軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22:月光の力

「くっ! キャンセルだ!」

即座に文字をキャンセルする。発動さえしなければいつでもキャンセルはできるのだ。しかし一度書いた以上、魔力は確実に消費してしまう。

それにこんなふうに真っ直ぐしか飛ばせないので、一度避けられると、また新たに文字を書かなければならないのでリスクが高いという問題もある。

一度書き終わった文字は連続して書けないという制限が今までにはあったが、《多重書き解放》のお蔭でそれは無くなっているので本当に助かる。

再び同じ文字を書こうとしたところ、ウィンカァが右腕を伸ばしながら突進してきた。

(マズイッ!)

咄嗟にその場から横に跳ぶ。

背後にあった岩壁に彼女は攻撃を加えることになったのだが、壁の様子を見てギョッとした。 抉(えぐ) り取られたかのように大きな穴が壁に開いていた。

(おいおい、あんなものくらうわけにはいかないぞ!)

自分が受けたらと思い日色はゾッとする。

今のは直線的な動きだったので、予想して避けることができたが、フェイントや多彩な動きをそこに混ぜられると恐らく反応などできない。

これは一刻も早く彼女を無力化しなければならない。このままではいずれ彼女一人に全滅させられてしまう。

「おいオッサン! 生きてるか!」

視線はウィンカァの方に向けながらもアノールドの名前を呼ぶ。正直言って一人では彼女の相手はキツイのだ。

幾ら万能でチートな魔法を持っていると言っても最強ではない。

いろいろ制限もあるし、何より使用するのは生身の人間だ。レベル差がある相手とタイマンするのは分が悪過ぎるのである。

だからここは是が非でも協力者が必要になってくる。アノールドは「痛てて」と呟きながらも上半身を起こし日色に目を向けてきた。

「いいかオッサン、二人でアイツを止めるぞ!」

「ふぃ~こりゃしんどいな」

アノールドもウィンカァの強さを実感して、うんざりという感じで溜め息を漏らしている。

「まさかウイがこんなに強えとはな。《獣覚》してるって言っても、オレだって普段より身体能力が上がってるはずなのにな」

そう、満月の夜は獣人たちは力がUPする。それはアノールドも例外ではない。それなのに、ウィンカァは軽く圧倒した。だから驚愕なのだ。

「それによぉ、普通のハーフが幾ら暴走したってあんなに強くはならねえぞ。どうなってんだよホントまったくよぉ……」

あんな小さな身体でも、さすがはレベル77だということなのか日色は心底驚嘆する。やはりこの世界において、レベルは重要なファクターのようだ。

「でもいいかヒイロ、相手はウイだ。殺すわけにはいかねえぞ?」

「そんなこと言って、こっちが殺されなければいいがな」

二人は防御のために武器を構えた。ウィンカァはそんな二人を見て、また楽しそうに口を三日月形にする。

そして一瞬にしてその場から彼女の姿が消失した。

「……え?」

思わずポカンとしてしまったが、ふと頬に風を感じた。目だけを動かして右の方を確認する。

そこにはかろうじて剣の腹で防御態勢をとっているアノールドと、そのアノールドに攻撃をしていた彼女の姿だった。

(は、速過ぎだろ!?)

よくアノールドが反応できたものだと感心した。実際のところ、アノールドも彼女が消えたように見てとれていたのかもしれない。

防御できたのはただの防衛本能が無意識に働いたからという可能性が高い。

今の攻撃でアノールドが吹き飛ばされていてもおかしくは無かった。だがこの状況は好都合。今彼女はアノールドの相手をしていて、体を停止させている。

「オッサン、そいつを離すなよ!」

「え? あ、お前何するつもりだ!?」

『止』という文字を書いて、ウィンカァを止めようとした。そしてすかさず文字を放った。ピタッと触れた瞬間発動する。

「がっ……いいっ!」

だが日色は唖然としてしまう。文字が当たったのはアノールドの持つ剣だった。どうやらすかさず彼女はこちらの気配を察して避けたようだ。

「ん~っ! おいヒイロ何しやがった!? 剣が! 剣が動かねえぞぉぉぉぉっ!」

必死に空中に時を止めたように固まっている剣を必死に動かそうとしているアノールドだが、剣はビクともしない。

「悪いな、一分はそのままだ」

「な、何だとぉぉぉぉっ!?」

アノールドは「何て事をしてくれたんだぁっ!」と怒鳴っているが軽く流す。本当なら今すぐにでもキャンセルしたいが、一度発動すれば効果時間が過ぎるまでこのままだ。

(あの至近距離でも避けられるなんてな……勘が良過ぎだろ)

