軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

257:アウルム大祭

今、【太陽の色】に建てられてあるリリィンの屋敷にて、重大な会議が開かれていた。

集まった面々もそうそうたる顔ぶれであり、獣王レッグルス・キングに、人間王ジュドム・ランカース、魔王イヴェアム・グラン・アーリー・イブニングという各国の王たちが顔を突き合わせている。

また『精霊族』の代表として、『妖精女王』であるニンニアッホもおり、それぞれの王の側近も参加していて、その中に日色やリリィンたちもいるのだから、凄まじい迫力があった。

「まずは集まってもらったことに感謝する。今回の議題だが、一か月後にここ――【太陽の色】で開く予定の大会についてだ」

リリィンが全員の顔を見回しながら言うと、レッグルスが口を開く。

「予定されているのは、《グルメ大会》に《スポーツ大会》でしたよね。それを一週間に分けて行うのですね」

「そうだ。正確には《イデアコック王決定戦》と《フープシュート大会》だ」

「どれも楽しみだよな! 俺も《フープシュート》には出るから、優勝は頂くぜ!」

「そうはいきませんよジュドム殿、我ら獣人の身体能力を舐められては困ります」

「ほほう、言うじゃねえかレッグルス。俺だってまだまだヒヨッコには負けねえぜ」

「ジュドム殿もレッグルス殿も落ち着いてください。まだ勝負は始まっていないんですよ?」

言い合う二人に対し口を突っ込んだのはイヴェアムだ。

「そうは言うがな、魔王ちゃん。初めての大会だぜ? 男ならやっぱ優勝してえじゃねえか」

「気持ちは分かりますが、ジュドム殿、今はリリィン殿の話を聞くのが最優先ですよ」

「む……確かにそうだったな。つい勝負事には熱くなっちまうんだ、許せ」

ジュドムほどでないにしろ、日色もまた楽しみにしている。特に《イデアコック王決定戦》はとてつもなく興味がある。きっとまだ見ぬ美味い料理が出てくるはずだ。

それを思うと、待ち遠しくなってしまうのも仕方ないだろう。

「各国から代表者を出して、《イデアコック王決定戦》の審査員を決めてもらいたいのだが」

リリィンの言葉が終わる前に、日色がビシッと手を上げた。それこそ天高く。皆はそれを見て「ああ、やっぱり」といったような顔をする。

「焦らなくても安心しろ。貴様はすでに審査員として起用するつもりだ。だが審査員は参加できないぞ」

「構わん。オレは食べるだけで幸せだ」

「……分かった。それで、各国からできれば二名ずつほしいんだが」

すぐに口を開いたのはニンニアッホだ。

「では『精霊族』からは、私とホオズキ様が審査員を務めましょう」

「なら『獣人族』からは、私とララシークにしましょう」

「俺たち『人間族』からは、俺とテンドクのじいさんにしよう」

「そういうことなら『魔族』からは私とアクウィナスでいいかしら」

これで各国の審査員が決まった。ちなみに【太陽の色】からは、日色とリリィンが審査員を務めるので、計十名による審査になる。

「それと《フープシュート大会》の審判だが、公平な判断をくだせる『妖精』たちに頼みたいのだが、いいか?」

「構いませんよ、リリィンさん。特に我々『妖精』は嘘がつけませんから、審判には相応しいでしょう」

「それは助かる。ルールに関しては以前渡した資料通りだから、しっかり覚えてくれ」

「ふふふ、楽しみですね。確か四種族が対抗して勝負するんですよね」

「そうだ。それぞれの種族から選抜された者たちによる《スポーツ大会》だ。盛り上がらないわけがない」

《イデアコック王決定戦》ほどではないが、日色も《フープシュート大会》を楽しみにしている。ただ自分も出場しなければならないらしいということが面倒ではあるが。

「当日は多くの人が集まるだろうし、血気も盛んになるだろう。故に小さな諍いなども起こる可能性もある。警備係としても人員がほしいんだが」

「それも各国から兵を出せばいいと思うわよ、リリィン」

イヴェアムがそう言い、リリィンが頷きを見せた。

「そうしてくれると助かるな。当日はヒイロも警備に手を貸してくれるのだろう?」

「ああ、暴れられて《グルメ大会》が中止にでもなったら目も当てられんからな。そんな奴らは速攻地下牢行きだ」

「よし。なら警備も問題はないな。では次だが――」

そうして、次々と大会についての打ち合わせが続き、終わったのは数時間経った後だった。会議はまた翌日も行うということで、本日は解散になって、日色が自室へ帰ろうとした時、

