軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09 エルゴジーラ

北の平原は非常に広大で、木がまばらに生えている以外は背の低い草が生えているだけの土地である。

起伏も少ないため移動するには便はいいが、戦いとなると遮蔽物もなく、ただ正面からぶつかるだけになるという、双方に血を流すことを強いる戦場となる。

その中を一人で歩いている俺は、全身青銀のミスリル製鎧を身に着けいてることもあり、空からは丸見え状態だ。

こちらに飛んでくるワイバーンたちはすでにその鱗の模様が見えるくらいまでに近づいている。全長は頭部から尻尾の先まで20メートル、翼開長も同じくらいか。その中の3匹が俺の存在に気づいたらしく、こちらに首を巡らせて急接近してきた。

彼我の距離が200メートルを切ったあたりで、3匹のワイバーンは大口を開けた。その喉の奥が赤く光ったかと思うと、直径1メートルを超える火球が口から射出される。ワイバーン最大の武器、火球ブレスである。

「『ウォーターキャノン』」

そのままではさすがに中ボスでもダメージを受けるため、俺は水属性魔法を放った。やはり直径が1メートルを超える水球が3発高速で飛翔し、火球ブレスと正面からぶつかり合って互いに打ち消し合った。

「『アイスジャベリン』」

俺は間髪入れずに氷の槍を放つ。こちらに突進していたワイバーンは回避が間に合わず、それぞれ3本ずつの槍を身体や翼に受け、1匹は空中で絶命し、2匹は錐もみ状態で墜落していった。

するとそれまで悠然と高空を飛んでいたエルゴジーラがわずかに高度を下げてきた。鬼火のごとく青く光る目をこちらに向け、値踏みをするように見下ろしてくる。

しかしその体躯の巨大さは圧倒的である。身体の部分だけでクジラくらいはあるだろうか。首と尾を含めれば全長は軽く50メートルを超えるだろう。空を覆わんばかりの翼を広げる姿は、空の王者と形容するに 相応(ふさわ) しい。

俺は『シグルドの聖剣』を鞘から抜くと、魔力を最大まで一気に込めた。

銀の刀身がまばゆいばかりの輝きを放つのを確認して、その切っ先をエルゴジーラへと突き出す。

刀身からほとばしるのは極太の光線、最上級光属性魔法『ライトオブドゥーム』である。

ファンタジー世界を逸脱した極太レーザーがエルゴジーラの胴体を直撃する。

「ムウッ!」

巨体を大きく傾けるエルゴジーラ。だがダメージとしては、腹が多少えぐれて肉が露わになったくらいである。しかもその傷も、目に見えるスピードで再生していく。

エルゴジーラの鱗は超強力な魔法耐性、物理耐性を備えているうえに、本体も強力な再生能力持ちである。さすがモンスターの王者にして、四至将最強(ゲーム内設定)だっただけはある。

俺が再度『シグルドの聖剣』に魔力を込めると、その前にエルゴジーラは巨体を翻し、こちらに急降下しながら、牙の並ぶ口を開いてきた。

「小ウルサイ虫ケラガッ!」

喉の奥が青白く発光し、次の瞬間『ライトオブドゥーム』にも勝る太さの、蒼白のエネルギーブレスが放射された。

一直線に伸びる破壊の奔流は、 俺(・) の(・) い(・) た(・) 場所を含めて30メートルほどを薙ぎ払い、地面を一瞬で溶かして巨大な爪痕を残していった。いやいや、こんなの兵士たちの真ん中に撃たれたら大変な被害が出てしまう。

しかしエルゴジーラは絵面が完全に前世で見た怪獣映画そのものである。もっとも中身を考えると俺も人のことは言えないが。

「愚カナ虫ケラメ。跡形モナク消エ去ッタカ」

「どこを見ている、愚かなドラゴンよ」

「ナニッ!?」

俺はその時、エルゴジーラの背の上に立っていた。

もちろんエルゴジーラは地上から50メートル上空にいる。いくら俺が中ボスであってもそこまで飛び上がることはさすがにできない。

ではなぜ俺がそんなことが可能なのかと言うと――なんのことはない、『転移魔法』の応用による短距離瞬間移動である。『転移魔法』を譲ってくれた中ボス、『ディメンションハンドラー』が見せた技だ。

