軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25 メイドさん、愚痴る

――翌朝。

「きゃあああっ!」

突然の悲鳴で、ジュリア母さんが跳ね起き、部屋を飛び出していく。

あわてて俺も追いかける。

とてとてとまだおぼつかない足取りで追いついた時、母さんはある部屋の前にいた。

――そう、例の黒ずくめたちを閉じ込めておいた部屋だ。

部屋の前には母さんと村長宅の召使いさんが立っている。

俺が中を覗きこもうとすると、

「エドガーくんは見ちゃダメ!

……って、今さらか」

母さんが身体をずらして、中を見せてくれる。

中では、黒ずくめ2人が、口から血を零して倒れていた。

「朝食のために口枷を外したら、急に……」

青い顔の召使いさんが言う。

「……毒、かなぁ。たぶん、奥歯かどこかに仕込んでたんだね。プロの暗殺者がよくやる手だけど」

さすが元冒険者だけあって、母さんは冷静だ。

念のため、【鑑定】してみる。

《〔ランザックの〕死体。死因:毒(タジカリス)。》

《〔エロペの〕死体。死因:毒(タジカリス)。》

「……タジカリス?」

思わずつぶやいてしまったのを、母さんが聞きとがめた。

「確かに、即効性からしてタジカリスかもしれないけど……エドガーくん、どこで毒の知識なんか?」

「え、あぅ……その、しょさいで」

「……毒の本なんてあったかなぁ?」

母さんが首をかしげる。

そこに、村長さんがやってきた。

村長さんは部屋の様子を見て取ると、母さんに深々と頭を下げた。

「申し訳ありません。みすみす犯人を死なせてしまうとは……」

「しかたないよ。何も食べさせなかったら、それこそ死んじゃうし」

二人の会話を、聞くともなしに聞きながら、俺は【データベース】で昨日の【鑑定】結果を呼び出した。

ランザック(〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉第5班班長)

レベル 29

HP 35/54

MP 19/21

スキル

・達人級

【見切り】2

・汎用

【暗殺技】7

【ナイフ投げ】5

【短剣技】5

【忍び足】5

【格闘技】4

【手裏剣技】4

【指揮】4

【聞き耳】4

【弓技】3

【剣技】3

【跳躍】2

【遠目】2

【闇魔法】2

【火魔法】2

エロペ(〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉第5班所属)

レベル 23

HP 21/44

MP 13/13

スキル

・汎用

【ナイフ投げ】5

【格闘技】4

【暗殺技】4

【短剣技】4

【手裏剣技】3

【剣技】3

【聞き耳】3

【忍び足】3

【投斧技】2

【跳躍】1

【遠目】1

【調薬】1

〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉。

父さんが言っていた、〈黒狼の牙〉とも関係があったという暗殺教団だ。

最近、内戦の終息したソノラートからサンタマナに流れ込んできているという話だったな。

そんな連中が、こんなところでなぜ人さらいを?