ウィンカァは日色たちから一定の距離を保って、警戒するように周りを徘徊している。だがそのお蔭で時間を稼ぐことができ、アノールドの剣も元へと戻った。

「ふぅ~、良かったぁ~戻ったぁ。つうかヒイロお前な、何か俺に言うことはねえのかよ!」

「安心しろ。例えオレの魔法に当たっても、元に戻せるものだったらちゃんと……」

話の途中で日色が言葉を止めたので、アノールドは気になり尋ねる。

「お、おいどうした?」

だが日色は答えない。

(……元に戻す……か。今アイツは普通じゃない。異常ってことだ。なら……)

日色は何かを確信したような笑みを浮かべる。

「おいオッサン、奴を元に戻せる方法がある」

「え? そ、それはホントか?」

「ああ、だがそれにはこの文字を当てる必要がある」

そうして『元』の文字を書いて見せつける。

「そ、それがウイに当たれば元に戻せるってのか?」

「直接肌に当てれば確実にな。イメージはバッチリだ」

そう、日色にとって元の彼女のイメージ。それは、のほほんとした無表情っぷりの彼女の姿だ。

「だが問題がある」

「も、問題?」

「さっきから見てたなら分かると思うが、オレは何度かアイツに文字を当てようとしてきた。だがどうしても避けられる」

「そ、そういえば……な」

アノールドも先程のことを思い出すように頷く。

「だからオレはアイツにこの文字を当てることだけに集中する。何とか少しでもいいから、アイツの動きを止めろ」

「…………」

アノールドは難しそうな表情をする。その気持ちは分かる。

今まで 悉(ことごと) く遊ばれているようなものだ。そんな相手の動きを意識して止めるのは、難解過ぎる問題だ。

「今のウイの強さは常軌を逸してやがる。そんなウイでもお前は止められるってのか? 正直、常識的に考えて無理っぽいんだけどな……」

「ふん、そんな常識、歪めてやるよ。オレの魔法でな」

日色の自信の表れに、アノールドは目を見開いたが、すぐに表情を引き締め直す。

「……ホントにそれでウイが元に戻るんだな?」

「ああ」

「…………分かった」

決意を固めたようにアノールドは口を一文字に結ぶ。そしてギッと歯を噛み締める。

アノールドが覚悟を決めて剣の柄を握り締めたその時、背後から声が届く。

「おじさん……」

ミュアだった。

彼女も先程一緒に吹き飛ばされたので、身体に所々傷を負っている。

「ミュア、ここに来るな。下がってろ」

「聞いておじさん!」

「……何だよミュア」

ミュアがあまりに真剣な表情をしていたので、アノールドも一方的に無下にすることができなくなった。

そしてミュアはゴクリと唾を飲み込むと、

「わ、わたしにも手伝わせておじさん!」

揺るぎの無い意志をその瞳に宿している。だが無論それを承諾することなどできるわけがなかった。

「ダメだミュア。今のウイは正気じゃねえ。しかもこの中の誰よりも強え、半端無くな。いくらお前の頼みでも、こればっかりはダメだ」

だがミュアはアノールドと視線を切らすことをしない。そんな彼女を日色はジッと見て黙っている。

「……わたしが弱いのは分かってるよ。だけど、わたしだってウイさんのために何かしたいの!」

「その気持ちは痛えほど分かる。分からねえわけがねえ。お前は優しい子だ、けどな、今のお前じゃ…………足手纏いになっちまうんだ」

最後の言葉をアノールドも本当は言いたくなかった。だがミュアはその言葉を聞いても、覚悟していたように表情は変わらない。

「うん、おじさんの言う通りだよ。でも、ウイさん……泣いてる」

「……は?」

「ウイさん……ずっと泣いてる」

「ミュア……お前……」

ミュアは彼女を悲しそうに見つめる。そんなミュアをアノールドが呆けたように見ていた。

「分かるの……ここに伝わってくるの」

両手を胸のところにもってくる。

「今、ウイさんすごく悲しんでる。辛くて、悲しくて、申し訳なくて……泣いてる」

アノールドは黙ってミュアの言葉を聞いていた。

(ミュアは感受性の豊かな娘だ。それにあの一族の生き残りでもある……ウイの心の声を聞いてるのか……)