「あ、ちょっとヒイロ」

「ん? 何だ、イヴェアム」

「あ、あのね……ちょっと、いい?」

「ああ、それじゃオレの部屋に行くか」

「う、うん」

何故か緊張した面持ちだが、とりあえず彼女を連れて自室へと向かう。

「あ、ヒイロさん、会議終わったのですか?」

自室へ向かっている途中にランコニスと会った。隣には弟のレンタンもいる。

「おお! ヒイロ兄じゃん! それに魔王様まで」

レンタンが無邪気に駆け寄ってくる。この二年間で八歳だった彼も、少し背も伸びて成長していた。今はランコニスとともに、日色に仕えて一緒に屋敷で過ごしているのだ。

「ランコニス、イヴェアムと自室で話をするから、バカ弟子たちを入れないようにな」

「あ、はい。お茶はどうされますか?」

「……そうだな、茶菓子を頼むか」

「ヒイロ兄……お茶だけじゃダメなんだなぁ~」

「こら、レンタン。分かりました。ではすぐにお持ちしますね。行くわよ、レンタン」

「ほ~い!」

そうしてイヴェアムと二人で自室へと向かい、

「それで? 話があったんだろ?」

「う、うん……。その……ね、あれから二人っきりで話す時間があまりなかったから……」

あれからというのは、日色がこの【イデア】に戻って来てからだろう。

モジモジとしながら所在無げな感じでチラチラと見つめてくるイヴェアムを見ると、日色も何となく居心地が悪く感じてしまう。

「……とりあえず座れ」

「う、うん!」

対面するようにソファに座ると、しばらく沈黙が流れる。…………気まずい。

すると空気を切るように、コンコンとノック音が響く。助かったと思って、日色は「入ってくれ」と言う。

ランコニスが茶菓子を用意して来てくれたのだ。

「では、ごゆっくり」

「じゃ~ね~、ヒイロ兄!」

ランコニスとレンタンは、そそくさと部屋から去って行った。若干ランコニスが、後ろ髪を引かれるような表情をしていたので、これからイヴェアムが話す内容に少し興味があるのかもしれない。

「ほう、このクッキー、美味いな」

「あ、本当ね。ほんのり甘くて、この紅茶にも良く合うわ」

少しだけ彼女から緊張が解けたように思える。茶菓子さまさまだ。イヴェアムが紅茶で喉を潤した後、意を決したように真っ直ぐ日色の瞳を見つめてきた。

「……あ、あのね、ヒイロ」

「あ、ああ」

「……その…………た、楽しみよね、大会!」

「……は? 大会? ま、まあな」

「そ、それでね……その……、大会中って、出店とかいろいろ出るじゃない?」

「そうらしいな」

「えとね……その時にね……そのね……」

何となく彼女が言いたいことが分かった。だがここは口を挟まない方が良いと思い、彼女からの言葉を待つ。

「……もし、良かったらなんだけど……、い、い、一緒に回らない?」

「別に構わんぞ」

「ほ、本当っ!?」

「あ、ああ」

テーブルを超えて顔を近づけてきたのでつい驚く。イヴェアムも顔が近過ぎだということに気づき、真っ赤になりながら「ご、ごめん!」と言って距離を取る。

「えと……ほ、本当にいいの?」

「ああ、出店には美味い食べ物屋も出るし、当日はどうせニッキたちにも連れ出されると思うしな」

「え……?」

「それにミュアやミミルたちにも一緒に回ろうと言われてるし、お前の要望を断る理由は……って、何でそんなに不満そうな顔をしているんだ?」

見ればハリセンボンが膨らんだような顔をしているイヴェアムがいる。

「べ、別に! そうよね、ヒイロはモテるもんね!」

「……もしかして嫉妬か?」

「っ!? そ、そそそそんなこと女の子に聞くなんてデリカシーがないわよ!」

「そんなこと言われてもな。お前が不機嫌な理由はそれしか見当たらないし」

「そ、そ、そうよ! 私よりも先にミュアたちと約束していることに嫉妬してるわよっ! これで満足!?」

「……逆切れだろそれ」

「逆切れでいいもん!」

「あのな、お前とも回るんだから別にいいだろ?」

「……だったら二人っきりでいい?」

「オレとしては全員で回った方が効率が…………いや、二人でもいいぞ」

全員でと言った時に、彼女の背後からどす黒いオーラを感じて、思わず提案を撤回させられてしまった。

「言ったからね! 二人っきりだからね!」

「……はぁ」

「ちょっと、何で溜め息なのよ!」

「いや、そんなにオレと回りたいものなのか?」

「だ、だって…………告白したじゃない……」

「そ、それはそうだったが……」

「……ぁぅ……」

またも気まずい沈黙が場を支配する。

(……まあ、今更コイツと二人で出かけること抵抗はないけどな)

