作品タイトル不明
肥料SNSがバズったらしい。
自宅へ戻ったあとは、浩二の家に電気会社が一時配線を引っ張り電気を通している場面を窓から見つつ、一軒家建築中の大工さんに茶菓子を出したりとまったりと過ごしていた。
「旦那さまーっ!」
洗濯物を干したミツハが、リビングのソファーに座っていた俺に抱き着いてくる。
「お、おい――」
女性らしい膨らみもあり、とても抱き心地が良い。
「今日は、疲れましたー」
そんなことを言いながらミツハがニコニコとした表情で俺にスリスリと自身の匂いをマーキングするように密着してくる。
「ミツハ、今日は何かあったのか?」
随分と積極的な行動をとってくるミツハに驚きながらも尋ねる。
「何にもないです。はい」
ミツハが、俺の右手を掴むと信じられないほどの力で自身の頭の上に置いてくる。
これはつまり、いい子いい子してという催促なのかも知れない。
まぁ、ミツハが来てインフラが整ってからは、家事は全部ミツハ任せになっているので、頭を撫でる。
「ふふふっ」
「何だか良いことでもあったのか?」
「何でもないの。それよりも旦那様」
そうミツハが言いかけたところで、チャイムが鳴る。
ミツハは俺の膝から降りるとインターホンを取る。
「はい。佐藤です」
「――え? あ――、菊池です……」
おや? この声は――。
聞いたことのある声に俺は内心では首を傾げながらもソファーから立ち上がりミツハの近くまでいく。
するとインターホン越し――、カメラから見える姿は、菊池家の娘――、菊池涼音さんだった。
どうして菊池さんが、ここに? と、思わなくもなかったが。
「菊池さん、少し待っていてください」
知らない仲でもないので、玄関まで迎えにいく。
玄関の戸を開けると、まず菊池涼音さんと目があった。
いつもは畑作業とか農閑期の作業をするようなズボンを穿いていた彼女であったが、スカートなど、オシャレをしていた。
御洒落をしていたというのは、俺から見てではあるが、髪の毛などいつものはポニーテールなのに、今日に限って三つ編みに結わえて後ろで団子頭にしていた。
「お久しぶりです。佐藤さん」
「こちらこそ。今日は、どうかしましたか? 涼音さん」
「何だか、ネットで佐藤さんが肥料を販売するような書き込みをしていたって、知り合いの農家の人が話していて……、それで気になって」
「――え? 知り合いの農家さんが?」
「すごく話題になっていますよ。もう肥料を本来の相場の1割で販売するって話。普通はありえませんから!」
「そうなんですか」
俺が思っていたよりも、ずっと農家さんは肥料に関して気にしていたのか。
「そうですよ! 見てください! これ!」
涼音さんがスマートフォンで俺が投稿したSNSを見せてくる。
そこには閲覧数が1300万を超えており、コメントが400件を超えており、リツイートが1200件を超えていた。
「バズってる……。しかも半端なく……。肥料程度で、こんなことに?」
「肥料程度ではないですよ? 佐藤さん。肥料の良し悪し、価格の上下は農家にとって死活問題ですから」
「そうか……」
「――で、本当なんですか? 肥料が市販よりも90%オフというのは!」
「まぁ、一応……。ただ、いまは成分分析に出している状態だな」
「そうですか。成分分析しても何が起きるかどうか分かりませんから。JAや農大にも話は行くと思いますから、試験場で実際に使ってみてどうなるかを確認する事を含めて最低でも一年はかかりそうですね」
「……思ったよりも時間がかかるんだな」
「それはそうですよ。それだけ長い時間が必要です。人の口に入るものですから」
「その割には、ダンジョンからの農作物に関しては普通に流通したな」
「あれ? 日本ダンジョン冒険者協会のホームページには、一般の方がダンジョンに入る前に自衛隊が調査した時点で農作物については調査を終えていたと書かれていましたよ?」
「……」
そうなのか。
そこまでは確認していなかったな。
でも確かに、日本にダンジョンが出現してから一か月以上猶予期間があったからな。
その時点で、確認をしていたのだろうな。