軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02 不帰の森・浅部

フォルシーナ、マリアンロッテ、オルティアナの3人に囲まれながら、各人の『二つ名』について考察をしていると、後頭部に強い視線が突き刺さるのを感じた。

それはヴァミリオラ、アミュエリザ姉妹のものであり、ヴァミリオラのそれは冷ややかで、アミュエリザの方はどこか物欲しそうな目つきであった。

「なにか気になるのかね?」

「貴方は相変わらずだと思っていただけよ。まったく、名前を呼ぶだけで女を口説くなんて、誰も考えつかないでしょうね」

「今の話のどこに口説く要素があったのか詳しく聞きたいものだな。アミュエリザ嬢、そうは思わぬか?」

「はい、陛下が女性を口説かれたとは思いません。が……」

「む?」

「その、私にはなにか……ないのでしょうか?」

そう言いながら、一層物欲しそうな、それでいて寂しそうな顔をするアミュエリザ。

その言葉にヴァミリオラは眉間にしわを寄せ、俺に向ける眼力をさらに強める。

「なにか、とはどういうことだろうか?」

アミュエリザの言いたいことを咄嗟に理解しかねていると、マリアンロッテがそっと耳打ちをしてきた。

「陛下。アミュエリザも陛下に素敵な名前をつけてもらいたいのだと思います」

「ああ、そういうことか」

とうなずいたが、二つ名って目の前で命名されるものでもなくない? と思わないでもない。

ともあれアミュエリザについてもゲームでの二つ名はもちろんある。

「そうだな……。アミュエリザ嬢は槍を使う騎士としての力をつけつつあるゆえ、『 緋(ひ) の 麗槍(れいそう) 』というのはいかがかな」

俺が多少もったいぶった感じで言うと、アミュエリザは急に明るい顔になり、俺の目の前まで走ってきて、輝く瞳で見上げてきた。

「ありがとうございます陛下! 『緋の麗槍』、その名前を聞いた瞬間、私の身体になにか雷のようなものが走り抜けた気がします! その名前にふさわしい騎士になれるよう、一生をかけて陛下にお仕えいたします!」

「う、うむ。まあアミュエリザ嬢が仕えるのはまずは姉上にしたほうがよかろうが、嬢の槍の腕は遠からずその名にふさわしきものになるだろう」

「はい! 陛下のご期待に沿えるよう精進します!」

アミュエリザは敬礼をして、それからヴァミリオラのところに行って「素敵な名前を付けていただきました!」とか嬉しそうに報告を始めている。ヴァミリオラが地獄の閻魔のような顔を俺に向けてきたのは言うまでもない。

その怒りに震える唇が『決闘』という言葉を形作る前に、俺は慌てて火消しに入った。

「ローテローザ公の『真紅の麗炎』という二つ名にちなんでつけたのだが、お気に召さなかったかな」

その瞬間、ヴァミリオラは目を見開いて全身をビクッと震わせた。

いや待って、それってどういう反応なの?

「公は『真紅の麗炎』という名は嫌ってなかったと記憶しているが、違っていたのなら謝ろう」

再びビクッとなるヴァミリオラ。

「私も『真紅の麗炎』という名は公のことをよく表していると思うのだ。妹御もその名にあこがれもあろう」

さらにビクッとなったヴァミリオラだが、なぜか赤い顔をしつつもようやく口を開いた。

「……そ、そうね。私の二つ名については、アミュエリザにいつもうらやましいと言われていたところよ。『緋の麗槍』、貴方にしては悪くないんじゃないかしら」

「アミュエリザ嬢も気に入ってくれたようだ。もっとも二つ名とはこのようにつけるものでもないと思うのだがな」

ふう、どうやらヴァミリオラの顔つきは元に戻ったようだ。途中少し様子がおかしかった気もするが、まさか俺が『真紅の麗炎』と呼んだからだろうか。もっともそう予想したとして、藪蛇を覚悟して確認しするつもりは俺にはない。

「では先に進もうか。今日はもう少し奥まで進みたい」

「え、ええ、わかったわ」

俺が促すと、珍しくヴァミリオラが真っ先に反応した。

というかヴァミリオラ以外の4人が全員物欲しそうな顔を向けてきていたのだが……女子の行動は腹黒国王にもわかりかねるものである。

そういえばミアールとクーラリアは二つ名については無関心そうなのだが、もし彼女らにつけて欲しいと言われると困ってしまうな。なにしろ 創造主(ゲームクリエイター) がつけた二つ名がない子たちだからなあ。

