軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

奪還

宮殿の中は完全にファガールの支配下にあった。

そこら中を我が物顔で歩き回るファガールの兵士達の姿に、獣王国の兵士の顔は般若のようになっていく。

アルマン達はコソコソと動きはしなかった。

堂々と真正面から向かっていく。

それができるのは瑠璃がいるからだ。

そもそも兵力の差は明らかで、普通なら獣王国が負けるはずのない戦だったのだ。

それが、異世界から来た愛し子というイレギュラーのせいで、蹂躙されてしまったのである。

「行け! お前達は北側へ向かえ。お前達は東側だ」

「御意!」

「お任せください!」

アルマンの指示で兵士達が分散していく。

普通に牢から抜け出してきたアルマンと兵士達に、ファガールの兵士達は驚き、騒ぎ出す。

「どうして捕虜が牢から抜け出しているんだ!?」

「魔封じの枷をしていたはずだろう!」

そんな多少の動揺はあれども、一方的な戦いをして勝利を収めた自信からか、向かって来ようとする者は多かった。しかし……。

「なんでだ! 魔法が使えないぞ!」

「俺もだ」

「どういうことだ、愛し子はどこへ行ったんだ!?」

魔法が使えずに大混乱に陥るファガールの兵士達。

その一方で、魔法をバンバン使ってファガールの兵士達を一掃していく獣王国の兵士達。

その先頭にはアルマンが立ち、誰よりも多くファガールの兵士を倒していく。

瑠璃の願いしか聞き届けない精霊達により、ファガールから魔法を奪い去り、代わりに獣王国の兵士達は精霊の力を借りて魔法を使う。

セレスティンよりも格上の愛し子がいたために魔法が使えず、負けてしまった獣王国であったが、今はファガールの兵士達の方が魔法を使えなくなっている。

二つの国は完全に立場が逆転した。

アルマン率いる獣王国の兵士達は、どんどん占拠された宮殿を奪還していく。

それに伴い、兵士ではない、宮殿で働いていた者達も救出していった。

どうやら集められて部屋に監禁されていたようだ。

中には怪我人もいたが、それはジェイド達からもらった竜の薬を遠慮なく使って治していく。

瑠璃一人では手が足りないので、精霊に薬の入った瓶を渡して、怪我人を治療していってもらうようにも頼んだ。

もちろん、獣王国の人達が優先である。

甘いかもしれないが、敵と言えど死者を出すことに瑠璃は忌避感があった。

それ故、ファガールの者でも、重傷者には薬を使った。元気になった後に暴れないよう、先に拘束してからだが。

近くでアルマンがなにか言いたそうにしていたが、そこはあえて無視する。

アルマンも瑠璃の行いに文句を言ってくることはなかった。

恐らく心の中では激しく怒鳴っているのは想像に容易い。

もちろん、瑠璃とてセレスティンが大怪我を負わされたのを忘れたわけではないのだ。

それでも、瑠璃とて曲げられないことがある。

宮殿の奪還は疑いたくなるほどスムーズに進行していた。

飲まず食わずだった兵士達の疲労は激しく、満身創痍の者も多かったが、士気は異常なほど高かった。

それは、瑠璃からセレスティンの様子が伝えられたことも大きいだろう。

この国の人達は愛し子をそれは大事に思っているからこそだ。

敵討ちとばかりに、ファガールの兵士達への攻撃が強く、やりすぎて殺しやしないかと瑠璃はヒヤヒヤだった。

最悪、生きてさえいれば竜の薬は効果を発揮するので、半殺し程度でおさめてくれと瑠璃は願った。