そう思い、ミュアを自分の娘として育てると決めた時のことを思い出していた。臆病で、自分の意見も言えないような娘だった。それが旅の中で徐々に変わってきていた。

……強くなってきているのだ。身も……そして何より心が。

こんな時に思うことではないかもしれないが、この娘と旅に出られて本当に良かったとアノールドは思えた。

こんなにも成長するとは思ってもいなかったから嬉しさが込み上げてくるのだ。

(いや、アイツの娘だ、この成長は必然なのかもな)

アノールドは優しげに笑みを浮かべると、ミュアの頭にそっと手を置く。

「……分かった。そこまで言うなら俺はもう止めたりしねえ」

「おじさん!」

嬉しそうにミュアが破顔する。

「けどな、現実戦いになってる今の状況じゃ、お前にできることはねえ」

正論の言葉にミュアはシュンと肩を落とす。だがアノールドが頭を撫でながらニカッと笑うので、ミュアはキョトンとなる。

「けどな、ウイの心に語りかけることはできるはずだ。お前なら……お前の声なら届くかもしれねえ」

そう言うアノールドの顔をミュアはジッと見つめた。本当に自分を信じてくれているアノールドの目だった。だから精一杯の笑顔で答えた。

「うん!」

「よっしゃ!」

二人は何とか問題を解決したようで、ようやくそこで日色は話に入ってくる。

「和やかなムードのところ悪いが、そろそろあちらさんも痺れを切らす頃だぞ?」

「お、おおっと!」

「あ、あわわわ!」

日色の言葉で現実に引き戻されていく二人。再び彼らは、超絶な暴力を備えた少女と相対することになった。

「お、そうだったのね! 確かウィスキー・ジンとか言ったのね」

いまだに壁とお友達化しているナグナラは、同じように壁と抱き合っている部下のペビンに、ウィンカァの名前を聞かれてその名前を口にしていた。

だがペビンは疑うようにただ黙ってナグナラを横目で見ていた。

「な、何なのね!」

「……本当にそのような名前なのですか? お酒じゃありませんかそれ」

「う……そ、そうなのね! ワタシの記憶が正しいのなら、間違いなくウィスキーなのね!」

「怪しいです。とても怪しいです。所長は興味の無いものの名前は、忘れているか、ほぼ確実に間違って憶えているかのどちらかですから」

「あ、あんまりなのね! もう決めたのね! 絶対ペビンはいつかお菓子にするのね! それもミキサーですり潰してペースト状にしたものを固めて、お子様がたに手頃な値段で売り捌いてやるのねぇ!」

