軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34 レモン祭り 最終話

今日はいよいよレモン祭り当日、よく晴れて絶好の祭り日和だ。領地の人達と準備してきた初めてのお祭りが開催されるわ!

街の広場にはステージが設置され、各種イベントも開催予定。まずはラングフォード領主であるお義父様のご挨拶から――

「この度、我がラングフォード領の特産品であるレモンの収穫祭を行うことになった。皆が大事に育ててくれた柑橘類の収穫を祝う祭りだ。この祭りを思い付いてくれたのは、他でもない我が家のお嫁さんだ。ノーラちゃん、ステージに上がっておいで」

えっ、私!? のんびりステージ袖で眺めていたら、名前を呼ばれてしまった。そんな目立つところに出て行って大丈夫かしら……

「ノーラ、一緒に行こう」

「は、はい」

お義父様とお義母様が並んで立たれているステージへ、オスカー様にエスコートされ階段を上がる。うわぁ、人がいっぱい! 領地中の人達が集まっているんじゃないかしら!

「今年、我が家に嫁いできてくれたノーラ・ラングフォードだ。ノーラちゃん、発案者として一言挨拶を」

「ええっ!?」

まさか、そんな大役が回ってくるなんて! 広場にいる顔見知りの人達が『若奥様がんばって〜!』などと、声を上げてくれている。

この街にもずいぶんと知り合いが増えた。侯爵家の使用人達、工場の従業員達、孤児院の子ども達、街の飲食店の人達に漁港の人達。みんな、私を快く受け入れてくれたわ。今も温かい目で見守ってくれている。

「皆さん、よそから嫁いできた私を温かく迎え入れてくれてありがとう。これからも皆さん一丸となって、このラングフォード領を盛り上げて行きましょう!」

「第一回レモン祭りを始める!」

「「「わーー!!」」」

お義父様の開催宣言とともに、花火が数発上がった。広場の人達が拍手をして歓声を上げる。楽団の演奏が始まり、広場は一気に明るい雰囲気に包まれた。

「さあ、私達も祭りを楽しむか!」

「そうね。あぁ、私達はふたりで回るつもりだから、あなた達もデートを楽しんでね」

「デデデ、デートって!」

お義母様はかわいらしくウィンクをして、お義父様と腕を組みステージを降りていかれた。

「じゃあ、俺達もデ、デートを」

「は、はい」

オスカー様からスルリと手を繋がれ、祭りの会場を歩き出す。ここにはレモンに関係したお店がたくさん! 食堂の人と一緒に開発をした塩レモン唐揚げやお肉のマーマレード煮込み、お菓子屋さんにお願いをして作ってもらったレモンケーキ、漁港の人達に出してもらった魚介の串焼きにはレモンが添えられている。

その他にもレモンピールのパンやレモンクリームのクレープ、レモンのモチーフが付いたアクセサリーなど、領民達の工夫が凝らされていた。

「「「若奥様ーー!」」」

「みんな! 元気だった?」

明るい子どもの声に振り向くと、そこには孤児院の管理人夫婦マシューとモニカ、それに子ども達が勢ぞろいしていた。手作りの看板には、三つ編みの女の子と『ノーラのマーマレードクッキー』と商品名が書かれていた。

