作品タイトル不明
第273話 盲点
あっという間に三日間が経過した。
何をするか色々と話し合ってはいたものの、結局酒を飲んでグダグダしている内に三日間が終わってしまった気がする。
もちろん色々な店を巡ったには巡ったのだが、二人が酔っ払っていたこともあったしちゃんとは回れていない。
まぁこんなことになるだろうなと予想していたし、めちゃくちゃ楽しかったから良かったけどな。
「うぅ……。頭がガンガンします」
「俺もだ。三日間、ずっと酒を飲んでたもんな。ジェイド、すまないな。街を全然案内できなかった」
「初日は色々紹介するって息巻いていたんですけど、結局酒場に長居することになってしまいましたぁ」
「別に大丈夫だ。色々と話せたし、二人の生い立ちも聞けて楽しかったからな」
「はっはっ、確かにアルフィの昔話は面白かったな。予想はしていたけど、予想を超える情けない昔話だった」
「二人とも絶対に他の人には言わないでくださいよ! 墓場まで持っていこうとしている黒歴史なんですから!」
「言わないから安心していい。それよりそろそろ兵舎に行ってくる」
今日の朝に兵士長から兵舎に来てくれと言われている。
例の“何か”の準備が整ったということだろう。
二人もよく分からないと言っていたし、一体何を用意してくれたのか楽しみだ。
「兵舎に行った後はすぐに発っちゃうんだよな?」
「兵士長次第な部分はあるが、俺としてはすぐに発つつもりでいる」
「それなら僕達はお見送りの準備をしておきます! 今日から仕事ですけど、お見送りくらいは許してくれると思うので!」
「だな。兵舎まで一緒に行ってやりたいのも山々だが、兵舎までは一人で行ってくれ。兵士長に見つかったら働けって言われるのが目に見えている」
「分かった。それじゃ後でな」
見つかったら駄目ということは、見送りを許してもらえないってことになるはずなのだが……深くは追及しなくていいだろう。
俺としても二人から見送られたいしな。
一人で先に『クレイス』を出た俺は、まず安宿に戻って軽くシャワーを浴びてから荷物を取り、その後すぐに兵舎に向かった。
セルジやアルフィがいなくて兵舎に入れるかどうかは不安だったが、誰にも止められることなく、あっさりと兵士長室まで辿り着くことができた。
中の気配を探ったのだが、兵士長の他に強い気配が一つある。
兵士長も中々強い気配を持っているのだが、それ以上の気配。
誰なのかは非常に気になったため、ノックをしてからすぐに部屋に入った。
兵士長室にいたのは……白金の鎧に身を包んだ騎士のような人間。
「おお! ジェイド、やっと来たか!」
「呼ばれたからにはもちろん来るが、そっちの人は一体誰なんだ?」
「俺が呼んでわざわざエアトックまで来てもらったんだ! 俺の方から紹介させてもらう。帝国騎士団の一番隊隊長のゼノビアだ!」
「帝国騎士団の隊長? すまないが話が全く見えてこない」
兵士長は何を考えて帝国騎士団の隊長を連れてきたのだろう。
三日間の時間を要するって言っていたことからも、この隊長が来るまでの期間ってことは明白。
つまり、この隊長がクロに繋がる何かであることは間違いないと思うのだが……。
「ジェイドを帝国騎士団に入隊させることを話つけておいたんだ! このゼノビアは俺の元部下でな! 多少の融通なら聞かせてくれるんだわ!」
「俺が帝国騎士団に入隊? 何を勝手に話進めているんだ?」
「人に知られることなく帝都に入りたいんだろ? ならこの方法がベストだ! 軽い雑用程度はするって約束だが、他の騎士みたいにガッツリと仕事はしなくていいんだから好都合でしかない! ジェイドが色々と調べたとて、帝国騎士を疑ってくる可能性なんてほぼないからな!」
そう説明され、確かにその条件なら帝都で自由に動きやすくなるかもと思ってしまった。
帝国騎士という身分が証明され、更にこのゼノビアのようにグレートヘルムをつけてしまえば顔を隠すことまでできる。
それに裏の組織を調べたとしても、帝国騎士団なら調べることに何の違和感もない。
簡単になれるものではないから当たり前だが、俺としては完全に盲点だった。
「確かに帝国騎士に所属できるなら、これ以上の条件はないのかもしれない。ただ……本当に俺なんかを受け入れて大丈夫なのか?」
「そのことは心配いらない。私の側近としてついてもらうことは既に上にも了承済みだ。アルバートには散々世話になったし、これで借りの一つが返せるなら安い」
ここで初めてゼノビアの声を聞いたのだが、ハスキーだが恐らく女性の声だ。
顔が見えないし、フルプレートのせいで体型も分かりづらかったから驚いたな。
「元上司で年齢も上なんだから、アルバート“さん”だろうが! ったく、アルフィとセルジといい俺を舐めやがって! つうか、あの二人はどこに行ってるんだ! 今日で休みは終わりだろ!」
「ほー、セルジはまだ働いているのか。懐かしい名前だな。久しぶりに顔が見たくなってきたよ」
「逃げられるから止めとけ! じゃなくて、あの二人はどこなんだ! ジェイドは一緒にいたんだろ?」
「ちょっと分からない。兵舎に来ていると思ったがまだ来ていなかったのか」
「くっそ! 本当に手間がかかる!」
出勤しない二人に対し、ぶつくさと文句を言っている兵士長。
このゼノビアって騎士とは会ってまだ間もないが、既にかなり変人ってのは分かったため、昔から色々と気苦労していたのだと分かる。