軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

274:炎から生まれしモノ

日色が【太陽国・アウルム】の王として即位してから一カ月が早くも経ち、補佐役のリリィンやシウバたちのお蔭で忙しくはあったが、さしてトラブルなど起こらずに日々が過ぎていた。

各大陸の街や集落からは、お祝いの品や手紙などが次々と届き、王として手紙には目を通しておけとリリィンに言われて、寝る間も惜しんで手紙を読んだ。

国のトップになって初めて分かるが、よくもまあリリィンやイヴェアムたちが、何の文句や愚痴を言わずに大量の仕事をこなしていたか尊敬した。

元々リリィンが下地を作っていたこともあって、法律関係や条約批准についての問題はそれほど多くはない。

しかし毎日民たちから寄せられる嘆願書や、一週間に一度開く議会の内容の決定、国家行事・国際行事に関する資料の確認と認定、街への視察などなど、本当に忙しい。

それ以上に、机に向かって書類に目を通して判を押すという地味な作業が、時間的にとても長かったりする。

王がこれほど地味なものだったのかと驚いたほどだ。

ただ周りの者たちが優秀なこともあって、大分王として仕事は少ないほどだとこの前イヴェアムに言われた時は、あんぐりと口を開けて数秒ほど意識を飛ばしてしまったが。

そんな日色も、ようやく一カ月ほどで勝手が分かり慣れてきた。今では息抜きに読書の時間を持つことができるようにもなっている。ほんの僅かな時間でこそあるが。

それでもやはり外に出て激しい運動をすることもなくなったので、身体が重く感じることはある。

今も二十畳ほどの自室にて楽しく本を読んでいると、

「――父上、少しよろしいでしょうか?」

日色のことを父上と呼ぶのは一人しかいない。

「レッカか、入れ」

入って来たのは、最近成長とともに大人びてきたレッカであった。

彼は【魔国・ハーオス】の隊長を務めていたのだが、今ではこの【アウルム】の警備軍隊の分隊長を任されている。

「どうかしたか?」

レッカは礼儀正しく日色から少し離れた距離で正座をしている。

「父上、此度は少し頼みごとがございまして」

「頼みごと?」

「オッス」

日色は本をパタリと閉じて「言ってみろ」と言った。

「自分に鍛錬をつけて頂きたいのです」

「……何故オレなんだ? 軍にはウィンカァもニッキもいるし、鍛錬相手には事足りると思うが」

「それはそうなのですが、最近その……父上とはあまり……ですね」

何だかモジモジし始めた。恥ずかしそうに視線を泳がせる姿を見ていると、まだまだ子供だと思わされる。

恐らく最近構ってないので寂しい思いをしているのだろう。

「ふむ……なら鍛錬ではないが、この前、東の活火山の活動が活発化してるって話があったし、調査がてら一緒に行くか?」

「よ、よろしいのですか!」

余程嬉しいのか、ぱあっと満面の笑みを浮かべるレッカ。そういえば彼の言う通り、最近彼とあまり会話もしていないように思う。この機に親密度を深めるのも王として、父と呼ばれる存在として必要かもしれない。

「ああ、本当はウィンカァに任せようと思ってたが、オレも身体を動かしたかったしな」

「あ、ですが王としてのお仕事は大丈夫なのですか?」

「何、ここに分身を残しておくし、問題ないだろう」

最近『影分身』の文字で分身体を使っての効率化を図る方法を思いついたのでちょうど良かった。時間制限もあるが、調査して帰って来る程度の時間なら問題はないはず。

「一応名目上は、お前に調査任務を出すことにする。このことは他の奴らには内緒だぞ」

「オ、オッス!」

「調査に向かうのは三日後だ。準備を整えておけ」

レッカは嬉しそうに返事をするとさっそく自分の部屋へと戻って行った。

そして三日後――。

「――ん? おお、ミュアではないか」

【太陽国・アウルム】に唯一存在する城――【日ノ丸城】の天守へと向かおうとしていたリリィンだったが、階段からミュアが上がって来たのを確認して声をかけた。

「あ、リリィンさん、お久しぶりです! シウバさんもこんにちは」

「ノフォフォフォフォ、お元気そうで何よりでございますな」

「何が久しぶりだ。つい三日前も視察という名目でやって来たではないか。しかし今日はどうした? 貴様が来訪する予定はなかったはずだが」

「実はレッグルス様に頼まれまして。国際行事に関する会議資料を、ヒイロさんに渡してほしいと」

「なるほど。しかし貴様も【パシオン】の重役を預かっておる身なのだ。来訪する時は一報くらい入れろ。貴様のことを知らぬ者たちが襲撃だと判断したらどうするつもりなのだ?」

