軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08 エルフの里

翌日からは『不帰の森』最奥部の探索である。

探索と言ってもエルフ族のアルファラが先導をしてくれるので、道に迷う心配は一切ない。

出てくるAランクモンスターを6人パーティになったフォルシーナたちが次々に倒していくだけだ。

「そういやアルファラはよくこんな森を一人で歩けんな」

道中クーラリアが、俺も思っていた疑問を口にしてくれた。

「我々エルフ族はこの森についてはすべてを知っているからな。モンスターに見つからずに移動するのは造作もない。無論里では侵入してきたモンスターと戦うことも多くなるから、皆が一流の戦士でもあるのだ」

「確かにこの森に住んでれば自然と強くなれそうだな」

「うむ。ただお前たちほどの戦士は里でもそうはおらぬ。それは認めよう」

「ありがとよ。ただこれでもご主人様の足元にも及んでねえんだけどな」

そんなことを言いながらAランクモンスターを一刀の元に切り捨てるクーラリアは、もうレベルで言えば50近そうだ。ゲームクリア平均レベルが60であることを考えると、完全にこの世界でもトップレベルの実力者である。

フォルシーナたちとハイタッチをしているクーラリアを眺めてから、アルファラが俺に近づいてきた。

「人族の王マークスチュアート、聞きたいことがある」

「なんであろうか」

「人族の戦士は、皆あのクーラリアたちのように強いのか?」

「いや、彼女たちは特別だ。あれほどの強さの者はそうはおらぬ」

「そうか……。なら少しは安心できるな」

「我々はエルフ族の里に攻め込もうなどとは思ってもおらぬぞ?」

「お前はそうだろうが、他の人族が同じと言えるか?」

「なるほど、確かにそれは保証できぬ。ただこの『不帰の森』自体、我が国の領地の中にある。他の勢力がここに来ることはない」

「ふむ……。我々は人族の事をほとんど知らぬ。そういった話も里では聞かせてもらいたいものだ」

「必要なことは話そう。さて、そろそろ里が近いのではないか? あちらが開けているようだが」

森の奥の方、幾重にも重なった木々の隙間から強い光が差し込んでいる。その先が木のない、開けた土地であることの表れである。

最奥部にはボスは出てこないはずなので、その先がエルフの里で間違いないだろう。

「ああそうだ。さて、ではまず私が先行して門番と里長に話をつけてくる。ゆっくりと歩いて来るがいい」

そう言って、アルファラは一人光の方に駆けていった。その動きは、なるほど森の民と納得できるほどの軽やかさである。

「お父様、私たちはついにエルフ族が多く住むという里へと至ったのですね。お父様の神のごときお知恵には驚いてばかりですが、この度のことはその中でも最も大きなものとなりそうです」

「私も多少不安はあったのだがな。里が実際にあることには胸をなでおろしているところだ。ただ我々の目的を考えれば、里にたどりついてからが本番となる。気を引き締めてかからねばな」

「はい、そうですね。ですがそれも、お父様のお知恵があればどうとでもなりましょう。すでにアルファラはお父様に大変感謝しているようです。表には出しませんけれど」

「ならいいのだが。族長の娘である彼女は、今回エルフ族と同盟を結ぶのに重要な役割を果たすであろうし」

と当たり前のことをさも重要そうに言ってみたのだが、なぜかフォルシーナがそこでわずかに氷の冷気をまとい始めた。

「……ということは、お父様はアルファラも手のうちに入れられるということでしょうか?」

その質問は、今までも何度かあったものだった。

だが他のメンバーまでがフォルシーナの言葉にピクッと反応して一斉に俺の方を見てきたのは初めてかもしれない。

「そのようなことは考えておらぬ。ただ彼女には橋渡しの役割を願うのみだ」

「お父様そう望まれていても、アルファラがその通りにするとは限りません。十分ご注意ください」

「うむ、確かにその通りであろうな。その言葉、胸に刻んでおこう」

アルファラがゲームのシナリオ通りにこちらに協力してくれるとは限らないというのはその通りだろう。必要な策は用意してあるし、フォルシーナたちメインヒロイン3人も揃っているが、だからといってそれだけでリアルなこの世界で通用するかどうかはわからないのだ。

そう気持ちを入れ直して、薄暗い森から日の光のもとに出る。

その向こうに広がっていたのは、ゲームで見た通りの森の民エルフの里の姿……ではなく、丸太を縦に並べ表面をコンクリートのようなもので塗り固めた、堅固そうな城壁であった。

正面に門があり、今は両開きの扉は開け放たれ、弓と短槍で武装をしたエルフの男女が5人立っている。真ん中にいるのは当然アルファラで、他は門番ということだろう。

俺たちが近づいていくと、4人の門番はわずかに警戒を強め、武器を強く握りしめた。

ただそれ以上の動きはせず、俺たちをじっと注視している。

俺の顔を見てアルファラがうなずいた。

「里に入る許可は出た。里長の所まで連れていくのでついて来い。ただし変な行動だけはしてくれるなよ」

「心得た。よろしく頼む」

アルファラを先頭にして城門をくぐる。

目の前にあるのは、里の奥まで伸びた、石畳の通りと、左右に並ぶ木造の家屋である。

家はログハウス調であるが、つぶさに見ると玄関の付近は精緻な彫刻が刻まれていたり、窓枠などのデザインもしっかりとなされていて、エルフ族が文化的に優れていることが垣間見える。

