作品タイトル不明
因縁③
エリザベートは昔から聡い少女だった。
ようやく歩き始めたと思えば、すぐに言葉を覚え、更には別大陸の言語や古代語などを瞬く間に習得してしまった。
学問に加えて剣術や魔法など様々な分野に天才的な才能を発揮したのだ。
そしてエリザベートは幼くして神器までも習得した。
神器を習得するには幾つか条件がある。
この条件は各貴族家が経験から得た物で、基本的に秘匿される物なので一般には知られていない情報だ。
我がレイストン公爵家に伝わる文献によれば、神器を習得する条件は3つ。
『高レベルな魔力の活性化』
『魔力の完全な制御』
『精神的な強さ』
魔力の活性化と魔力の制御は、幼い頃から修練を積めばある程度の物は修める事が出来る。
しかし、最後の精神的な強さと言うものが曲者なのだ。
その意味合いは広く、使命感や誇り、意識と言った覚悟の類や、恐怖や怒り、歓喜と言った感情などが必要になる。
その為、高位貴族家では、強い感情を呼び覚ます催眠暗示や特殊な薬物などが秘伝として伝えられていたりする。
レイストン公爵家にも、強い覚悟を抱ける様にする為の精神力を鍛える教育法が代々伝わっている。
だがエリザベートはそれらをすっ飛ばして自力で神器を会得してみせたのだ。
【叡智の魔導書】と名付けられたその神器は、戦闘力こそ無いものの文官として、貴族として非常に有用な能力だった。
兄のエイワスが1つの分野を極めた天才だとするならば、エリザベートはあらゆる分野に優れた天才だったのだ。
ブラート陛下と相談した私は、エリザベートを王太子になる予定のフリード殿下の婚約者にする事にした。
フリード殿下と婚約したエリザベートはその才覚を以て王家を支えた。
フリード殿下は少々、考えが足りず楽な方に流されてしまう性分ではあるが、我が友であるブラート陛下の御子息であるが故か、全体的な能力は悪くは無い。
エリザベートが手綱を握ればハルドリア王国は安泰だと思っていた。
しかし、私がブラート陛下や国の重鎮と共に会合で国を空けている間に、フリード殿下がエリザベートとの婚約を破棄し、エリザベートを地下牢に幽閉すると言う暴挙に出たのだった。
その報告を受けた私だったが、エリザベートなら私が何かをする必要もなく、自力で解決するだろうと、事を大きく捉えてはいなかった。
だが蓋を開けてみればエリザベートはどうやったかは不明だが、地下牢を抜け出し、姿を眩ませたのだ。
その後、私はエリザベートに罪を着せる事で国の安定を計った。
国の為、王家の為の行動だ。
エリザベートも当然理解してくれると確信していた。
エリザベートが帝国と手を結び、私達の前に立ち塞がるまでは。
私は自分の神器の能力によって全身が氷漬けになっている娘に視線を向ける。
確かに優れた娘だったが、まだまだ経験が足りていない。
ツメが甘いと言うのも、普通なら気にならない位の物だ。
自分の娘を殺す事に何も感じない訳では無い。
私は確かに娘を愛していた。
それでも王家への……国への忠義が勝る。
「【氷壊】」
短く唱えるとエリザベートは砕け散った。
これで最大の障害は排除した。
後はエリザベートが召喚した悪魔を始末し、帝国の街道を封鎖……。
そこまで考えた時だった。
胸から焼きごてを押し付けられたかの様な痛みが広がり、喉元から込みあがった鮮血を吐き出した。
「な……に?」
全身を襲う震えを堪え視線を向けると、背中から私の胸を貫く短剣とその柄を握るエリザベートの姿があった。
「策を完遂した後、次の行動に移る時に、僅かに思考が分散するのは悪い癖ですわ、お父様」
「エ……リザ……」
「さようなら、お父様」
短剣が引き抜かれると同時に、逆の手に握られたフリューゲルが振るわれ、私の視界は宙に舞い上がり、思考は黒く染まって行った。