軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

脱走の日

継ぎ目を狙って器用に放たれた風の刃によって少女を拘束していた鎖は断ち切られた。

「彼女で最後ですね」

「ああ」

ルノアは鎖の切れた足枷を付けた少女に手を貸しているナナキの言葉に答えた。

「では次はこの牢の鍵ですね」

「出来るのか?牢には鎖の様に継ぎ目なんて無いぞ?」

「大丈夫だと思います。鍵穴の部分は他に比べて脆弱ですから。そこに効果範囲を絞り込んだ魔法をピンポイントで打ち込めば破壊出来る筈です」

ルノアは牢にある小さな鍵穴に指を当てる。

「逆巻く烈風 巨人の息吹たる嵐 矮小なる者を撃ち砕く審判の風 天に渦巻き荒野を駆けよ【 万物を粉砕せし斬風(ブレイド・テンペスト) 】」

小さな鍵穴に込められた魔力が一気に魔法へと変換され、行き場を失った暴風が頑丈な鉄を切り刻む。

錠が内側からの力に破壊された牢は、力なくその扉を開いた。

「す、すげぇ!」

「うぅ……」

「ルノアお姉ちゃん!」

「ルノア!」

「大丈夫……1度に大量の魔力を使ったから負担が大きかっただけです。【万物を粉砕せし斬風】は風属性の最上級魔法、私は不完全にしか使えないから……ただでさえかなりの魔力を使うのに、制御出来ずに無駄に魔力を消費してしまうんです。

その上、威力も本来の物よりかなり落ちます」

しかし、ルノアの習得している魔法は身体強化や魔法障壁の様な無属性の基礎魔法と固有魔法の【物品鑑定】、そして風属性魔法だけである。

風属性魔法は、速度や鋭さに優れる反面、硬い物を破壊する様な純粋な攻撃力は低い。

魔力を無駄にしようと、不完全な【万物を粉砕せし斬風】を使わざるを得なかった。

荒くなる息を整えたルノアはアリスの手を握りナナキに目を向ける。

その視線を受け止めたナナキは頷き、開いた牢の扉を更に押し開けた。

「行こう!」

ナナキに付いて牢を出たルノアは廊下に繋がる扉に耳を当て、外の様子を探るナナキの合図を待った。

(残りの魔力は少ない。下級魔法でも数回分、身体強化を使う事を考えると倒せるのは2人か3人が限界)

ルノアが残りの魔力の配分を考えていると、ナナキが手を振りルノア達を呼んだ。

「大丈夫だ、誰も居ない」

ナナキはそっとドアを開けるともう1度外の様子を確認してから、スルリと扉をくぐり抜けた。

ルノアとアリスもそれに続き、その後に他の囚われていた少年少女も続く。

ルノア達は全員で7人居る。隠密行動をするには難しい人数だ。

しかし、周囲には不自然なほど見張りや誘拐犯の一味の姿は無く、遠くの方で何やら争っている様な物音が聞こえて来る。

「何やら騒がしいな。誰も居ないのはこの騒ぎの所為か?」

「分からないけど……今がチャンスだと思います」

「そうだな。みんな、外に出るまでの辛抱だ!頑張れよ」

ルノア達は早速石造りの通路を進み始めた。

通路は燭台は有るが薄暗く、来た時の道を思い出すのは難しい。

騒がしい音も、反響して何処から聞こえて来ているのか分からなかった。

(この音……もしかしてエリー会長達が助けに来てくれているのかも……でももし違ったら危ないかも知れない。

なら、何処かに隠れるべきかな?)

「止まれ!」

ナナキが小声で鋭く叫ぶ。

見ると通路の先が広くなっていて、廊下よりも明るくなっている。

そして、そこには5人の大人が何やら作業をしていた。

「おい、なんの騒ぎださっきから?」

「なんでも侵入者らしいぜ」

「マジかよ、大丈夫なんですか?」

「なに、始末してしまえば問題ない。

いつも通り、事件になる前に揉み消して貰えば良い。それよりさっさと始めるぞ」

男達は部屋の中心に有る机を囲む様に集まった。

その机の上には……。

「っ⁉︎」

ルノアは目を見開いた。

机の上には手足を拘束された10歳程の少女が意識無く寝かされていたのだ。

「あいつ、マルカだ!」

「知り合いですか?」

「知り合いって程じゃねぇ。ルノア達が来る直前に牢から連れ出されたヤツだ」

男の1人がマルカの頭の側に水晶玉の様な物を置く。

周囲の男がマルカへと手を翳す。

そして中心に立つ男が呪文の様な物を詠唱し始めた。

「な、何をしてるんだ?」

「分かりません、多分古代語の詠唱だとおもいます。それにあの中心の男、あの男が首に提げているのはイブリス教の聖印です」

「あいつ、聖職者なのか?」

「多分、形や材質から考えると司祭です」

ルノア達が隠れて様子を窺っていると、司祭の詠唱が終わり、魔法が発動する。

「ああぁぁああ!!!!」

突然目を覚ましたマルカが悲鳴を上げる。

全身を痙攣させ、白目を剥く。

「あ、あがっ⁉︎がぁあいぃ!!!」

ルノア達が目の前の惨状を前に言葉を失っている中、机の上で激しく身を捩っていたマルカの全身から血が吹き出し倒れ伏すと、2度と動く事はなかった。

司祭はマルカの死体に興味すら向けず、色の変わった水晶玉を手に満足げに頷くと、踵を返してルノア達が隠れる方とは反対の通路へ足を向けた。

「絞りカスはいつも通り片付けておけ」

「へ〜い」

4人の男達がマルカの髪を掴み上げると、その血塗れの姿が晒され、それを見た誰かの喉から悲鳴が上がる。

「ひっ!」

「誰だ!」

男達の視線がルノア達の方へ向けられた。

「脱走だ!」

「ガキ共が逃げたぞ!」