浸してアク抜きをするのと同じってことね」

この手記によると、灰汁に含まれる成分がスライムの酸を中和してくれるそうだ。

それによってイータ伯爵は酸を取り除き、スライムを湯煎してサラダで食べたようだ。

加熱しても食べられないことはないが、油がかなり跳ねる上に身が酷く縮んで美味しくないらしい。俺がさっきやった失敗を彼も経験済みのようだ。

「海藻を持っているし、これを燃やして灰を作ってみるか」

マジックバッグから薪を取り出すと、魔法を使って火をつける。

階層全体が湿気ているので多めの薪と高火力の魔法によってゴリ押しの着火だ。

サラダ用に仕入れた海草を取り出すと、焚火の中に放り込んでしまう。

彼女が手記を読み込んでいる間に俺は海草を燃やして出来上がった灰を採取して、水を入れた鍋に入れる。

それらを混ぜて灰汁が出来上がると、ポイズンスライムをそこに浸した。

あとは酸が中和されるまで待てばいい。

「そろそろいいか」

小一時間ほど経過すると、俺は灰汁からポイズンスライムを回収。

灰を水で流して水で拭き取ると、包丁で食べやすい大きさにスライス。

ニンジンとキュウリを細切りにし、レタスをむしり、トマトを食べやすい大きさにカット。

そして、湯煎したポイズンスライムをスライスして盛り付ける。

最後にオリーブオイルに塩、レモンを加えたドレッシングをかければ……。

「ポイズンスライムのサラダの完成だ!」

色とりどりの野菜の中に薄紫色をしたポイズンスライムが盛り付けられているのが妙に目を引く。

「普通に綺麗なサラダね。黙って出されたら何も疑わずに食べちゃうかも」

高級レストランにはサラダのワンポイントとして珍味などを加えることもある。

そういったサラダの一種とも思える見た目だ。

「とりあえず、食ってみるか!」

フォークでポイズンスライムを刺して口へと運ぶ。

「おお! 歯応えがいいな!」

スライスされたポイズンスライムを食べていると、コリコリクニクニとしており、とにかく歯応えがよかった。

「美味しい?」

「んんー、ポイズンスライム自体にそこまで味はねえな」

味自体はほんのりと甘みが感じられるくらいのものだ。

「他の食べ物と一緒に食べると、食感の一つとして面白いってことかしら?」

「そうだな」

他の野菜のシャキシャキ感と、その中にあるスライムのコリコリ感が対比となっており、食べていてとても楽しい。

食感を楽しむ料理だったので、オリーブオイルとレモンをベースにしたさっぱりとした仕上がりのドレッシングにしてよかった。

「ふう、美味かった」

サラダだけではあるが、食感がとても良かったので満足度はとても高かった。

じめじめしていて食欲の湧きにくい瘴気迷宮でも、すんなりと胃袋に納めてしまえるほどの美味しさだ。

「ねえねえ、さっきの手記だけど他のページも読んでいい?」

「いいぜ」

エリシアが興味を抱いているみたいなので手記を渡す。

彼女はパラパラとページをめくると感嘆の息を漏らした。

「すごいわね。ルード以外にも魔物を食べる人っていたのね」

「そうみてえだな」

「ねえ、今度時間を作って著者に会いに行きましょうよ! 魔物の調理法について色々と教えてくれるかもしれないわ!」

その台詞を口にするのは、彼女がイータ伯爵の顛末が書かれているページを読んでいないからだろう。

「最後のページを読んでくれ」

「最後?」

エリシアは小首を傾げてパラパラとページをめくる。

疑問符を浮かべていた彼女は、表情を何ともいえないものにして手記を閉じた。

「やっぱり、ルード以外に魔物を食べられる人はいないってことね」

「まあ、そういうことになるな」

俺もイータ伯爵が生きていれば、本人に会いに行って話を聞いてみたかったものだ。