軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聞かれていたようです

城へと帰ってきた瑠璃達。

竜が三体いても余裕の広いテラスに降り立つと、ジェイドの手から飛び降りる。

人の姿へと変わったジェイド達の前には、にまにまとしながら待ち構えるアゲットの姿があった。

どうやら腰痛は完治したようだ。

「お待ちしておりましたぞ、陛下」

「ああ、分かっている。仕事を任せっきりで悪かった。直ぐに執務室に向かう」

帰ってくるなり瑠璃捜索の為に飛び出していったのだ、さぞかし仕事が溜まっている事だろう。

「そうでは御座いません!!

ヨシュアが帰ってきておるのです。つまり、陛下が望んでおられたおなごと思わしき方も連れて帰ってきております。

本人かどうか確認して下され!」

「…………ああ、そうか」

気合の入りまくっているアゲットとは違い、なんとも気のない返事をするジェイド。

「そんな事は後回しだ。今はナダーシャとの戦争が最優先だろう」

どうでも良さそうなジェイドは、そう言うなりさっさと執務室の方向へと歩いて行った。出来るだけ面倒な問題を後に回そうという魂胆が見え見えだ。

その後をアゲットが追う。

『あの、いいんですか?やっと好きな人に会えるかもしれないのに』

好きな人だと聞いていたのに、随分と淡白なジェイドの様子に瑠璃が問いかけると、苦笑するクラウスが答えた。

「乗り気なのはアゲット殿だけです。アゲット殿が言い出さなければ忘却の彼方に飛んで行っていたはずですよ。

陛下は一度会っただけの女性より、家出したルリの方が大問題のようですから。

陛下にいい人が現れるのは当分先の話でしょうねえ」

『そうなんだ………』

人知れずほっとした瑠璃。

とは言えジェイドは王だ。ジェイドに好きな人がいないという事を知っても、自分と一国の王様が結ばれる、などと大それたことにはならないと諦めている。

それでもジェイドが女の人と楽しそうにしているのを見るのは胸が痛む。

少なくとも猶予が出来た事に、安堵するのだ。

(やっぱり失恋には新しい恋だよね)

一生こちらで暮らすことになるのだ、どうせならもふもふの亜人の彼氏をゲットしよう。

そしてゆくゆくは、誰かと結婚して子供を産むことになるのだろうなと、しみじみと未来に心をはせる。

(もふもふな我が子…………良いかもしれない)

まだ見ぬ我が子にときめいていると、ふいに誰かに抱き上げられた。

上を見ると真剣なフィンの顔があった。

「ルリ、今度からは必ず口頭で報告してくれ。

家出と聞いて心配した」

『はい、ごめんなさい』

素直に瑠璃が謝ると、表情を和らげ優しく瑠璃の頭を撫でる。

そしてフィンに抱っこされたまま執務室へと向かう。

『歩いて行きますよ?』

「いや、このままでいい。陛下の前では中々ルリと触れ合えないからな」

そう言うフィンは、愛玩動物を見る目でルリを見ていた。

だが、それはフィンに限らず、城で通りかかった兵士や文官や側仕えの人まで瑠璃をそんな目で見るのだ。

人間であることを言いづらくなるので、瑠璃としては何とも反応に困る状況だった。

すでに執務室にいるだろうジェイドに続き、瑠璃達も入ろうとしたが、直前で「兄さん!」という嬉しそうな声と「やべっ」という焦るような二人の声が聞こえてきた。

フィンが振り返ると、抱っこ状態の瑠璃に満面の笑みで走り寄ってくるユアンとその後ろにヨシュアの姿が目に入ってきた。

ユアンは一目散にフィンへと向かってくるが、その腕の中に瑠璃がいるのを目にとめると、嫌悪感露わに眉をしかめた。

「おい、兄さんから離れろ」

どうやらブラコンは、瑠璃がフィンに抱っこされているのが気に食わないらしい。

それならばと、フィンから降りようとしたが、フィンはユアンの様子から瑠璃が害される恐れがあると判断したのか、瑠璃を抱く手を強める。

だが、それが火に油を注ぐ。

「兄さんそいつを早く離して!」

「ユアン、いい加減にしろ。お前はもう少し大人になるんだ」

溜息混じりでフィンが嗜めると、ユアンはギッと瑠璃を睨みつける。

「お前、一体どういうつもりだ!