その後『不帰の森』を進むこと5時間ほど。

休憩を取りながらではあったが、モンスターとの戦闘を何度もこなしての行軍である。

体力的には相当に厳しいはずなのだが、フォルシーナたちは弱音一つ吐かず、むしろ嬉々として森を歩きモンスターたちと戦っていた。

さすがメインヒロインたちと言えばその通りなのだが、やはり突出した能力をもつ娘たちなのは間違いない。当然高ランクのモンスターを倒すことでレベルも順調に上がっているようだ。俺の勘だが、フォルシーナはすでにレベル40相当は超えているだろう。

『不帰の森』浅部のボスフィールドは、河原近くの空き地であった。

出現ボスは『マナビーストリーダー』という、中ボス『マナビースト』の色違いバージョンである。四本腕の大型の熊で、頭にツノがついているのもノーマルとの違いだ。

「基本的に『マナビースト』と同じだが、力と速さ、それと耐久力が高い。そこに注意して戦いなさい」

と指示すると、フォルシーナ、マリアンロッテ、アミュエリザ、ミアール、クーラリアがまさにゲームで見た陣形を組んで『マナビーストリーダー』に向かっていく。

Bランクのモンスターだが、マリアンロッテの能力アップ魔法、フォルシーナの先制氷魔法、そして前衛組三人による集中攻撃であっという間に倒してしまった。

「本当に見事なものね。上位の冒険者でもああはなかなか戦えないでしょう」

「彼女たちがいれば新しい王国も安泰ね。聖女の地位はいつでもマリアンロッテに渡せそう」

「なにを言っているの。貴女ほどの聖女は歴代でもそうはいないわ。そんな寂しいことは言わないでちょうだい」

「そうは言っても、聖女だとできないこともあるし……」

「そんな理由でマリアンロッテに押し付けるのはだめでしょう? したいことがあるなら教皇猊下に相談しなさい」

ヴァミリオラとオルティアナがそんな話をしているが、オルティアナに聖女を続けてもらいたいのは俺も同じである。原作ゲームでは途中で悲しいことになった彼女だが、今生きてこうしているのだからできる限りは聖女姿を見ていたいものだ。

などと思っているとフォルシーナたちが戻ってきて、今日はここまでということになった。

野営は大森林探索の経験が生きていて、もはや手慣れたものである。

あっという間にテントが2つたち、炊事場らしきものも準備され、カレー作りがオルティアナを中心に始まった。

手持無沙汰になった俺は、河原のほうの様子を見に行ってみた。

ゲームではこのキャンプフィールドの近くに川はなかった気がするのだが、まあこれはリアル世界だからということだろうか。

川の流れは非常に穏やかで、水は澄んでおり、よく見ると魚の影も見ることができる。雷属性魔法を使って漁でもするか、などといたずら心も湧いたが、食料はマジックバッグで十分運んでいるので必要はない。

この世界水棲モンスターもいるにはいるが、『気配察知』を遠くまで延ばしてみても感知はできなかった。まあ万一出現してもフォルシーナたちなら十分に対処は可能だろう。

「お父様、この川は水浴びができそうでしょうか?」

いつの間にか隣にやって来たフォルシーナが、川を眺めながら聞いてきた。

「手前の浅い場所で水浴びをするのは問題あるまい。ただし膝より深いところには入ってはならぬぞ」

「危険なのですか?」

「うむ。水の力というのは人間が思うよりはるかに強い。いかに強い人間であろうと自然を侮ってはならぬ」

「わかりました、肝に銘じます。それと……お父様も水浴びをされますよね? 水着のほうは用意してありますので」

「む……? うむ、まあ……そうだな」

正直あのブーメランパンツは遠慮したいのだが、フォルシーナの目には有無を言わせない力強さがあった。父親にブーメランパンツを勧める娘というのもどうなのだろうと思うのだが、もしかして俺の身体チェックを兼ねているのだろうか。来るべき追放の日のために。

俺が曖昧に肯定の返事をすると、フォルシーナは嬉しそうに笑った。

「では皆にも水浴びができることを伝えて参りますね」

俺はテントの方に走っていくフォルシーナを見送ってから、再び川の、上流のほうへを目を向けた。

「ふむ、やはりいる……か」

視界の端に、一瞬だけ影が映って消えた。

それはモンスターではなく、明らかに人間のものであった。金の髪と白い肌、緑を基調とした服。それはこの国に伝承として伝わっているエルフ族の特徴と――そして原作ゲームのエルフ族の姿と完全に一致していた。