その答えは、結局わからずじまいになってしまった。

昨夜一晩、これまでのいきさつを振り返ってみて、俺は大事なことに気がついていた。

それは、

――最低でも1人、いなければならない奴がいない。

ということだ。

事件を、最初から振り返ってみよう。

まず、黒ずくめたちがリベレット村のボイス君その他の子どもたちをさらう。

次に、旅人に扮した黒ずくめの1人が、村に立ち寄り、妖精が子どもたちをさらっているという噂を流す。

これは、おそらく予定通りの偽装工作だろう。

だが、黒ずくめたちはもうひとつ、予定にない偽装工作をした。

リベレット村の木こりが、魔法にかけられていた件だ。

おそらく木こりは、森の中で黒ずくめにでくわしてしまった。

子どもをさらっているところを見たのか、黒ずくめたちの隠れ家(洞窟)を見つけてしまったのかはわからないが、とにかく奴らにとって致命的な場面を見てしまった。

かといって、木こりを殺してしまっては騒ぎになりかねない。

子どもに続いて、森に詳しいはずの木こりまでいなくなったとすれば、ただの行方不明が、にわかに事件性を帯びてくる。

だから、黒ずくめの仲間の1人が、木こりに魔法をかけて追い返し、ついでとばかりに「妖精の仕業」だと主張させた。

この偽装工作は、予定にないアクシデントだったと思われる。

が、そのようなアクシデントに備えて、精神を誘導する魔法が使える者を1人、隠れ家に置いていた、ということだろう。

その1人が、見当たらない。

自害した黒ずくめ2人(ランザックとエロペ)は、木こりに魔法をかけられるようなスキルを持っていない。

ランザックの【闇魔法】にそのようなスキルがないことは、メルヴィに確認済みだ。

人のような高等動物の意識を誘導するには、かなり高度な魔法技術が必要なのだという。

洞窟で見張りをしていた黒ずくめも、殺す前に【鑑定】で確認したが、ステータスはエロペと似たり寄ったりだった。

また、村に立ち寄った「旅人」だが、宿の主人に確認してもらって、自害した黒ずくめ2人ではなかったことが判明している。

洞窟で見張りをしていた黒ずくめだった可能性は残るが、魔法使い=「旅人」である線も色濃く残っている。

だから、最低でも1人。

魔法使いと旅人が別人であれば2人。

黒ずくめたちの仲間を逃がしていることになる。

いや、仮の話をするなら、村に立ち寄らず、かつあの時洞窟にもいなかった仲間が、他にも残っている可能性すらある。

となると、その辺の事情について、黒ずくめたちから聞き出せなかったのは痛い。

無理にでも俺が尋問しておくべきだったのだろうか。

いや、俺が聞くにせよ、口枷は外していただろう。

俺なら自殺を防げた……とは、とてもじゃないが言えそうにない。

不本意な幕切れとなってしまったが、黒ずくめたちがいないのなら、ジュリア母さんがここに留まっている理由はない。

後のことは村長と顔役に任せ、母さんはトレナデット村( 3つめ(サード) 村)へと向かうことにした。

解放した子どもたちの中に、トレナデット村出身の子どもが何人かいたので、ついでに送っていくことになった。

子どもをあやしていた妖精たちは、村人たちから感謝されながら、朝のうちに妖精郷へと戻っていった。

メルヴィはともかく、他の妖精たちは、あまり長い間妖精郷から離れていることはできないのだという。

そして、リベレット村から歩くこと1日。

トレナデット村には日が暮れる頃に到着した。

俺付きメイドのステフは、この村の村長の娘なのだという。

一行はステフの案内で村長宅に向かった。

その途中で、連れてきた子どもたちの親が駆けつけてきて、子どもたちを抱きしめる一幕があった。

子どもたちも、やはり怖かったらしく、泣きじゃくって親にしがみついていた。

感動の再会が終わったところで、とりあえず報告のために村長宅まで付き合ってもらうことにした。

「これはこれは、ようこそお越しくださいました、奥様。子どもたちも救出していただいたそうで、いくら感謝してもしたりませぬ」

村長は40歳くらいの商人風の男だった。

リアルにもみ手してる人って、俺初めて見たよ。

「――お父さん!」

ステフが言う。

「こら、ステフ。おまえはキュレベル子爵家に仕える身だろう。場を弁えなさい」

「はぁい……」

やんわりとした口調で窘められて、ステフが少し膨れたように見える。

「奥様、うちのステファニーはお役に立てておりますかな?」

「ええ、それはもちろん。エドガーくんの監視……じゃなかった、エドガーくん付きのメイドとしてよくやってくれています」

今、監視って言ったよね!?