兄さんに近付いて何を企んでいる!?」

『えっ……、企んでいると言われましても、特に何も………』

フィンに対して何かを企もうと思った事はこれまでに一切無い。完全な言いがかりだ。

しかし、ユアンは瑠璃の言葉を聞いていないように続ける。

「いや、分かっている。お前も兄さんの地位にたかる女共と同じだろう。

俺は認めないぞ!兄さんにはお前のような嘘吐きな女は相応しくない」

「ユアン、一体何を言っているんだ。ルリは猫だぞ」

「………やはり兄さんは知らなかったんですね」

何かに納得しようなユアンは射殺しそうな鋭い目視線を投げ掛ける。

「きっと陛下にも黙っているんだろ。

もしかして目的は陛下の方か!?この毒婦め!」

突拍子もない事を言いだしたユアンに、フィンとクラウスは呆れ気味だが、瑠璃は嫌な予感がした。

「騙されてはいけません!

こいつは、猫の姿をしていますが、本当は人間の女です。

これまで皆を騙していたんですよ、この女は!」

何を馬鹿なとクラウスが反論しようとする前に、ユアンが更に続ける。

「間違いありません!その女とヨシュアが話しているのを確かに聞きました。

宰相もご存知の筈です」

驚いたように、フィンとクラウスの視線が瑠璃に集まる。

ジェイドに話そうと決意した矢先の暴露に、瑠璃が何も声を発せずにいると、後ろの執務室の扉が開いた。

「あなたたち、取りあえず中に入りなさい」

ユークレースに促され執務室に入ると、真っ正面の席に着き、静かに瑠璃を見据えるジェイドと、驚いたように瑠璃を見るアゲットが目に入る。

執務室の扉の前で騒いでいたのだ、あれだけ大きなユアンの声では何を話していたかも全て聞こえていただろう。

瑠璃は肩を落としながらジェイドの机の上に飛び乗り、ジェイドの正面に腰を下ろした。

「先程ユアンが言っていた事は本当か?」

冷静な声でジェイドが問い掛ける。

『本当です。黙っていてごめんなさい、ジェイド様』

ジェイドの反応が怖く、顔を上げられない。

出来ることなら自分の口で言いたかったが、これまで延ばし延ばしにしていた瑠璃の責任だ。

ジェイドを騙していたのは事実なので、ユアンを責めることも出来ない。

きっと呆れるか、怒るかするだろう。

しかし予想に反して、罵声の言葉は降り掛からず、代わりに温かい手の平が頭の上に乗せられた。

恐る恐る顔を上げると、怒るどころか優しく微笑むジェイドの顔があった。

「すまなかった」

ジェイドの第一声は、怒るでもなく責めるでもなく、謝罪の言葉だった。

予想外の事に瑠璃は目を見張る。

『どうしてジェイド様が謝るんですか?悪いのは黙っていた私なのに』

「そうする必要があったのだろう?

城に来る前にクラウスがルリに対して、人間の愛し子ではなくて良かったと言ったと、チェルシーが怒っていたな。

そのせいでルリは言い出せなくなったのではないか?」

ジェイドの言葉に、はっとしたクラウスは途端にばつが悪そうになる。

『…………はい』

「ならば、それはルリに気を使わせるような状況にさせてしまった我々の責任だ。

ルリが謝る必要は無い。

人間ではなくて良かったなどど聞けば、自己防衛の為に当然の行動だ」

ジェイドがちらりとクラウスに視線を向けると、意を理解したクラウスとフィンが前に出た。

「ルリ、私の不用意な言葉で、これまで気に病ませてしまって申し訳ありませんでした」

「すまなかった。どうか許してくれ」

申し訳なさそうに瑠璃の前で頭を下げる二人に、慌てたのは瑠璃である。

『いえ、そもそも猫の姿で会いに行って、勘違いさせてしまったのは私ですから。

そんな事しないで下さい!』

「許して貰えるか?」

『もちろんです!』

勢いよく何度も首を縦に振ると、クラウスとフィンも表情を緩めた。

これで解決かと思われたその時。

「どうして兄さんまで謝るのです!?