「あ、そうでしたよね。すみません」

ペコリと素直に頭を下げて謝るミュア。自分が悪いと思ったことはこうして忌避することなく謝罪し、しっかり反省することができるのだから感心する。

「わたくしたちも今からヒイロ様のもとへ向かいますので、よろしければご一緒にどうですか?」

「こらシウバ、余計なことを」

「ノフォフォ、せっかくの来客を無下にしてはいけませんぞ、お嬢様。ヒイロ様と二人きりになりたいというお気持ちは分かりますが」

「んなっ!?」

リリィンは自分の顔が真っ赤になっていることが分かるくらい熱を感じた。

「もう、リリィンさんってすぐに抜け駆けしようとするんですから! イヴェアムも怒ってましたよ」

ぷく~っと可愛く頬を膨らませたミュアが不満を口にした。

「べ、別に二人きりになりたいわけではない! ほれ、シウバもいるのだから!」

「おやおや、いつも外にわたくしを待たしておいて、二人きりではないとは、それは些か苦しい言い訳では?」

「ええい、貴様はもう黙っておれぇっ!」

本当にコイツは自分の味方なのか疑ってしまう時がある。

「ふふ、リリィンさんって素直じゃないですよね」

「ミュア! ふざけたことを言っておると許さんぞ!」

「え~。でもリリィンさんがヒイロさんと二人きりが嫌だというんなら、いつでもわたしは変わりますよ」

「ば、馬鹿者! 誰が嫌だと言った! アイツが王になり、側室を取ることも不可能ではなくなったとはいえ、正妻は間違いなくワタシなのだからな!」

「それは聞き捨てなりませんね! 私だってそこは譲れません!」

バチバチバチッと両者の睨み合いが続いていると、

「お二方とも、そろそろヒイロ様のもとへ向かいませぬと」

シウバの忠告により、

「……フン、勝負はまた今度だ」

「はい、負けません!」

今ではリリィンもミュアのことを、いや、ヒイロのことを好きな女性たちのことを良いライバルだと思っている。もちろん恋の――であるが。

「あ、そういえば修練場でウイさんを見かけたんですけど、今日って確か、ウイさんは任務があったんじゃなかったでしたっけ?」

「ああ、そのことか。東の活火山の調査だろう? それはレッカの隊が引き受けることになったぞ」

「へ? そうなんですか。それはまた何で……?」

「何でもヒイロがレッカを指名したようだ。今度の活火山の調査はレッカの部隊が適しているからといった理由だったが」

「適している? 確か調査って言っても、火山活動を研究している専門家の人たちが、そこの近くで仕事をしているので、彼らに話を聞くだけじゃ……? だから行軍速度が一番速いウイさんの部隊が行くって話でしたよね?」

「ふむ。確かに適しているといったヒイロの真意は分からんが、奴には思うところがあるのかもしれんな」

「はぁ、真意ですか」

「すでに任命権はワタシではなく、王となったアイツしか持たないものだ。それにアイツがわざわざレッカに変えたということは、何かしらの意味があるのだろう」

「ふふ、信頼しているんですね、リリィンさん」

「フン、もっと頼りになる王になってもらいたいがな」

日色が頑張っていることは、いつも傍で見ているリリィンには分かっている。分身体を作って、仕事を効率化したのには驚いたが、それでも大切な書類や手紙などは本体がしっかり目を通しているようだ。

