作品タイトル不明
ドレスの出来映え
何曲か兄とマルセルと踊った。
少し休憩ということでクラウディアは椅子に座っている。
いつの間にか用意されていたティーワゴンからキティがレモン水をグラスに注いでクラウディアと兄、それにマルセルに渡す。
「ありがとう、キティ」
兄とマルセルも口々に礼を言ってグラスに口をつける。
キティが演奏をしてくれた執事にも持っていくのを見ながらクラウディアもグラスに口をつけた。
火照った身体にレモン水がすーっと染み込む。
レモン水を堪能していると、ふと首を捻って兄が言う。
「しかしどこかで見覚えのあるドレスだな」
兄の言葉にクラウディアは呆れる。
これは兄の用意したドレスだ。
「お兄様、このドレスはパイラー侯爵家の夜会に行くためにお兄様が贈ってくださったドレスですわよ?」
「それはわかっている。そうではなく、似たようなドレスを着ていたご令嬢がいなかったか?」
今更気づいたらしい。
「いましたわ。パトリシア・キンベリー伯爵令嬢ですわ」
兄は不愉快そうに顔をしかめた。
「ああ、あの人違いで婚約の申し込みをしてきた男の相手か」
兄の中でのキンベリー伯爵令嬢の評価はそれだけらしい。
クラウディアは特に何も思っていない。
「ええ、そうですわ」
「つまり、彼女が似たようなドレスを着ていたからクラウディアのもとにあの男が間違って婚約を申し込みに来たのか」
「そのようですね」
「クラウディアを引き立て役にしたな」
口許を覆って言われた言葉はよく聞き取れなかった。
「お兄様?」
「いや、何でもない。しかしそういうことだったのか」
兄はそこまで把握していなかったのだろうか。
それは、意外だった。
母だってしっかりと把握していたというのに。
だからお茶会でも話題にしていた。
母は一般的な貴族夫人なのでドレスのことは敏感だったが。
つまり兄は女性のドレスに関心を払っていないということだ。
「……お兄様のお相手が見つかるのもまだまだ先のようですね」
「……何故そうなる?」
「ドレスに無関心だからですわ」
わざとらしく咳払いをして兄は話題を変えた。
「お針子たちが手直ししたということはこのドレスは気に入らなかったのか?」
「ええ」
兄はがくりと 項垂(うなだ) れた。
「彼女たちは背中の部分が気に入らなかったようですわね。袖のあるデザインだからさほど背中が見えなくてもいいのですけど、少しは見せたい、と」
兄にドレスの背中部分を見せる。
大胆に開いているわけではないが、リボンで編み上げ、背中をチラ見せしている。
「言われると確かにな」
「それに動きやすいように工夫してくれました」
くるりと回って見せる。
「なるほどな」
兄が納得したように頷く。
「確かにクラウディアの動きがいつもよりよかったな」
「そうでしょう! とても踊りやすかったのです。うちのお針子たちは天才です!」
「確かにかなりの腕前だな。うちでお針子などせずとも店を出せば顧客が付くだろうな」
「だと思います」
兄の意見にクラウディアは同意して頷く。
「いいえ! 私はこのお屋敷のお針子でいたいのです!」
「後生ですから追い出さないでくださいませ!」
お針子たちが必死に訴える。
「追い出すつもりはもちろんない」
「ええ。貴女たちがうちで働いてくれるのは本当に嬉しいのよ」
兄とクラウディアが口々に言えばお針子たちはほっとした様子を見せた。
「ただ貴女たちの技術が素晴らしいからうちで働いているのはもったいないと思ってしまったの」
兄も頷く。
「私はこの家の方々が大好きなのです。ですからこそよりよい服を着ていただきたくて精進しているのです」
「私もです。だからこそ工夫ができるのですわ」
「まあ、ありがとう。嬉しいわ」
「これからもよろしく頼むな」
「「はい!」」
お針子たちは顔を輝かせて頷いた。