確かに告白されている状況を思えば、少し気恥ずかしさはあるが。

「……ま、時間ができればいいと思うぞ。でも当日はお前は国の代表だし、オレだって【太陽の色】の代表の一人でもある。互いに空いている時間がないかもしれないぞ?」

「そ、それは大丈夫よ! 意地でも作るから!」

「ひ、必死だな」

「必死にもなるわよ。これからはミュアやリリィンだって積極的に行くだろうし。ここで置いて行かれるわけにはいかないもの」

「何か言いたいならハッキリ言えよ?」

ブツブツと呟き声だったので聞き取りにくい。

「べ、別に何でもないわ! とにかく、時間を作るからヒイロもお願いね!」

「ああ、分かった」

「二人っきりだからね!」

「分かってる」

「本当だからね!」

「くどい奴だな。オレは一応約束は守る男だぞ」

「そ、そうだったわね。……いきなりこんなこと言ってごめんね。でも私は……」

申し訳なさそうに顔を俯かせるイヴェアムに対し、日色は苦笑を浮かべる。

「気にするな。オレもまだ答えを出してないんだ。恋愛はよく分からんからな」

「い、いいのよ! いつか分かってくれれば! そ、それに私が正妻だっていうなら、少しくらい浮気だって許してもいいってぐらい好き……なんだし」

「……? おい、だから何言ってるか分からんのだが?」

「い、いいの! じゃ、じゃあ私は客室に戻るわね!」

グイッと紅茶を呑んだイヴェアムは、紅潮したままの顔で部屋から出て行った。

「……何だったんだ……?」

女というのはよく分からないなと思ってしまう日色であった。

――――一か月後。

万民が楽しめるように造られた【太陽の色】では、初の特大イベントが開催されようとしていた。

――“アウルム大祭”――

【イデア】に住む者たちが集い、笑い、泣いて、競い、苦しみ、そして楽しむために日色たちが企画した前代未聞の大会。

今まさにここ【太陽の色】は、人一色になっていた。出店が立ち並び、多くの人で賑わいを集めているし、《アウルム大博物館》には長蛇の列ができている。

そんな博物館の展望台から、此度の大会の主催者であるリリィンが眼下に広がる者たちに向かって言葉が放たれた。

「クハハハハハハ! 見ろヒイロ! 人がまるでゴミうぶっ!? な、何故頭を叩くのだ馬鹿者ぉ!」

「お前な、《拡声器》を持ちながら変なことを喋るな。悪の魔王かお前は」

「何を言う! ワタシはつい思ったことを口にしただけだ!」

「……はぁ、とにかく挨拶をしたらどうだ?」

「むぅ……分かっておるわ! おほん! 皆の者、本日はよく集まってくれた! 感謝するぞ! こうしてこの日を無事に迎えることができたのも、これまで尽力してくれた者たちのお蔭だ」

おお、意外とまともなことを言うと日色は感心した。

「本日から一週間は祭り一色だ! 大いに笑い、大いに湧き、大いに楽しんでくれ!」

観客たちが耳をつんざくほどの歓声を上げている。彼らもまたこの日を楽しみに待っていたのだろう。

「ただしっ! 一つだけ忠告しておくことがある!」

ん? 何だ? と日色も彼女の隣で首を傾げる。

「いいか! もしこの大会を汚そうなどと企む奴がおれば―――――頭の中身をグチャグチャにしてやるからな?」

ゾーッと観客たちがリリィンの放つ殺気に当てられて青ざめている。

「ワタシの【太陽の色】でバカなことをする輩は決して容赦はせん! 生きていることを後悔させるような拷問を一生涯に渡って続けてやるからそのつもりでいろ!」

日色は長い溜め息を吐く。

(やっぱりろくな開催宣言にならなかったな。客が完全に引いてしまってる)

まあ、彼女の気持ちも分からないではないが、これから楽しい日が始まるというのに、いきなりビビらせるのはどうだろうか……?

「おほんっ! だが純粋に楽しんでくれる者には、我々も精一杯それに応えようではないか! 貴様らぁっ! 楽しみたいかぁっ!」

歓声が飛ぶ。

「声が小さいっ! もう一度ぉ! 楽しみたいかぁっ!」

博物館がビリビリと揺れるほどの歓声が響き渡る。満足気にリリィンが笑みを浮かべる。

「ではここに、第一回“アウルム大祭”を開催するっ!」

少し前までは、このような光景が見られるとは誰もが思っていなかっただろう。

『人間族』・『獣人族』・『魔族』・『精霊族』。互いに憎しみ合っていたり、不干渉を決め込んでいたりと、手を取り合うことなどなかった。

それが数千年以上も続いてきたのだ。先人たちが、今のこの状況を見れば卒倒するほどの異常なことなのかもしれない。

しかしここには笑顔がある。それだけだ。それが一番であり、それこそ求めていたものだった。

日色の頭の上にチョコンと乗っているイヴァライデアも、嬉しそうに頬を緩めながら、眼下に広がる光景を眺めている。

「ねえ、ヒイロ」

「あ?」

「……わたし、生きてて良かった」

「…………そうか」

それは暗に、【イデア】の新たな姿を見ることができて、という意味が込められているのだろう。平和を願い、掴もうとしていた彼女だが、結局自分の手ではどうしようもなかったイヴァライデア。