「まあ、こんなところまで私の似顔絵が」

「子ども達が、絶対に若奥様を描くって聞かなくて」

モニカが楽しそうに教えてくれた。子ども達も、少し得意気な顔をしている。

「だって、このジャムもクッキーも若奥様から教えてもらったんだもん」

「そうか。なら俺もひとつ買わせてもらおう」

「お兄さん、ありがとう!」

オスカー様は小銭を子ども達に渡すと、袋を受け取りクッキーをひとつ摘んだ。

「うん、サクサクで美味いな! レモンの香りもする。これならいい土産になりそうだ」

「えっ、それは何?」

オスカー様の声を聞いて、周りにいた人達が集まってきた。ふふっ、意図せずいい宣伝になったみたい。子ども達は張り切って接客を始めた。

「マシュー、これ屋台で使える券なの。あとで子ども達を遊ばせてあげて」

「若奥様、ありがとうございます! みんな喜びますよ」

私は子ども達へのご褒美として、食べ物や輪投げなどのゲームにも使える券をマシューに渡した。

これだけのクッキーを作れるようになるなんて、きっとたくさん練習してくれたはずだもの。私達は子ども達にそっと手を振り、また歩き出した。

「坊っちゃん、若奥様、デートですか?」

「まあ、皆さん。もう酔ってるんじゃないでしょうね?」

工場の従業員達が、飲み物のお店を開いていた。レモンマーマレードを使ったレモネードとレモンスカッシュ、オレンジマーマレード入りのアイスティー、それに新作の梅酒の炭酸水割りだ。一緒に並べられたオレンジとレモンのマーマレードの瓶は、私の似顔絵が描かれた庶民向けバージョン。そちらも順調に売れているみたい。

「おふたりも一杯どうです?」

「そうね、じゃあ私は梅酒をもらおうかしら。オスカー様は?」

「俺はレモンスカッシュにするよ」

「あら、お酒は飲まれないのですか?」

「えっと、うん。また今度にする」

なんだか煮えきらない返事だけれど、きっとレモンスカッシュでスッキリしたい気分なのね。

「「かんぱーい!」」

私達はお金を払うと、紙コップで乾杯をした。

「ん〜やっぱり梅酒は最高ね!」

「梅酒なんて、誰も飲んだことがないもんね。最初は恐る恐る注文したお客さんも、一口飲んだら『これはどこで売っているんだ?』って必ず聞かれるんですよ」

「それはよかったわ。残りはもう少し熟成させてから売り出しましょうね」

「はい! 梅酒でもガッポリ儲かりそうだわ」

ふふっ、おかみさん達も面白くなってきたみたいね。飲み物を買ってくれた人達に、さりげなくマーマレードを勧めたりしている。なかなか商売上手だわ。

あら、あそこに見えるのはスコットとエイダかしら。今回は双子達だけでなく、スコットも一緒に連れてきたのだ。せっかくのお祭りですもの、家族で楽しみたいわよね。双子達はレモンの帽子をかぶっていた。かわいい〜! 後で子どもの仮装行列に参加するのかな。

別便で執事のローガンとメイドのアガサ夫妻、それにハリーも来ているはずだ。

どうせ王都に侯爵家は誰もいないんですもの、使用人達は交代で休みを取っていいことにした。お祭り休暇って名付けて、毎年恒例にするつもりなの。そのほうが働くモチベーションも上がるでしょう?

