軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70 前世知識チート対策

せっかくなので、中庭にみんなを集めることにした。

メルヴィにみんなを呼んできてもらっている間に、俺は【地精魔法】で射撃の標的とするための甕をいくつか作った。

その甕を見て、

「これはすごい! 釉薬を塗って焼いたら売り物になるよ」

とアルフレッド父さんが関心したように言う。

あ、そんな単純な方法で稼げるのか。

みんなが集まったところで、俺は中庭の一端に高さ2メートル幅3メートルくらいの土壁を作り、その前に土の台を作って、その上に甕を等間隔に並べていく。

「けっこう音がするんだけど、近所迷惑かな?」

「近所迷惑かはわからないけど、領主の館で異音がしたら警備の騎士が駆けつけてくるだろうね」

「それなら、【風魔法】で消音するよ?」

ジュリア母さんが【風魔法】を使って中庭を風で覆ってくれる。

へえ、これで音を漏らさないようにできるのか。覚えておこう。

「じゃあ、始めるから」

俺はそう言って拳銃を構え、十メートルほど離れた地点から甕に向かって引き金を引く。

発砲音とともに甕が砕け散った。

そのまま俺は2発、3発を銃弾を発射し、甕を連続で壊していく。

「――と、銃っていうのはこういう武器なんだ」

そう言って振り返ると、みんなが険しい顔で、あるいは呆然とした顔で、銃と壊れた甕とを見比べていた。

「ちょっと、その銃とやらでは、 鉛弾(なまりだま) を飛ばしてると言ってたね?

でも、その鉛弾がまるで見えなかったよ」

そう言って来たのはモリアさんだ。

【見切り】のあるモリアさんでも銃弾は見切れなかったようだが、俺の目には辛うじて残像が見えていた。

モリアさんの【見切り】はスキルレベルが3なのに対し、俺の【見切り】は5だから、飛んでくる銃弾を「見切る」には最低でも4、安定して見切ろうと思えば5以上のスキルレベルが必要だということになる。

「しかも、弓のように矢を継ぐ動作が必要ないんだね。

エドがやったのは、人差し指でその爪のような部品を引っ張ることだけだ。

仕組みとしては 弩(いしゆみ) に似てるけど、弩は次の矢を装填するにはかなりの手間と力が必要だ」

今度は、チェスター兄さんがそう言った。

「兄さん、撃ってみる?」

「いいの?」

俺が水を向けると、兄さんはこわごわと拳銃を受け取った。

そして、標的の甕に向けて銃を構える。

俺の射撃姿勢を見ていたのだろう、初めて銃を触ったというのになかなか堂に入った構えだ。

そして、チェスター兄さんが引き金を引く。

ドン、という音とほぼ同時に甕が音を立てて砕けた。

兄さんはそのまま照準を横にすべらせ、別の甕に向かって続けて発砲した。

さすが、射撃に適性があるだけあって、次の甕にも見事に命中した。

「これは……恐ろしい武器だ……」

兄さんが硝煙の立ち昇る銃を見つめながら、怖い顔でつぶやいた。

「エドが言っていた狙撃手というのは、これを使うのかい?」

「ううん。スナイパー向けの、もっと精密な銃を使うよ。その拳銃では射程距離はあまり長くないからね」

「これで長くないって……今の距離の5倍くらいまでなら当てられそうだけど」

詳しくはないけど、50メートルなら有効射程ギリギリくらいじゃないだろうか。

チェスター兄さんは初見で銃の射程を見抜いてしまったことになる。

「スナイパーは、200メテル以上離れた地点を正確に撃ち抜くことができるらしいよ。

目がよくて適性のある兄さんならもっと離れても大丈夫かもしれない」

それがこの世界においてどれほどすごいことかというのは、ランズラック砦の時のことを思い出すとわかる気がする。

ランズラック砦の城壁の上から〈黒狼の牙〉団長ゴレスまでの距離ならほぼ外さずに狙撃できることになる。もっとも、この世界の場合HPがあるから、ゴレスを一撃で仕留めることは難しいかもしれない。それでも、ゴレスに槍を投げる暇を与えず一方的に嬲り殺しにするくらいのことはできるだろう。

