軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大会

王を決める大会がとうとう始まった。

王都の町は三十年に一度の一大イベントに大盛り上がり。

城から大会の行われる町の中心部にあるコロシアムまで続く大通りは装飾がされ、出店がたくさん並んでいる。

大国の王を決めるイベントとあって、各国から賓客もたくさんやってきていて、宰相のユークレースは大忙しだ。

賓客の中には瑠璃もよく知る獣王やセレスティンもいるらしい。後で挨拶に行くべきだろう。

セレスティンには是非とも作った温泉も見せたいと瑠璃は思っていた。

そしてアドバイスなんかももらえたら嬉しい。

大会の翌日には竜王の続投もしくは新王の祝いの席が設けられているので、そこでゆっくりと話す時間も取れるだろう。

今はそれより大会のことだ。

ジェイドが戦っているところなど一切見たことのない瑠璃は、本当にジェイドが戦えるのかとちょっと心配だったりする。

竜王というのだからこの大会に勝って竜王となったのだとは分かっていても、執務室で座っている姿を見ていることが多いので、訓練場で戦っている姿も見たことのあるフィンと同じ優勝候補だと言われてもあまりピンとこない。

瑠璃は会場の個室の特別室からその時を緊張しながら待っているが、リシアとベリルはいつも以上にテンション高めだ。

「きゃー、楽しみね!

外でも出店がいっぱい出てるみたいだし、後で行かなきゃ」

「うおー、俺も出たかったぞー!」

子供のようにきゃいきゃいはしゃぐリシアと会場の熱気に当てられ興奮しているベリル。

そしてそれを苦笑しながら見ている琥珀。

異世界でこうして家族全員揃っていることに、今さらながら違和感が半端ない。

かなりあっさりとこっちに来ることを決めたようだが、本当に良かったのだろうか。

いくら娘がいるとは言え、その決断をするのは究極の選択のように思うのだが、三人を見た感じあまりそうは感じられない。

まあ、今のところ楽しそうに過ごしているようだし良いのかもしれないが、自分がここに来てしまったことでたくさんの物を捨てさせてしまったことに瑠璃は申し訳なく思った。

「もうそろそろ始まるよ」

クォーツの言葉に会場の中心へと視線をやると、大会の開始を知らせる花火が打ち上がった。

途端に観客席から歓声が上がると、ジェイドがコロシアムの中央に現れた。

それ以上の声が湧き上がる。普段見ることのできない王の姿を目の当たりにし、観客のテンションも上がりに上がっている。

ジェイドが手を挙げると、すうっと声が引き静かになった。

「おお、ジェイド様、王様っぽい」

「いや、王様だからね」

尤もなクォーツの突っ込みも右から左に流し、ジェイドを見つめる。

ジェイドが始まりの挨拶を始めたが、ジェイドとはかなりの距離がある。それなのにどうしたことか、ここまで声が聞こえてくることを不思議に思った。

「あれ、声が聞こえる?」

広いコロシアム内の後ろの方にもきちんと声は届いているようだ。拡声器もないのにどうなっているのか。

「風の魔法を使って声を届けているんだよ」

「なるほど」

さすが魔法のある世界。機械など必要ないようだ。

「……正々堂々と竜族の名に恥じない戦いをすることをここに誓う」

ジェイドの挨拶が終えると、とうとう大会の始まりだ。

試合形式は一対一。負けを認めさせるか審判が負けと決めたら勝ち。竜族の名に恥じない戦いなら何でもありという、ルールなどあってないようなルール。それだけでちょっと不安を覚えるが、構わず試合が始まる。

最初に現れた人は、大人しそうな人で最初なので少し緊張気味に見えたが、開始の合図と共にそんな気持ちも吹き飛んだのか、とたんに真剣な表情へと変わる。

戦闘になると人格が変わるのは竜族だからなのか、二重人格者なのではと思うようなはっちゃけぶりだった。

鬼気迫る顔で相手と剣を合わせ、その度に観客は息をのんで、またある者は声の限り叫んで応援する。

そんな状態でこの先続くのかと心配になるが、次、また次へと試合が移りゆく度にヒートアップしていく。

初めて見る瑠璃はその熱気に若干置いてけぼりをくっているが、試合に集中できないのはそれだけではない。

瑠璃は城での竜族達の訓練風景をすっかり忘れていた。

手加減無用で腹に穴が開くなど日常茶飯事。血を血で洗う凄惨な現場と化しているあの訓練場。それがあくまで訓練でその光景が作られるのだ。

王を決める真剣な試合となれば、それ以上の気合いと本気を持って取り組まれる。

正直これは殺し合いなのではないかと勘違いしてしまうほど血飛沫が舞い、目を覆いたくなる光景が作られていて、これ絶対十八禁までいかなくとも十五禁ぐらいはある、という戦闘が繰り返されている。

