軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139 再構成

「――まったく、無茶をするのだ」

いきなり、そんな声が聞こえてきた。

あたりは真っ白だ。何も見えない。何も聞こえない。あるべきはずの触覚や体性感覚まで感じない。

「ミナギ。おまえは死んだ」

その声は、異界の神アッティエラのもののようだった。

「そりゃもう酷いもんだったぞ。天から巨大な鉄塊が降ってきたと思ったら、大使館が木っ端微塵だ! あれが魔法じゃないんってんだからふざけてる! あんなことができるんなら、たしかにこの世界に魔法はいらない道理だ!」

たったひとつの冴えたやりかた。

古典SFのタイトルを使ってサンシローが促してきたのは自爆攻撃だった。

といっても、どんなことをしたのだかわたしにはわからない。

てっきり、サンシローが自爆でもしたのかと思ったが、さすがにあの奇天烈なアンドロイドであっても体内に爆薬を積載しているようなことはないだろう。

「投下型質量兵器、というらしいな! 空の上の上の上の、空気も何もない空間から神殿の柱くらいの大きさの金属棒を投下する! ロケットエンジンで加速されたそれは音の伝わる10倍以上の速度で降下、地上の標的物を完膚なきまでに破壊する! ふははっ、豪快極まりない兵器なのだ! 神の杖とかいう不遜な名前も、その豪快さに免じて許してやろう! あーっはっはっは!」

アッティエラが高笑いするが、言っていることはかなりとんでもなかった。

神の杖、という衛星兵器については聞いたことがある。米軍が密かに開発している宇宙兵器ということだったが、真偽の程はさだかではなかったはずだ。

その神の杖が使われた。在日本米国大使館をめがけてだ。

直前のやりとりからして、これをやったのは間違いなくサンシローだろう。

そんな軍事機密の塊みたいな兵器までハッキングできるなんて聞いてない。

「しかし、おまえも人間としてはあっぱれなのだ! よくあの悪神の転移者に屈しなかった! あたしはおまえが気に入った! だから、あたしの力でおまえのことを生き返らせてやろう! ありがたく思え!」

い、生き返らせる?

そんなことが可能なのか?

「これがアトラゼネクだったら、器用に魂だけを転生させることもできたのだ。残念ながらあたしにそんな力はない! だけど、ここに〈 英雄召喚(サモンヒーロー) 〉という魔法がある! この魔法を使えば、おまえをマルクェクトに再構成することができるのだ!」

再構成?

「本来、この〈 英雄召喚(サモンヒーロー) 〉は、異世界から勇者になりうる英雄を呼び出すための禁術なのだ! しかしおまえは、力はなかったが心は勇者にも負けてなかったのだ! だからこの魔法の対象とすることができる! まぁ、こっちの世界にいながら向こうで魔法を起動するのは、さすがのあたしにも大変なのだ! 再構成にはざっと十年はかかる!」

十年も?

「といっても、もう死んじゃってるんだから、十年くらい大した問題じゃないだろう? 向こうに召喚されたらいちから出直しだ!」

ま、待って! 「向こう」ってマルクェクトのことだよね? それなら向こうには加木さんがいるはず!

「そういえば、アトラゼネクが気に入って転生させた奴がいたのだった! あたしの超多重次元結合結界を解除したのもそいつなのだ!」

十年も経っちゃったら、わたしの方が加木さんより年上になっちゃうよ!

「そんなことはないぞ! あっちは魂だけの転生だ! つまりゼロ歳の赤ん坊からやり直してるのだ! だから……えぇっと、そいつの転生がいまから7年前だから、十年後には17歳になってるはずだな!」

えっ、わたしは今22歳なんだけど。

十年後なら32歳にもなってしまう。

「再構成は身体ごとのものだから、十年の間おまえは歳を取らないのだ! だから、おまえはそいつの5歳年上になるな!」

うーん……5つ上か。加木さんはずっと年上のイメージだった。

「複雑な乙女心という奴か!? あたしにはよくわからんが! それなら、肉体の再構成年齢をいじってやろう! おまえが再構成されたい年齢を強く念じてみろ!」

再構成されたい年齢?

えっと、それなら……加木さんと出会った時の年齢――16歳がいいな。

「ついでながら、あのサンシローとかいう機械人形?も、おまえの一部と見なされて再構成されることになってるぞ! インターネット?もマルクェクトからでもつながる! 便利だろ!?」

それはめちゃくちゃ便利だ。

あれ、トンプソン大統領は?

「……残念ながら、あたしの力ではひとりを救うのが限界だったのだ。実のところ、最初に声をかけたのはあのダイトウリョウだったのだ。でも、ダイトウリョウは、自分より若い娘が優先されるべきだと言って、再構成の申し出を断ったのだ……」

トンプソン大統領。

任期中は戦争の多い大統領だっただけに、日本のメディアではあまり好意的に扱われていなかった。米国内でも批判は多かったと思う。

でも、最後に見せたあの意地。

わたしのようにサンシローに頼るのではなく自力でレティシアの洗脳を脱し、世界の危機を自分の命に代えてでも防ごうとした。

彼は、本物のアメリカのヒーローだったのだ。

わたしとアッティエラは、復活を拒み輪廻の彼方に消えていった大統領の魂を偲んで、しばし黙祷を捧げた。