竜の薬を丸々一本飲んだ影響か、魔力がまったく尽きる様子のないアルマンの奮闘により、恐ろしい速さで宮殿を取り戻すことに成功した。

そして、玉座の間では、ファガールの王族がまるで自分の物のように椅子に座っており、アルマンを見てぽかんとしていた。

「てめえ、誰の許可を得てその椅子に座ってやがる」

地を這う低い声ですごむアルマンに、ファガールの王族は生まれたての小鹿のように足を震わせた。

「さっさとどきやがれ!」

抵抗すら忘れるほど怯えるファガールの王族の胸倉を掴むと、アルマンは椅子から引きずり下ろして投げ捨てた。

「ひぃぃぃぃ!」

小国と言えど、一国の王族とは思えない気の弱さ。

だがまあ、不機嫌マックスの今のアルマンを前にしたら、ほとんどの者が同じ反応をするだろう。

戦いによる高揚感で余計に覇気が溢れており、コタロウとリンに守られている瑠璃でも正面から対峙したいとは思えない。

アルマンはファガールの王族を擦巻きにして転がし、それを足置き場にして王の椅子に座ってからようやく息を吐いた。

「お疲れ様です」

瑠璃は興奮冷めやらぬ状態のアルマンに、温かなお茶を渡した。

味方であるはずの獣王国の兵士達ですら怯えているので、早く落ち着いてほしいのだ。

そんな瑠璃の気遣いを察した様子もなく、「酒の方がいいんだがな」と、文句を口にしながらお茶を一気飲みした。

「ったくよ、こんな弱小国に負けたなんざ、獣王国の黒歴史だ」

アルマンはそう言いながら、足置き場になっている王族をグリグリと踏みつけた。

「ひぇぇ、命だけはお助けを!」

「足置き場はしゃべるんじゃねえよ」

「はいぃぃ!」

グリグリと再度踏みつけて黙らせる。

これではどちらが侵略者か分からない光景だ。

「ルリ、俺はこれから王都内の兵士を掃除してくる。王都内もファガールの兵士が占拠しているようだからな。早く一掃して民を安心させてやらねえと」

「民間人の被害は大丈夫でしょうか?」

瑠璃は以前にこの国の王都を見て回ったことがある。

誰もが精霊を愛し、崇め、そして愛し子を大切にしていた。

信仰心が篤いせいか、気安く買い物をするというようにはいかなかったが、活気があり、人情味あふれるいい町だ。

「民の被害は少ないらしい。どうやらファガールの愛し子に精霊が従っていたために、表立って抵抗しなかったのが幸いしたようだ」

「なるほど。精霊への信仰心が深いおかげですね」

「そうだな。それでも早く取り戻すに越したことはない。ルリは精霊達に、継続してファガールの味方をしないように頼んでくれないか?」

「分かりました」

精霊達には事細かにファガールの兵士の特徴を教えておく。

そしてその者達には手を貸さないようにと指示する。

それを見届けてからアルマンと兵士は町へと向かっていった。

本当は瑠璃もついていこうとしたのだが、ファガールの愛し子二人は今も宮殿の地下牢の中。

なにをやらかすか分からないので、そちらの監視をしていてもらいたいと頼まれたのだ。

それに、愛し子である瑠璃を危険な戦いの場に連れていきたくないという思いもアルマンにはあったのだろう。

瑠璃としてはまったく問題ないが、それを言ったところでアルマンはよしとしないに違いない。

大人しく、アルマンがつけてくれた兵士とともに宮殿で待つことになった。

特に問題が起こることもなく、日が暮れてきた頃にアルマンは帰ってきた。

王都の人々は深い事情を知らず、これからどうなるか不安の中で過ごしていたようだが、アルマンが兵士を率いてファガールの兵士達を捕まえていくとともに安堵が広がっていったようだ。