これ子供に見せちゃ駄目なんじゃないかと思い観客を見てみたら、けっこう子供もたくさんいる。

情操教育に悪そうな気がするのだが、お構いなしに大きな歓声を上げて喜んでいる。

「うう、見てられない……」

元々ホラーとか嫌いな瑠璃。そっと視線を外していると、そんなことはなんのその、目を輝かせて応援しているリシアとベリルが目に入った。

戦場を知っているベリルはまだしも、リシアの毛の生えた心臓といったら、たわしのようだ。

そんな妻とは反対に、必死に目をそらせて青ざめていたのが琥珀だ。

瑠璃と同様あまりこういう過激な物は得意ではないのか、直視しないよう頑張っている。

「お父さん大丈夫?」

「……駄目かもしれない。僕はこういうのが苦手なんだよ」

「私お父さんに似たのね。お母さんはホラーとか好きだもんね」

「忘れもしない初デートの日。僕は純愛ものの映画が見たかったのに無理矢理ホラー映画に連れていかれて、その夜は眠れなくて……。

ああ、そう言えばあの時も僕は嫌だといったのに……」

だんだん愚痴へと発展してきたので、それとなく距離を取る。おかげで思考が別の方へいったから良かったのかもしれない。

その時今日一番の歓声が上がり会場に視線を戻すと、フィンが出てきている所だった。

「あっ、フィンさんだ」

この大会で大々的に行われている賭けではフィンが全員の中で二番人気とあって、フィンの登場で観客は待ってましたとばかりに大声援を送る。

しかし瑠璃は見てしまった。

そんな観客席の一番前で、大きな旗を振り回し誰よりも大きな声援を送るユアンの姿を。

「ユアン……」

出場者以外の竜族の兵は、他国からの賓客の護衛や会場の警備などにあたらなければならないはずなのだが、フィンの応援を優先させたユアンは迷わず非番届を出し、万全の体制で応援に専念することにしたようだ。

忙しい中でよく休みが受理されたものだ。

ちなみにあの大きな旗はユアンが連日夜なべして作った力作らしい。

フィンはジェイドに継ぐ実力者と言われるだけあり、相手はまるで歯が立たず、あっさりと勝利。

他とは一線を画する強さを見せつけた。

「兄さぁぁぁん!!」

まだ最初の一回戦だというのにあのユアンの喜びよう。もう優勝したかのようだ。

大好きな兄が勝って嬉しいのは分かるが、フィンのような冷静さをもう少し身につけた方が良いと思う。

ユアンと違い、フィンときたら始終表情を変えず、冷静だ。

一回戦を勝ったごときでは微塵も喜びを見せはしない。

目指すのはもっと上なのだろう。

そして、それはジェイドも同じで、退場するフィンと入場してくるジェイドの視線が刹那合わさる。

そして、入場してきたジェイドに、フィン以上の歓声が降り注ぐ。

さすが竜王、国民の人気は絶大だ。

ジェイドはフィンに負けず劣らずの早さで、手にした剣だけで相手をねじ伏せた。

他の戦いのように血なまぐさいというものではなく、美しいほどの剣技で相手を叩き、相手は全く反撃もできないまま倒されてしまった。

ジェイドとフィン、賭けの人気トップツーだけあって、突出している。

「ほわぁ……」

竜王なので強いとは分かっていたが、実際に戦った姿を見るのはやはりひと味違う。

勝ったと喜ぶのも忘れて呆けたようにジェイドを見つめていると、隣でクォーツがくすくすと笑う。

「惚れ直したって顔してるよ、ルリ」

「そ、そんなこと……いや、ありますけど……」

図星ではあったが、指摘されるほどあからさまな顔をしていたのかと思うと恥ずかしくなってきた。

おそらく瑠璃だけでなく会場の多くの女性達が瑠璃と同じように頬を染めていたに違いない。

大会は順調に進み、ジェイドとフィンは皆の予想通り難なく勝ち抜いている。

大会に出場しているのは誰もが腕に覚えのある者達なのだが、正直真剣に王の座を狙って出場している者はほんの一握りらしい。

やはりジェイドとフィンが突出しすぎているようだ。

誰もがこの二人のどちらかだという予想を崩さない。

それは大会に出場している者もそうで、どちらかというと、とりあえず戦いたい戦闘狂や、自分の力量を確かめたい者というのがほとんどのようだ。

とは言え段々と勝ち進んで行くにつれ、強い者が残ってくるので、さすがのジェイドやフィンも簡単には倒せなくなってくる。

反撃もされ体には傷が増えていく。

フィンに攻撃が当たる度にユアンなどは大騒ぎだが、瑠璃もジェイドが怪我を負うのを見るのは心配で、ユアンに負けないぐらい騒いでいたが、竜族からしたらかすり傷程度であろう。