紆余曲折はあったものの、幸せそうに笑う民たちを見て、イヴァライデアは嬉しいのだろう。この世界の神として、喜ばずにはいられないということだ。

「さて、ヒイロ! 本格的に大会が始まるのは明日からだ。貴様はどうするつもりだ?」

「そんなことは決まっている。出店で売ってる食べ物をコンプリートだ」

「フン、貴様らしいな。では仕方ないから、ワタシもついて行ってやろう」

「それはいけませんね、お嬢様」

「げっ、シウバ!?」

どこからともなくリリィンの背後へと姿を現した彼女の執事シウバ。

「開催宣言が終われば、明日の《イデアコック王決定戦》の打ち合わせがあると申されたのはお嬢様でございます」

「う……し、しかし少しくらい」

「主催者として、立派にお勤めを果たされる方がよろしいかと」

「くっ……うぅ…………ええい! 分かったわっ!」

「それでこそお嬢様でございます! ノフォフォフォフォ!」

不満気に口を尖らせたリリィンは、日色を名残惜しそうに一瞥してからシウバとともに去って行く。

(アイツも楽しみたいんだろうが、主催者としては仕事をこなす必要があるからな)

自分が主催者にならなくて良かったと心底思った。

「それでヒイロ、どうするの? 一人で行くの? まあ、わたしもいるけど」

頭の上からイヴァライデアが聞いてくる。

「いや、ミュアとウィンカァに声をかけられてるからな」

「おお~両手に花だね」

「まあ、余計なチビ神もいるがな」

「ぶぅ、どうせわたしは小さいですよーだ」

日色はミュアたちと待ち合わせをしている場所へと向かった。

「――あ、ヒイロさん!」

待ち合わせ場所には、ミュアとウィンカァ、それにウィンカァの相棒であるハネマルがいた。さらに……。

「おい、遅えぞ、ヒイロ!」

ミュア至上主義のロリコン筋肉質男――アノールド・オーシャンもいた。

「オッサンもいたのか」

「おうよ! お前だけに二人を任せるのは不安だったしな! きっとお前のことだ、ミュアとウイの溢れる魅力に欲望を刺激されて、人気のない路地に連れ込み……ああっ! ぜってーそんなことはさせねえからなっ!」

「大会初日から頭の中が沸いてんのか、変態野郎」

「何だとコルァァァッ!?」

「あ、あわわ、人気のない路地にヒイロさんと……っ!?」

「ん……どうしたの、ミュア? 顔、真っ赤」

「あうぅぅぅっ!?」

ウィンカァに尋ねられて、真っ赤に染まった顔をさらに紅潮させるミュア。両頬に手を当ててモジモジとしている姿はなかなかに可愛らしい。少し危ない人にも見えるが。

「とにかくあ、アホなオッサンは放置してさっさと行くぞ。美味い食べ物がなくなるかもしれんしな」

「あ、コラッ! 待ちやがれ、俺を置いていくなってのっ!」

後ろからアノールドが必死に追いすがってくる。

出店の周りは人、人、人、人、人。

「そういや、思い出さねえか、ミュア?」

「え? 何を?」

「前にこのパーティで【サージュ】の祭りを体験したろ?」

「ああ! そういえばそうだったね! あの時も人が多かったなぁ」

確かにアノールドの言う通り、以前人間界を旅していた時に国境の街である【サージュ】という場所に行ったことがあった。

そこでは夏祭りが開催されており、このパーティで楽しんだことを思い出す。

「このパーティで行動するのも久しぶりだよなぁ」

「そうだね。また旅でもしたいね、ヒイロさん!」

「え? オッサンもか?」

「はあ!? 何その余計なものがいるんですけど的顔は!?」

「お、人の考えが読めるとは、成長したなオッサン」

「認めるのかよっ!」

「ちょ、落ち着いておじさん! ここは人ごみの中なんだからぁ!」

「あ、ああ、すまねえミュア。しかしコイツとはいつか決着をつけなきゃならねえと思ってたところだ」

「ほほう」

「ヒイロ! 俺とアレで勝負だぁぁぁっ!」

ビシィィッと彼が指を差した先にあるのは――――射的だった。

「アレでどっちが多くの景品を取るか勝負だぜ、この横柄な眼鏡野郎め!」

「面白い。なら格の違いってものを見せてやろう、ド三流の駄犬が!」

「はぅ!? み、見える! わたしには見えるよ! ヒイロさんの後ろには炎を纏った巨大な眼鏡、おじさんの後ろには青毛のワンちゃんが!?」

「…………ミュア、何言ってるの?」

「クゥン?」

「えと……わたしも何言ってるんだろう……?」

ミュアは自嘲するかのように苦笑を浮かべている。それをウィンカァとハネマルがコクンと首を傾げながら見つめていた。

店主は日色の顔を見て恐縮していたので疑問に思ったが、自分を知っているなら、その態度も納得できる。何せ博物館で像にもなっている存在なのだから。

「見てろよぉ~! こんなもん、一発であのドデカい景品ゲットだぜ!」

アノールドが射的用の銃を構えて撃った。弾は真っ直ぐに、景品の中央へと吸い込まれて―――バチンと弾かれた。

「あ、あれ? 当たったよ……な?」

「フッ、考えなしに撃つからだ。こんな小さな弾で、普通に狙ってあんなデカい景品が落とせるわけがないだろ。少しは考えろよバカ」

「な、何だとぉぉぉ!」

「射的は、こうやるんだ!」

日色もアノールドが狙っていた巨大景品に向けて発射。しかし狙いは左上ギリギリ。

(確かに図体はデカいが、こういう場合は端を狙えば、大きな反動が得られる。その反動を利用しつつ、再び第二射、第三射でトドメを刺す!)