しかしまだまだ国政にも揺らいでいるところがあるし、今後予測される様々な問題にも手を伸ばしていく必要もある。

日色にとって本当に王としての真価が発揮されるのは、むしろ五年後十年後の未来である。

この国を維持し続ける。民が笑顔であり続ける。

それを成せる王が本物なのだ。しかしそれは極めて難しいことでもある。

基本的に人は慣れる生き物であり、退屈だって覚えるし、平和の中にも不満が出てくることだってあるのだ。

その小さな不満をいかに溜めささずに解消させるか、それは永久に悩み抜いていかなければならない問題である。

ただ日色ならば。自分が信じている彼ならば、どんな問題でも解決できると信頼している。

「――ヒイロ、ちょっといいか?」

城の執務室にて、日色の「入れ」という言葉を聞いてから入る。

机の上には大量の書類が重ねられてあり、その奥で日色が判を押す作業をしていた。

「どうした……ん? ミュアもいるのか」

「はい。こんにちは、ヒイロさん」

日色は彼女が持っている青いファイルに視線を向け、

「……レッグルスからの資料か?」

「さすがです。その通りですよ」

ミュアが日色の前に行き、ファイルを手渡す。受け取った日色は、ファイルを開いてパラパラと見た後、

「……分かった。あとでチェックをしてレッグルスには連絡を入れておく」

「よろしくお願いします……と」

「む? どうした?」

「いえ……その、何だかヒイロさん…………少し痩せましたか?」

「は?」

「あ、その……痩せたというか……何かこう……?」

ミュアが急に不思議そうに小首を傾げるので、リリィンもジッと日色を観察してみる。

すると確かにいつもの日色とは何かが違う気がした。まるで存在感がそこにあるのに、薄いような不可思議な感じ。これは……。

「――っ! おいヒイロ、まさか貴様……!」

リリィンがそう言って睨みつけると、日色がサッと視線を逸らした。――確定。

「……やはりか」

「へ? どういうことですか、リリィンさん?」

「はぁ……そいつはヒイロの分身体だ」

「は……分身体?」

「そうだろ、ヒイロ?」

「…………やっぱりお前らを誤魔化すのはムリだったか……」

その言葉で、リリィンの持った考えが正しいことが証明された。

「ったく。本体はどこにいる? 修練場か? それともどこかで本でも読んでるのか?」

「…………」

「おい、何故答えん?」

「ヒイロさん?」

別に息抜きで本を読みに出掛けているとしたら、たまに彼がやることなのでリリィンも注意はするが半ば諦めていることだ。

修練場で身体を動かすことも、健康を考えると必要だと思うので目を瞑るだろう。それなのに真実を離さない彼に不審さを感じてしまう。

「……ヒイロ、本体はどこだ? 言え?」

「……まあ、どこかにいるはずだ」

「それはそうだろう。しかしそのどこかとはどこだと聞いておるのだ」

「そうですよ、ヒイロさん。わたしもできれば本体のヒイロさんにファイルを手渡しておきたいんですけど」

二人の少女に詰め寄られ、明らかに戸惑いの色を表情に見せる日色。

「……! まさかとは思うが、国外に出たとか言うのではあるまいな?」

いくら何でも王の彼が、誰にも何も言わずにその選択はしないだろうと思っていたが……。

「…………はぁ。隠し通し切れやしないか」

諦めたように溜め息を吐くと、日色が静かに説明し始める。

「――――な、何だと!? レッカの部隊とともに調査に向かったぁぁっ!?」

返ってきた答えは呆れるものだった。

「何故だ! 何故そんなことになっておるのだ!」

「久しくレッカと接していないことに気づいてな。だからだ」

「だからとって他にも方法があるだろうが。貴様は王なのだぞ? 貴様が王になるのを反対した勢力がまったくなかったわけでもないし、そういう連中が反旗を翻す危険性だってあるのだから、不用意な行動は避けるべきだ。それは貴様も分かっていることだろうが」

万人に認められる者などは存在しない。人には感情があり、好き嫌いというのも存在している。故に日色の即位を快く思わない者たちだって中にはいるはず。

それはどこの国の王だってそうだ。常に何かしらの危険は付き纏うもの。だからこそ、仕えている者たちには、王の所在地を常に知らせておく必要がある。素早く問題に対処するためにも、だ。

「黙ってたのは悪いと思ってる。だがお前に言うと、護衛役として山ほど部下をつけるだろうが」

「当然だろう。それが王を守るために必要なのだからな」

「その気遣いはありがたいが、オレはぞろぞろと部下を引き連れて歩くのは好きじゃない」

「好き嫌いの問題ではない。これは国として守るべきものなのだ」

「だからオレは黙ってレッカと、数人の部下とともに行動することを選んだ」

「……! ちょっと待て、数人? 一体何人だ?」

「レッカを入れると五人だ」

「少ないっ! 少な過ぎるわ馬鹿者がっ! ええい、シウバ!」

「――ここに」

リリィンの呼びかけに、素早く部屋へ入ってくるシウバ。

「今から東の活火山に増援を送れ」

「待てリリィン。必要無い」

「ダメだ。何かあってからでは遅いのだぞ。貴様はもっと自分の立場を重んじろ」

「あのな、オレがそう簡単に殺されると思うか?」

「確かに貴様の力は誰もが認めている。このワタシもだ。しかし万が一ということもあるのだ。――シウバ」

「畏まりました。ではウイ殿の部隊に通達して参ります」

溜め息を漏らす日色をよそに、シウバはそう告げるとその場から姿を消した。

「ヒイロさん、ちょっと無茶し過ぎですよ!」

「ミュアまで言うか」

「言いますよ! だってわたしたちはヒイロさんのことを第一に考えているんですから!」

「その通りだ。それに本体がいないと知られれば、バカな連中が国に攻めてくる理由を作ることにもなるかもしれん。少し浅慮過ぎるぞ」

確かに本体に関しては、リリィンもそれほど心配はしていない。しかし問題は国そのもの。日色がいないと知って行動を起こす過激派がいるかもしれないのだ。

だからこそ、日色は常に国の旗印としてこの場にいる方が安全なのである。

「…………分かった。これからはお前に一言言ってからにする」

「そうしてくれ。まあ、この国が落とされるほど戦力が薄いわけではないから問題はないといえばないが、心配してしまうようなことをしないでくれ」

「へぇ。心配してくれてるのか」

「と、当然だろ! 貴様はワタシの――」

「ワタシの?」

「うっ……と、とにかくそういうことだ! 分身体の貴様は、与えられた仕事をきっちりこなしておけ!」

「ああ、悪かったなリリィン。ミュアも。少し勝手過ぎた」

「はい。それじゃせっかくですから、わたしもウイさんの部隊と一緒に東に向かいますね」

それだけを言うと、ミュアは部屋から出て行った。

リリィンも彼女が出て行くのを見てから、

「まったく、そろそろ貴様の休憩時間だから、一緒に茶でも楽しもうと来たというのに」

「それは悪かったな。埋め合わせはするから」

「約束だからな」

だったらいいと思い、リリィンも部屋から出て行った。

――――【アラガド山】。

【太陽国・アウルム】の東に位置する活火山であり、最近地下のマグマが活発化し始めているという話を聞き、定期的に調査を依頼されている山だ。

幸いにも周りは森に囲まれており、集落などはないので、仮に噴火したとしても〝人〟の被害はないだろうが、それでも注意を向けておくにこしたことはない。

距離が離れているといっても、噴火の規模によっては【アウルム】にも影響が出るからだ。

山の麓には火山研究をしている専門家のチームを設置して、何かあればすぐに日色の耳へと入ることにはなっているが、一月に一度ほど【アウルム】の調査部隊を派遣して、情報を直に得ることになっている。

