軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

祖父と両親と

祖父と両親、アンダルは、竜体となったチェルシーに乗り王都を目指す。

「きゃあ、高ーい」

「絶景、絶景、わはははは」

大きな竜体のチェルシーにリシアとベリルは大盛り上がりで、高さに怯えながら必死で掴まる琥珀と違い、きゃいきゃいと騒ぎながら空の旅を満喫していた。

城に着くと、そのままジェイドの執務室を目指し、ノックも忘れ部屋に駆け込んだ。

「ジェイド様、ちょっといいですかー」

「思ったより早いな。もう帰ってきたのか?」

部屋にはクラウスもおり、瑠璃に続いて入ってきたチェルシーに目を瞬き、さらに続いて入ってきたアンダルに目を丸くした。

「父上!?」

「よお、クラウス。元気にしてたか?」

「何でいるんですか!?」

「久しぶりにチェルシーに会いに行ったら、何だかんだでこうなった」

クラウスにとっても父親であるアンダルは久しぶりの再会のようで愕然としている。

ジェイドの方もチェルシーが来ることは予想できたが、まさか先代の獣王が来るとは思わなかったようで、驚きを露わにしている。

「アンダルが来るとはな」

「おお、ジェイド、久しいな」

「ああ、元気そうだな」

「この通りだ」

「今まで何をしてたか聞かないが、たまにはアルマンの所にも顔を出してやるといい」

「嫌だね。行ったらきっとあいつ殴り掛かってきそうだし。まっ、簡単に殴らせやしねぇけど」

がはははっと、笑うアンダルに、ジェイドは「自業自得だ」と呆れた様子。

先代の獣王であるアンダルは、きちんと次代に譲位せずに行方をくらましたため、獣王国ではその後大きな継承争いで内乱になった。

アンダルが何を思ってそうしたのかは分からないが、次代の獣王となったアルマンにしたら諸悪の根源に対して複雑な心境もあるはず。

「ところで、その後ろにいる者達は?」

そこでやっとジェイドの意識が最後に部屋に入ってきた祖父と両親へと向いた。

なにやらリシアはジェイドを見て瞳をキラキラとさせている。

瑠璃が紹介をと口を出そうとする前に、リシアは瑠璃を押しのけ前に出ると「きゃー!」と嬉しそうに声を上げた。

ジェイドは目を瞬く。

「いやだ、イッケメーン!あなたが瑠璃の旦那様!?」

「あ、ああ、まだ旦那ではないが、そうなる予定だ」

ジェイドは少しリシアの迫力に押され気味である。

「こんなイケメン掴まえるなんて瑠璃もやるわね。

こんな息子が出来るなんて嬉しーい!!」

「息子?」

ジェイドは問うように瑠璃に視線を向けると、瑠璃は若干げんなりとしながら答える。

「私の両親と祖父です」

「ルリの?……そうか、こちらに来たのか」

ジェイドは改めてリシアに向き直ると、丁寧に挨拶をした。

瑠璃の両親、やはり第一印象は大事。ジェイドの中でも一番好印象を与える笑みを浮かべた。