こいつは兄さん達を騙していたんですよ!」

ユアンの叫びにユークレースは不快そうに眉をひそめる。

そして誰より先に臨戦態勢に入ったのはヨシュアだ。

「さっきからなんなのお前?」

静かな、しかし低いヨシュアの怒る声が響く。

「他人の秘密をぺらぺらと。お前はルリの事情を何も知らねえだろ。何勝手にぺろっと喋ってるんだよ」

いつもの茶化すような話し方とは違う、本気の怒りを感じる声色と貫くような眼差しを向けるヨシュアに、一瞬ユアンはたじろぐも、自分は悪くないという気持ちが勝ち、ヨシュアに食って掛かる。

「ふんっ、陛下を謀る反逆者の真実を告げただけだろう。

お前だって同罪だぞ!諜報員でありながらこれまでその女が人間だと黙っていたんだからな」

ヨシュアも同罪と聞いて瑠璃は慌てる。

確かに王に仕える諜報員が王に秘密を持つのは良いことでない事は瑠璃にも分かる。

軽く秘密にしてくれと言ったが、結構大問題ではないだろうか……。

瑠璃の焦りをよそに、ヨシュアは気にした様子もなく鼻で笑う。

「だったら、どうして今まで報告しなかったんだ?

いくら一区への立ち入りが禁止されたからってフィンさんから陛下に報告する事はいつでも出来たはずだろ」

「それは……」

「お前はただルリが気に食わなくて、ルリを攻撃するためにこの場で口にしただけだろ。

あくまで自分の為だ!都合良く陛下やフィンさんの為とか言ってんじゃねぇぞ!!」

ヨシュアの怒声が響き渡る。

反論の言葉が出ずユアンは押し黙る。

沈黙と刺すような緊張感に包まれる中、ジェイドが口を開いた。

「フィン」

「はっ!」

呼ばれたフィンはジェイドの前で跪く。

「ユアンがルリに敵意を向けたのはこれで三度目。

愛し子の重要性は幼子ですら分かっている事だ。

見えないからと第一区への立ち入り禁止で済ませていたが、一時の感情に流され三度も愛し子へ攻撃した。

これは上官であるお前の管理不行き届きだ」

「返す言葉もございません」

「よって、フィン、お前に官位の三降格と暫く第一区への立ち入りを禁止する。

もう一度兵の規律を引き締めろ」

三降格がどれぐらいの罰かは瑠璃には分からなかったが、第一区の立ち入り禁止ということは、王の護衛を外されるということだ。

「御意」

フィンは反論もなく、粛々と処罰を受け入れる。

対してユアンは、何故フィンが処罰を受けるのか分からず呆然としていたが、我に返ると一歩歩みでる。

「お、お待ち下さい陛下!

何故兄が処罰されなければならないのですか!?」

納得がいかないと、状況を省みず王に反論するユアンの無礼をフィンが嗜めようとするが、ジェイドが手を上げそれを制する。

「今言った通りだ。愛し子への敵対は国家への不利益。

お前は三度国へ害を与えようとしたと同義だ。

それを諫めきれなかった上官の責任は当然ある。

何故とお前は問うが、他でもないお前のせいでフィンは処罰を受けなければならないのだ」

「そんな……。ですが、俺はこの女とヨシュアが陛下を謀っていたから……っ」

「代わりのいる竜王と、代わりのいない愛し子。一体どちらを優先させることが国の為になる?

ルリが人である事を隠したいと願うのは、国に害を与えるほどの事ではない。

それなら、愛し子の願いを聞き届け、黙っていたヨシュアを責める理由はない。

そもそもルリが隠していたのはこちらに非があったのだからな」

「しかしっ!」

「いい加減にしなさい!」

ジェイドの言葉を聞いても納得がいかないユアンが更に言い募ろうとした時、ユークレースの一喝が飛ぶ。

「あなたの個人的な感情でこれ以上精霊を刺激して、その後の責任は取れるの?

それとも、フィンの立場を更に悪くしたいのかしら」

「………っつ」

悔しげに歪むユアンの表情。

「ルリが愛し子でなかったにしろ、あなたのこれまでの言動は、完全な言いがかりよ。ルリはあなたに対して何もしていなかったし、あなたが突っかかってきた後も、何かするどころか精霊達を止めていたんだから」

「ユアンには数日の謹慎を命じる。

頭を冷やし、自分の非を認めるまで出て来るな。下がれ」

ジェイドの厳しい声に、一瞬泣きそうな表情をしているように瑠璃は見えた。

ユアンはそれ以上何も言わず、一礼して退出していった。