これはまだ【太陽の色】であった時に、リリィンが命じたものでもあるのだ。

「――おや? これはこれは、ヒイロ王ではないですかぞい!?」

その言葉により、一気に周りがざわめき始める。一国の王が、このような場所に現れたのだから当然といえば当然だろうが。

薄汚れた白衣を着用している五十代後半の男性。この男こそが、この調査チームのリーダーを任されているティッチだ。山のことで知らないことはないほどの知識量を持ち、火山研究の第一人者でもある。

アフロヘアーが特徴だが、まるで火山のマグマのせいで、火が燃え移って縮れてしまったように見えるのだから面白い。

また彼は人間と魔人のハーフでもあり、リリィンが【太陽の色】を建てる前にも、住民にならないかと声をかけていた人物の一人だ。

今でもハーフと聞くと顔をしかめてしまう者たちがいるが、それでも万人を受け入れる【太陽の色】のお蔭で、少しずつではあるがハーフも普通の人種だと認知されるようにはなってきた。

「お前がここの責任者か、名は?」

「ティッチと申しますぞい」

「……ぞい?」

「口癖にて、勘弁してくださいぞい」

「まあいい。今日はここにいるレッカと他数人で調査報告を聞きにきた」

紹介すると、レッカたちも静かに会釈する。

「それはわざわざご足労願いまして、恐縮ですぞい」

「それで? 何か大きな変化はあったか?」

「特には。しかし気になることが一つありますぞい」

「気になること?」

「はい。マグマの動きは今すぐ噴火するような活発さはないようですが、どうにも火山の中にマグマとは違う何か大きなものが存在しているようなのですぞい」

「マグマとは違う? 確かなのか?」

「はい。それが生物なのかそうでないのかは、まだ調査中ではありますが、何かがあるのは間違いないですぞい」

日色は彼の話を聞いて「ふむ」と顎に手を当てる。

もし火山の中にいるのが生物だとして、凶悪なモンスターであるのなら、ここに滞在させているティッチたちにも危険が及ぶ。

「……実際に中に入ってみるか」

「ち、父上、それは危険ではないでしょうか!」

さすがに止めに入ってくるレッカ。

「そうですぞい。ヒイロ王がお考えになられている以上に、火山とは危険なものですぞい」

「しかし、最近の活発化がその何かのせいだとすると、早くに正体を見極める方がいいだろ?」

「確かにそうですが、王自ら出向くのは危険ですぞい」

「安心しろ。その程度の危険など、いくらでも乗り越えてきた」

たかが火山一つに怯えを感じる感情などすでにない。それだけ大災害レベルの事件を幾つも経験してきている。

「なら自分も行きます、父上!」

「……分かった。他の者は、万が一の時、調査チームを守るために残れ、いいな」

レッカの部隊の者たちが「はい」と返事をした。

「ヒイロ王、どうしても行くと仰るのであれば、儂を連れて行ってほしいですぞい」

「は? 危険だと言ったのはお前だぞ?」

「はい。ですが火山を知り尽くしている者がいた方が都合が良いはずですぞい」

「なるほどな。…………よし、ならさっそく三人で向かうことにする。他の者は何があっても対処できるようにしておくんだ」

日色の命に全員が返事をし、日色もまた納得して頷きを一つ返しておいた。

――火口からは、天を掴むように僅かな煙が立ち昇っており、ゴツゴツした足場のあちこちからも地熱が上がっていることを証明するかのように湯気が発見できる。

しかし煙の量からも、それほどマグマが活発化しているようには見えない。

大きく口の開いた火口付近へ辿り着くと、さすがに汗が滲んでくるような熱さを感じる。

日色はもちろんのこと、レッカとティッチには、それぞれ『防護』の文字を発動させており、火山ガスの吸い込みによる毒は影響ないようにしていた。

「いやぁ、本来ならば耐火防護スーツが必要になりますが、ヒイロ王のお蔭で生身でこうやって調査できるとは、ずっとここにいてほしいですぞい」

ティッチは子供のように目を輝かせて、クリアな視界を目一杯行使して火山を観察し始めている。

「ほわぁ……火山とはこんな感じになっているのですね」

レッカは初めて近くで見る火山を興味深そうに見回している。

「基本的に火山ってのは、マグマが地表や水中に噴き出ることでできる地形のことだ。マグマが噴出して地表に出ることを噴火という」

「ほほう! さすがはヒイロ王! その知識も確かですぞい!」

「ですが父上、噴火は恐ろしいものだと認識されてますよね」

レッカの問いに答えたのは、日色ではなくティッチだ。

「確かに! レッカ隊長殿の仰る通り、噴火による被害はありますぞい。特に〝破局噴火〟と呼ばれるものは、大きな環境変化や生物の大量絶滅のきっかけにもなるほど危険な現象ですぞい」