「猟奇的な発案と、良心的な発案が混ざっていて突っ込みし辛いです所長」

そんな会話のキャッチボールを楽しんでいる二人の所へ、足音が近づいてくる。そしてその音がピタッと止まる。

「これは……一体何がどうなっているのだ?」

白いローブを身に纏った男が現れた。先程ナグナラと検体確保による報酬の交渉が終わり、その契約書類を作成しに外に待機させてある馬車へと向かっていったのだ。

彼は【ブスカドル】の中に入って行く見慣れない日色たちを見て、中に入って来たという。

しかし来てみればナグナラたちが壁に埋まっているので、その表情は困惑しており、状況を上手く把握できていないようだ。

「おお! その声は…………誰?」

ナグナラは喜び声を上げるが、その男は頬を引き攣らせている。

「例の組織の連絡員ですよ所長」

「ん……おお! そんな奴も来てたのね!」

「だから言ったではありませんか。所長は興味の無いものの名前は、忘れるか、間違って覚えているかだと」

…………………………………………おほん。

誰かの咳払いが聞こえ、まるで一連の会話が無かったかのように話が続けられる。

「それで? アンタたちはこんなところで何を? まさか趣味とかではないよな?」

「そんなわけないのね! ここから出してほしいのね!」

白ローブの男は仕方無く溜め息を吐きながらも二人を壁から引き剥がすことに成功する。

「ふぅ~、助かったのねぇ~」

「ええ、もう壁と仲良くするのはゴメンですね」

「ところで、どうしてこんなことに?」

白ローブの男が聞くと、思い出したのかナグナラは急に顔を真っ赤にして、

「そうなのね! これも全てはアイツらのせいなのね!」

「アイツら? やはり奴らは施設内に入ったんだな?」

「来てるのね! ……あれ? 知ってるのね?」

「ああ、周りをウロチョロしてたからな。一応確かめておくが、その者たちの特徴は?」

ナグナラは突如現れた三人組とウィンカァの特徴を言葉にしていく。するとウィンカァの情報を聞いた男の顔が疑問を顔に浮かべていく。

「その少女……どこかで……」

「知り合いなのね?」

「いや……突然獣人化したと言ったな?」

「はい、しかも麻痺毒で弱っていた体なのに、まるで回復したように動き回り、我々が作ったブラックキメラをいとも簡単に殺しました。それはもう凄まじい光景でしたね」

そうペビンが言うと、男は少し思案顔をして、

「……そう言えば今日は満月だったか……まさか」

男は顔を上げると、左手に持っている馬車で確認していたファイルを取り出しペラペラと捲り始め、その動きをピタリと止め一枚の紙を凝視する。

「特徴、少女、長槍、黄色い髪、胸当てに短パン姿」

確認するようにそう言葉にすると、男の目が大きく開かれる。

「…………ナグナラ所長」

「何なのね?」

「厄介な者を招き入れたようだな」

無論その言葉の意味が分からずキョトンとする。男は呆れたように肩を竦めるとこう言う。

「アンタたちが招き入れたのは、小さな子ネズミなどではなく、猛虎そのものだと言っているのだ」

「ど、どういうことなのね?」

「この紙に書かれている内容の人物ならば、その少女はこう呼ばれている…………《月光》のウィンカァと」

紙をヒラヒラさせながら言う彼を見て、いまだにピンときていないのかナグナラは表情を変えない。

「この少女は我々のターゲットでもあるが、同時に最大の敵でもある」

「お前らの敵? そんなに奴は強いのね?」

「ええ、同胞が何人もやられている。だが、これは僥倖かもしれないな」

「どういうことなのね?」

「いや、私は急用ができた。これで失礼する」

「え?」

ナグナラの言うことを無視して白ローブの男は足早に外へと向かって行った。

「働き者なんですね、あの方も」

「どうでもいいのね」

「まあ、人間界において彼が籍を置いてる組織で出世するのは大きいかもしれませんしね。必死なんでしょう」

「暑苦しいのね、あの組織のどこがいいのかサッパリ分からないのね」

「獣人を忌み嫌い、この世から排除しようと動く獣人排斥集団ですか。自分に言わせれば、人間も獣人も魔人も同価値なのですがね」

「それって研究対象ってことね?」

「当然じゃないですか」

「……やっぱりペビンも変人なのね」

「失礼な。純然たる好奇心が故の行動ですよ」

さもそれが当然かのようにペビンは薄く笑みを浮かべる。

「ま、そのようなことより……これからどうしますか所長?」

「ん~、巻き込まれるの嫌でここまで逃げてきたんだけどね~。けど奴らにワタシの恐ろしさを存分に味わわせてやりたいのね!」

「では参りますか?」

「くふふ~、目に物を見せてやるのね!」

ナグナラの目がキラリと怪しく光った。

「はあはあはあはあ……し、しんど……」

アノールドは先程からウィンカァの攻撃を、全力で防いでいるのだが、

(完全に遊ばれてんなこりゃ……)

アノールドがギリギリで反応できる速度で何度も攻撃して、それをちゃんと防ぐと楽しそうに笑うのだ。まるで子供が玩具で遊んでいるかのように。

だがアノールドにしてみれば命からがらなのである。

(せっかくヒイロに魔法かけてもらったのによぉ)

ウィンカァと戦う前に、日色に『速』の文字を腕に書いてもらった。すると日色の魔力が全身を覆い、急に身体が羽のように軽くなって、普段よりも動けるようにはなった。

こんなことができるとは、やはり日色は卑怯だとアノールドは内心で思った。

しかしそれでも遊ばれてしまっているこの状況。それに日色が言った一分という効果時間ももう過ぎてしまう。

(ホントにすげえ奴だなウイは……)

少しでも気を抜けば、超ド級の攻撃が身に降りかかる。たとえ手加減された攻撃でも、一撃でもまともに受けると戦闘不能必至なのだ。

チラリと日色の方を見ると、日色は早く動きを止めろ的な視線をぶつけている。

ならお前がやってみろと言いたくなるが、最後の一撃を日色に託している以上、諦めずに自分のやることをするしかない。

「ウイさん! 目を覚まして下さい!」

ちょうどアノールドの後方では、ミュアが先程からウィンカァに声を掛け続けている。

声を 嗄(か) らすのではないかと思えるほど張り上げているが、ウィンカァは興味を持たないのか、相手にせずアノールドだけに注意を向けていた。

アノールドにしても、ミュアに興味を示さないのであれば好都合だった。これなら自分は彼女を止めることだけに集中できるからだ。だがまだその糸口が見つからない。

(どうすりゃいい……どうすりゃウイの動きを止められる……?)