王都の人の中には、信仰心が篤いあまりに、精霊が味方しない獣王を王としておくのはいけないのではないかと、一部でアルマンへの不信感が生まれつつあったらしい。

だが、今度は精霊はアルマンに味方し、ファガールの兵士がどんなに魔法を使おうとしても、精霊達は無視を決め込んだ。

それにより、アルマンの信頼が回復したのである。

なんとも現金なことだ。

だが、それだけ不安だったということでもあるのだろう。

国民の被害は最小限だったようで、瑠璃もそれを聞いて安堵する。

***

宮殿を無事に取り戻し、落ち着きを取り戻した獣王国。

「ルリ、今回は本当に助かった。国を代表してお礼を言いたい」

「いいですよ」

改まってお礼を言われ照れる瑠璃に、アルマンは「ただし」と付け加え、瑠璃はきょとんとした。

「愛し子が一人で戦争真っ只中の危険な場所に来るなんざ論外中の論外だ。もっと、周りの心配もしろ。愛し子を万が一にも巻き込んで死なせたなんてなったら、獣王国自体が地図上からなくなるだろうが。特にルリには最高位の精霊がたくさんついてるんだからな」

何故かお説教モードに突入してしまい、瑠璃はついていけないでいる。

「でもでも、私じゃないと止めることはできませんでしたよ? 私が着いた時に、ご自分がどんな姿だったか忘れたんですか?」

今は綺麗で質のいい服を着ているが、瑠璃が来た時のアルマンは服も体もボロボロだったのだ。

いつなにがあってもおかしくない状況だった。

現に、兵士達を牢から解放している途中で総大将が愛し子の二人を連れてやって来ていた。

あれは、またアルマンを痛めつけるために訪れたに違いない。

瑠璃の到着が遅かったら、ひどい目に遭っていたかもしれないのだ。

お説教されるのはなんだか不服である。

「それでもだ。あまり自分を過信しすぎるな。ジェイドのためにも」

ジェイドのため。

それを言われると瑠璃も弱い。

ジェイドを引っ張り出してくるのは卑怯だと思いつつ、瑠璃は素直に頷いた。

「はい……」

今回の一件は自分の行動を間違ったと思っていないが、確かにジェイドには心配をかけさせただろう。

ジェイドだけでなく、コタロウやリンにも。

そう考えると、自信を持って正しいと声高々に主張することができなくなってしまった。

目に見えて落ち込む瑠璃に、アルマンは苦笑する。

「ルリが助けに来てくれたことを責めているわけじゃない。愛し子相手には、俺だって凡人になり下がるからな。愛し子を相手にできるのは愛し子だけだ。そこは間違いないが、お前を大事に思っている奴のことをもっと考えてやれ」

その言い分は理解できるが、瑠璃はムッとする。

「それを獣王様が言いますか? 自分は残ってセレスティンさんとパパラチアさんを逃がすなんて。やってることは私とそう変わらない気がするんですけど」

心配をかけさせている点ではどっちもどっちだ。

アルマンが視線を彷徨わせた。

「あー、ルリ。そろそろ帰った方がいいんじゃないか? ジェイドも心配しているだろう」

そんなあからさまな話題の切り替えに、瑠璃は半目になってアルマンを見つめる。

「しばらくこちらはバタバタしているだろうから、セレスティンとパパラチアを任せてもいいか?」

瑠璃はパパラチアのお腹を思い出す。

「パパラチアさんのお腹はかなり大きかったですもんね。あの状態で長旅をするのは妊婦さんにはつらいでしょうから、お子さんが生まれるまで竜王国で過ごしてもらいましょうか?」

「そうだな。それがいいかもしれん。ジェイドには後ほど手紙を送っておく」

「そうしてください」

そこでふと瑠璃は気になった。

「今、地下牢にいる愛し子はどうするんですか? 厳密には転移者なので、ファガールの国民ではないですけど」

「そうだな。簀巻きにした王族も捕虜にしているし、そこら辺は改めてジェイドとも話したいな。俺としてはファガールには返せないし、かと言ってこの国にも置いておきたくない。女の方はまだしも、男の方はセレスティンより格が上だから、なにかあっても止められない」