「ほう……お坊ちゃまの。大役を任されて光栄だな、ステフ」

「え、ひゃい! そ、そうですね!」

ステフがあわてて答える。

本読んだりスキル上げたりしてる俺を、半分うとうとしながら見守っているだけのお仕事だが、大役と言えば大役か。

「ともあれ、今日はお疲れでしょう。すぐにフォノ市へ向けて発たれるとのことですが、どうぞごゆるりとお過ごしください」

◇◆◇◆◇◆◇◆

夜中――

今さら言うまでもなく、俺には眠る必要がない。

とはいえ、人様のお家で魔法の練習をするわけにもいかないので、できることといえば最大MP拡張くらいだ。

メルヴィも夜は眠っているから、話し相手もおらず、ただ黙々と【物理魔法】で目に付くものをまとめて浮かせては解除するといういつものルーティンを繰り返すだけだ。

だから、家の奥から聞こえてくるささやき声にも気づくことができた。

耳を澄ませると、話しているのはどうやらステフと村長らしい。

親子の会話を盗み聞くものではないから、聞かないように気をつけつつ「作業」に勤しんでいたのだが、ある瞬間から、急に漏れ聞こえる声がはっきりしだした。

ひょっとして、と思い、自分を【鑑定】する。

エドガー・キュレベル

レベル 31

HP 63/63

MP 2092/2092(181↑)

スキル

・神話級

【不易不労】-

【インスタント通訳】-

・伝説級

【鑑定】9(MAX)

【データベース】-

・達人級

【物理魔法】8(1↑)

【付加魔法】3

【魔力制御】6

【無文字発動】6

【魔法言語】1(NEW!)

・汎用

【投槍技】5

【飛剣技】2

【手裏剣技】4(1↑)

【投斧技】2

【ナイフ投げ】2

【火魔法】7(1↑)

【水魔法】2

【風魔法】6

【地魔法】2

【光魔法】3(1↑)

【念動魔法】9(MAX)

【魔力操作】9(MAX)

【同時発動】9(MAX)

【魔力感知】1(NEW!)

【暗号解読】2(NEW!)

【聞き耳】1(NEW!)

《善神の加護+1》

この間、【データベース】を使ってステータスの上昇幅を表示できないかと思い、やってみたらできた。

便利なので今後はこれで行こうと思う。

しかし、どうも最近スキルが増えてきて、ステータス表示がごちゃごちゃしてきたな。

必要な情報のみ取捨できるように、今度暇を見て試してみよう。

さて、いくつかつっこみどころがあると思うが、今大事なのは、汎用スキルの最後に追加された【聞き耳】だ。

聞かないように気をつけていたつもりだったが、かえって気になっていたみたいだな。

ひょっとしたら、黒ずくめたちが持っていたのを確認したことで、そういうスキルがあるという意識が生まれ、それがスキルの習得につながった……なんてこともあるかもしれない。

