軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コルム通りの文房具店来訪

クラウディアはコルム通りにある文房具店に来た。

もちろんキティとマルセルを連れてだ。

今日はオルトはいない。

彼は今日はシルヴィアの店のほうに顔を出している。

実はクラウディアはシルヴィアの店には行ったことがない。

シルヴィアには招待するまでは来ないでほしいと言われている。

理由はわからないがシルヴィアなりの事情があるのだろう。

それに店主の身内がいきなり現れたら従業員も扱いに困るだろう。

だからシルヴィアが招待してくれるのを待っている。

というわけで今日はいつも通り三人で店を訪れた。

扉をくぐり、声をかける。

「こんにちは」

「ああ、いらっしゃいませ」

いつもの青年が笑顔で挨拶してくれる。

クラウディアは笑顔で青年に告げる。

「あの色鉛筆、凄く使いやすかったわ。それで何色か短くなってしまったから予備を買いたいの」

「ありがとうございます。何色を御用意致しますか?」

すっとキティが前に出てくる。

「こちらをお願いできますか?」

キティが差し出した紙を青年が受け取り、確認する。

「はい、御用意できます。一本ずつでよろしいですか?」

キティがクラウディアを見る。

クラウディアは少し考えて「二本ずつ頼めるかしら?」と訊いた。

「はい、大丈夫です。御用意しますのでお待ちください」

青年が一礼して離れていく。

青年が戻ってくるまで店内をゆっくりと見させてもらうことにする。

レターセットも可愛い。

ガラスペンも綺麗だし、インクの色も鮮やかで美しい。

栞も多種多様で目移りしてしまう。

栞を手に取り、どれにしようか真剣に悩む。

こういうものは買い占めてはいけない。

本当に気に入ったものを購入するのだ。

ようやく三枚選んだところで青年が戻ってきた。

「お待たせ致しました。ご確認ください」

トレーに載せられ差し出された色鉛筆をキティと二人で確認する。

「間違いないわ」

青年は一つ頷く。

「他にもご入り用のものはございますか?」

「もう少し見て回るわ。あ、この栞はいただくわ」

「承知しました。ではこちらとそちらはお預かりしておきます」

「お願いね」

クラウディアは手に持っていた栞を青年に渡した。

「お預かりします。何かありましたらお声がけくださいませ」

「ええ、ありがとう。ゆっくり見させてもらうわね」

「はい」

クラウディアはキティを連れて店内を見て回る。

店内の商品は本当に一つ一つ丁寧に選び抜かれているのがわかる。

見ているだけでも楽しい。

この一つ一つは必要とされている場所へ行くべきものだ。

クラウディアが買い占めるわけにはいかない。

店主もただ売れればいいと思っているわけではないはずだ。

そのものが輝ける場所にいってほしいと願っているのではないだろうか。

ゆっくりと店内を回ってレターセットが置かれている一角に戻った。

いくつか必要かもしれないと思い立つ。

友人や知人に出すもの。

少し 畏(かしこ) まったやりとりに使うもの。

事務的なやりとりに使うもの。

それに、刺繍絵の依頼を受けた以上モーガン家とのやりとりと増えるだろう。

そちらはあまり華美でないもののほうがいいだろう。

そう判断してあまり華美ではないものを何点か選ぶ。

インクはまだあるし、今日はこれくらいでいいだろう。

選んだレターセットを持って青年のところに戻る。

「あとはこれをちょうだい」

青年がレターセットを受け取った。

「かしこまりました」

ちらりと店主を窺った青年がクラウディアに告げる。

「実は色鉛筆の件なのですが、この商会の水彩色鉛筆もあるんです。ご興味はありませんか?」

「まあ。是非見せてもらいたいわ」

「お持ちしますね」

「ええ」

店頭には出していないのか青年は奥へと引っ込んだ。

十分に見て回ったクラウディアは大人しく待つ。

そこへおもむろに近寄ってきた店主がぶっきらぼうに尋ねる。

「……色鉛筆の描き心地はどうだ?」

「とてもいいわ。ついこればかり使ってしまって。だから今日予備を買いに来たの」

「そうか。ならよかった」

「素敵なものをありがとう」

「お礼を言われる意味がわからない」

「ここで売られていなければ私はあの色鉛筆の存在を知ることができなかったわ。だから出会わせてくれてありがとう」

店主はふいっと横を向く。

「まあ、気に入ったのならよかった」

「ええ」

本当にあの色鉛筆に出会えたクラウディアは幸運だった。

そこへ。

「お待たせしました」

青年が戻ってくる。

店主がすっと離れていく。

そんな店主を青年がちらりと見た。

気のせいか、驚いているようにも見える。

そんなに珍しいのだろうか?

クラウディアに向き直った青年は穏やかな微笑みを浮かべていたので見間違いかもしれない。

「こちらのお品なのですがいかがでしょう? 試し書きなさいますか?」

「お願いしたいわ」

「承知しました。少々お待ちくださいませ」

青年が水彩色鉛筆の入った箱を置く。

それから 腋(わき) に挟んでいたクリップボードを手に持ち、色鉛筆を乗せて差し出された。

「こちらでどうぞ」

「ありがとう」

紙の挟んだクリップボードと黒色の色鉛筆を受け取る。

クラウディアは紙の上に色鉛筆を走らせた。

こちらも十分滑らかだ。

「次はこちらをどうぞ」

水に濡らした絵筆を渡された。

受け取った絵筆で色鉛筆で描いた線の上をなぞる。

「あらいいわね」

にじみ方が綺麗だ。

促されて一度返した絵筆に水を含ませてもう一度渡される。

今度は色鉛筆の先端に筆を滑らせてから紙の上に筆を滑らせる。

発色がいい。

それに色も伸びやかに広がる。

「いいわね。気に入ったわ」

「ありがとうございます」

「これももらうわ」

「承知しました。他に何かご入り用でしょうか?」

「いえ。今日はもういいわ」

「承知しました。こちら本日お持ち帰りになられますか?」

クラウディアは少し考える。

今日はまだこれからコルム通りをぶらつく予定だ。

それなら身軽なほうがいい。

「いえ。屋敷のほうに送ってちょうだい」

「承知しました」

「お嬢様はこちらでお待ちください。お会計をしてきますので」

「ええ、お願いね」

クラウディアは大人しくマルセルと待つ。

商品を眺めていると欲しくなってしまうので我慢する。

「よいお買い物ができてよかったですね」

「ええ!」

クラウディアは笑顔で頷いた。

大変満足な買い物ができた。

今日この店に来てよかった。

マルセルも笑顔だ。

そのままマルセルはおしゃべりに付き合ってくれる。

マルセルと楽しく話しているとキティが戻ってきた。

「お待たせしました」

「ありがとう、キティ。行きましょうか」

「「はい」」

マルセルが先に店を出て扉を押さえてくれる。

クラウディアが先に扉を出てキティが続く。

「ありがとうございました」

扉が閉まる前に青年の声が聞こえ、その声を背に店を後にした。