作品タイトル不明
第162話 暴発の制御
冒険者ギルドから『シャ・ノワール』へと戻ってきた俺は、午後の仕事も順調にこなして閉店までキッチリと働いた。
相変わらずの客の多さで三人だけではかなり忙しいが、その忙しさも恐らく今日まで。
明日からは新しく従業員が加わるため、この忙しさも見納めといったところだろう。
もちろん仕事を覚えてもらうまで多少の時間がかかるだろうが、猫の手でも借りたいこの状況で新たな人材というのは非常にありがたい。
新しい人との繋がりも楽しみだし、気が早いがワクワクしていると……。
物置から出てきた何とも言えない表情をしたヴィラが、俺の下までやってきた。
「さ、早く行こ」
「魔石の暴発についてだよな? 一体どこに行くんだ?」
「職人たちのところ。面白いものが見れる」
ヴェラに手を引かれるがまま、店を後にして職人たちがいる工場へと向かった。
俺に見せたいという思いが強いのか歩くペースがかなり早く、ほぼ走っているような速度。
あっという間に工場に辿り着き、ヴェラの後を追って無骨な建物の中へと入る。
中には五人の職人たちが集まって会議を行っている様子。
ちなみにこの五人は兄弟であり、五つ子かと思うほど顔が似ているせいで名前と顔が未だに一致していない。
暗殺者として働いていた時は何かしらの特徴を見つけ、双子であれど絶対に見抜けていたのだが、今はそこまでやるつもりがないからな。
知り合ってからかなり期間が経つが、あやふやなまま一切の進展がない。
「おーう! ヴェラ、早速来たか!」
「ちゃんとジェイドを連れて来た。早く見せてあげてほしい」
「わーってるよ! 俺達もちょうど打ち合わせを行っていたんだわ! すぐに実験に取り掛かるから、ジェイドとヴェラもこっちに来てくれ!」
職人の後をついていき、見せてきたのは小さなボール状のもの。
自信の有り様から大層な実験器具でも作ったのかと思っていたため、少しだけ拍子抜けしてしまったが、サイズが小さくて越したことはない。
むしろこのサイズ感で自在に暴発できるようになったのであれば、新しい魔道具が完成するのも近いということ。
期待しつつ、俺は職人たちの持つボール状のものを注視した。
「それじゃ見ててくれよ! このボタンを押しつつ、魔石に触れると――」
職人がボール状の器具の中に入っている魔石に触れた瞬間、風が一気に吸収され始めた。
どういう仕組みかは一切分からないが、俺が起こしたいと思っていた現象が目の前で起こっている。
「凄いな。やりたかったことが完璧にできている」
「でしょ? でも、驚くのはまだ早いよ」
ヴェラがそう言うと、職人たちはボールについているボタンを更に押し込んだ。
すると、吸い込んでいた威力が弱まったのが分かる。
「もしかして、もう吸い込む威力の調整もできているのか?」
「そういうことだな! この辺りは、髪を乾かす魔道具の仕様を応用した感じだ! 今ならもっと良い魔道具が作れる気がしているぜ!」
「もうほとんど完成といってもいい。ジェイドがいない間に仕上げた」
ヴェラが自信満々だっただけに、俺の想像以上の進展を見せていた。
一番の難所をクリアした訳だし、あとは掃除用の魔道具の形を作るだけで新しい魔道具は完成するだろう。
「ヴェラには全て任せきりで悪かったな。ここまで進展しているとは思わなかった。職人たちも変な開発ばっか依頼して悪い」
「別に気にしなくていい! 俺らも珍しい仕事で楽しいし、金もキッチリと貰っているからな! 掃除用魔道具の開発も俺達だけに任せてくれているし、関わらせて貰えてウッハウハなんだわ!」
「そう言ってもらえるのは助かる。この掃除用魔道具の依頼も行うつもりだから、大ヒットした時は工場を規模を大きくすることも視野に入れてくれ」
『シャ・ノワール』だけでなく、関わってくれている人たちも幸せにできそうなのは非常に良いこと。
職人たちには今後も色々と依頼するつもりだし、規模を大きくしてなんでも引き受けてくれるようになってほしいところ。
「ここからは魔道具の土台を考えていくつもり。これにはジェイドにも手伝ってもらうから」
「ああ。というか、既に色々と考えてあるから擦り合わせを行うだけで済むと思う。職人たちにできそうな形かを見てもらってから、俺とヴェラで決めていこう」
「仕事が早いのは流石――だけど、私もどんどん意見するつもりだから覚悟してほしい。ジェイドが考えてきたものから、全くの別物になるかもしれない」
「良いものになるなら、俺だってそれが本望だ。構わず意見してくれ」
「うん。今回は絶対に爆発的に売りたい。髪を乾かす魔道具が思っていた以上に売れなかった悔しさを全てぶつける」
ヴェラの目は燃えており、これまでの行動からも分かる通りやる気に満ち満ちている。
前回の魔道具の売れ行きの悪さに一番責任を感じていたのもヴェラだし、絶対に売れると思っていただけに本気で悔しかったんだろうな。
今尚売れている訳だし失敗どころか成功だと思うが、目標は高い方がいい。
『シャ・ノワール』が絶対に安泰と思えるほど売れるよう、俺もヴェラと同じ熱量で開発を行おうか。