弾は日色の思惑通り、景品の左上部に向かって突き進み、そして――――スカッ。

「……へ?」

掠りもせずに景品の脇を通り過ぎてしまった。二発三発撃っても掠りもしなかった。

「ブハハハハハハハハハハハッ! なぁぁぁにが射的はこうやるんだ、だよ! 外してんじゃねえか! このバ~カバ~カ!」

バカの言うことを無視して、再度発射を試みる。しかしまたも当たらない。次も、その次もだ。

「くっ……これは……理屈じゃない!?」

まさかこうまで射的が難しいとは思ってもいなかった。

「フフン! 見てろヒイロ! 今度こそ射的の真髄を見せてやらぁ!」

しかしアノールドもまた何発景品の真ん中に入れても、景品は軽く震えるだけで終わる。

「何だよコレェッ! まさか親父ィッ! インチキしてんじゃねえだろうなぁ!」

とうとう店主にまでイチャモンをつけはじめたアノールド。

「……オッサン、店主に当たるとは情けないな」

「何だと!? ならお前には景品を取れるっていうのかよ!」

「愚問だな! オレには、《文字魔法》があることを忘れたか!」

「あっ、汚えぞそれはっ!」

「いくらでもほざけ! これもオレの力で――って、何だミュア?」

クイクイと服を引っ張ってきたので尋ねると、ミュアはある場所に指を差す。そこには小さな立て看板があり、

“魔法や《化装術》、その他、異能を含む手法は禁止”

「……あ」

確かに考えてみればそれはそうだろう。魔法や《化装術》を使えば、この手のゲームで有利に事が運べるのは当然。風でも使って景品を取ればいいのだから。

先手を打たれていたことに気づいてガックリと肩を落としていた日色だが、突然景品がバタンバタンと倒れ始める。

「……え?」

しかも日色とアノールドが狙っていた大きな景品も、弾が当たり揺れ動き、そのまま落下した。やり方こそ日色が思いついたものではあるが、寸分の狂いもなく狙った場所に射撃している。

「ふわぁ~! 凄いですね、ウイさん!」

そう、周囲が湧くほど実力を見せていたのはウィンカァだった。

「ん……簡単」

「ワオワオッ!」

ハネマルも鼓舞するように鳴き声を飛ばしている。

「そ、そんな……ウイに先を越されるとは……!」

「まったくだ……」

アノールドも日色も、もう勝負どころではなくなかった状況の中、ただただ溜め息を吐き出すことしかできなかった。

景品をたんまりもらったウィンカァは、アノールドに持ってもらっている。

「む? あの人だかりは何だ?」

日色の視線の先にできている人の群れ。看板を見ると、

《ほくほく! ギフト焼き芋!》

と書かれてある。

「へぇ、《ギフト焼き芋》かぁ」

「知ってるのか、オッサン」

「ああ、《ギフト焼き芋》ってのは、別名《ミラクル芋》って呼ばれてるんだけどよ、何でそんな呼び名がついてるのかってーと、意図して栽培することができねえからだ」

「ん? どういうことなの、おじさん? それじゃ自然に作られるってこと?」

「《ミラクル芋》ってのはな、元々は獣人界のある地域で、この時期しかとれねえ《ラーヴァ芋》の中でも偶発的に生まれる稀少食材なんだよ」

「偶発的?」

日色が聞き返すと、アノールドが一つ頷き続ける。

「つまり、その時の気象状況とか、土の環境や作られるタイミングとか、その他もろもろが、偶然に最高の状態になった時、稀に一本か二本ほど生まれるんだ。まさに奇跡――だから《ミラクル芋》って呼ばれてんだよ」

「なるほどな。《ギフト》――まさに神からの贈り物に近い奇跡ってことか」

「そういうこと。俺も前に旅してた時に一度食べさせてもらったことがあるけど、それはもう全身が蕩けるんじゃねえかってくれえ美味かったぜ~!」

アノールドは思い出しているのか、にこやかな笑顔を浮かべながらウンウンと頷いている。

「よし、ウィンカァ、ハネマル! 絶対ターゲットを手に入れるぞ!」

「ん……任せて、ヒイロ」

「ワオンッ!」

食いしん坊チームが動き出す。

(食べたい! 絶対食べたい! 食べないと後悔する!)

列に並び、今か今かと《ギフト焼き芋》を待ち望む日色。列が進む度に、強烈な甘い香りが鼻腔をくすぐる。これほどまでの香ばしい芋の香りは初体験だ。

ウィンカァとハネマルは、日色の隣で涎塗れになっている。もう腹の準備はできているようである。

だが並んでいると、日色の存在に気づいた客たちが段々騒ぎ始めた。握手を求めてきたり、サインを求めてきたりする。

無論面倒なので全部無愛想に断るが、女性たちは何故か「クールでカッコ良い!」や「冷たい君も素敵!」などなど、日色に愛想をつくどころかさらに燃え上がっている。

それを見てミュアが何だか不機嫌そうだが、アノールドが必死に宥めているようだ。

しばらく並んでいると、ようやく日色たちの番がやってくる。

(良かった、売り切れになってない!)

