軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

155:ラッキースケベとその対価

イヴェアムが日色の姿を見て驚愕していた。恐らく日色がこの部屋に来ることを想定してなかったのだろう。予想するに侍女か誰かだと勘違いしていたに違いない。

彼女は顔を真っ赤にして、ベッドの上で逃げ道などないのにズルズルと後ろへ逃げようとしている。両腕で枕を抱えながら慌てふためく姿は妙に子供っぽかった。

というより何故いまだに服を着ずにバスタオルを一枚巻いただけの姿なのか疑問に思ったが、そこを追求すると藪蛇になりそうなのでスルーすることにした。

「……はぁ、言い訳はしない。アレはオレが悪かった。すまん」

日色は確かに人にへりくだったり簡単に頭を下げたりはしないが、明らかに自分に非があることに対しては真摯な態度を表す。

迂闊に魔法を使い、女性の入浴を故意でないとしても覗いたのも事実。いや、もう覗くというよりガッツリと侵入してしまったのだが……。

しかしこうして謝ったはいいが、イヴェアムはいまだに何も言い返してこない。見てみると枕に顔を埋めて石化したように固まっている。

「……お、おい魔王?」

ビクッと声をかけると体を動かしたので声は届いているようだ。しかし髪の毛から覗く耳だけでなく手も赤くなっているので、やはり相当恥ずかしかったのだろうと判断できた。

どうしたものかと悩んでいると、

「……の?」

くぐもった声が聞こえた。だが何を言ったのかハッキリと聞き取れなかったので「は?」と聞き返してしまう。するとイヴェアムはそのままの格好で、

「……見たの?」

今度はハッキリ聞こえた。意味は分かる。恐らくあの時、裸であったイヴェアムの体を見たかどうか聞いているのだろう。

実際湯気でほとんど見えなかったのだが、それでも彼女の女らしい肉体の部分は目に入った。そして思ったより大きいんだなと思ってしまったことも確かだった。

だが正直にどこまで話せばいいのだろうか……?

こういう時、女性の相手が得意な奴ならきっと上手いこと事を運ぶことができるのだろうが、ハッキリ言って物語の主人公のようなラッキースケベと評する状況は初めてなのだ。

その対処法など知るべくもない。今過去に呼んだ本の中の知識を総動員して、どんな答えを出そうか必死で思考を回転させている。

「……ね、ねえ、ど、どうしたの?」

いつまでも話さない日色を心配したようにイヴェアムが聞いてきた。

「あ、いや別に………………見てない……ぞ」

「へ……ほ、ほんと?」

「……ああ」

「その間がすっごく気になるんだけど……?」

しまった……。

普段の自分を知っているイヴェアムが、今の態度を怪しく思うのも無理はない。

不遜な態度で横柄にものを言う日色なのに、誤魔化すような感じで言葉を吐いているので不自然に感じたのだろう。

「……本当に見てないの?」

ジッとこちらの一挙手一投足を見逃さないように見つめてくる。何とか普段通りポーカーフェイスを維持しようとするが、彼女の真っ直ぐな瞳の威圧感に思わず目を逸らしてしまった。