「お初にお目に掛かる。この竜王国の竜王をしているジェイドという。ルリの両親とこうして会えて光栄だ。この国はあなた方を歓迎する」

「私は瑠璃の母のリシアでーす」

「祖父のベリルだ、よろしく頼む」

「父の琥珀です」

どちらからともなく手を差し伸べ握手を交わしていくが、好意的なリシアとベリルとは違い、琥珀はあからさまに敵意のこもった目でジェイドとじとーっと睨みながら手を握る。

その手もどことなく強い気がするのは気のせいではないだろう。

ジェイドは何故こんな目で見られるのか分からず困惑顔。

瑠璃も分かっていなかったが、リシアは理解して琥珀の背中をばしんと叩いた。

「もう、あなたったらっ!」

叩かれた勢いで前のめりになった琥珀に構わずリシアはにこにこと笑みを浮かべる。

「ごめんなさいね、陛下。この人ったら瑠璃がお嫁に行くって聞いてから機嫌が悪くって。男親ってのはやーね、娘の相手は敵みたいに思ってるんだから」

「そういうことか。いや、それは仕方がない、大事な娘をもらうのだから」

気にしないとするジェイドにじとーっとした目を向ける琥珀はジェイドに詰め寄る。

「本当にあなたにうちの娘を任せてもいいのか?」

「もちろんだ。必ず幸せにすると約束しよう」

「瑠璃も、本当にこの人でいいんだな?」

「うん、ジェイド様がいい」

そっと寄り添う二人の目には迷いはなく、琥珀一人が反対したところでどうにもならない。

それを理解したものの理解したくない複雑な父親心に頭を悩ませながらも、がっくりと肩を落として諦めるしかなかった。

「こんなに早く娘を嫁にやるなんて……」

「はいはい、娘はいつか嫁に行くものよ~」

ちょっと面倒臭くなってきたのかリシアの琥珀の扱いが少々雑だ。

「そんなことより、お城の中を案内してちょうだい。瑠璃がどんな暮らしをしているか気になるわ」

母親として娘の生活が気になるというように言っているようだが、ただお城を探検したい!というように聞こえるから不思議だ。

わくわくと期待に胸を躍らせているのが表情から分かるせいだろう。

まるで子供のようなリシアに引っ張られて執務室を後にした。

ベリルは勝手に歩き回ってくるというので両親だけを連れ、最初に案内したのは毎日生活している瑠璃の部屋。

中を見せた瞬間、その広さと豪華さに口を開けて驚いている。

「まあ、すごい」

「ここを一人で使ってるのか、瑠璃?」

「うん、そう。豪華だよね」

庶民には考えられない部屋だ。

最初は居心地の悪かったこの広さも、ようやく最近慣れてきたところだが、両親には驚きしかないようだ。

ここは王妃の部屋なので豪華なのは当然だが、ここに入る前まで使っていた愛し子の部屋もここと遜色のない上等な部屋だ。

これまで使っていた愛し子の部屋は今大急ぎで掃除がされている。両親達に使えるようにと。

「お父さん達はこれからどうするの?

