軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

届いた知らせ

エイワスお兄様が帝都を出てから数日、そろそろ王国に帰った頃だろうか。

これでアデルと争う事は無い。

約束もあるし、その内会いに行くのも良いだろう。

「エリー会長、商会関係の被害報告のまとめが上がって来ました」

「ありがとう、ルノア」

ルノアから受け取った報告書に目を通す。

「やはり商会員にも被害者が出ているわね」

ノーライフキングによってアンデッドにされた人々の中には私の商会で働いていた人間も居た。

「ルノア、財務担当者に被害者の遺族に見舞金を手配する様に指示を出してくれる?」

「はい」

その他、細かい指示を出し、向かいの机で書類を仕分けていたミーシャにも指示を出そうと視線を向けた時、ミレイが慌てて執務室に飛び込んで来た。

「エリー様!緊急事態です」

「どうしたの」

「コレを」

ミレイが差し出したのは鳥で送られて来た様な小さな手紙だった。

受け取った手紙に目を通した私は、思わずその手紙を握り潰して奥歯を噛んだ。

「………………どう言うつもり……アデル」

◇◆☆◆◇

「アデル様、エイワス殿が戻られた様です」

「ああ、通して良いよ」

午後の執務の前に帝国でエリザベートと交渉して帰って来たエイワスが面会を求めて来たので許可を出した。

既に先触れによって交渉の成功の報告は受けているが、本人に話を聞かなければならない。

「アデル殿下!」

珍しく冷静さを欠いたエイワスがアデルの執務室へと早足で入室する。

「エイワス?」

「コレはどう言う事ですか⁉︎」

「何を……」

エイワスが差し出したのは走り書きされた報告書の様だった。

受け取って内容に目を通すと、アデルの背筋に氷柱が突き刺さったかの様な寒気が走る。

「何だコレは⁉︎」

「アデル殿下はご存知の無い事ですか?」

「当たり前だ!」

「私も王城に戻ってからようやくこの報告を受け取ったのです。

明らかに情報が隠されています。

それも並の情報操作では有りません」

「くっ!」

アデルはマオレンとエイワスを引き連れて執務室を出ると、険しい顔で王城を進み、城の一角に着くと部屋の前で警備をしている兵士が敬礼をするのも待たずに話し掛ける。

「アデルで……」

「兄上はどうした!」

「ふ、フリード様は部屋に居られますが……」

「開けろ」

「は、はい」

兵士は慌てて部屋の鍵を取り出して扉を開ける。

この部屋は外からしか鍵が掛けられず、窓も無い幽閉用の部屋だ。

その部屋に踏み込むと、そこには誰も居ない。

「どう言う事だ!フリードはいつから居ない!」

アデルが兵士に強く問うと、兵士は戸惑った様にソファを手で示した。

「あ、あの……フリード様ならそちらに……」

だが、そこには誰も居ない。

「まさか……」

アデルは兵士の胸に手を当てると魔力を流し込んだ。

「【幻解】」

「うぐっ!あ、あれ……」

やはり兵士は幻覚を見せられていた。

「やられた……」

アデルは己の失態に唇を噛んだ。

警戒している兵士にこれだけ強力な幻術を掛けられる様な魔導士はそう何人も居る筈がない。

当然、フリードにこれだけの事が出来るとは思えない。

裏で動いている何者かがいる。

アデルは自らが集めた配下達を集める様に指示を出し、急ぎ執務室へと戻るのだった。

◇◆☆◆◇

ティーダが宿の部屋を出て食堂に入ると、カウンターの一席でダラリと身を伏せたハーフエルフの少女の姿が有った。

「あ〜、ティーダなの〜」

「おはようッス、フラウさん」

「はよ〜なの〜」

彼女を宿に連れ戻ってからと言うもの、ティーダはこのハーフエルフの少女に妙に懐かれてしまっていた。

日中何をしているのかは知らないが、ティーダが神殿で仕事を終えて宿に帰る途中、道端で力尽きている所を持ち帰る事もあった。

窓から飛び込んだ鳥が、朝食を食べる為に窓際のいつもの席に座ったティーダの下に飛来する。