「い、今目を逸らしたわね! やっぱり見たんじゃないっ! どこまでよ! どこまで見たのっ!」

「ゆ、湯気でほとんど見てない! 胸だけだ! 下は見えなかった!」

「……へ?」

…………やってしまった。何故こういう状況だと頭が回らないのか、自分の思考能力が恨めしい。

売り言葉に買い言葉というのだろうか、いや、ただ勢いで言ってしまっただけだ…………本当のことを。

そしてイヴェアムはというと、ボウッと顔から湯気を噴き出させると、

「も、も、もう馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁっ!」

突然手に持っていた枕を投げつけてきた。かなりの速さだが、しょせん枕なので右手で軽く受け止めた。

「見たんじゃない馬鹿ぁ! ヒイロの馬鹿ぁ! えっちぃぃぃぃっ!」

「…………はぁ」

自分の発言の安易さと、イヴェアムの扱いに困って無意識に溜め息が零れる。

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁっ!」

涙目で睨みつけてはくるが、まったく魔王の威厳が見当たらない。もうただの女の子だ。だがそんな女の子に反論できないのもまた確かだ。彼女の裸を見たのは確かなのだから。

「うぅ~」

獣のように唸るイヴェアムを見て頭をかく。怒ってはいるものの、ようやく叫ぶのを止めてくれたようなので、これでこちらの言葉を伝えられると判断した。

「……悪かった」

「うぅ~、乙女の裸なのよ?」

「…………」

「しかも真正面からガッツリ見たのよ?」

「…………」

「ふ、普通ならビンタものなんだからね!」

ビンタで済むのかと思ったが、口にするのは止めておいた。

「で、でもヒイロは、わ、私の命の恩人でもあるし、『魔人族』の恩人でもあるわ」

口を尖らせながら言っているので、幼子が拗ねているように見えて面白い。いまだ顔は紅潮させているが。

「だ、だから……ゆ、許してあげるわ」

その言葉を聞いて内心でホッとした。これで面倒事が終わったと心底安心した。

「だ、だけど条件が……あるわ」

おっと、まだそう安心するのは早かったようだ。しかしイヴェアムの性格を知っている日色からすれば、彼女が無茶な要求をするとは思えない。

今回の件がそれで済むのならお安い御用だと思った。

「いいぞ、何でも言え。ただしオレ個人が責任を負えるものだけにしろよ?」

間違っても誰かを巻き込むような条件を言うような彼女ではないが、一応言っておいた。

「…………ほ、ほんとに何でも……いいの?」

「ん? ああ、何ならベタに一度だけ何でも言うこと聞くって条件にするか?」

そう言った時、イヴェアムは顔をバッと上げてこちらを見つめてくる。その目がキラキラと輝いているが、そんなにこの条件が良かったのだろうかと首を傾けた。

「ほ、ほほほほ本当に!?」

ベッドをはいはいしながら物凄い勢いで詰め寄ってくる。その顔は真剣そのものだ。ただ彼女は自分がバスタオル姿なのを自覚しているのだろうか。

なかなかに育っている胸の谷間が見えているのだが……。

「あ、ああ。今回は全面的にオレが悪かったからな」

すると先程涙目だった顔とは正反対。打って変わって満開の花のような笑みを浮かべるイヴェアム。だがすぐにハッとなると、また頬を染めて、一旦こちらと距離を取る。

「い、いいわ! そ、それなら許してあげましょう!」

プイッと顔を見られないように背けているが、耳が赤いので照れているのが丸分りだった。だが何故照れているのかは分からないが。

「そうか、ならオレはもう行くぞ?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「あ?」

「……も、もう一度確認するけど、本当に何でも言うこと聞いてくれるのね? 私のお願い聞いてくれるのね?」

「二言は無いぞ」

「……そっかぁ、えへへ」

どうやら機嫌が直ったようでこちらとしては安堵した。

「まあ、願い事が決まったら言え。じゃあな」

「うん! あ、あとでヒイロにお話があるから執務室に来てもらってもいい?」

「そうだな、オレも報告することあるし、準備ができたら呼べ」

「うん!」

日色は彼女の笑顔を一瞥してから部屋を出て行った。部屋を出た時、侍女から「さすがです」と何故か微笑を浮かべながら言われたのだが侍女の真意が分からなかった。

さすがと言われるほど何かをやったつもりもない。ただ正直に暴露してしまい、謝っただけだ。勝手に機嫌を直したのは相手なので、日色にとっても不思議な感覚ではあったのだ。

ただこれでマリオネにも怒鳴られることもなくなるし、イヴェアムと会う時も気まずさはなくなるので良しとした。

その時、イヴェアムの寝室から「ああっ! なんて恰好してるの私ィィィィィッ!」と叫び声が聞こえてきた。

次いで、「ヒイロの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁっ! 教えなさいよぉぉぉぉっ!」と耳に入ってきたが、日色はそそくさとその場を離れて行った。

やはり次会う時も幾らか気まずいかもしれない。

リリィンたちがいるであろう客室に向かう途中、意外な人物と対面することになった。

「あれ? 丘村っちやんか!」

それはこの城で軟禁されているはずの赤森しのぶと皆本朱里だった。

(何でコイツらが……?)

