軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ3 プライド

そして、その日がやってきた。

MVR格闘ゲーム「レジェンダリー・ヒーローズ」。

その、両世界大会だ。

大会の模様は両世界でストリーム配信されている。

個人トーナメントの他に、世界別、国別トーナメントや、2対2トーナメントなども行われる。

それでもやはり、注目が集まるのは個人トーナメントだ。

――誰が、二つの世界でいちばん強いのか?

エンターテイメントとして、これほど見ごたえのあるものはなかなかないだろう。

先に行われたイコールマッチ|(プレイヤーの実力差を調整した対等な条件のマッチ)では地球勢が活躍した。

美凪さんは今回イコールマッチには不参加で、そのことを惜しむ声も多かったのだが、日本や韓国、アメリカの有名プレイヤーが善戦し、優勝したのは格ゲー界の古豪・狂死郎さんだった。

いちばん注目の集まるトゥルーマッチの方は、イコールマッチの翌日の開催だ。

こっちの大本命は――自分で言うのもなんだが、俺である。

神になる前のいちばん強かった時のステータスで戦っているのだから当然だ。

エレミアも勝ち抜き、美凪さんも勝ち抜いている。

ステフとアルフレッド父さんは途中でぶつかってステフが勝ち、ジュリア母さんは地球の仙術使いに競り勝ってベスト8まで進出した。

ベスト8は、俺、エレミア、美凪さん、ステフ、ジュリア母さん、アスラ、シエルさん、陸戦型サンシローという身内ばかりのメンツとなった。

「しょうがないとはいえ、意外性に欠けるよな」

地球でも魔法使いが育ちつつあるが、今回のトーナメントでは最高でもベスト32止まりとなっていた。

そして始まったベスト8。

第一試合は俺対ジュリア母さん。

魔法に特化し、天才的な才能を極限まで生かして戦う母さんは相当な難敵だったが、最大MPの差が出て、母さんが先に力尽きた。

第二試合はシエルさん対陸戦型サンシロー。

人間には処理しきれない戦場の膨大な情報を瞬時に解析し、相手の戦術を見極め、もっとも効果的な攻撃手段を選ぶサンシロー。

が、聖剣〈 空間羽握(スペースルーラー) 〉の勇者であるシエルさんが底力を発揮、サンシローを際どいところで破っていた。

第三試合、ステフVSエレミア。

これは相性が悪かった。パワー重視のステフに対し、スピードで撹乱するエレミアが終始有利に戦いを進め、危なげなく勝利を収めた。

第四試合はアスラと美凪さん。

さまざまな魔物への変化を繰り返し、美凪さんを追い詰めるアスラだったが、大ぶりの攻撃を放ったところを見透かされ、魔剣〈穿嵐〉の一撃を食らって、アスラは一発KOとなった。美凪さんは、ここまでの試合をすべてKOで決めてきている。