それはさておき、【聞き耳】を習得したことで、聞こえてくる音声がぐっとクリアになった。

さすがにON・OFFできると思うのだが、スキル習得直後のためやり方がわからない。

ステフと村長さんの会話が聞こえてくる。

「若君のお守りとのことだったが、どうだ。変わったことはないか?」

「……むしろ、変わったことしかないよ」

ステフは普段と違って敬語じゃなかった。

いや、こっちが普段なのか。

「どういうことだ?」

「まだ生まれて一年も経ってないのに、あの大きさなんだよ?」

「だがそれは、レベルアップのおかげだと言っていたじゃないか。

まあ、あんな幼子がレベルアップすること自体異常だが、あの一家には天才が多いからな。

ベルハルト様しかり、チェスター様しかり、デヴィッド様しかり。

いやそもそも、Aランク冒険者だった奥様や、若くして二つ名持ちの軍人である旦那様からして、十分に天才の域に入っているのだが」

「……生後半年で魔法を使って、今では普通に読み書きができても?」

「何っ!」

「まだ赤ちゃんのはずなのに、半日以上書斎に籠もって熱心に本を読んで、特に魔法に関する本は大事なところを暗記してるみたい。

残りの半日は、中庭に出て、何が楽しいのか、ずーっと、ずーーーーっと、ずーーーーーーーーーーーーっと」

「ずーっとはもういい」

「とにかくずっと、よくわからないことを繰り返しやってるの」

「よくわからないこと?」

「ある日は、5刻くらい、的に向かって魔法で薪を投げ続けてたの。ずっと」

「薪を……?」

「次の日は針で、次の日は木の枝。その後は確か、剣とか槍だったかな。途中から意識がもうろうとして覚えてないんだけど……」

「居眠りか」

「うう。そうだけど、しかたないでしょ。5刻だよ!? ずっと、ずーっと、ずーーーーーーーーーっと、」

「それはいいから」

「とにかく、ずっと、涼しい顔でひょいひょいひょいってものを投げ続けてるの。それをそばでずっと見てなきゃいけない辛さがお父さんにわかる!?」

「う……それは、気がおかしくなりそうだな」

「夜中も何かもぞもぞやってるみたいだから、気をつけてなきゃいけないし。

ジュリア様はああいう方だから、おおらかに構えていらっしゃるけど……普通じゃないよ」

「おい、言葉に気をつけろ」

「はぁい。でも、ジュリア様も、アルフレッド様も、やっぱりそう思ってらっしゃると思うのよ。

今回の王都行きも、ランズラック砦での一件を報告するのが目的だけど、エドガー坊ちゃまを輪廻神殿で見てもらうのも大きな目的なんじゃないかな」

「ふぅむ……」

しばし沈黙。

「……そういえば、おまえはどういう経緯で坊ちゃまのお付きに? 入りたてのメイドに大事なお子様を預けるのは不思議だが」

「それは、お坊ちゃまが、わたしがいいって言ったからだよ」

「ほう。それはまたどうして?」

「その時はわからなかったけど、後になってわかったよ。

坊ちゃまは、おっぱいがお好きみたい」

ぶっ!

「だって、わたしが膝の上に乗せてあげると、頭をわざとおっぱいに埋めてきたりするし」

「……大丈夫か、娘よ」

「何心配してるのよ。相手は赤ちゃんだよ?」

あはは、とステフが笑う。

「むぅ。それならば、おまえが色仕掛けで――いや、すまん、無理を言ったな」

「でーきーまーすぅ。わたしにも色仕掛けくらいできますーぅ!」

「じゃあやって見ろ」

「え、ええっと……うっふーん?」

「…………」

痛いほどの沈黙が降りたのが、その場にいない俺にもわかった。

「ま、まあ、冗談だ。おまえと若君では歳が離れすぎているからな」

「だ、だよねー」

その後も親娘の仲睦まじい(?)やりとりが続いた。

どうもステフの親父さん――トレナデットの村長さんは、アルフレッド父さんの直臣になりたいらしい。

と言っても、出世欲の固まりというわけではなく、家族に楽をさせてやりたいからのようだ。

ステフとも仲がいいみたいで、

「若君に何かされそうになったら、帰ってきていいぞ」

などと言ったりしていた。

……しないって、何も。

◇◆◇◆◇◆◇◆

そして、翌朝。

俺は出立の準備をしているステフに話しかけた。

「ねえ、ステフはくちはかたいの?」

「え、ええ……? どうしてですか、いきなり」

「いや、おれのこと、いいふらしたりしてないよね?」

「え、えええ……!? ま、まさか、そんな……あはは……」

「よかった。それをきいてあんしんしたよ。これからもよろしくね、ステフ」

そう言って差し出した右手を、ステフはぎこちなく握り返した。

「――そうそう。ステフのおとうさんがじきしん(直臣)になりたがってることは、ちゃんととうさんにつたえておくから、あんしんしてね?」

俺の言葉に、ステフはだらだらと冷や汗を流したのだった。