俺が考えている間に、アルフレッド父さんもチェスター兄さんから拳銃を受け取って試射をしている。

弓の苦手な父さんは2発中1発を外していたが、銃の利便性は身にしみてわかったようだ。

父さんが言う。

「たしかに恐ろしい武器だ。

もちろん魔物にも有効だろうけど、何より人間相手には凶悪な性能を発揮するだろうね。

これと同じようなものを敵方が作ってくるかもしれないのか……。

なるほど、エドが警戒するわけだ。

……それで、エドはこういう兵器を敵方が投入してきた場合、どうするつもりなんだい? 単純にこちらも生産して戦力を拮抗させる、というわけではないんだろう?」

「最悪の場合は、それしかなくなるかもしれないけど、その前に、銃や弾薬の材料となる物資の流通を監視し、もし異常があればすぐに調査できる体勢を築きたいな」

「そのキザキという転生者はサンタマナに転生しているとは限らないのだろう?」

「うん……だから、大陸全体とまでは言わないまでも、主要都市の動向くらいは把握できる情報網がほしいな。どちらにせよ、銃などの兵器を大量生産しようとすれば、それ相応の経済力や工業力が必要になってくるから、見張るのは大都市だけでいいと思う」

「だが、大量生産はできないまでも、転生者が身内に配る分くらいを製作する可能性は捨てきれないんじゃないか?」

「それに関しては、こちらも少数精鋭の前世知識部隊を作っておくことがひとつ」

「チェスターを試金石にして、ということだね?」

「そうだね、兄さんがその第一号になるかな?

……なんか、ごめんね、兄さん。変なことに巻き込んで」

「いや、構わないよ。むしろ、こんな重大なことを秘密にされて、どうしようもなくなってからわかるよりもずっといい」

頭を下げる俺に、チェスター兄さんがそう言ってくれた。

「兄さんの他にも、信用のおける騎士で、射撃に適性がある人を集めて、銃で武装した特殊部隊を作りたい。

これは、敵の前世知識部隊に直接対抗するためであるのと同時に、銃を運用する上での問題点や弱点を洗い出すためでもある。

この世界には魔法やスキルやステータスがある。工夫次第で、前世知識兵器に対抗できる可能性もある」

俺の言葉にジュリア母さんが反応した。

「って、ちょっと待って、エドガーくん。

ということは、エドガーくんの前世?には魔法やスキルやステータスがなかったの?」

「うん。なかった。

というより、ある方が珍しいんじゃないかな? この世界の場合は善神たちが悪神に対抗するためにそういうシステムを整備したらしいから」

「へええ……そうなんだぁ」

一同、ジュリア母さんと同じように驚いて、それから感心した。

この世界の人にとっては、魔法やスキルやステータスはあって当たり前のもので、ない世界などうまく想像できないんだろうな。

「だから、とくに魔法は鍵になると思うよ。

高速で飛来する銃弾を、矢みたいに風で落とすことはできないけど、厚い壁を作るとか、高温の炎で蒸発させるとか、水の膜を張って勢いをそぐとか、できることはあると思う」

「うーん……今挙げた方法だと、MPがかかってしょうがないだろうねぇ」

ジュリア母さんが難しい顔で考え込む。

「比較的単純なわりに有効なのは、塹壕を掘ることかな」

「ああ、さっき騎士に魔法を教えるという話の時にも言ってたね」

「もともと塹壕は、銃と銃で撃ち合うような戦場で生まれたものだから」

「なるほど。銃対策の意味でも、集団魔法戦戦術は有効かもしれないのか」

「父さん、銃の製造に関して、秘密の守れる鍛冶職人を紹介してもらうことはできるかな?」

「鍛冶職人か……王都になら、知り合いがいるね。

もっとも、王都には国王陛下への報告の間だけの滞在になるだろうから、長期的に手伝ってもらうことは難しいかもしれないけど」

「それでも、この世界の金属加工技術を知っておきたい。元の世界とは違うかもしれないから」

魔法もあるのだから、この世界の技術の方が必ずしも低いと決めつけたものでもないと思う。もし魔法やスキルを使って冶金を行っているようなら、その魔法やスキルを俺が覚えてしまえれば便利だ。錬金術のような、直接金属を生成・加工できるような魔法でもあればなお都合がいい。

「そういうことなら、紹介しよう。

――と、ずいぶん遅い時間になってしまったな」

アルフレッド父さんの視線を追うと、ベックが中庭のベンチに腰かけたままうつらうつらとしていた。

「エド、他にも聞いておくことはあるかい?」

「あ、最後にもうひとつだけ。

えっと……ステフを強くしたいんだ」

「ふぇ? わたし……ですかぁ?」

いきなり名前を呼ばれて、ステフが顔を跳ね上げる。

……様子から察するに、話について来られなくてベック同様船を漕いでいたようだ。

「うん。こう言っちゃなんだけど、戦いに飛び抜けた適性のない人が、どのくらい強くなれるか、興味があって」

俺が言うと、父さんが困った顔をした。

「ちょっとエド、ステフ嬢はポポルスさんから預かった大切な娘さんだ。

実験台にされるのは困るよ?」

「でも、身を守る術があって悪いことはないでしょ?」

「それは……そうだけど」

「実際、前回この屋敷が〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉に襲撃された時には、ステフはガゼインに人質に取られていたし。

