軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その74

結局、エイルとエンペラが落ち着くことはなく、馬車の中で延々と子供のような口喧嘩をしていた。

最後の方はお互いに疲れ、バカとアホを言い合うだけになっていたし、俺の睡眠を妨害しているようにしか思えなかったな。

とはいえ、何とか経由地までやってくることができ、ようやく二人と離れることができる。

食事だけ一緒に済まし、宿は別々の部屋を取って就寝。

エンペラの分の部屋を取るかどうかでも一悶着あったのだが、エイルと同部屋ということを伝えたことで、すんなり了承した。

今回の旅で仲良くなることを期待していたが、まぁ難しいだろうな。

そんなこんなあり、騒がしい道中を経て、ようやく俺たちは聖教国に到着した。

ギルド長のエイルがいたお陰もあり、国境越えも街への入国もすんなりと行えたのはありがたい。

「ここが聖教国か。初めて来たが……思っているよりも宗教を押し出している国じゃないんだな」

「私も初めて来たから知らん! でも、教会はいくつもあるってマイケルが言っていたぜ?」

想像していたよりも宗教宗教していないが、ちゃんと信仰心が強い人たちが集まってはいるんだな。

確かによく見たら、小さな教会が点々とある。

「ちなみに、聖教国にも冒険者ギルドはあるのか? それとも教会が管理していたりするのか?」

「冒険者ギルドはある! けど、教会の権力が圧倒的に強ぇな! 今回の応援要請も教会から来たし!」

「へぇー。なら、国のトップが教皇って感じか」

バレることはないだろうが、俺が聖教国の聖女を暗殺した人物だと知られたら、国民全員から襲われる可能性がある。

暗殺をしたことに対する負い目は多少なりともあるが、あれだけ歪みきっていた人間を生んだ環境――。

神を信仰する者というよりも、暗殺をしに来た俺を生け捕りにし、俺をペットにしようとするイカれた目は、悪魔にすら見えたからな。

それ以外のやってきた悪行も相当なものだったし、神や信仰心を隠れ蓑にした聖教国の内部を見るのは、俺でも怖いくらいだ。

「……ジェイド、どうした? 随分と怖い顔をしているぞ」

「いや、俺は無宗教だからな。ちょっと色々と考えてしまっていた」

「安心しろ! 俺も神なんか信じちゃいねぇぜ!」

「私もだ。魔物だしな」

全員無宗教なのは安心だ。

特にエイルは、勧誘も突っぱねてくれそうだしな。

「お、見えてきたぜ! あの一番奥にある城みてぇな教会が目的地だ!」

「あそこで話を聞くのか。俺たちもついて行ったほうがいいか?」

「もちろん! 絶対についてきてくれ!」

「あそこまで行くの面倒くさいな。私とジェイドで飯でも食べているから、エイル一人で話を聞いてきてくれ」

「絶対嫌だ! そもそも覚えらんないしな!」

まぁ確かにエイル一人に行かせるのは心配だ。

心情的にあまり近づきたくない場所ではあるが、そこまで警戒する必要はないだろう。

ということで、俺たちは城のように大きな教会へとやってきた。

遠くからでも建物の精巧さは分かっていたが、近くで見るとよりハッキリと分かる。

「凄い建物だな。維持費だけでもとんでもない金がかかっていそうだ」

「そうなのか? 俺はその辺りは詳しくないから、何とも思わねぇな!」

何とも思わないのは流石におかしいと思ってしまうが、エイルは本当に何も思っていないようで、ズカズカと教会の中へと入っていった。

教会に入ってすぐは礼拝堂になっており、多くの人が祈りを捧げている。

人の数に対して静寂であり、建物の絢爛さと相まって異様に神秘的な空気感。

あまり空気を読めない俺ですら、思わず息を呑んでしまっていたのだが……。

「おーい! ジョセフって奴はいるか? 確か、枢機卿って名乗ってたんだが!」

みんなが祈りを捧げている場所で、不特定多数に大きな声でそう尋ねたエイル。

ここまで空気が読めないとなると、恥ずかしさを通り越して感心してしまう。

……いや嘘だ。普通に恥ずかしい。

「あれー? 誰も答えてくれないな!」

祈りを捧げている信徒はこちらを振り向き、怪訝そうな表情だったり、変人を見るような目で見てはいるが、誰も近寄ってこようとはしない。

俺に対しても同じ視線を向けられており、エイルと同じ括りで見られるのは非常に癪だが、今さら離れたところで認識は変わらないだろうし、受け入れるしかないな。

「……応援要請に応じてくれた方ですね。こちらの建物ではなく、第四集会場へ行ってもらえますか?」

「あ? 第四集会場? それってどこにあるんだ?」

俺たちが変人を見る目で見られている中、声を掛けてきてくれたのは修道服を着た年寄りの女性。

話しかけてきた際の声の小ささが、暗に迷惑だということを伝えてくれている。

「街の入口から右手に進んだところです。門にいる兵士に尋ねてもらえれば分かると思います」

「ここまで来たのに門の近くにあったのかよ! くっそ、無駄足だったぜ!」

「エイル、もう出るぞ。流石に場違いだ」

「場違い?」

何にも気づいていないエイルを連れ、教会を後にした俺たち。

今日ほど、鞄の中に隠れていられるエンペラを羨ましく思ったことはない。

「おい。静かな場所で大きな声を出すな」

「あぇ!? 別に大きな声は出してねぇだろ! 普段の声量だ!」

「その声量が大きすぎるって話だろ。図体も声もデカいんだからな」

「んだとこらァ! 言ったなチビ助!」

「もういい。とりあえず第四集会場とやらに行ってみよう」

注意しても無駄な労力になるだけと悟った俺は、エイルとエンペラの口論を止めて、第四集会場へ向かうことにした。

やはり……エイルと一緒に仕事をしているマイケルはとんでもないな。