「くくくっ。空飛ぶトカゲに乗るのも悪くないものだな」

「貴様ァッ! 我ノ身体ニ土足デ乗ルダケデナク、ドラゴンタル我ヲトカゲ扱イスルカッ!」

陰険眼鏡の煽り言葉を受けて、エルゴジーラはあっさりと逆上した。完全にゲーム通りの性格である。

「ドラゴンも知恵が足らねばトカゲと変わらぬであろう」

更なる煽り言葉と共に、俺は『シグルドの聖剣』を、エルゴジーラの背中に突き刺した。輝く刀身は、オリハルコンにも勝ると言われる硬さの鱗をあっさり貫き、深々と突き刺さる。

しかもその状態で魔力を解放、『ライトオブドゥーム』を放ってやると、エルゴジーラの背中が爆ぜて大きく抉れた。かなりエグい攻撃だが、この程度でエルゴジーラが死ぬことはない。

「グオオオオッ!? 貴様、貴様ァッ!」

エルゴジーラはいきなり急上昇し、宙返りや錐もみ飛行など、激しく身体を振り回し始めた。背中の俺を振り落そうというのだろう。

俺は再びエルゴジーラの背に刃を突き立て、それによって身体を固定した。凄まじい加速度に全身が振り回されるが、超高レベル中ボスの身体能力をもってすれば、その程度で振り落とされることはない。

「コノ虫ケラガッ! 落チヌカッ!」

さらに激しく飛び回るエルゴジーラ。

周囲を飛んでいるワイバーンたちは、いきなり暴れ始めた主に驚いて、距離を取るようにしてこちらを見守り始めた。

しかし、

「オ前タチハ作戦通リ、アチラニ集マッテイル虫ケラドモヲ 蹂躙(じゅうりん) シロッ!」

とエルゴジーラが一喝すると、次々とインテクルース軍の方へと飛び去って行った。

意図していたわけではないが、上手くエルゴジーラとワイバーン部隊を分断できた。後は俺がエルゴジーラをどうにかするだけだ。

俺が背中でなおも粘っていると、エルゴジーラは凄まじい速度で飛行を始めた。

「後ハ貴様ダッ、我ガ身体カラ離レヌコトヲ後悔サセテクレルッ!」

エルゴジーラの向かう先を見ると、はるか遠くに噴煙を上げる、富士山に似た大きな山が霞んでいる。『火竜のねぐら』と呼ばれる、ゲームでも登場した活火山である。

さすがに頂上の火口から溶岩が流れ出していたりはしないが、火口には溶岩だまりがあるはずだ。ということはつまり、エルゴジーラは自分の耐性や防御力にものを言わせてその噴火口に俺ごとダイブするつもりなのである。

で、なぜ俺がそれをすぐに察知できるのかというと、もちろんこれが『ゲーム通り』の展開であるからだ。

「セイゼイ振リ落トサレナイヨウニ、シガミツイテイルノダナ!」

エルゴジーラは勝ち誇ったように叫びつつ、激しく錐もみ回転しながら飛び続けている。俺は『シグルドの聖剣』を掴んだまま耐えるしかない。

ちなみにこのシーン、大筋はゲーム通りではあるのだが、もとは主人公パーティがエルゴジーラの背中に飛び乗って巨体のエルゴジーラと戦うという変則的なバトルシーンであったりする。

火山に到達する前に次々に襲い来る手下のワイバーンを倒し、最後にエルゴジーラの頭部と戦って倒すというイベントバトルは、シチュエーションの無理さを考えなければ結構面白い趣向だったのだが、さすがにリアルではそのままとはならないようだ。

「グハハハッ! ヨク振リ落トサレズニ耐エルモノダ! ダガイツマデソレガ続クカナ!」

「この程度で振り落とせる私ではない」

「ダガソレ以上ハナニモデキマイ!」

と煽ってくるのは、目的を誤魔化すためだろうか。エルゴジーラは態度が傲慢ゆえに脳筋キャラっぽく見えるが、実は意外と理知的な面があったりする。