「みんな楽しそうですね」

「そうだな。こんなに明るい領民達は初めて見たよ」

「お祭りをやってよかった……あっ、ちゃんと工場の利益を上げてから、運営費に回しましたから心配しないでくださいね」

「フッ、そんな心配はしていないよ」

オスカー様は私の手を取り、ふわりと笑った。

「ねえ、ノーラ。花火はふたりでゆっくり観たいな」

「ええ、それは構いませんけれど……」

「じゃあ、暗くなる前に邸に戻ろうか。バルコニーからよく見えるはずだ」

「わかりました。その前に色々と食べてもいいですか?」

「あぁ、もちろん!」

私達は夕方まで目一杯お祭りを楽しみ、花火の前に邸へと戻ることにした。

◇◇◇◇

暗くなり始めた邸のバルコニーで、オスカー様とふたり花火が上がるのを待っている。するとヒュルルと音がなり、一発目の花火が上がった。

「オスカー様、始まりましたよ!」

花火はシンプルで前世ほどの華やかさはないけれど、これはこれで趣があっていい。私達はしばらく黙って花火に見入った。

「ねえ、ノーラ」

そこへ突然オスカー様から話しかけられ、顔を隣へ向けるとオスカー様は体ごと私の方を向いて立っていた。

「どうしたのですか?」

「君のおかげでこの領地も活気づき、工場の収入も領民からの税収も格段に上がった。領地の運営もうまく回っている」

「まあ! それはよかった!」

「数代前から傾きかけていた侯爵家も、この数か月で安定した。領民達にも豊かな生活をさせることができる。本当にありがとう」

「そんな、私だけでは無理でしたよ。皆さんが頑張ったおかげです」

「それでも、君が来てくれなければ頑張りようがなかった。ふふっ、まさか捨てていた物が宝の山だったなんて、誰も気付いていなかったからね」

「貧乏性がお役に立てて光栄です」

それもこれも、前世のお隣のおばあちゃんのおかげね。おばあちゃんが生活の知恵を授けてくれなかったら、今の私はいなかったもの。

オスカー様は私の左手を取ると、スルリとなにかを薬指に滑り込ませた。

「これは?」

「遅くなってごめん。今更だけど、受け取ってくれないか?」

「もしかして、結婚指輪ですか?」

「そうだ。俺たちの結婚指輪だ」

「ということは、オスカー様の分も……」

「ここにある。君がはめてくれるかい?」

「ええ、もちろん!」

私は指輪を受け取り、オスカー様の左手の薬指にそっとはめた。当然だけれど、ピッタリだ。

ふたりの指輪をよく見ると、なにか葉っぱのようなものと花が彫られていることに気が付いた。

「オスカー様、ありがとうございます。この花は?」

「レモンの枝と花をデザインしてもらったんだ。これからも、ふたりでこの領地を盛り立てていけるようにと……」

「素敵です、とても」

「ノーラ、こんな俺を見捨てないでくれてありがとう」

「こんな素敵な人を捨てるわけないでしょう。だって、もったいないじゃない!」

「ふふっ、アハハ! 君って人は」

オスカー様はひとしきり笑うと、私をギュッと抱きしめ『愛してる』とつぶやき優しい口づけをくれたのだった。

◇◇◇◇

「ノーラ、邸にいないと思ったら、こんなところで何をしているんだ?」

「何って、畑の草むしりですけど?」

「なっ、そんなことは俺がやるから! 君は邸に戻ってくれ! 倒れでもしたらどうするんだ」

「え〜麦わら帽子もかぶっていますし、お水も飲んで梅干しも食べましたから、熱中症対策は大丈夫ですよ。今日はそこまで暑くもありませんし」

「そういう問題じゃない! 君は臨月なんだぞ?」

「あら、お医者様からも、少し運動したほうがいいって言われましたし」

よいしょっと! 私は重たくなったお腹を抱えて立ち上がった。もんぺってこんな時も便利なのよね〜紐で調節できるから体型が変わっても大丈夫!

オスカー様は、私が妊娠してから過保護が加速している。階段は必ず付き添うし、食べ物にもうるさくなったし、最近は畑仕事もなかなかやらせてもらえず……だけどもういつ生まれてもおかしくないので、こうして裏庭で草むしりにいそしんでいたのだ。

今日もハリーや双子達が手伝ってくれている。三人は抜いた草を集めてコンポストへ運ぶ係だ。

「ノーラさま〜、赤ちゃんもうすぐうまれる?」

「そうよハリー、産まれたら赤ちゃんと遊んでくれる?」

「うん、ぼくがお世話してあげるよ」

「エミーも」「ポリーも」

「みんなありがとう……ん? あれ、お腹が。これ――ゔ、うまれるかも」

お腹に鈍痛が走った。うう、多分これ陣痛だわ。しゃがんで草むしりをしていたから、お産が進んだのかもしれないわ。

「な、なんだって!? 大変だ! 先生を呼ばないと!」

オスカー様がアワアワと慌てだした。

ひとりテンパっている人がいると、逆に周りは冷静になれるものだ。出産経験のあるエイダとサマンサが、陣痛がおさまるまで両側から支えてくれた。

「私達が若奥様を寝室までお連れしますので、旦那様は大人しくしていてください」

「はいっ!」

「オスカー様、大丈夫ですから。心配しないでくださいね」

「ノ〜ラ〜」

この泣きそうな顔のオスカー様が、赤ちゃんを抱っこして号泣するのはあと数時間後。

白い結婚だと思っていたら、こんなに赤ちゃんの誕生を喜んでもらえることになるだなんて……人生何が起こるかわからないわね?