というわけで、ベスト4は俺、シエルさん、エレミア、美凪さんだ。

MVRを起動する競技室はそれぞれべつなので、顔を合わせる機会はない。

「無難かな。美凪さんが健闘してるけど、決勝の相手はエレミアか」

俺はそう予想していたのだが、その予想は外れた。

ベスト4では、俺がシエルさんを完封し――美凪さんが、エレミアを破った。

「マジか」

容赦なく即死レベルの攻撃で畳み掛けるエレミアを、美凪さんはかろうじてしのぎ、意表を突く択をかけ続けることで、エレミアの調子を狂わせた。

狂ったと言ってもほんのわずかなものだったが、選択予見の魔眼のある美凪さんはそれを絶対に見逃さない。

魔剣〈穿嵐〉が一閃し、エレミアは終始優勢だったにもかかわらず、美凪さんの一撃で敗北した。

番狂わせに、ヴァーチャルで作られた会場も、各種ストリーミングサービスも、パブリックビューイングも、SNSや掲示板も、とんでもなく盛り上がる。

このまま、英雄神エドガー・キュレベルまで食ってしまうのではないか。

そんな期待が観客の間で膨れ上がっていた。

アウェーを否応なく感じながら、俺はMVRを起動して、ヴァーチャルな決勝の会場に現れる。

会場には、既に美凪さんが立っていた。

「ここまで来るとは思ってなかったよ」

俺は美凪さんに言う。

だが、美凪さんは硬い表情のまま、俺の言葉に答えない。

やがて、意を決したように、パブリックスピーク機能を使って、世界中のすべての観衆に届く声で、とんでもないことを言い出した。

「わたしが勝ったら、わたしと付き合ってください」

おおおおおおおおおおおおお!

観客席からすさまじい歓声が上がった。

俺は冷や汗をかきつつ、美凪さんに聞く。

「エレミアと別れろっていうのか?」

「いえ……エレミアさんの気持ちも知ってます。わたしとも付き合ってほしいということです。あなたのことをエレミアさんとシェアすることを承諾してください」

美凪さんが、俺をじっと見据えて言ってくる。

「俺は、恋人は一人で十分だと思ってる。美凪さんのことは大切な友人だと思ってるけど……」

「知ってます。加木さんがエレミアさんのことを愛していることは。でも、恋人は一人じゃないといけないって思ってるのはなんでですか?」

「それは……」

自分で言うのもなんだが――俺はマルクェクトのみならず地球をも救った英雄神だ。

地球ではともかく、マルクェクトでは一夫多妻は珍しい話ではない。

その気になれば俺も複数の妻を娶ることもできる。

そもそも、神なんだから、人のルールに縛られる必要もない。

それでもやらなかったのは、

「俺に抱えきれるのは一人だけだよ。差別なく何人もの女性を愛せるほど俺は器用な人間じゃない」

「器用な人間に、なってもらいます」

美凪さんは、〈穿嵐〉を低めに構えながらそう言った。

そこで、頬を少しだけ緩ませて言う。

「わたしと付き合いたいからって手加減するのはなしですよ?」

「当たり前だ。ここまで上ってきた相手に、そんな失礼なことはしない」

そんなことをしなくても、今の美凪さんは十分に強い。

もともとのゲームセンスに加えて、俺との最大の差であったスキル・クラスなどのシステムを完全に把握し、使いこなすようになっている。

俺の方が早く転生している分、一日の長があるが、それも大方埋められたと思うべきだ。なにせ相手は天才プロゲーマー。俺とは才能の土台が違う。

選択予見の魔眼は、戦いにおいて異質の強みがあるし、魔剣〈穿嵐〉は一点突破でどんな強敵でも打ち倒すことができる。

全体的な実力ではまだまだエレミアの方が上だったはずなのに、勝負の結果は逆になった。

美凪さんの才能プラス、それにふさわしい魔眼と魔剣を持っているからだ。

つまり――今の美凪さんは、とんでもない強敵だ。

俺でも、確実に勝てるとは言い切れない。

「暗殺教団の長と戦った時も、杵崎亨と戦った時も、ここまでキツくはなかったぞ」

セカンダリとの戦いで持てるスキル・クラスをすべて失った俺ではあるが、レジェンダリー・ヒーローズ内では以前のステータスが再現されている。【不易不労】もある。

もっとも、バーチャル空間外にいる現実世界の俺は疲れるし眠くもなるので、スタミナ無限という程度の意味しかない。

それだって、強すぎるから修正しろとネットでは叩かれることがあるくらいだ。

しかし、戦いとは、究極的には自分の攻撃を相手に当てられるかどうかである。

どれだけ力量差があろうと、致命的な攻撃が向こうにある以上、俺が敗れ去ることもありうるのだ。

美凪さんが、にこりと笑って言う。

「わたしに負けたら、エレミアさんを説得するのは加木さんの仕事です」

「……ま、負けられねえ……」

俺は冷や汗をかいた。

――やあ、エレミア、マイハニー。実は今度、美凪さんも妻にしようと思うんだが、承知してくれないか?