「な、なるほど」

「しかーし! 火山による恩恵は確かに存在するのですぞい!」

「お、恩恵……ですか」

「火山によって生まれる環境から得ることができる肥沃な大地や湧水などがあり、また火や温泉なども良い資源になりますぞい。それに火山にしか生まれない鉱物などもあり、人の社会にとって重要な存在なのですぞい。ですから火山というのは――」

「あ、あの……っ」

ティッチの熱い火山論にタジタジとなっているレッカ。しかしティッチの言う通り、人がこれまで生きてきた中で、火山の恩恵も多大に人の生と密着していることも事実だ。

破壊というのは、その後に必ず新たな誕生を意味する。普通の人は、破壊だけにしか目を向けないから、その存在を畏怖し忌避してしまうが、広い目で見ればまた違った解釈もできるということを覚えておく必要があると日色は思う。

「話はそこまでだ。そろそろ火口の中に下りるぞ」

日色は二人に対し、『飛翔』の文字を使わせ空を飛びながら火山の内部へと侵入していく。

一応『防護』の文字のお蔭で身が焼かれるといった熱さは感じないが、それでもサウナに入っているかのように汗が流れ出てくる。

下にはマグマが蠢いているのだから当然といえば当然だが。

「おい、例の何かを察知した場所というのはどのへんだ?」

「確か……右側のマグマ溜まりの近くだったかと」

見れば、固い岩盤に区分けされている感じで、マグマ溜まりが幾つか発見できる。その中の右側にあるマグマ溜まりに視線を向け、近くの岩盤へと降り立つ。

「あ、父上! あそこを見てください!」

レッカが指を差した先にあったのは、一つの壁。しかしその壁に嵌め込まれるようにして水晶の塊があった。

「……行ってみるか」

少しマグマが近いような気もするが、十分に警戒して歩を進めて行く。

そして水晶がある場所へと辿り着くと、

「これは……!」

水晶の中には顔ほどの大きさはある卵が一つあった。

「卵……ですぞい。むむぅ、不思議ですぞい。ここらの魔物で卵を産む種類など棲息してはいないはずですぞい」

赤い卵。殻には黄色い模様が炎のように走っている。

何の卵なのか、『鑑定』の文字でも使って調べようとしたその時、背後で蠢くマグマが活発化して波のように押し寄せてきた。

「ちっ! 上へ逃げるぞ!」

間一髪で、三人は宙へと逃げ、マグマは先程日色たちがいた場所へ流れ込む。例の水晶まで呑み込んで――。

しかし驚くのは、マグマが引いた後だ。水晶に傷一つない。溶けている箇所も僅かも確認できないのだ。その光景を見て、ティッチも目を丸くして驚いている。

「ほほう。素晴らしい鉱物のようですぞい。これは是非とも分析してみたいですぞい」

そこへ、水晶がグラリと動いたと思ったら、壁から剥がれてしまい、ゴロゴロ転がってマグマがある場所へと落下しそうになる。

「あ、ダメです!」

咄嗟にそう叫びながらレッカが飛んで行き、両腕で水晶をガッシリと掴む――が、またも彼の下からマグマが押し寄せてきた。

「――《創造魔法・氷結陣》!」

刹那――レッカのお得意の魔法で下から向かってくるマグマを凍結させてしまった。しかしそれは表面だけで、さらに下から盛り上がってくるマグマが氷を破壊していく。

「レッカ! 今のうちにここまで来い!」

「オッス!」

水晶を抱えたままレッカが日色のもとへやってくる。数秒後、凍結していたマグマは元通りになってまた蠢き始めた。

「レッカ隊長殿、危なかったですぞい」

「そうだぞ、無茶をするな」

「すみません。ですがあのままだとこの卵がマグマに沈むと思ったので」

するとその時、水晶にピキキッと亀裂が走り、一瞬で砕けてしまう。

「はうわ!? も、もったいないですぞい!」

慌ててティッチが砕けた水晶を手にしようとするが、煙のように霧散していく。

「あ~っ! 世紀の大発見だったかもしれぬのに~!」

マグマでも溶けない鉱物を調べたかった彼にとっては悔しい限りだろう。

しかし日色はレッカの持っている卵が気になる。

――突如、今度は卵がひとりでにフルフルと動き出し――ピキッ。

卵の上部当たりに亀裂が走ったと思ったら、

「―――――――キュイッ!」

卵の中から、上部の殻を頭に乗せた生物が首を出して鳴いた。

それは紅い羽毛で覆われた鳥のような生物であり、大きな黒い瞳をパチパチと動かして、目の前にいるレッカをジッと見つめる。

「キュイキュイキュイ!」

「え、あ、えっと……あ、あの父上、どうすれば!?」

「オ、オレに言われてもな……」

しかし一体何の生物だろうか。多くの魔物を見てきた日色だが、初めて目にする生き物だ。

(いや、一度こんな感じの鳥をどこかで見たことが……)

ただハッキリとは思い出せない。まだ生まれたてだからか……?

