軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26 父さん無双?

トレナデット村で、出発の準備をしていると、村長宅に騎士がやってきた。

もうじきアルフレッド父さんがここに到着するのだという。

そしてそれから30分もしないうちに父さんがやってきた。

「――ジュリア!」

「――アルくん!」

ひしっ! と抱き合う父さんと母さん。

砦以来だから、一ヶ月ちょっとぶりになるか。

あいかわらずのラブラブっぷりだ。

きっと今夜は隣の部屋がうるさいんだろうな。

ステフの反応が楽しみだ。

「ねー、ステフ。とうさんとかあさんはなにをしてるの?」

と、このように聞いてみたい。

実家(この村長宅)に帰られても困るから聞かないけどな。

――さて、父さんとひとしきり再会を喜んだ後、早めの昼ご飯を村長宅でごちそうになってから、俺たちはトレナデット村を出発した。

俺たち、キュレベル子爵と愉快な仲間たち一行のメンバーは、以下の通りだ。

アルフレッド父さん。

ジュリア母さん。

俺。

ステフ。

そしてメルヴィ。

その他に、父さんの部下の騎士が数名いる。

メルヴィのことは、父さんにも紹介した。

父さんは、姿を隠したメルヴィを見ることこそできないものの、何かがそこにいることはわかるようだった。

それが、ハーフエルフとしての種族的特性なのか、優れた戦士としての直感によるものなのかは、本人にもよくわからないそうだ。

母さんは、リベレット村での一幕からもわかるように、メルヴィが姿を隠していても見えてしまうらしい。

スキル【魔力感知】の影響もあるだろうけど、それ以上に性格的な問題のようだ。

【妖精の眼】で母さんを観察したメルヴィによれば、「童女みたいに純真な人ね」とのこと。

ステフは、父さん同様、何となくそこにいる気がする、程度の感じ方らしい。

これは、妖精が見える一般的な年齢の上限に近いからだという。

ちなみに俺は、本気で姿を隠されると、メルヴィの姿がまったく見えないし、どこにいるかもわからない。

メルヴィは俺に付いてきてるというのに、なんで俺だけ見えないんだ……。

やはり精神年齢30歳の薄汚れた魂では妖精なんて見えないということなのか。

いちばん年下なのに見えなかったせいで、父さん母さんステフから変に思われたじゃないか。

一応、「普通に」姿を隠した状態のメルヴィなら、かろうじて感じ取れなくもないようだから、旅の間【不易不労】で妖精を見る訓練でもしてみよう。

……そういえば、例の黒ずくめ――〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉の暗殺者が、【遠目】というスキルを持ってたな。

極めれば便利そうだし、その習得も目指してみようか。

前世では、ゲームばっかしてたせいで、視力はあまりよくなかった。

そのせいで、遠くが見えるってのにはロマンを感じる。

◇◆◇◆◇◆◇◆

道をふさぐ黒い人影に気づくことができたのは、早速習得した【遠目】のおかげだ。

最初に俺が気づき、次にメルヴィが気づき、その後に父さんが気づいた。

メルヴィは妖精だから素で目がよく、父さんもハーフエルフとしての特性で目がいいらしい。

父さんは母さんと御者台に座り、子どもたちをさらった黒ずくめたちについて、深刻な顔で話し合っていた。

俺が父さんに人影について告げようとすると、その前に父さんが、街道の前方を鋭く睨み、手綱を引いて、馬車を止めた。

同時に、馬車の周囲を進む部下の騎士たちに、停止の命令を出している。

「噂をすれば影、か」

父さんがつぶやく。

道の先の黒い人影は、比喩でも何でもなしに黒かった。

忍者を連想させる真っ黒な装束に身を包んだ3人が、街道の幅いっぱいに広がって立ち、こちらの進路を塞いでいる。

こちらの馬車が止まったことに気づくと、男たちは抜き身の短剣をぶらさげたまま、馬車の前方10メートルほどまで近づいてきて止まった。

「――何の用かな? 僕たちはこれでも急いでいてね。素直に道を空けてくれると助かるんだけど」

一行を代表して父さんが言った。

その父さんの問いかけを無視して、道をふさぐ黒ずくめの一人が言う。

「……どこまでつかんだ?」

これに答えたのは母さんだ。

「さて、何のことかなぁ? はっきり言ってくれないとわからないよ――〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉の暗殺者の皆さん?」