不安ではあったが、間に合ってよかった。

「おお! お客さん、運が良かったね! もう残り少なくなってたんだよ……って英雄様ぁぁぁぁっ!?」

日色の顔を見て店主が愕然とする。世界を救った英雄が自分の店に現れるとそうなっても仕方ないが、

「おい店主、驚くのは後にして、早くくれ」

「あ、ははははい! い、今すぐに!」

そうやって日色たち一人ずつ《ギフト焼き芋》を貰った。無論金は払って。

銀紙に包まれている芋を手に持ち、「あちちち」と言いながら、中身を露わにさせていく。

すると中から真っ赤な色づいた皮に包まれた焼き芋が姿を現す。湯気とともに芋の甘い香りが腹の虫を刺激してくる。

(真っ赤な皮ってのも珍しいが、ニオイだけでもこれはもう美味いだろ!)

ゴクリと何度も喉が鳴る。というか唾液の分泌が止まらない。もう我慢ならなくなって、そのままかぶりつく。

瞬間、脳天を突き抜けるような味が身体を震わせた。

「んむっ!? こ、これは――っ!?」

アノールドが蕩けるといった意味が分かった。まるで蜜を溶かして芋全体に塗りたくっているような光沢と、その蕩ける甘さ。いや、もう芋全体が蜜で構築されているかのように、トロトロである。

しかもそれはマグマのように真っ赤に染まっており、食欲をそそってくるのだ。

「おいしい~!」

ミュアも気に入ったようではふはふと言いながら食べている。ウィンカァとハネマルは、何も言わずに一心不乱に芋に齧りついているようだ。

「むほぉ~! 久しぶりに食べたが、やっぱりサイコーだよな、《ギフト焼き芋》! おいヒイロ、どうだ?」

「……ああ、これは素晴らしいものだ。まさかこのような食材が埋もれていたなんてな」

「ハハハ! だろ? こうやって《焼き芋》にして食べてもいいが、《スイートポテト》にするのもぜってー美味いぜ!」

それはいい。今度手に入れたら是非作ってもらおうと日色は思った。

「ヒイロさん、おいしいですね!」

「ああ、ミュアも気に入ったようだな」

「はい!」

「……ん?」

「どうしました?」

「ついてるぞ」

「ふぇ……!」

日色はミュアの頬近くに芋の欠片がついていたので、それをとって自分の口へと運んだ。

刹那、ボフッとミュアの顔から芋のような湯気が迸る。

「あわわわわわっ!? ヒ、ヒヒヒヒイロしゃんっ!?」

「あ? 何だ、お前が食べたかったのか? 結構欲張りなんだな」

「ち、ちちちち違いましゅぅぅっ!」

だったら何故そんなに顔を真っ赤にしているのか。日色は首を傾げながら自分の芋に集中する。

「むむむぅ~! あのクソ眼鏡めぇぇ~。俺のミュアにィィ~!」

若干親バカ一名が何か言っているが、日色は無視して芋を堪能する。

「ふわぁ、何だかいいニオイ……」

「お、起きたか、イヴァライデア」

懐で眠っていたイヴァライデアが目を覚ました。チョコンと日色の肩に乗ると、視線を芋へと落とす。

「……おいしそう」

「…………」

「……甘そう」

「…………」

「……ゴクリシャス」

「何だそのゴクリシャスというのは……」

「別に……何となく」

「はぁ。ほら、少しだけな」

芋を彼女に近づけてやる。イヴァライデアも嬉しそうに微笑むと、ガブッと芋に齧りつく。

「はっふはっふ……んぐ。……うん、とってもおいしい」

「そりゃ良かったな」

「はぅ!? イヴァライデア様、ヒイロさんの食べかけを……! う、羨ましい……!」

ミュアが小声で何かを言いながら、チラチラと日色の芋を見つめてくるので、「欲しいならもう一つ買ってきたらどうだ?」と言うと、「そ、そういうことじゃないんですけど……」と不満げに口を尖らせていた。