無論軟禁とはいえ、イヴェアムは監視付きの動きでなら彼女たちが場内を歩くのを許可している。しかし彼女たちの近くには誰もいない。

つまり監視役がいないのだ。ちなみに監視役の責任者はシュブラーズのはず。シュブラーズは彼女たちのことを気に入ったのか、ちょくちょく一緒に城内を見て回ったりしていたのを日色は確認している。

だがその彼女の姿も、彼女の部下らしき者もいない。これはどういうことだろうか。

「お、お帰りなさい丘村くん」

朱里が訝しげに見ている日色に不安を覚えたような表情で言葉を発している。

(……まあ、逃げ出したわけでもなさそうだし、許可が出てるならオレがとやかく言うことでもないか)

もしこの二人が何かすれば困るのは『魔人族』や魔王であって、自分ではない。そういう思いから、さっさと今までの考えを捨て去ることにした。

その時、カツカツと誰かがこちらへ向かって来ている足音が聞こえる。

「あら~、まだこんなとこにいたのシュリにシノブ」

歩く度に大きく上下する胸を持つ色気溢れるシュブラーズが現れた。やはり監視はしていたのかとまた考えが復帰してしまったが、こちらの存在に気づいたシュブラーズが、

「あら~ヒイロくんじゃないのぉ~。聞いたわよぉ~、陛下の湯浴……っ!?」

日色は即座に転移して、シュブラーズの背後に移動して彼女の口を手で抑える。

「それ以上言うと、その体を赤ロリと同じようにしてやるぞ?」

「ん~んん~」

やはりリリィンみたいな幼児体型にさせられるというのはかなり堪えたのか、青ざめた様子でブンブンと頭を左右に振るシュブラーズ。日色もこんなところでまた面倒なことになるのは避けたかった。

朱里はともかく、好奇心旺盛なしのぶに聞かれれば、根掘り葉掘り聞かれたり調べられたり厄介なことになる気がしたからだ。

だが無論日色が突然そのような行動に出たので朱里たちはポカンとしてしまっている。

「ど、どないしたん丘村っち?」

「だ、大丈夫ですか?」

朱里は日色の拘束から解放されたシュブラーズに対して言っているようだ。

「え、ええ大丈夫よシュリ、これは彼なりの挨拶だからねぇ」

「そうなん? 何か物凄い殺気を感じてしもたんやけど……」

「は、はい……」

「と、とにかくこれ以上は聞かないで! わ、私にも守りたいものがあるからぁ!」

シュブラーズは必死な形相でそう言うと、

「な、何やよう分からへんけど……分かったわ」

「は、はい……」

釈然としないものを抱えている顔をしながらも納得したようだ。

「はぁ、オレは行く。いいか、言うなよ?」

「は、はぁい」

三人はその場を去って行く日色を見つめることしかできなかった。

朱里たちと別れ、日色は客室へと戻った後、そこでリリィンに「どういう結果」になったかしつこく尋ねられた。

今回の件にお前は関係無いと言うと顔を真っ赤にして怒ってきた。何故そこまで追及してくるのか意味が分からなかった。

「むぅ~」

何を言われても詳細を言わなかったため、リリィンはふてくされたようにベッドの上で頬を膨らませていた。

「…………はぁ、リリィンの嬢ちゃんも大変だなこりゃ」

相変わらずテンの呟きの意味は分からない。どちらかというと大変な思いをしたのはこちらなのだから。

「あ、ヒイロ、リリィンの嬢ちゃんにあのこと話してやれば?」

「は? 何のことだ…………ああ、それもそうだな」

テンの言いたいことを理解し、彼女に言うべきことがあったことを思い出す。

それは獣王レオウードに、【楽園】のことを話したことだ。そして彼に獣人界にある【ヴァラール荒野】を譲ってほしいと話をしたことも彼女に教えた。

すると先程まで怒っていた彼女の表情が呆然と固まっている。

「……ん? どうした赤ロリ?」

しかし反応を返してはくれない。一体彼女はどうしてしまったのか眉をひそめてしまう。

「ノフォフォフォフォ! さすがはヒイロ様! 本来は上げてから落とすのが定石ですが、まさか下げてから極限に上昇させるとはこれはまた……」

シウバが楽しげに言うが、本当にコイツらの言うことの真意が全く掴めない。日色は頭をボリボリとかきながらリリィンと目線を合わせる。

すると突然リリィンが凄まじい速さで顔を逸らせる。

(……は? 何だ?)