「ですね」

「最高位の精霊のいる竜王国か霊王国に引き取ってもらうのが一番安全な気がする」

自分を特別と信じて疑っていない、あの傲慢さは危険だと、瑠璃でも思うのだ。

アルマンが警戒するのは当然だった。

「だが、話し合いが終わるまではここに置いておくしかないから、できればルリの方から、もう一度精霊達を抑えておいてくれないか?」

「私がいなくなった途端に精霊達を従わせて牢から出られたら大変ですからね」

瑠璃はクスリと笑い、側にいた精霊に頼む。

「今牢に入ってる愛し子の言うことは聞いちゃ駄目よ。絶対にね。もしなにかあった時は、ちゃんとコタロウやリンに連絡してからにしてくれる?」

『わかったー』

『ルリの言うことは聞けーって言われてるから大丈夫だよー』

『ルリのお願いだから聞くー』

精霊は素直に瑠璃の願いを聞き入れてくれた。

やはりコタロウやリンの力は大きいようだ。

さすが最高位の精霊と言いたいが、そんな最高位の二精霊に名前をつけて従属させているのだから、帝国貴族が文句を言ってくるはずである。

「じゃあ、そろそろ帰りますね。皆が心配しているので」

「ああ。ジェイドにはよろしく伝えてくれ」

「はい。ではまた」

瑠璃は獣王国に来た時と同じ要領で自分の空間の中に入ると、そこで待っていたリディアの力で今度はジェイドの空間の前に移動させてもらう。

ジェイドはどんな空間なのかなと思ったら、予想以上にすっきりとしていた。

魔力が多いので広い故にそう思うのもあるかもしれないが、物で溢れかえっている瑠璃の空間とは大違いである。

きっと定期的に整理しているのだろう。

ジェイドの真面目な性格がよく伝わってくるような中身だった。

あまりじっくりと見るのもプライバシーの侵害なので、リディアにすぐ出口を作ってもらい外に出る。

体が全部出きらないうちに、瑠璃は引き寄せられ抱きしめられる。

それは馴染み深い温もりと匂いがし、すぐに自分を抱きしめているのがジェイドだと分かった。

「ジェイド様、ただいま」

「ああ。おかえり、ルリ」

まるで瑠璃の無事を確かめるように強く腕に抱くジェイドを、瑠璃は止めはしない。

「怪我はないか?」

「今回はまったく危険な場面はありませんでしたよ」

「嘘はすぐバレるぞ」

「どうして嘘になるんですか」

「今までを思い返してみろ」

言われた通り思い返してみて、瑠璃は笑った。

「あはは……」

ずいぶんと乾いた笑いだ。

毎回なにかしらの問題に遭遇しているので、今回危険な場所にみずから向かいつつ危なげなかったのは快挙ではないだろうか。

今回だけはユアンに文句を言われずに済む気がする。

「獣王国はどうなった? アルマンは……」

「……無事ですよ」

瑠璃はそっと視線を逸らす。

「その間はなんだ」

「えっと……、私が着いた時にかなり怪我しているみたいで驚いちゃって。ジェイド様達からもらった薬を一瓶飲ませちゃいました……」

「一瓶全部か?」

ジェイドが顔色を変えた。

その様子からして、やはり多すぎたことが窺える。

瑠璃は気まずそうにこくりと頷いた。

「アルマンの状態は?」

「元気すぎるぐらい元気でした。だから、大丈夫ですよね?」

瑠璃に薬のことは分からない。

なのでジェイドに聞くしかないのだが……。

「元気なら大丈夫だろ」

どこか投げやりなジェイドに、瑠璃は一気に不安になった。

「えー! しっかりと大丈夫って肯定してくださいよ」

「私は知らん」

「ヤバイ、どうしよう」

しばらく瑠璃は頭を抱え、アルマンの様子をコタロウに観察してもらっていたが、何日経ってもアルマンの体調が変化したと報告がなかったので安堵した。