作品タイトル不明
第272話 打ち上げ
退院の手続きを終えたアルフィと合流し、ひとまず近くの酒場に移動することになった。
ちなみに検査の方は何の問題もなかったようで、傷口の方も普通に動いても痛くないくらいには良くなったらしい。
「それじゃ乾杯しましょうか! えっと、何に乾杯ですかね? 僕達はしっかりと任務をこなしたことか、それとも僕の退院祝いはどうでしょうか! はたまた連休に乾杯するのもありですもんね!」
「そんなの何でもいいだろ。ほら、全てに乾杯だ」
そんなセルジによる雑な乾杯によって打ち上げが開始された。
退院できた嬉しさからか、アルフィは既に酔っているのかと思うほどテンションが高い。
「水を差すようだが、病み上がりで酒っていいのか?」
「もちろん大丈夫ですよ! 駄目だとしても大丈夫ですし!」
「いや……言っている意味が全く分からない」
「これで患部が悪化してまた入院することになっても、問題ないってことです! 二人が打ち上げしているのに、僕だけ兵舎に戻って狭い部屋で待っているくらいなら、傷口が悪化して動けなくなった方がマシですよ!」
「そこまでして酒が飲みたいのか。そういうことなら、無理に止めるつもりはない」
酒を飲んだぐらいで酷い状態になるってことはないだろうが、体によくないことなのは確か。
それでも意思が変わらないようだし、無理に止めることはない。
「ぷはぁー! 本当に美味しいですね! 三日間も休みなのも最高ですし、仕事のことを考えない状態でお酒を飲むのは至福です!」
「んー。翌日が仕事でも、セルジとアルフィは関係なく飲んでると思うぞ」
「いやいや、全然違いますよ! 結局飲みすぎちゃうだけで、頭の片隅では仕事がチラついてますもん!」
「結局飲むなら同じに思えてしまうが、そんなに違うものなのか?」
「ああ、全然違うね。楽しさが半減はしちまう。一定の時間を越えたら割り切って心の底から楽しめるんだが、目が覚めた時とかも地獄のような気分だしな」
「ですです! ジェイドさんに送ってもらった時も寝坊したんですけど、目の前に兵士長の顔があった時は心臓止まり掛けましたもん! その心配がないってだけで心にゆとりがあるんです!」
普通に飲みすぎなければいいだけではと思ってしまうが、まぁこの二人は自制をしなさそうだもんな。
俺はどちらかといえば兵士長の目線で見てしまうため、軽く手を合わせて心の中で労わっておく。
「俺にはよく分からない感情だな」
「ジェイドさんは本当にお酒強いですもんね! 僕達以上に飲んでいるのにずっと素面ですもん!」
「酒の強さもそうだが、ジェイドには色々と謎が多すぎる。酒の席だから遠慮なく聞くが、商人になる前は何をやっていたんだ? 行商人をやる上で強いことは必須と言っていたが、そんなことで身につく強さじゃないのは分かる」
「詳しいことは言えないが戦闘職だ」
「ほえー。やっぱり戦闘職についていたんですね! 今が商人というのは本当なんですか?」
「ああ。今は本当に商人をやっている」
道具屋の店員を商人と呼んでいいのかは分からないが、気持ちは商人だからな。
元殺し屋ということは口が裂けても言えないため戦闘職と濁したが、深堀りをしないでくれて良かった。
「普通にもったいなく感じるよな。さっきも誘ったけど、絶対に兵士の方が向いているだろ」
「おおっ! セルジさん、いいアイデアですね! ジェイドさん、兵士になってくださいよ! きっと楽しいですよ!」
今度はアルフィと二人で兵士にならないかと誘ってくれた。
さっきの言葉がお世辞でないことが分かって本当に嬉しいが……何度勧誘を受けても俺の気持ちは変わらない。
「すまないが商人を辞めるつもりはない。二人と一緒に兵士として働くのも本気で魅力的だがな」
レスリーに出会っていなかったら、迷いなく受けていたぐらいには魅力的な勧誘。
俺の言葉を聞いて、本気で残念そうにしてくれているのも嬉しい気持ちになる。
「そうですか……。一緒に働きたかったんですけど、やめるつもりがないなら仕方がないですね」
「やっぱり駄目か。まぁいつでも門は開いているから、気が向いた時にでも考えてみてくれ。まぁ俺らが先にクビなっている可能性はあるけどな」
「セルジさん、それは笑えないですよ! 本当にありえそうですし!」
「ジェイドのお陰で手柄をあげられたし、しばらくは大丈夫だと思うが気をつけないとな。それより、兵士にならないなら盛大に見送らねぇと。三日間はとことん遊ぼう」
「いいですね! 僕とセルジさんがエアトックを案内しますよ! 貰ったお金があるので金銭的な心配もいりませんし!」
「それは楽しみだな。待っている時間だが楽しむことができそうだ」
そこからはこの三日間何をするかを三人で話し合いながら酒を飲んだ。
二日酔いでぐだぐだになりそうではあるが、こうして何をするか話すだけでも楽しいし、この分なら兵士長を待っている間をきっと楽しく過ごすことができるだろう。