作品タイトル不明
番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その68
スキャンダーに案内され、『ウォルテール』の奥の部屋へとやってきた。
奥が美食ギルドになっているのではと考えていたが、一般的な店長が使っていそうな小汚く狭い倉庫のような部屋。
「そこのソファに座ってくれ。美食ギルドに入る上での話し合いを……って、あれ? まだ尋ねたいことはあったけど、エルダーワイバーンのタンを見せてきたということは、美食ギルドへの加入希望者で合ってるよね?」
「……ああ。美食ギルドに入れてもらいたい」
実態がないうえに嫌われすぎているという点から、詳細を聞いてから加入するかどうか決めようと一瞬考えたが……。
エルダーワイバーンを狩り、ここまでやって来て、美食ギルドに加入しないという選択はないと考え直し、加入したい旨を伝えた。
「それなら良かった。加入試験は合格だから、君には美食ハンターとして動いてもらうことになるけど、大丈夫かな?」
「あまり詳しくないんだが、美食ハンターには仕事があるのか?」
「もちろん。指定の魔物を狩ってきてもらうよ。報酬は金銭か、狩った魔物の一部。一年に三回は指定の魔物を納品してもらう契約になっていて、達成できなかったら除籍となるから気をつけてね」
「なるほど。除籍される以外は、冒険者と似たような感じなのか」
「そうだね。ただし、強い魔物か見つけにくい魔物が相手だから、難易度は考えているよりも高いよ。まあ、エルダーワイバーンを狩った君なら大丈夫だと思うけどね」
情報の代わりに、狩った魔物の一部を美食ギルドに献上するということか。
取られる量によっては考えものではあるが、その点は上手い塩梅になっているはず。
「美食ハンターの仕事については理解した。ちなみにだが、美食ギルドはどこにあるんだ? 加入したからには一度挨拶したい」
「すまないけど、教えられないルールなんだ。美食ギルドは色々と嫌われることもやっているからね。僕が仲介役だから、狩った魔物も僕のところに持ってきてほしい」
「分かった。魔物の情報もスキャンダーから聞くのか?」
「うん。基本的には全て僕から指示を出すし、分からないことや辞めたいときがあったら、僕に言ってほしい」
「理解した。丁寧に教えてくれてありがとう」
美食ギルドの正体が分かると思っていたが、全て謎のままなのは少しガッカリした。
ただ、スキャンダーは良い人そうだし、面倒ごとが少なくなりそうだから、この仲介してくれる仕様はありがたい面も大きい。
「まだ加入したばかりだけど……早速狩ってきてもらいたい魔物を教えるね。今回のは比較的入手難度の低い魔物をピックアップしたから、気負わなくても大丈夫だよ。まあ、今回指定した魔物を狩れないと、今後やっていくのは難しいと思うけどね」
「試験の続きみたいな感じだな」
「悪く思わないで欲しいんだけど、偶然入手できた人もいるからね。試験の続きだと思ってほしい」
「警戒するのも理解できるから、悪くなんて思っていない。確実に入手してくる」
気負わなくて大丈夫と言った割には、しっかりとプレッシャーをかけてきたな。
ただ、本当に難度の低い魔物を選んでくれたことは本当だろうし、腕試し感覚で挑ませてもらおう。
「ありがとう。それで、今回ジェイドに入手してきてもらいたいのは、ムーントータスの生き血、ファントムシャークの卵、ゴールドマッシュルームのどれか一つ。ムーントータスとファントムシャークは強いという意味で入手が難しく、ゴールドマッシュルームは見つけにくいという点で入手が難しい食材になっているよ」
どれも聞いたことのない食材。
流石は美食ギルドだな。
「それぞれの大まかな場所は教えてもらえるのか?」
「もちろん。ムーントータスはマズール池。ファントムシャークはリウル湖。ゴールドマッシュルームはサウスフォレストに生息していると言われているね。ゴールドマッシュルームだけは、かなり曖昧な情報だけど許してほしい」
スキャンダーの話を聞いた限りでは、ムーントータスかファントムシャークの二択。
ゴールドマッシュルームに関しては、入手できない可能性があるのが不安な点だ。
達成期限はないようだし、一年間で三回の依頼の達成だけでいいという緩い条件ではあるものの……。
『シャ・ノワール』に卸さないといけないことを考えると、俺は毎週ペースで入手しないといけないからな。
「詳しい情報をありがとう。早速調達に行ってくる」
「話が早くて助かる。ジェイドの無事を祈っているよ」
時間もないため、早々にスキャンダーとの話を切り上げ、『ウォルテール』を後にした。
ここからはマズール池とリウル湖の情報を調べ、近い方に向かいたいと考えている。
「色々と怪しい組織だったな」
「それを承知で接触したからな。エンペラにも運搬は手伝ってもらうから、覚悟しておいてくれ」
怪しい組織ではあるが、俺が所属していた暗殺者組織に比べたら健全な組織だ。
魔物の情報は間違いなさそうだし、上手く利用させてもらうとしよう。