軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰還の日

「今日は大変だったわね」

私はヒルデの屋敷の一室でミレイに淹れてもらった珈琲を口にしていた。

あのアルトロスと言う悪魔との戦闘後、子供達を保護してケレバンの街へと戻って来た私達は、ヒルデの好意で屋敷に部屋を用意して貰っていた。

宿を引き払って帰って来たミレイに早速、珈琲を淹れて貰い、ようやく一息つく事が出来たのだ。

現在、ヒルデは誘拐を行っていたイブリス教と裏で結びついていた代官を捕縛したり、領主であるコーバット侯爵に連絡を取ったりと忙しく動いている。

この大捕物の後、街の治安を守る為、ヒルデもしばらくは徹夜になるだろう。

ティーダも枢機卿として、集まった聖騎士団の指揮を執らなくてはならないと、崩れた遺跡に残っている。

本人は面倒臭いと、必死に抵抗していたが、「これ程の大事なのですから、猊下に指揮を執って貰わねば困ります!」と聖騎士団の分隊長だと言う騎士に連行されて行った。

アリスとルノアは、ミーシャに会いに行った。ミーシャは傷は治癒しているものの、流した血は多く、まだ安静にしていなければならないので、無理はさせない様によくよく言い含めておいた。

しかし、そのミーシャなのだが、どうもアリスとルノアを守れなかった事を相当気に病んでいるらしい。

確かにミーシャは歳の割には戦える方だが、彼女はあくまでも、私の従者として側に置いて居るのであり、護衛では無い。

そもそもアリスとルノアが拐われたのは、街の治安を過信し、3人の護衛は不要と判断した私の責任だ。

よって、護衛の不備を気にする事はないと言ったのだが、「でも私がもっと強かったら、アリス様とルノア様が危険な目に合う事は有りませんでした」と言って聞かないのである。

「はぁ、ミーシャの事はどうにかしないとね」

「そうですね。このままでは無茶な訓練でもして体を壊しかねません」

「帝都に戻ったら何か考えないと……」

私は正面に座ったミレイが飲み干したカップに新しくポットの珈琲を注いで、そのまま自分のカップも芳ばしい液体で満たす。

「エリー様、飲み過ぎですよ」

「………………そうかしら?」

「はい、珈琲は飲み過ぎると胃が荒れます。

今日はそれで最後にして下さい」

考える事が多いと、つい口が寂しくなってしまう。

数少ない、なかなか直せない私の悪癖の1つだ。

「ところで、そのイブリス教の大司教達は何故子供を拐っていたのでしょうか?

子供の魔力が目当てなら、わざわざ拐わずとも殺して魔力だけ奪った方が手間が少ない様に思いますが?」

「そうね。ティーダによると、どうも人間から無理やり抽出した魔力は水晶玉に込めても数時間で霧散し始めてしまうらしいわ。

その上、治癒に使う魔力は治癒される者の魔力との相性に因っても変えなくてはいけないそうよ」

「なるほど、なので遺跡の地下に子供達を生かしたまま囚えていたのですね」

遺跡に囚われていた子供達なのだが、親や親類がいる者は送り届ける様にヒルデが手配していた。

中にはハルドリア王国から連れてこられた子供も居たらしい。

あのバカ王子がお金を貰って、ドンドルが子供を連れて国境を越えるのを見逃していたらしい。

それを示す証拠はティーダが押さえていた。

イブリス教の不祥事でも有るので、大々的には無理かも知れないが、ハルドリア王国にもそれなりの余波が及ぶ筈だ。

行き場のない子供達はヒルデが支援する孤児院に引き取られる事になった。

ケレバンとは別の街に有るその孤児院に向けて、近々子供達を乗せた馬車が出発する筈だ。

そして2人、行き場のない子供達の中から私が引き取る事になった。

あのルノアと一緒に子供達を守ろうとしていた少年ナナキと、魔法の素質を持った少女ドロシーだ。

この2人の身の振り方も帝都に帰った後の課題になるわね。

一応、今回の目的であったアクアシルクの商談はとても上手く行った。

しかし、その後には多くの問題が残されたのだった。

◇◆☆◆◇

「“助けて頂きありがとうございます”

“無事で良かったです。皆さんの無垢な祈りを聞き届けた女神様が私達を此処へ導いて下さったのです”

そう言ってティルダニア様は、邪教に囚われていた子供達を優しく抱きしめました」

区切りの良い所でナンシーは本を閉じた。

ベッドで横になる息子は既に眠そうにしている。続きはまた明日だ。

既に半分夢の中に居る息子を見て笑みを浮かべたナンシーは、本を棚に片付ける。

本のタイトルは『ティルダニア英雄譚』。

かつて仲間と共に世界を救った、慈愛と無欲の大英雄ティルダニア・ノーチラスの活躍を子供向けに描いた本だ。

「もう眠ったのかい?」

「ええ」

ナンシーは隣の部屋から顔を覗かせた夫に応え、息子の頭を撫でてから、そっと部屋を出るのだった。