ジッと彼女を見つめてると、彼女の頭から湯気がプスプスと流れ出てきた。彼女はチラチラとこちらを見つめて、また目が合うとハッとなり指を突きつけてくる。

「な、ななななな何を見ているのだ貴様ぁっ!」

「……は?」

話の途中だからだが……と言いたかったが、もう爆発するのではないかというくらい顔を真っ赤にさせていたので、

「お前、体調悪いんなら寝てたらどうだ?」

「ノフォフォフォフォ! 違いますよヒイロ様、お嬢様はヒイロ様が自分のためにそこまで動いて下さったことが嬉し過ぎて、もう顔を見られないくらい恥ずかぶろんじゅべっ!?」

ゴキィッという破壊音がシウバの顔面から鳴り響く。もちろん原因は目にも止まらないほどの速さで動き拳を突き出したリリィンだった。

シウバは身体を回転させながら壁に激突し、そしてそれを「ふぇぇぇぇっ!」と悲鳴を上げながら驚嘆しているシャモエ。

ニッキは「おお~さすがはリリィン殿! 素晴らしい威力ですぞ!」と尊敬の眼差しを向け、ミカヅキは面白そうに笑っている。

クゼルはクゼルで頬を引き攣らせて壁にめり込んでいるシウバを見つめていた。

(まあ、日常運転って感じだな)

久しぶりに見た彼女たちのいつもの光景に何となく戻って来た感を感じてホッとするような感覚を感じた。

「……ん? ていうか顔が赤かったのは恥ずかしかったからなのか? 何がそんなに恥ずかしいんだ?」

「ば、ばばばばばば馬鹿なことを言うでないわっ! ワ、ワワワワワタシが恥ずかしいなどあ、あ、あ、あるわけないだろうがっ!」

「……そうなのか? なら別に気にしないが」

「す、少しは気にしろ馬鹿者ぉっ!」

どうすればいいんだよと怒鳴りたい衝動にかられたが、これ以上言い返すといつまでも収拾つかないと判断したので、とりあえず話を元に戻した。

「とにかく、獣王は近いうちにお前と話をしたいと言っていた。【楽園】に関してはお前が詳しく話せよ」

「あ、う、わ、分かっておるわ」

話がようやく終わったと思い、そのまま踵を返すと、

「ど、どこに行くのだ?」

「これから魔王と話をしてくる。話があるようだからな」

「な、何っ!? ま、魔王とまた二人きりで話だとっ!」

「……いや、二人きりとは限らんが……確かヒゲ男爵もいるような話だったしな」

「あ、う、そ、そうなのか? し、しかし……」

下唇を噛みながら必死で思考しているようだが、何をそんなに考えることがあるのだろうか……

突然バッと顔をこちらに向けたと思ったらまたも指を突きつけてくる。

「よし! ワタシも行くぞ!」

「……は?」

「だ、だからワタシも行くと言っている! そ、それともワタシにはついて来てほしくないとでも言うのか!」

うぅ~っと若干涙目で睨んでくる。

「いや、まあ別にいいんじゃないか?」

許可するのはあくまでも魔王であって日色ではないのだ。あの魔王のことだからリリィンの執務室への入室くらい許可するだろうが。

「お前らはここで待ってろ」

ゾロゾロとさすがにここの全員を連れて行くわけにはいかない。

「俺は行くさヒイロ!」

テンがそう言いながら肩にヒョイッと乗って来るが、小動物なら別に問題は無いだろう。

「俺も……ここで?」

カミュが少し寂しそうな表情を浮かべている。

「ああ、せっかくだから【パシオン】で起きたことをジイサンたちに教えてやったらどうだ? 見ろ、あの話を聞きたくてウズウズしてる目を」

そう言って指差す。その先には目をキラキラと輝かせているニッキとミカヅキがいた。

「……分かった」

カミュと二人は仲が良いので彼も納得したようだ。

日色が部屋から出ようとすると、クイッと服を引っ張られた。こういう感覚は見覚えがあるが、その相手がまさかリリィンだということに少々驚いた。

「……か……」

「か?」

頬を真っ赤に染め上げモジモジしながらチラチラと上目使いで見てくる。

「……か、感謝してるぞ……ヒイロ」

「…………」

「あ、ありがと……」

どうやら【楽園】について礼を言っているようだ。

(いつもこんな感じなら、可愛らしいガキなんだがな……)