鳥が生まれてからすぐに、ゴゴゴゴゴゴと火山全体が揺れ始めた。

「――おい、これって何かマズくないか?」

「むむぅ……何やら急激に火山活動が活発化している模様ですぞい」

下で波打つマグマが激しい動きを見せ始めた。

(何でこんな突然に? まるでコイツの誕生がきっかけになったみたいだぞ)

そう思ってしまったが、今はとにかくここから離れた方が良いと直感した。何故なら下からかなりの勢いでマグマがせり上がって来ているのだから。

「すぐにここから離れるぞ! ついて来い!」

再び火口へと目指して飛ぶ日色にレッカたちがついてくる。

火口から脱出した直後、黒々とした煙とともに、真っ赤に燃えるマグマが天に向かって噴出した。

――噴火である。

ドロドロに溶けたマグマが、山を伝って大地へと流れていき、空には火山灰が舞っており視界が悪い。

このままでは近くにいる調査チームにも被害が、と思って彼らを助けに向かうが、何故か待機場所にいたはずの者たちの姿が見当たらない。

(どういうことだ……?)

キョロキョロと周りを見渡していると、山から少し離れた小高い丘に集団を発見した。

そこには遠目にだがウィンカァらしき人物の姿も確認する。

(……やっぱりリリィンにバレたか)

多分『影分身』で作った分身体の違和感に気づかれたのだろう。そこで日色の身を案じて、ウィンカァの部隊を送ったに違いない。

(これは帰ったら説教だな)

やれやれと頭をかいていると、

「キュイキュイキュイ~!」

レッカの腕の中にいる鳥が鳴き始める。それに呼応するかのように、さらに火山の活動が活発化していた。

それは何故か火山自体が、鳥の誕生を祝福しているように思えてしまったのだ。

ただ噴火の規模自体はそれほど多大なものではない。周りも砂地が広がっており、集落もないので、流れ出した溶岩もそのうち大地に転化していくことだろう。

「おほー! ナイスな噴火ですぞい! まさか空から肉眼で見ることができるとは! これは生きていて良かったですぞい!」

ティッチが、何やら懐から出したノートに火山のデータを嬉しそうに書き記している。

しかしいつまでもここにいるわけにもいかないので、

「おい、そろそろ他の連中と合流するぞ。レッカも、いいな」

「オッス!」

「そんなぁ~! まだ調べたいことが山ほどですぞい!」

「また今度にしろ」

そう言うと、渋々ティッチは了承してくれた。

そしてウィンカァたちが待つ小高い丘へと向かう。

「…………ヒイロ」

「やはりウィンカァだったか。リリィンは怒ってたか?」

「ん……それにもう一人」

「は? ……ミュ、ミュア!?」

ウィンカァの背後からスッと出てきたのはミュアだった。ジッと咎めるような目つきで日色を射抜いてくる。

「ヒイロさん? 何でわたしが怒ってるか分かりますね?」

「…………まあな」

「もう、王なんですから、黙って出掛けたりしないでください!」

「悪かった。次からはそうする」

反論したところであっさり論破されるのは目に見えている。何故なら明らかに日色が悪いのだから。

ここは素直に過ちを認めて謝った方が賢い。

「ん? レッカ、何その鳥?」

ウィンカァの視界にレッカが映り、彼が持つ鳥へと彼女の言葉をきっかけに全員の視線が集う。

「火山の中に卵がありまして、そこから生まれたのです」

と、レッカが正直に言うと、火山研究のチームの面々が、物珍しそうに鳥に近づき始めた。しかしその行動に怯えてしまったのか、鳥が、

「キュイィィ~ッ!」

と口からは炎を吐き出したのだ。

調査チームの面々は、「熱ィッ!?」や「うわおっ!?」などと叫びながら、軽いやけどを負ってしまう。

「これこれ、まだ生まれたての赤ん坊なんだから、大勢で押し寄せたらそうなるのも仕方ないぞい」

ティッチの注意に、叱られた者たちは「すみません」と謝っていた。

ただ彼らの気持ちも分かる。彼らが研究する火山の中で生まれた未知の生物なのだから、興味が湧くのも当然だ。

「いやぁ、それにしてもさすがはヒイロ王の魔法! 万能でまさに神のごときお力ですぞい!」

神のごときというより、神の魔法なんだけどなと心の中で思う。

「それほどのお力、もし暴走でもすればそれこそ火山の噴火など足元にも及ばぬほどの力でしょうなぁ」

「安心しろ。暴走などはしない」

「いえいえ、心配などしてはおりませんぞい。ヒイロ王は世界を何度も救った英雄。末永く国を、世界をお守りくださいですぞい」

「末永くって……。永遠に働かせるつもりか?」

「ハッハッハ。言葉の綾ですぞい。しかしお気をつけください。そのお力の魅力に引き寄せられるのは、何も善意ある者たちだけじゃありませんぞい。ヒイロ王を籠絡して、利用しようとする輩も中にはいるはずですぞい。人はそこまでキレイではありませんからなぁ」