「ヒイロは、乙女心……分かってないね」

「だからオレは男だって言ってるだろ?」

「ん~そういう意味じゃないんだけど。まあいいや。お芋、ありがと。また少し眠るね」

そう言って懐に入ると、イヴァライデアはまた眠りについた。

「あっ、ミュア! そろそろ時間だぜ! 明日の大会の準備をしねえと」

「もうそんな時間かぁ」

アノールドとミュアは、明日の《イデアコック王決定戦》に出るらしいので、その準備があるようだ。

「ウイも、手伝う」

「ワオ!」

「ハネマルも、だって」

「ありがとうございます、ウイさん! ハネマル!」

「んじゃ、ヒイロ。また明日な!」

「ああ、明日は楽しみにしてるぞ」

「おうよ! ぜってー優勝してみせるぜ!」

いや、優勝など望んでいない。ただ美味いものを食べさせてくれれば、日色はそれだけで満足なのだ。

「ヒイロさん、その……」

「何だ、ミュア?」

「ま、また時間があったら、一緒に回ってくれますか? こ、今度はその……二人っきりで」

「いいぞ。断る理由もないしな」

「あ、ありがとうござます! えへへ」

「明日は頑張れよ」

「はい! それでは!」

そう言って満足げにミュアたちは離れて行った。

「さてと……」

日色は次に向かうべき場所があるので、そちらへ急ぐことにした。

日色が向かった先は《アウルム大博物館》の入口である。途中何度も握手やサインを強請られたので、鬱陶しくなって『化』の文字で人間から獣人の姿へと変化しておいた。

以前獣人界を旅していた時は、ミュアの姿を参考にして銀髪獣人だったが、それだとバレる恐れもあったのでウィンカァを参考にした黄色い髪の獣人にしておいた。

無論着用している赤ローブの色も白へと変色させて日色だと分からないようにする。

「……ヒイロさま」

博物館の前で立っていると、聞き慣れた声が耳に入ってきた。その人物と目を合わせると、相手はホッとしたように笑顔を作る。

「あ、やっぱりヒイロさまでしたね。少し変わっていましたので驚きました」

そこにいたのは【獣王国・パシオン】の第二王女であるミミル・キングだった。

「お前こそ、よくオレだと分かったな」

多分分からないだろうから、こちらから探そうと思っていたところだった。

「どのようなお姿になろうと、ヒイロさまならミミルは一目で分かります」

大した観察眼だと感心する。

「え……ホントにヒイロ……なの?」

ミミルの隣で疑わしそうに見つめてくるのは、ミミルの姉――ククリアである。

「そうだ。周りの連中が鬱陶しいからな。一種の変装だ」

「あ~なるほどね。ま、ヒイロの立場ならしょうがないと思うわ」

「そんなことより、ニャン娘も来るとか言ってなかったか?」

ニャン娘――クロウチ(本名・シロップ)も、この時間に一緒に出店を回る約束をしていたのだ。まあ、約束というよりは、ミミルたちに便乗すると言っていただけだが。

「えと……仕事があるとプティスさんに連れて行かれました」

「なるほどな。アイツも人の上に立つ奴だしな。忙しいんだろ」

「まあ、アタシたちもそんなに時間ないけど、初日のこの時間帯なら大丈夫だったしね」

「んじゃ、さっさと行くか。時間が惜しい」

三人で出店を回ることにした。

「これほどの人が集まるなんて、さすがはお祭りよね~」

「そうですね。あっ、クーお姉さま、あれは何ですか!」

「え? ああ、あれは《プラチナ綿あめ》よ。食べてみる?」

「はい!」

「おう」

「…………ヒイロには聞いてないんだけど……」

「ケチなことを言うな。王女の名が廃るぞ」

「そんなんで廃れないわよ。まあいいわ、ちょっと待ってなさい」

そう言ってククリアが、店に出向き白銀の雲を割り箸に巻いた《プラチナ綿あめ》を買って来てくれた。

「ふわぁ~、とっても甘いです~!」

「ホントね! この砂糖の甘味と、《プラチナアップル》の仄かな香りが絶妙だわ」

ククリアの説明では、《プラチナアップル》の果汁を、霧吹きで《綿あめ》にまぶしているらしい。

「だから仄かにリンゴの香りがするわけか。なるほどな、これは甘さだけでなく、微かな酸味も加わって新感覚の《綿あめ》になってるぞ」

見れば、ミミルも美味しそうに口周りに《綿あめ》をつけている。するとまた彼女が何かに気づいたようで指を差す。

「あれは何でしょうか!」

日色とククリアが同時にミミルの指が差す方向へ視線を送る。

「ほう、この世界にも《金魚すくい》があるとはな」

大きな水槽の中には赤い小さな魚が泳いでいる。

「違うわよ、ヒイロ」

「は?」

「あれは――《クマノミミすくい》よ!」

「……くまの……みみ?」

「今、動物の熊の耳を想像したでしょう?」

……考えを読まれた。

「その通りよ!」

「その通りなのかよ!」

「見てみなさい! 泳ぐ魚たちの頭部を!」

ビシッとククリアが大きな水槽の中を気持ち良く泳ぐ《クマノミミ》を指差す。

「彼らの頭部には、まるで熊の耳のような丸っこい耳がついてるでしょ!」

「た、確かにな……!」

彼女の言う通り、魚にはありえないはずの大きな二つの丸い耳がついている。それはまるで熊の耳のよう。

「だから《クマノミミ》と呼ばれるようになったのよ。寿命が長くて、川に多く生息していることから、こういった祭りでは結構メジャーに扱われている魚たちなのよ」

「クーお姉さま、物知りです!」

「まっかせなさい! 伊達に勉強はしてないわよ!」

彼女は今、ララシークとユーヒットと一緒に研究を行っているらしい。戦いは向かない彼女だが、ユーヒットたちのように人のためになる研究をして、民たちを支えようとしているとのこと。