瑠璃ができることと言ったら遠くから祈ることしかできないが、クォーツやアゲットはさほど心配してはいないようだ。

それはこの程度では負けないという信頼故だろう。

ジェイドとフィンは多少の苦労はしつつも、大方の予想通り決勝戦まで勝ち上がった。

残るはジェイドとフィンの一騎打ち。勝った方が竜王となる。

「き、緊張してきた」

「戦うのはルリではなかろうに」

アゲットが苦笑を浮かべるが、緊張するものは緊張するのだ。

「にしても、予想通り陛下とフィンが残ったな。ふむ、これはどちらを応援したものか」

ユアンならば迷わず「兄さんに決まっている!」と答えただろうが、ジェイドもフィンも瑠璃にとても近しい人達。

いったいどっちを応援したものか迷う。

ジェイドの番いとしては応援すべきはジェイドなのだろうが、フィンも瑠璃にとっては兄的存在。

フィンも応援したいが、瑠璃がフィンを応援したとジェイドが知ったらすねそうだ。そうなると後が面倒臭い。

やはりここはジェイドを応援すべきか……。

そんなことを考えている内に、開始の合図がなされ、試合を注視する。

しかし二人は合図がされても一歩も動かない。じっと互いを見つめ合い剣を構えているだけ。

だからと言って早くしろなどと無粋な声を掛ける者などいない。ピンと糸を張ったような緊迫感が二人を包み、誰一人声を上げられずにいる。

そして刹那、どちらからともなくガキィィンっと剣が振り下ろされ、合わさる。

誰もが息も忘れて魅入っていたのに気付いてそっと息を吐き出す。

途端に会場中から歓声が上がり、それぞれの応援したい方に向け声を張り上げる。

瑠璃もそんな声に埋没しながら応援をしていたが、一番に思うことはどちらも怪我をしないようにだ。

しかし実力者同士の戦いで怪我をしないわけがない。少しずつだが返す剣で傷を負っていく二人。

そう力の差が大きいと言うわけではなさそうだ。

二人共に力が拮抗しているように見えたが、しばらくしてくるとほんの少しずつフィンが押され始めた。

観客席からはユアンが何やら絶叫しているが、フィンには聞こえていないだろう。

すると、それまで冷静で表情の変わらなかったフィンの表情がわずかに崩れた。苦しそうに一瞬眉をしかめる。

一瞬崩れたフィンの体勢。できた隙を見逃すジェイドではなく、一気に畳み掛ける。

フィンもジェイドの猛攻を何とか防ぎながら何とか体勢を整え直そうとしたが、ジェイドの魔法で剣が弾き飛ばされ手から離れる。

そしてジェイドがフィンに剣を突きつけたところで、フィンから「参った」の声が上がり、会場が大きな歓声に包まれた。

「あら、瑠璃の旦那様が勝ったわねー」

「やはり竜王とは強いのだな。ぜひとも戦ってみたい。後で頼んでみるか」

などと、リシアとベリルは思い思いに戦いの感想を述べている。

負けたフィンは悔しいと言うよりどこかすっきりしたような清々しい表情を浮かべている。

「残念です。書類仕事ばかりの陛下には今回は勝てると思ったのですが」

「これでも竜王と呼ばれる者だからな。簡単には勝たせられん。まあ、少し危なかったが」

「次こそは必ず」

「ああ」

二人はお互いの健闘をたたえて握手を交わした。

ユアンが滂沱の涙を流しながらフィンの敗戦を悲しんでいるのが見えたが、フィンはそこまで悔しがってはいなさそうだ。

一生懸命戦った末の結果なので、素直に受け入れているのだろうが、しばらくはユアンがうじうじして鬱陶しそうだ。

後で残念会にお酒でもプレゼントしておこう。

決勝戦が終わり、ジェイドが継続して竜王を続けるということで大会は全て終わった。