軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妥協と約束

祝祭の最終日に起こった惨劇から3日、私は自分の屋敷で今回の騒動の報告書に目を通していた。

帝都では未だに混乱が続いており、犠牲になった人々の身元を照合するだけでもまだまだ時間が掛かるだろう。

そして今回のテロの主犯、ノーライフキングへと転生したあの仮面の男の正体についても調べが進められているが、今のところ何も分かっていない様だ。

マティアス殿の光属性スキルで消し飛ばされたノーライフキングだったが、彼が居なければ帝都壊滅の可能性すら有った。

これだけの騒動を起こした仮面の男が単独犯とは考えられない。

死者の宝玉の入手経路や帝都への侵入ルートなど、調べる事は山程あるはずだ。

私も死者の宝玉の情報などは、商業ギルドを通じて帝国に渡した。

あれだけの希少なマジックアイテムだ。

もしかしたら出所が分かるかも知れない。

さて、これ以上の事は一介の商人が考える事では無いわね。

後は帝国の仕事だ。

私は私の問題と向き合わなくてはならない。

「エリー様、お約束のお客様がお見えになりました」

「分かったわ」

知らせを持って来たミーシャに珈琲の用意を頼み、応接室に向かった。

「ふぅ」

一度深く息を吐き出してから扉を開いた。

応接室には既にミレイとルノアが壁際に控えており、ソファにはエイワスお兄様が腰を下ろしていた。

「やぁ、先日は大変だったね」

「そうですね。まさかこの様な事が起こるとは、お兄様も滞在中に災難でしたね」

「まぁ、私は宮廷に居たから直接の被害は無かったよ。心配してくれるのかい?」

「いえ、多少は痛い目に遭えばよろしいかと思っただけです」

「はっはっは、手厳しいね」

私の嫌味を笑顔で躱したエイワスお兄様は、真面目な表情を作ると、少し声のトーンを変えて問う。

「さて、答えを聞かせて貰えるかな?

王国に戻ってアデル殿下を助けて貰えるのだろうか?」

ここ数日、ずっと悩んでいた事だ。

確かにアデルの下に行けば相応の待遇でも迎えられるだろう。

私の報復も問題無く果たされる筈だ。

しかし……。

「……お断りします」

「理由を聞いても?」

「確かにアデルに付けば、私はかつての地位と名誉を取り戻せるでしょう。

でも、既にこの商会は私にとって大切な場所になっているのです」

「ふむ……ではこの商会ごと王国に来るのはどうだろう。

王城に出仕する必要も無い。

市井の民の1人としてアデル殿下を支えてくれるのでも構わない」

「申し訳有りません。

私が大切だと思っている商会はこの帝都での関係性を含めての商会なのです」

「…………そうか」

エイワスお兄様は1度目を瞑り、数秒程してから目を開く。

「では1つだけ頼みたい事がある」

「…………お聞きします」

「エリザベートがフリードやブラート王、父上達に報復するのは止めない。

むしろ協力しよう。

そのかわり、アデル殿下と敵対しないで欲しいんだ」

「具体的には?」

「報復するに当たり、王国の民を巻き込まないで欲しい」

「…………」

「エリザベートが王国の民を見限っている事は分かっている。

だが別に王国の民を1人残らず殺そうと言う程、憎んでいる訳では無いのだろう?」

「……そうですね、別に王国の民はどうでも良いですよ。私の報復に必要なら利用しますし、その結果、血が流れても気にしません」

「それを曲げて欲しい。報復には協力する。

なのでアデル殿下の邪魔をしないでくれ。

エリザベートも別にアデル殿下には隔意はないだろう?」

「そうですね」

確かにアデルには恨みは無い。

寧ろアデルは可愛い妹の様な存在だ。

彼女には幸せになって欲しいと思っている。

「……分かりました。今後は民を巻き込む様な策は控えましょう」

「感謝するよ。アデル殿下も喜ぶだろう」

細かい条件などを詰め、今後は民や領地に被害が出る様な事はしないと約束した。

そのかわり今後、王国は私に干渉しない。

私の周りにも手を出さないと言う事を約束させた。

そしてエイワスお兄様が帰り際に足を止めて振り返る。

「エリザベート……いや、エリー。

全てが終わった後で良い。アデル殿下に会ってあげてくれ」

「…………ええ」

私が答えるとエイワスお兄様は王国へ帰って行った。

しかし、やられたわね。

多分、お兄様の目的は最初からお互いの不干渉の確約を得る事だったのだろう。

これまでの王国の動きから、アデルは十分に力を付けている事が分かる。

私が手を出さなければ問題無く王国を立て直せるはずだ。

まぁ、私もアデルとは敵対したくは無い。

民を巻き込む策を使えなくなって、少々動き辛くはなるが、アデルの協力が得られるならお釣りが来るか。

私はミーシャに珈琲のお代わりを頼み、幼い頃のアデルとの思い出と、成長した妹分の活躍に思いを馳せるのだった。