物覚えも良く、勉強家なので、近いうち、もしかしたら一角の研究者として名を馳せることになるかもしれない。

「やってみる、ミミル?」

「えと……いいのでしょうか?」

「いいっていいって。おじさん、一回お願いね」

「あいよ~」

気軽に声をかけたククリアが、お金を渡してポイを受け取る。

「いい、ミミル。これで泳いでる《クマノミミ》をゲットするのよ」

「これって紙……ですよね? 水につけたら破れそうです」

「大丈夫よ。ゆっくりとやれば破れないわ。でもあまり暴れそうな魚はダメよ。大人しそうな相手を見極めるのよ」

「は、はい!」

ミミルはゴクリと喉を鳴らすと、ジ~ッと水槽の中を観察し始める。ククリアも一緒になって隣に座り眺めているので、その間に日色も、店主に金を払ってポイを一つもらう。

(《金魚すくい》か、何気に初めてだな)

本格的な祭りというものを経験したのも、この世界に来てからなのだ。日本にいた頃は、人ごみが嫌なのと、面倒なので行かなかったのである。

「えいっ! あっ……」

「あ~あ、破けちゃったわね。だから言ったでしょ、優しくって」

「うぅ……難しいですぅ」

「ちょっと見てなさい。おじさん、アタシにも一回ね」

金とポイを交換したククリア。その獰猛な瞳は、まさに獲物を狙う狩人。しかしその殺気がいけなかった。ククリアの殺気を敏感に察知した《クマノミミ》たちは、彼女の前から離れていく。

「ちょ、ちょっと、コッチきなさいよぉ!」

「クーお姉さま、頑張ってください!」

「任せなさい! 必ずアタシが仕留めてやるわよ!」

《獅子族》である彼女の睨みは、か弱き魚たちには恐怖にしかならず、完全に警戒されてしまって彼女に近づいていかない。

「もう! 何でよ! コッチきてよぉ!」

バシャバシャとポイで水面を叩くククリア。そんなことしたら……。

「あっ……や、破れちゃった……」

当然の結果である。

「あ、あはは、ごめんね、ミミル。失敗しちゃ……って、何見てるの?」

ミミルが食い入るようにある場所を凝視している。いや、彼女だけではなく、周りにいる者たちもだ。ククリアも、同じ方向に視線を巡らせると……。

「ほい、ほい、ほい、ほい、ほい」

まるでタコ焼きをひっくり返すが如く、素早くポイを水の中に入れて、泳ぐ《クマノミミ》たちを、手に持った受け皿に入れていく日色。

もう受け皿の中は、《クマノミミ》たちで溢れ返っている。

「な、ななななな……っ!?」

当然ククリアはあんぐりと口を開けてしまう光景だろう。惨敗した彼女からしたら、日色の手際は見事としか言いようがないはず。

「っとと、三十二匹目で破れたか」

「す、す、凄いです、ヒイロさまぁ!」

「やってみると結構簡単だったな。ミミルは取れたのか?」

「あ、いえ……残念ながら難しくて」

「そうか。ククリアは……って、聞くまでもないか」

「うっ、そ、そうよ! どうせ坊主だわよ!」

涙目で怒鳴ってくる。別に悪気があって言ったわけではないのだが……。

「ほれ、ミミルにやるよ」

「へ? い、いいのですか?」

「ああ。オレは飼うつもりはないからな。お前が飼うならやるよ。飼わないなら、このまま戻すが」

「いえ! ヒイロさまからのプレゼントです! 誠心誠意込めて育てさせて頂きます!」

「そうか? まあ、でもさすがにこれは多いから、五匹くらいでいいか」

そう思い、大きめで長生きしそうな《クマノミミ》を選出してミミルに渡した。

「ありがとうございます、ヒイロさま!」

「気にするな、オレも結構楽しめた」

称号に《掬い王子》というのが刻まれていそうだ。

「あ~悔しい! ヒイロに負けるなんてぇ!」

「ク、クーお姉さまにも感謝していますよ! ミミルのために頑張ってくださったのですから!」

「ミミル…………そうね、あなたが喜んでくれたのならいいわ。癪だけど、《クマノミミすくい》は負けを認めてあげるわ、ヒイロ」

「というか、最初から勝負などしていなかったはずだが……?」

「よし! 次はくじ引きで勝負よ、ヒイロ!」

聞いちゃいない。彼女の目はもう勝負の光しか宿していないようだ。こういうところは、死んだレオウードにそっくりだ。

「めんどくさい奴だな……」

「ごめんなさい、ヒイロさま。ですが、もしよろしかったらお付き合いください。クーお姉さまが凄く楽しそうなので、ミミルも幸せです」

「……仕方ないな」

それからククリアといろんな勝負をしたが、結果的に日色が勝つことになり、ククリアはその夜に枕を濡らしたとか濡らしてないとか。それはまた別の話。