俺のお付きをやってもらう以上は、これから先も危険な目に遭うかもしれない」

「ううん……でも、それなら、ステフさんじゃなくて、元冒険者か何かの腕の立つメイドを探してきて、代わってもらった方がいいんじゃないかな?」

う……その反論は予想してなかった。

屈強そうな元冒険者のメイドなんて、そばにおいても癒やされる感じがしない。

泥縄という言葉を思い出しながら、ステフを手放さなくてもいい理由を俺はあわててひねり出す。

「……多少腕が立っても同じだよ。

ガゼインみたいな一流の暗殺者が相手じゃね。

だから、育ててみたいんだ。

俺のこれまでの経験を活かして、戦いの経験がない人に、最低限身を守る術を身につけてもらうにはどうしたらいいかを研究したい。

もちろん、基本的には俺がステフのことをちゃんと守るよ」

俺の言葉に、アルフレッド父さんは考える様子を見せた。

それから、ステフに向かって、

「ステフさん。

君自身はどう思う?

エドの周りにはこの先も危険があるかもしれない。

君がエドのお付きを降りると言っても、決して不利益は生じないようにする。

それを踏まえた上で、考えてみてほしい。

エドに鍛えさせて強くなるか、危険を避けて他の人と交代するか」

「わたし……ですかぁ」

ステフは目をつむり、ゆっくりと何事かを考えはじめる。

それを見て父さんが、

「……今無理に決めることはない、しばらく時間を――」

「――いえ、大丈夫です」

父さんの言葉を遮り、ステフが前に進み出た。

ステフは俺の前に跪くと、まっすぐに俺の目をのぞきこんでくる。

「エド坊ちゃまは、これまでとてもよくしてくださいました」

ステフの真剣な語り出しに、俺はがっくりと肩を落としそうになった。

これは断られる流れだと思ったのだ。

「わたしはドジばっかりで、いつも迷惑をかけていたのに、坊ちゃまは呆れはしても決して怒りはしませんでした。

いつかコーベット村の屋敷で階段から転げ落ちた時も、自分だって痛かったはずなのに、続けて転げ落ちたわたしを魔法で助けてくれました。

その上、ジュリア奥様に叱られていたわたしをかばってくださいました」

そんなこともあったな。

思えば、俺とステフの関係は、ステフがドジを踏むたびに俺がかばってやるという、どっちが主人なんだかわからないような関係だった。

「最近は、暇を見て、勉強まで教えてくださいます。

――旦那様、わたし、エド坊ちゃまのおかげで、足し算引き算だけじゃなく、掛け算や割り算までできるようになったんですよ?

それも、九九だけじゃなく、桁がたくさんあっても間違えないで計算できるようになったんです」

「へえ……それなら、ポポルスさんの手伝いだってできそうだね。

ポポルスさん、今度自分の商会を立ち上げることになったからね。

娘さんが手伝ってくれるとなったら、ポポルスさんも喜ぶよ」

ポポルスさんというのは、トレナデット村村長にしてステフの親父さんだ。

元は旅商人だったのが何か功績があったとかで父さんにトレナデット村村長に任命されたと聞いている。

しかし村の暮らしに慣れ始めると元の商売が恋しくなってきたらしく、今度父さんの出資を受けて商会を立ち上げることになっている。

……この商会については、実は俺も一枚も二枚も噛んでいるのだが、その話はまた後でしよう。

「いいえ、旦那様。

わたしは父の元には参りません。

――エド坊ちゃま」

「……何?」

「わたし、エド坊ちゃまに勉強を習って、はじめて知らないことを知る楽しさを知りました。

まだまだドジばかりですけど、最近はずっと楽しいんです。

お勉強も、お仕事も、知らないことばかりで、失敗もするけど、その分できるようになると嬉しいんです。これまでわたしはできることとかなかったから。

ですから、戦い方を覚えろと言われれば覚えます。

坊ちゃまの隣に立てるくらい、強くなりたいです。

だから……ええっと」

ステフは言葉に困って、あたふたする。

すーはーと深呼吸をしてから、俺のことをもう一度しっかりと見つめる。

「で、ですから……今後とも末永く、わたしをそばにおいてくださいませ!」

そう言ってガバッと頭を下げてくるステフに、

「……ありがとう。これからもよろしく、ステフ」

精一杯の感謝をこめて、俺はそう返したのだった。