……絶対刺されるから。マジで!

俺はぶるぶると身震いしてから、大きく深呼吸し、肚に力を込めて構えを取る。

「へっ! こっちは命がけの戦いを何度となくくぐり抜けてきたんだ。いくら美凪さんが相手でもそう簡単に負けられるか!」

「それでこそ、わたしの好きな人です」

美凪さんが不敵に笑う。

惚れてしまいそうなかっこいい笑みだった。

(くそ……やりにくいな)

戦闘モードと恋愛モードは別なのだと聞いたことがあるが、美凪さんのアプローチが強力すぎて、頭を戦う方に切り替えにくい。

学校のグラウンドくらいの広さのリンクの真ん中に、バーチャルなカウントダウンが表示される。

3、2、1……

FIGHT!!

歓声が、爆発した。

「全力で来い! 片瀬美凪!」

「全力で行きます! エドガー・キュレベル!」

神経が痺れるほどに、脳内麻薬が噴き出す。

心臓が強く拍動する。

まるで、目の前の「敵」に恋をしているかのように。

(ああ……やっぱり)

俺は、非日常の戦いが好きなのだ。

恋人や友人や家族。それも大事だが、同じくらい、ヴァーチャルな真剣勝負にも魅せられている。

(本当はあまり変わってないのかもな。転生前と)

自分の成長のなさに呆れる。

あるいは、業の深さだろうか。

気づけば、世界最強を決める舞台で、世界最強のチャレンジャーを迎えている。

だが、どうしてそれが悪いといえる?

俺は今、こんなにも生きていると実感しているのに。

「はぁっ!」

美凪さんが〈穿嵐〉を振るう。

恋人同士のキスやハグや愛撫のような、美凪さんの情熱的で容赦のない攻めをさばき。

一点読みで置いた魔法が美凪さんに刺さり。

しかし美凪さんは即座にリカバリする。

付け入る隙がない。

強い――だが、だからこそ勝ちたい!

たとえそれが子どもじみた負けず嫌いなのだとしても。

俺は戦う。

戦いの果てにある興奮と、到達できるはずの高みを目指して。

そして、勝利を手にした上で、愛しい人を抱きしめ、眠るのだ。

心地よい疲労と愛する人の匂いに包まれ、睡魔に身を委ねるのは、戦いとは全く別の快楽だ。

俺は、両方を欲張る。

厳しい戦いに臨むスリルと興奮も。

愛しい女性と愛し合う至福の一時も。

そこに、虚無感の入り込む余地なんてない。

(ああ……俺は生きてる!)

全身からこみ上げてくる生の実感に震えながら、俺は美凪さんを迎え撃つ。

「おおおおおお!」

「ああああああ!」

俺の意地と、美凪さんの意地が激突する。

俺たちの興奮は会場に――いや、ネットを通じて二つの世界に伝わっていく。

すべてがひとつになる恍惚の中で、磨き抜かれた技と、研ぎ澄まされた感覚が交錯する。

この試合は、のちに「伝説の一戦」と呼ばれることになったが――

俺はまだ知らない。

俺と美凪さんのどちらが勝つのか。

ただ、この恍惚に身を任せ、刹那的に快楽を貪るだけだ。

結果の心配はしていなかった。

俺も美凪さんも、誰かを愛することを知っている。

戦いに溺れ、すべてを出し切った後に出る結論が、二人にとって悪いものであるはずがない。

たとえ、一時的に苦い感情を味わうことになったとしても。

だから、俺は戦う。

もはや、迷うことはない。

心の暗闇にとらわれることなく、俺は仲間たちとともに生きていく。

(それが、俺の生き方だ!)

時間制限のない戦いは長期化し、泥沼の様相を呈するようになった。

疲れ果て、くたびれ果てた二人は、最後の気力を振り絞って武器を構える。

決着の瞬間、二つの世界を揺るがすほどの、途方もない歓声が上がった。

『NO FATIGUE 24時間戦える男の転生譚』 ―完―