「んん?」

その鳥はイブリス教の上層部が情報をやり取りする為に使う小型の魔物だ。

ティーダもこの鳥を使って西大陸の大神殿とやり取りをしている。

しかし、この鳥は普段ティーダの元にやって来る大神殿の鳥とは別の鳥だった。

「一体何の連絡ッスかね?」

ティーダは鳥の足に付けられていた手紙を一読し、目を見開く。

「な、何でこんな事になってるんッスか⁉︎」

ティーダが朝食の腸詰肉を咥えたまま驚き立ち上がった時、宿の外から鐘を打ち鳴らす音が鳴り響き、人々の悲鳴が聞こえて来た。

「こ、今度はなんッスか⁉︎」

ティーダは慌てて宿を飛び出して行った。

◇◆☆◆◇

いつもの部屋より随分と手狭な一室、高価では無いが丈夫な作りのソファに腰を掛けた男が木製の盃に満たされたワインを味わっている。

普段口にするワインより数段格は落ちるが、男は気にする事なくその味わいを楽しんでいた。

そんな男の背後、不自然に濃い暗がりから、まるで踊り子か娼婦の様な格好で有りながら黒いベールで顔を隠した女が、影から滲み出る様に姿を現した。

「ご報告致します、殿下」

「話せ」

「フリード王子は軍を率いて帝国に攻め入っております。

軍は寄せ集めですが『蠍』と『百足』が付いておりますので、戦力としては十分かと。

既に帝国の都市を数カ所、蹂躙しております。

私が情報操作をしておりましたが既に解除致しました。

そろそろこちらにも情報が入るでしょう。

また、アルトロス卿も行動を開始したようです」

「そうか、ご苦労だったな」

「随分とご機嫌がよろしい様ですが、何か有ったのですか?」

女は男の様子を疑問に思い、問い掛ける。

「ふふ、面白い物を見つけてな」

男は楽しそうに笑いながらもう1人の男に視線を向けた。

部屋にはもう1人、顔に大きな傷があるグレアム大佐が居る。

彼は男の視線を受けて口を開いた。

「以前、研究所から逃げ出した変異種の件だ」

グレアムが短く言うと、男は我意を得たりとばかりに破顔する。

「そう、その通りさ。例の失敗作だよ。

何が有ったのか知らないが、アレが目を覚ましていたんだ」

「あの失敗作……『人造精霊No.17』がですか?」

「ああ、人造精霊……今はアリスと呼ばれている様だが、アレは今、エリー・レイスと共に居る」

「そうでしたか」

女が納得すると、部屋の窓の木窓が音も無く開き、少年が滑り込む様に部屋の中に入った。

「お帰り、『梟』」

「ご報告致します、殿下。トレートル商会に『鳥』が入りました。

王国の軍の情報だと思われます」

「そうか、これから更に面白い事になるだろうな」

男は笑みを浮かべながら自らの角のすぐ下にある僅かに尖った耳に手を這わせ、無意識のうちに狼の尾を揺らした。

複数の種族の特徴を持つその男、イーグレットは、コレから起こる戦乱に思いを馳せるのだった。

◇◆☆◆◇

帝国の青年、ネロは大学の卒業論文のテーマとして帝国と公国の歴史について研究していた。

その一環として、休日に、此処レクセリン砦へと足を運んでいた。

するとそこにはテレビ番組の撮影だろう、撮影クルーとリポーターの炎の様に赤い髪をポニーテールに纏めたアイドルがマイクを持ってレクセリン砦について話していた。

『此処、レクセリン砦は大戦期、もっとも大規模な戦闘が有った場所です。

この戦場には、《雷神ブラート》《漆黒のユウカ》《不死鳥のエルザ》《泥のシスティア》そして《黄昏の魔女エリー》など、当時その名を轟かせていた者達。

《賢星アデル》《双頭の蛇オルト》《魔弾のフロンテ》《紅蓮のルーカス》と言ったこの戦争で名を上げる者達。

そして《従影マオレン》《従星エイワス》《百薬のリリ》《荒野の商人ルノア》《刃獣のミーシャ》など、後にその名を歴史に刻む事になる者達など、錚々たる面々がその身を置いて居ました』

ポニーテールのアイドルの声を遠くに聞きながら、ネロは朽ちて崩れ掛けた砦の防壁を見上げ、壮大な歴史を思うのだった。