「…………そうだろうな」

感情を持つ人なのだから、善意もあれば悪意だって存在する。そんなことはこれまで生きてきて嫌というほど理解しているし大丈夫だ。

「老婆心ながら忠告をさせて頂きました。出過ぎた真似を申し訳ございませんですぞい」

「いや、民の声を聴くのが王だ。これからも遠慮なく気づいたことがあったら知らせてくれ。出来うる限り力を尽くすつもりだ」

「了解ですぞいヒイロ王。では我々はまだここで調査を致しますので。この度はお力添えをして頂き誠にありがとうございました」

ティッチ率いる調査チームたちが頭を下げる。

「ああ、また何か分かったら報告してくれ」

日色に再度頭を下げたティッチたちは、そのままその場を離れて行った。

残ったのは日色、レッカ、レッカの部隊、ミュア、ウィンカァ、ウィンカァの部隊である。

「ヒイロ、戻る?」

ウィンカァが聞いてくるが、

「いや、少し確認したいことがあるんだ。このまま【魔国・ハーオス】へ飛ぶ」

「え? ヒイロさん、何で【ハーオス】に?」

ミュアが不思議そうに小首を傾げている。

日色はいつの間にかレッカの腕の中で気持ち良さそうに眠ってしまった鳥を見つめながら、

「そいつに関して、ある奴に聞けば詳しいことが分かると思ってな」

そう言うが、日色以外の者たちは真意を掴みとれていないようでキョトンとしたままだった。

「――ほう、なるほど。それで俺のところへ来たというわけか」

納得気に頷きを見せつつ発言したのは、【魔国・ハーオス】における軍部の最高責任者であり《魔王直護衛隊》の《序列一位》――アクウィナス・リ・レイシス・フェニックスだ。

何故日色が彼に会いに来たのかというと、レッカの腕の中にいる鳥を見た時に、ある既視感を覚えたからである。

それは――一度全力と通じてアクウィナスと戦った時。その時に彼は自らの姿を不死身の化身であるフェニックスへと変貌した。

それを思い出した時、フェニックスの時の彼の姿と、レッカの腕の中にいる鳥の姿がオーバーラップしたのである。

だから彼に会えば何かしら詳しいことが分かるのでは、と思ったのだ。

アクウィナスはジッと、鳥を見つめる。そして鳥もまた、その視線に気づいてアクウィナスを見返している。互いに目を逸らさずに、まるで目だけで会話をしているかのよう。

不意にアクウィナスがフッと頬を緩める。

「何か分かったのか、アクウィナス?」

「ああ。ヒイロ、お前の見立て通りだ」

「なるほどな。やはりそうか」

「あ、あの父上、一体どういうことなのでしょうか?」

まだレッカは悟っていないのか、鳥の身体を優しく撫でながら尋ねてくる。

日色は鳥に視線を置きつつ言う。

「そいつはな――――フェニックスだ」

「フェニックス……?」

「ああ、ここにいるアクウィナスと同様の、古代の怪鳥――不死鳥フェニックス」

その場にいたウィンカァは小首を傾げているだけだが、ミュアは大きく目を見開き言葉を失っている。

「ヒイロの言う通り。しかもどうやらレッカを親のように感じているようだな」

「じ、自分を……ですか?」

レッカが信じられないという面持ちで子供のフェニックスに視線を落とすと、フェニックスも甘えるようにレッカの胸にスリスリと顔をつける。

そこへ――。

「――ヒイロ、聞いたわよ。来ていたなら……って、ミュアやウイまで……どうしたの?」

やって来たのはこの国を統括する魔王――イヴェアム・グラン・アーリー・イブニングだ。彼女はミュアの驚いたような顔を見て不思議そうに尋ねてきた。

「イヴェアムか、邪魔してるぞ」

「そんなこといいけど、いきなり訪問してきたって聞いたけど、ミュアが何か驚いてるし……何かあったの?」

「イ、イヴェアム! た、大変だよ!」

「ちょっ、分かったからミュア! 何があったのか教えて!」

「あ、あのね! フェニックスさんが生まれて、アクウィナスさんと一緒で、レッカくんが親なんだよ!」

「……? 何だかさっぱり分からないわ」

明らかにパニック状態のミュア。イヴェアムが説明を求めるように日色を見てくる。

「――コイツを見てみろ」

「へ……あら、可愛らしい鳥ね」

「そいつ、フェニックスだ」

「そう、あの伝説の……って、ええっ!?」

ミュアのように驚愕に目を丸くするイヴェアム。

「ちょっ、ど、ど、どういうことなの!?」

「落ち着け。今から説明してやるから」

日色は、火山の調査に向かい、その火山で卵を見つけ、その卵からフェニックスが生まれたことを教えた。

「――――そ、そうなんだ。フェニックスって卵から生まれるのね……」

「正しくは火山が作り出したエネルギーの塊が卵のような形をしているだけだがな」

イヴェアムの呟きにアクウィナスが補足した。

「恐らくその火山が活発化していたのは、近々コイツが生まれるからだったのだろう。言うなれば火山は母親そのもの。子供の誕生を祝福しない親などいないからな」

アクウィナスの言葉になるほどと日色は思う。

(最後の噴火は、コイツの誕生を喜ぶ親の声だったってわけか)