「――!!」

殺気、と呼ぶほかないものが吹きつけてくる。

【鑑定】のない母さんがどうやって気づいたのか、と一瞬疑問に思ったが、そんなに難しい話ではない。

母さんも洞窟で黒ずくめたちの話を聞いていたのだから、〈黒狼の牙〉とつながりがあるという噂の〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉のことを思いついてもおかしくはなかった。

というより、カマをかけたんだな。

さすが元Aランク冒険者だけあって、こういう時には頼りになる。

「……盛り上がってるところ、悪いんだけどさ」

アルフレッド父さんが言う。

「今回は、僕に任せてくれないか?」

父さんは手にした槍で肩をトントンと叩きながら言った。

「砦では、あまり活躍できなかったからね。

夫として父として、少しはいいところを見せておかないと」

父さんはそう言ってニヤリと笑った。

いつもの線の細い印象とは異なる、太い笑みだった。

それぞれ剣や槍を構えていた護衛の騎士たちにも、父さんは下がっているように命じ、黒ずくめたちの前にずいっと歩み出た。

「援護は?」

「不要」

母さんの言葉に短く答え、父さんが黒ずくめ3人と対峙する。

本人が言うからには大丈夫だと思うが、念のため黒ずくめたちを【鑑定】しよう。

《ボリオ:〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉第7班所属。レベル:27。》

《ルクレツィオ:〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉第7班班長。レベル:33。》

《ドースン:〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉第7班所属。レベル:21。》

ふむ。

護衛の騎士よりは強いかな。

父さんが前に出たのも、護衛の騎士たちでは敵わないと思ったからかもしれない。

もちろん、護衛の騎士が護衛対象に守られては本末転倒なので、彼らの心情をおもんぱかって、ああいう言い方をしたのだろう。

父さんマジイケメン。

黒ずくめたちのスキルは、前に戦った2人と似たり寄ったりだ。

リーダーらしき男(ルクレツィオというらしいが、名前を覚える気なんてさらさらない)は、この間の黒ずくめのリーダーよりは少しやるかな、という程度か。

対して、父さんのレベルは40で、スキルも充実している。

あとは、3対1という数の上の不利を、父さんがどう捌いていくかだな。

しかし、リベレット村の近くで黒ずくめたちを壊滅させた俺たちに差し向けたにしては、ちょっと――いや、だいぶ力不足のような気が……?

「――ジュリア、わかってるよね?」

「もちろん」

小声で囁きあう父さんと母さん。

何か夫婦でわかりあっているようだが、俺にはまったくわからない。

そんな俺を見て母さんが、黒ずくめたちに気づかれないようにそっと背後に目配せをした。

――そういうことか。

「さぁて、腕試しと行こうか」

槍を構えた父さんに向かって、黒ずくめたちが動いた。

合図も何もなかったのに、黒ずくめたちは正面と左右に分かれて、ほとんど同時に父さん目がけて黒塗りの短剣を投げつける。

――迅い!

洞窟の時は不意を打ったせいで見る機会がなかったが、ここまでとは思わなかった。

レベルだけ見て、ちょっと甘く見ていたかもしれない。

父さんは正面のナイフのみを槍の柄で弾き、残りは危なげなく躱していた。

ナイフが一本、こちらに流れてきたので、【物理魔法】でキャッチしてみる。

黒光りするナイフを【鑑定】。

《〔ステンレス鋼の〕ナイフ。タジカリスが塗布されている。》

何っ!?

本当に何気なく【鑑定】したのだが、現れたのは驚くべき情報だった。

ステンレス鋼が、この世界にあるのか!?