窓ガラスや金属製の看板なども見えるので、錬金術や冶金の技術なども人族に比べて遅れているということはなさそうだ。

通りには多くエルフたちが立っていて、俺たちを見てギョッとした顔をしたり、早足に逃げ出したり、構えを取ったり、色々なリアクションをしてくれる。もちろん族長の娘であるアルファラが一緒なので俺たちになにかをしてくることはない。そもそも腹黒糸目おじさんの俺以外はエルフにも負けない美女美少女だけなので、人族とは言ってもそこまで威圧感はないはずだ。

フォルシーナたちも周囲を興味深そうに見まわしながら後についてくる。

通りの奥に三階建ての大きな建物が見えてきた。族長の家なのであろう、前は広場になっていて集会場を兼ねているようだ。その広場には大勢のエルフが集まっており、さらに家の玄関前には、非常に目立つ格好をした女エルフが立っている。

アルファラはそのままためらいなく集会場を突っ切って、家の前まで歩いて行った。

俺たちが家の前で立ち止まると、玄関前に立っていた目立つ女エルフが前に出てきた。

見た目の年齢は20台中ごろ、だが実年齢はその数ば……いや、やめておこう。

アルファラと同じ金色の髪をゴージャスな縦ロールにしており、顔立ちは非の打ち所がない美しさだ。目つきは鋭く、雰囲気としてはヴァミリオラと通じるところがある。

問題はその格好で、アルファラ同様……というよりエルフ族は皆そうなのだが、やたらと露出の高い緑を基調とした服を身につけている。ただし首や腕に装飾品を過剰に身につけ、またマントを羽織っているのでかなり派手ないでたちだ。

さらに言えば、その肉体は一部が柔らかそうなことを除けば全体的に筋肉質である。実はこの世界のエルフは全員が筋肉質だったりして、女性でもうっすらシックスパックが浮き出ていたりする。恐らくは 創造主(ゲームクリエイター) に筋肉好きがいたのだと思われる。

アルファラはその女エルフの前で立ち止まると、一礼をしてから口を開いた。

「族長、この者たちが先ほど話をした人族の一行です」

「ほう、なるほど、お前が言うほどのことはあるようだ。確かに単純に力で追い返せるような手合いではないな」

女エルフ――エルフ族の族長はジロリという感じでこちらに目を向けた。その碧の瞳には、一族の長たるに相応しい強い光が宿っている。

「私はエルフ族の長ゼファラ。お前たちは何者か」

「初にお目にかかる、エルフ族の長ゼファラ。私はマークスチュアート・ブラウモント。人族の国、神聖インテクルース王国の王だ。後ろの者は私の娘や臣下となる」

俺はゼファラの目を正面から見据えて答える。前世の癖でつい一礼したくなってしまうが、互いに長という立場であるので、このような時は軽々しく頭を下げるわけにはいかない。

「人族の王マークスチュアートは、エルフ族の里にどのような用事があって来た?」

「こちらの要件は一つだけ。我が国に襲いくる魔族を退けるため、エルフ族に助力を願いたいということだ。相手をしてもらいたいのはワイバーン。貴殿らの弓と魔法の力ならば十分に対応しうる相手だ」

本来なら少し様子を探るところだが、ゲーム通りならゼファラは 迂遠(うえん) なやりとりを嫌う 人間(キャラ) のはずだ。俺はあえて単刀直入に切り出してみた。

いきなり「戦に力を貸せ」というのはもちろんとんでもない話なので、アルファラは目をわずかに見開き、取り巻きのエルフたちは一斉にざわつき始めた。

しかし族長ゼファラは右腕を横に上げるだけで、そのざわつきを一瞬で鎮めた。

「なるほど。してマークスチュアートはその対価はなにを用意しているのか」

「まずはエルフ族が長年悩まされている病への特効薬だ」

「それはアルファラから聞いた。効果があるというのもな。だがそれだけで我らが人族に手を貸すと思うか? お前たちは忘れていようが、我らは古に人族より受けた仕打ちを忘れてはおらぬ」

「そうであろうな。ゆえにもう一つ、こちらもエルフに力を貸すことを約束しよう。それが二つ目の対価だ」

「我らは人族の助けなど求めてはおらぬ」

「果たしてそうであろうか」

ここで俺は丸眼鏡のブリッジを中指で持ち上げ、必殺の腹黒国王眼鏡スチャッ攻撃を炸裂させた。

ゼファラも眉をひそめ、一瞬聞く体勢に入ってしまう。

「なにが言いたい?」

「……エルフ族の秘宝」

俺がゼファラにだけ聞こえるように声を低めて口にすると、それまで鋭い光をたたえていたその緑の瞳に、初めて動揺のさざ波が立った。

ゼファラはその動揺を隠すように再度厳しい目つきをすると、 厳(おごそ) かに宣言した。

「よかろう。人族の王マークスチュアート、お前の話を詳しく聞こう。館に入るがいい」

取り巻きのエルフたちが再度騒ぎ始めるが、ゼファラは彼らを一顧だにせず回れ右をすると、そのまま「ついて来い」と言って館の玄関へと歩き始めた。

俺たちはその後をついて、館へと入るのであった。