ジェイド様達は城で暮らして欲しいみたいだけど」

「そうねぇ、どうしましょ」

「僕としては城での生活より普通の生活の方が気楽でいいけど」

「そういうと思って町に家も用意してあるよ。

あと、外交官だったお父さんには城で働いて欲しいってジェイド様言ってたけど」

「それは助かるよ。こっちの世界でちゃんと働いていけるか心配だったから仕事を紹介してくれるならありがたい」

本当は愛し子である母と祖父には瑠璃と同じように国から予算が出るはずだ。

この国で暮らすなら仕事なんかせずとも贅沢三昧で生活していけるだろうが、元々仕事人間の父と母。

何かしら仕事をしていないと生きていけないだろう。

以前と同じような仕事が出来るなら願ったりなはず。

「じゃあ、ジェイド様にもそう言っとくね」

「ああ、お願いするよ」

***

家族と再会してから数日。

この国に慣れるまでは城で滞在することになった両親と祖父。

慣れようと四苦八苦している父とは違い、適応能力の高い母と祖父は昔からいたかのように城に馴染んでいる。

竜王国にやってきたチェルシーに早速温泉を案内したが、やはりというか不評だった。

魔法という簡単に身を清める方法があるのに何故わざわざ温泉に入るのか理解不能だという。

温泉は身を清めるだけではない。疲れた心と体を癒やす効果もあるのだと、懇々と力説したがチェルシーの心には響かなかった。

いや、まあ、分かっていた結果ではあった。チェルシーの家の庭に作ったお風呂もチェルシーが使った様子がないことからも分かる。

そうは言っても、苦労して作った温泉をばっさりと切り捨てられ瑠璃はがっくりだった。

その代わりと言っては何だが、祖父と両親には好評だった。

特にベリルは毎日のように温泉に通い、常連達と意気投合して友人達ができたようだ。

そんなベリルはカイとも意気投合。性格的に大らかなカイと気が合っていたようだ。

ベリルを気に入ったカイは瑠璃との契約をあっさり解除。『こいつの方が面白そー』と言ってベリルと新たに契約してしまった。

ノリと本能で生きているカイらしい迷いのない行動だった。

今ではベリルについて回っている。

ベリルは他にも竜族の兵とも仲良くなった。

訓練場を見せるやいなや、俺も!と言って訓練していた竜族の兵と一緒に対戦を始めた時は慌てた。

戦闘狂の竜族と一緒になって戦うなどできるはずがない。

訓練についていけないからこそ、他の種族の兵とは訓練場が別にされているのだから。

しかし、ベリルはここで人間離れした身体能力を披露することになる。

魔力が強いせいなのか、魔力で肉体を強化しているのか、素手で竜族の兵と肉弾戦。

これには兵達も驚き、次に歓声が上がり、さらには俺も俺もと、次々に対戦していくことに。

人間がまさか竜族と一対一で五分の戦いができるはずがないという常識を見事に打ち砕いた。

軍人時代、銃弾の雨の中弾を弾きながら突撃したという逸話を聞いて、そんな人間いるかと瑠璃は思ったが、これは現実味を帯びてきた。

今では毎朝兵達に混ざって訓練するのが日課となっている。

父の琥珀はクラウスから仕事の話を聞いたようだが、こちらの世界の言葉がまだ書けないことから、まず先にそちらの勉強から始めることになり、日々部屋で本と向かい合っている。

母のリシアは町に繰り出して竜王国の王都を満喫しているようだ。

護衛の兵が振り回されているようで少し気の毒に思う。

瑠璃はと言うと、温泉施設の営業も一段落いき、経営はほとんどアマルナに任せているので、たまに施設に顔を出す時以外はのんびりとしている。

「どうしよっかなー」

『何が?』

『どうかしたの、ルリ?』

ふよふよと瑠璃の周囲に取り巻く精霊達がこてんと首を傾げる。

あざとかわいい彼らの姿を見ているだけでも、幾分心が癒やされた。

「ジェイド様の所に行くか、温泉に行くかどうしようかなって」

『だったら、お庭で日なたぼっこしよーう』

『さんせーい』

「日なたぼっこか、そう言えば最近は忙しくしててそんな時間も取れなかったね。コタロウとリンも誘おうか」

『二人ならお庭にいるよ』

瑠璃は庭へと足を進めた。

その途中、テラスでお茶を飲むチェルシーとクォーツとアンダルの姿を見た。

先代の王であるクォーツとアンダルは共に王であった時期があるので顔見知り。

そしてチェルシーは一時クォーツの側近であった時期があったそうな。クラウスが側近として一人前になったのを機に隠居したので、随分前のことらしいが、意外な繋がりに驚いた。

久しぶりの顔馴染みを前にチェルシーも随分と表情が柔らかい。楽しそうに会話を楽しんでいるようなので、邪魔をしないようにそっと通り過ぎる。

庭にいたコタロウに飛びつきもふもふの毛に顔を埋める。

ごろんと転がりコタロウのふかふかの体を枕にしながら空に流れる雲を眺めていると、ふとヨシュアのことがよぎった。

ヤダカインに侵入しているヨシュア達諜報員だが、ここしばらく連絡が途絶えたと聞かされたのは最近のこと。

孤島なので連絡しづらいのは分かっているのだが、予定している定期連絡が遅れているようなのだ。

ヨシュアの身に何かあったのではないかと心配だった。

「大丈夫かな、ヨシュア」

大会の日は目前に迫っていた。