そっちの素養がないからわからないが、地球でステンレスが使われ始めたのは20世紀に入ってからだと思う。

この世界の技術レベルについては確たることは言えないが、身近にある鋳物製品(食器や調理器具など)の質を見る限り、お世辞にも高いとは言いがたい。

――ということは、ステンレス鋼の知識をこの世界に持ち込んだ者がいるのかもしれない。

俺の脳裏に、「あの日」の光景がフラッシュバックする。

俺が誤って刺し殺した通り魔は、ナイフを何本もぶらさげていた。

あの時俺が奪い取ったナイフと黒ずくめの投げたナイフはもちろん別物なのだが、材質が同じだからかよく似ているような気がしてくる……。

さて、俺がナイフに気を取られている間に、父さんの戦いが始まっていた。

父さんは、三方から襲いかかる黒ずくめたちを、一本の槍だけで巧みにいなし、黒ずくめたちに間合いを詰めさせない。

そして、あっという間に3人を相手に有利な形勢を作り出している。

父さんの槍が鋭くうなるたびに、黒ずくめたちの腕や脚や身体や頬に、赤いしぶきが走っていく。

それぞれはまだ浅い傷のようだが、3人の動きはゆっくりと、しかし確実に鈍っていく。

――相手を槍の間合いの内側に寄せ付けず、膠着状態を作り出し、細かな手傷を負わせて徐々に相手を弱らせていく。

長物を持って複数を相手にするなら、確かに理想的な戦い方かもしれない。

もし俺がこんな戦い方をされたら、どこかで焦れて無理攻めをしてしまうだろう。

そして、待ってましたとばかりにその隙を突かれて、やられてしまうに違いない。

見た目は優男風だが、アルフレッド父さんの戦い方は実に堅実で老獪だ。

しかし、父さんを相手取る3人に、焦れた様子はなかった。

……その理由はもう、わかってる。

黒ずくめのリーダーが小さく舌を鳴らした。

それが合図だったのだろう、黒ずくめ3人は大きく後ろに飛び退き――

「「「「――《ファイヤーボール》!」」」」

突然、左右後方の木立の奥から、火魔法が飛んできた。

だが、甘い!

「 乙(サークル) 卜(フレイム) ――《フレイムウォール》!」

ジュリア母さんの生み出した炎の壁が、飛来した火球を吹き散らす。

「――何っ!?」

動揺する黒ずくめたち。

その間に、俺はもう行動を終えている。

――どさどさっ。

左右後方の木立の合間から、それぞれ2人ずつの黒ずくめが倒れてきた。

その喉元に、水晶の砕片のようなものが突き刺さっている。

もちろん、俺が【手裏剣技】と【物理魔法】を組み合わせてやったことだ。

ここからでは陰になる場所に潜んでいる奴もいたので、【物理魔法】で砕片の軌道を曲げてやった。

半ば当てずっぽうだったのだが、見事命中したようで、何よりだ。

ものが水晶だけに、飛んでくるのが見えづらいのかもしれないな。

黒ずくめたちが驚愕していたのは、一瞬のことだったと思う。

だが、その一瞬は父さんにとっては十分すぎる隙だった。

父さんの手元が霞んで見えたと思った次の瞬間には、黒ずくめ2人の喉笛が掻き切られていた。

残りの1人は、喉ではなく肩に槍の穂先を突き込まれ、身動きを封じられている。

父さんが残したのは、もちろん、リーダーの男だった。

リーダーの黒ずくめは、肩を刺されたまま、凄まじい形相で父さんを睨んでいる。

父さんの合図で、様子を見ていた部下の騎士たちが、リーダーの黒ずくめに近づいていく。

「――くっ……これまでかッ!」

黒ずくめが、異様な目つきで口を開いた。

――まずい!

父さんは、槍の穂先を黒ずくめの肩に刺しているせいで、動きが取れない。

俺はとっさに地面に転がっていた石を蹴り飛ばし、【物理魔法】で加速して、男の口の中へと放り込む。

――ぎゃり……っ!

と、ものすごくイヤな音がした。

奥歯の毒物を噛もうとしたのだろうが、よほど力を込めて顎を閉じたらしい。

……まあ、簡単に砕けるような毒だったら、必要でないときに砕いてしまう可能性があるもんな。

衝撃で白目を剥いて倒れた黒ずくめの口元から、血にまみれた白い何かが零れだした。

あれが何かとか、そういうことはあまり想像したくないな……。

「……エド、よくやった」

父さんがそう言って、俺の頭を撫でてくれた。

「――こいつをフォノ市まで連行しよう。話はそれからだ」