日色は軽く肩を竦めて

「気にするな、オレはオレの目的のために動いただけだからな」

「はぅ! き、き、貴様はそれほどワタシのことを……」

別にリリィンのためだけに動いたわけではないのだが、それを否定すると機嫌を悪くしそうなので黙って足を動かした。

「さっさと行くぞ」

「あ、ま、待て馬鹿者!」

二人は魔王イヴェアムが待つ執務室へと向かって行った。

「おお、リリィン殿も来たのだな」

執務室へ通されると、そこにはイヴェアム他、アクウィナスとマリオネがいた。

リリィンはイヴェアムの顔を見て、「ちっ、機嫌が良い。何かしたなヒイロめぇ……」と呟いていたが、触れない方がいいと思い日色は気にしなかった。

どうやらバスタオル姿を指摘しなかったことはそれほど禍根を残していないらしくホッとする。

何故か目を合わせるとイヴェアムは頬を染めて目を逸らすが、うるさく言われるよりは全然良かった。

「それで? 話って何だ?」

さっそく日色は要件を聞くために質問をした。

「うむ、そうだな。実はだな、先代魔王に動きがあったのだ」

「ほう」

イヴェアムからクゼルが住んでいた【シャンジュモン洞窟】が崩壊したという話を聞いた。その際に《初代魔王の核》が奪われたということも。

そして先日会議で話し合ったクゼルとアクウィナスの話の内容もかいつまんで聞かされた。

「へぇ、《魔神》か……面白そうだな」

「お、面白いものか! 貴様は馬鹿なのか!」

マリオネが突然火がついたように言葉をぶつけてきた。

「《魔神》だぞ! 世界を滅ぼそうとした存在だぞ! 何が面白そうなものか!」

「そうは言ってもな。ファンタジーと無縁の世界で暮らしていた読書マニアとしては、そういうワードには興味がそそられるもんでな」

多くのライトノベルも読んできた日色にとって、異世界の《魔神》と聞いて心惹かれるものがあるのは仕方無いのだ。

魔法やモンスターなどのファンタジーに慣れてきた日色でも、やはりそういうボスキャラ的な肩書きを持つ存在を一度見たいと思ってしまう。

「落ち着けマリオネ。ヒイロも不用意な発言は控えてくれ」

「むぅ、陛下がそう言うなら」

マリオネは渋々了承し、日色は少し肩を竦めた。

「そう言えばヒイロ、あなたも何か話したいことがあると言ってたけど……もしかして【パシオン】が襲撃にあったことか? それとも《始まりの樹・アラゴルン》が折れたことか?」

「知ってるのか? ……ああ、オオカミのオッサンに聞いたのか」

【パシオン】に滞在していたオーノウスがこちらに戻って来た時に情報を伝えたのだろうと判断した。

「オオカミ? ああ、オーノウスのことか、そうだ、彼から話は聞いている。その際、ヒイロがとんでもないことをしたということもな」

「む? とんでもないこととは何だ?」

リリィンが食いついてきた。すると突然テンがヒョイッと肩から跳び上がり、クルクルと体を回転させてイヴェアムの前にあるテーブルに着地する。

「それはこの俺っちが教えてやるさ!」

まるで俺の出番だと言わんばかりに胸を張っている。

日色は「またか……」と呆れて溜め息を溢すしかできなかった。得意気にテンが《閃光花火》を使用した経緯を話した。

リリィンは「ほほう」と感心するように聞き、マリオネやアクウィナスなども同様の気持ちを持っているのかテンの話に耳を傾けていた。

(コイツのお喋り癖は治らんな……)