だが考えが纏まらないうちに、またも彼女が遊びの一撃を加えてくる。剣の腹でガードして、力一杯押し返す。

「ぐっ……はあはあはあはあ……くそぉ……このままじゃ、こっちの体力が尽きちまう」

幾ら防御しているとは言っても、衝撃は間違いなく剣を通して体に入ってくる。積み重なればそれも大ダメージになるのは当然。息を激しく乱しながら、汗が地面に落ちていく。

(……ん? 地面? 砂……か)

あることを思い付き、大きく息を吸って深呼吸する。

(うし! 上手くいくか分からねえが、試してやるぜ!)

アノールドの雰囲気が変化したことを感じたのか、ウィンカァは頭に生えているアンテナのように立っている髪を揺らす。獣人化しても、トレードマークは健在のようだ。

アノールドは両手で剣を握り締め、意識を剣に集中する。すると周囲から風が集まり、剣に集束し始めた。自身が持つ大剣が次第に風を纏って大きくなっていく。

それでも一回りくらいだが、確かに巨大化していた。さらに纏っている風が、小刻みに震えているかのようにブレて見える。

(高速で振動してる……のか? それとも風が高速で動いてる?)

日色は確認してみるが、どういう原理でそうなっているのかは把握できていない。だが恐らく攻撃力や防御力は向上してそうな感覚は覚えた。

アノールドは緊張した面持ちでウインカァを見つめながら、クイクイッと剣先を動かして、彼女を挑発するような行動をとっている。

(何する気だオッサン? もう一分は過ぎてしまったぞ?)

『速』の文字で彼の体を覆っていた青白い魔力はもう消えてしまっていた。

アノールドが何かをしようとしているのは分かるが、彼の追い込まれている表情を見ると、どうやらこれが一発勝負、その一撃に全てを込めようとしているようだ。

恐らくだが失敗したらそれ相応の隙が生まれるような技なのかもしれない。そしてその隙をついて攻撃をされたら間違いなく戦線離脱状態に落とされる。

思わずアノールドの姿を見てゴクリと喉を鳴らす。そしてウィンカァも挑発されたことにしっかり反応したようでニヤッと笑うと、真っ直ぐに彼に向かって突進する。

地面が爆発したような踏み込みでも分かるように、凄まじい速さを生んでいた。

アノールドはカッと大きく目を見開くと、巨大化した剣を大きく振りかぶり、そのまま勢いよく振り下ろすが、その攻撃は彼女には向いてはいなかった。

――ドゴォォォッ!

彼がその剣の威力をぶつけたのは地面だった。しかも自分のすぐ足元だ。

地面を攻撃したことにより生まれる衝撃音と土煙。そして粉塵が周囲に激しく舞う。

ウィンカァもその行動に吃驚し足を止めるが、破壊された地面の破片や砂などが襲ってきて視界を一時的に曇らせる。

そしてウィンカァは鬱陶しそうに煙を晴らそうと手を動かしながら、アノールドがどこにいるかキョロキョロと確認するが、土煙のせいで把握することができない。

だが第三者的に遠くで見ていた日色には全てが把握できていた。彼が自分の技を何故足元に放ったのか。

それは彼女の視界を奪うためと、足を止めさせ動きを制限させること。そしてもう一つ、その攻撃により生じた爆風で

「もらったぁぁぁぁっ!」

自らが上空へ跳び上がり、真上から彼女を制するつもりだったのだ。無論彼の身体も無傷ではすまない。

近くで起こした爆発のせいで破片などが全身に当たり無数に細かい傷を負っていた。だがそれでも確実にウィンカァの死角をとったことは間違いないと思った。

アノールド自身も、彼女に攻撃を与えて怯ませた後、そのまま羽交い絞めなどでもして動きを奪えば、後は日色が何とかすると思っているのだろう。

そしてアノールドの思惑通り彼女の虚を突き、空から彼女の首筋に向けて手刀を放とうと振り下ろす。

これで意識を奪えれば一番いいが、奪えなくても、よろめいたところを拘束しようと決めているようだ。

しかし――――――――――――――――アノールドの思惑はそこまでが限界だった。