そう考えれば、人も自然もそう変わらないものなのだと思われた。

「それにしてもこの子、凄く可愛いわね」

「そうなんだよね~」

イヴェアムとミュアが、フェニックスの身体を撫でながら癒されているようだ。

「あ、そうだレッカくん、この子の名前は?」

「へ?」

ミュアの突然の質問にキョトンとなるレッカ。

「だってレッカくんが親なんでしょ? だったら名前をつけてあげないと」

「えっと……ですが……」

レッカが縋るような目で日色を見てくる。日色はアクウィナスに視線を移し、「いいのか?」と問う。

「いいと思うぞ。フェニックスというのは本来明確な親という存在は持たないがな。しかしコイツはレッカを慕っているようだ。恐らくマグマの中に落ちる際に、レッカに助けられ、その時に感じたレッカの優しさに触れ、親と認識してしまったのだろう」

「なるほどな。そういうことだ、レッカ。立派な名前をつけてやれ」

「父上…………ど、どんな名前がいいのでしょうか」

「思いつかないなら鳥だから鳥で」

「ダメですよ、ヒイロさん!」

「そうよ、ヒイロ! あなたはネームセンスがないんだから黙ってて!」

ミュアとイヴェアムが制止の声をかけてきた。

(失礼な奴らめ。分かり易いからいいじゃないか)

しかし確かに日色がこれまでつけてきたあだ名などを考慮すると、誰もが首を傾げてしまうのも無理はない。

「キュイキュイ~」

突如フェニックスが鳴いた。甘えるような声だ。レッカに何かを訴えているように思う。

「え、えと……ど、どうしたのですか?」

レッカが焦りながらフェニックスに問う――が、まだ意思疎通ができないので、何を言っているか分からないようだ。

そんな中、今まで沈黙していたウィンカァが口を開く。

「――ん……この子、お腹空いたって」

当然全員が彼女に視線を向けた。

「……! そうか、確かウィンカァはモンスターや動物と話ができたんだったな」

日色も忘れていた彼女の特異能力だ。

「あ、あのアクウィナス様、この子は何を食べるのでしょうか?」

「基本的には雑食だ。好みはそれぞれだが、魔力も食べるからやってみるといい」

アクウィナスの言う通りに、レッカが指先をフェニックスの嘴に持っていくと、まるでお乳を吸うように咥えた。そのままの状態で、レッカが魔力を指先へと流していくと、美味しそうにフェニックスは喉を鳴らし始める。

「わぁ、可愛い!」

「本当ね、私もあげてみたいわ!」

ミュアとイヴェアムがフェニックスの食事姿に心を打たれているようだ。

しかしイヴェアムが人差し指を近づけてみるが見向きもせずに、レッカの指だけを咥えている。

「陛下、フェニックスというのは心を許した相手からしか魔力を貰わない」

「そ、そうなんだぁ……」

アクウィナスの説明にガックリと肩を落とすイヴェアム。

「す、すみません!」

「ううん、レッカのせいじゃないわよ。この子はまだ生まれたての赤ん坊なんだから、親だけを慕うのは当然よ」

「そう言って頂けるの嬉しいんですが……自分が親ですか」

何だか恥ずかしそうに顔を俯かせているレッカに対し、

「ほらほらレッカくん、早く名前を考えてあげないと」

と、ミュアが彼を促す。

「あ、そうですね。えと……」

レッカがジッとフェニックスを見つめながら思案顔を浮かべる。

他の者も黙ってレッカが答えを出すまで待つ。

そして――。

「――――ルヴィ」

「キュイ?」

レッカの不意の呟きにフェニックスが真っ黒な瞳をレッカへと移して鳴いた。

「……ルヴィ――でどうですか?」

「キュイキュイ~!」

「ふふ、どうやら気に入ったようね。良かったわ、レッカがヒイロみたいに残念なネームセンスじゃなくて」

「おい、それはどういう意味だイヴェアム?」

「だってあなたってば、鳥だから鳥って名付けようとしたでしょ? ミカヅキなんてよだれ鳥って呼んでたくせに。全然可愛くないわ」

「う……」

「その点、ルヴィって響きも可愛らしいし、この子も気に入っているようだしね」

「ん……ヒイロ、ウイのこともアンテナ女って呼んでた」

「あ、わたしのことはずっとチビでした」

ウィンカァとミュアが追撃するかのごとく発言してきた。

確かに今まで日色は、あだ名を見た目重視でつけてきたが……。

しかしよく考えれば、確かに女の子によだれ鳥とつけたのは頂けないかもしれない。

「ち、父上、ルヴィでよろしいでしょうか?」

不安気にレッカが尋ねてくる。

「……お前が決めたのならそれにすればいい」

「――オッス!」

こうしてレッカにフェニックスのルヴィという子供ができた。【太陽国・アウルム】に帰ってそのことを告げると、リリィンたちは驚きながらもレッカたちを祝福する。

しかし、勝手に国を離れた日色に対してはきつい説教が待っていたのは言うまでもないことだろう。