軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

動揺と焦り

馬車の御者をミーシャと交代した私は、幌の中で休んでいた。

ガナの村を経由し訪れたミリスタの村で、アクアシルク生産の準備を整え、ようやく帝都に戻ってきた。

実に数ヶ月もの旅だったが、帝都で少し雑務を片付けた後には、レブリック伯爵領の領都にも顔を出さなければならない。

事業が拡大し、影響力や収入も格段に上がっているが、その分私の仕事も倍増している状況だ。

そろそろ実務を任せられる人間を増やさないと………。

そう考えていた時、御者台のミーシャが戸惑うように声を掛けてきた。

「あの……エリー様、少し良いでしょうか?」

「ん?どうしたの」

「はい……その、帝都の様子が少しおかしい気がするのですが……」

「帝都が?」

幌をから出てミーシャの隣に座ると、遠くに見える帝都の門を視界に捉えた。

「…………変ね」

帝都は当然この帝国の最大の都市だ。

本来なら帝都の門には出入りの順番を待つ商人や冒険者などが列を作っている光景が目に映るはずだ。

しかし、帝都の前には数台の馬車があるだけで、その上、昼間はいつも開いているはずの大きな門は閉じられている。

見ていると、門の前で衛兵が馬車の者達と何かを話すと、一台の馬車を残して他の馬車は進路を変えて帝都から離れていった。

残った馬車は僅かに開かれた門から帝都へ入っていく。

「何かあったんでしょうか?」

「それは間違いないわね。

ミーシャ、少し急がせて頂戴」

「はい!」

ミーシャが馬に鞭を入れ帝都への僅かな距離を駆けていった。

「止まれ!」

帝都の前まで来ると、衛兵が私達の馬車を止めた。

「何かあったのですか?」

ミーシャが問うと衛兵は深刻な顔で頷いた。

「君達は帝都の住人か?」

「私達はトレートル商会の商人ですわ」

私は商業ギルドのギルドカードを見せる。

「そうか……現在、帝都では原因不明の病が流行している。

疫病の可能性があるため、帝都への出入りが制限されている状況だ。

帝都に拠点がある商人ならば入ることはできるが、しばらくは帝都から出ることはできなくなる」

「疫病⁉︎」

「あくまで、その可能性があるという段階だが、既にかなりの被害が出ているのが現状だ。どうする?帝都に入るか?」

「ええ、入るわ。ミーシャは……」

「私も行きます」

「……そう」

私はミーシャの頭を撫でながら衛兵が差し出した確認書類にサインして帝都へ入っていった。

帝都の中は静まりかえっていて、普段の活気が嘘のようだ。

貴族街に近いトレートル商会の拠点でもある私の屋敷に到着すると、私達は急いで状況を確認するためにミレイを探した。

初めに出会ったのは最近雇ったメイドだった。

彼女は水の入った桶を抱えて小走りで廊下を歩いていた。

「あ!エリー様!お帰りになられたのですね⁉︎」

「ええ、ミレイは何処かしら?」

「それが……」

「ミレイ⁉︎」

私がノックも忘れて部屋に飛び込むと、ベッドの上でミレイが苦しそうに荒い呼吸を繰り返していた。

隣のベッドには同じく眠るルノアの姿が有る。

「ミレイ!ミレイ!」

私はベッドに駆け寄りミレイに声を掛けるが、反応は返ってこない。

「エリー様、落ち着いてください」

「で、でもミーシャ!」

「エリー様!此処ではミレイ様とルノア様のお体に障ります!」

「…………そ、そうね。ええ、ありがとう、ミーシャ」

私とミーシャは部屋を移して不在の間の報告を受けた。

あの部屋に居たミレイとルノア以外にも病で倒れている商会員やその家族も多いらしい。

「それで帝国の対応は?」

「はい、帝都全域に外出を控えるようにお達しが出ています。

また、特に病人が多いこの辺りの地区は原則外出禁止。

そして、帝国から配給される食べ物と水以外を口しないようにとのことです」

「食べ物と水ですか?」

「疫病の中には食べ物や水を触媒に感染する物があると考えられているのよ。

その他には動物や悪い空気が原因とする説もあるわね」

「なるほど、動物と空気は直ぐにはどうにもできませんからね」

「実際、帝国から食べ物や水が配給され始めてからは感染者は減っているようです」

「そう、ご苦労様。仕事に戻って頂戴」

「はい、失礼します」

報告を受けた後、私は溜まっていた執務を処理しながら打開策を考えていた。

しかし、焦りからか、何も思いつかない。

帝都では既に死者も多く出ているらしい。

このままではミレイやルノアも……。

「くっ!」

手にしていた万年筆に罅が入り、私は自分の動揺に気が付いた。

「ダメね」

ゆっくりと息を吐き出して心を落ち着け、新しい万年筆を取り出そうとした時、執務室にノックの音が飛び込み、入室を許可するとミーシャが顔を覗かせた。

「エリー様、お客様が来られております」

「お客?」

こんな時に?

「はい、商業ギルドの使いの方です」